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2018年12月12日 (水)

コンサートの記(467) 川瀬賢太郎指揮 日本センチュリー交響楽団第231回定期演奏会

2018年12月6日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後7時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで日本センチュリー交響楽団の第231回定期演奏会を聴く。今日の指揮は若手の川瀬賢太郎。

今日はオール米英プログラムで、アイヴズの「答えのない質問」、バーバーの「弦楽のためのアダージョ」、マイケル・ナイマンのチェンバロ協奏曲(チェンバロ独奏:マハン・エスファニハ。日本初演)、アイヴスの交響曲第2番が並ぶ。

アメリカを代表する作曲家の一人であるチャールズ・アイヴズ。ただ彼は日曜作曲家であった。イエール大学で作曲を学び、大作を書き上げたりしているのだが、卒業後は保険会社に勤務し、作曲はその傍らで行っていた。これについては、「自身の作風を認められるのは難しいと悟り、生活を優先させた」といわれている。売れることを考えなかったために個性的な音楽を作曲することが出来たと考えることも出来るだろう。その後、自身で保険会社を興し、副社長になるなど、ビジネスマンとして有能だったようだ。
アイヴズもまた、レナード・バースタインによるアメリカ音楽の積極的な紹介によって知名度を上げた作曲家の一人である。ただその時にはアイヴズは心臓病を患って作曲からは引退状態であり、複雑な感情を抱いていたようだ。「今更」という思いもあっただろう。アイヴズリバイバルはバーンスタインの弟子に受け継がれ、マイケル・ティルソン=トーマスはアイヴズの交響曲全集を制作している。

今日のコンサートマスターは荒井英治、フォアシュピーラーに松浦奈々。

今日、タクトを振る川瀬賢太郎は、東京音楽大学で指揮を広上淳一らに師事。東京音大における広上の一番弟子的存在である。広上はバーンスタインの弟子であるため川瀬は孫弟子ということになり、師である広上同様、アメリカ音楽にも積極的に取り組んでいる。

アイヴズの「答えのない質問」。バーンスタインが行ったレクチャーのタイトルにも転用されていることで有名である。
神秘的な弦の流れの上を、管が公案的な問いを発していくという展開。舞台裏でのトランペット独奏は水無瀬一成が務め、「弦楽のためのアダージョ」演奏終了後にステージに登場して拍手を受けた。
センチュリーの響きは輪郭がクッキリとしており、合奏能力が高いことがわかる。

バーバーの「弦楽のためのアダージョ」。川瀬は「答えのない質問」とこの曲をアタッカで繋ぎ、単一楽曲の裏表のような表現を行う。

サミュエル・バーバーの「弦楽のためのアダージョ」は、ジョン・F・ケネディ大統領が暗殺された時にバーンスタインが追悼曲の1曲として演奏したことで知名度が増したが、それ以前からラジオの追悼番組のBGMとして流れており、この1曲だけが飛び抜けて有名になってしまったため、バーバー本人は「僕は葬送曲の作曲家じゃないんだけどね」と不満を述べることもあったという。
私自身がこの曲を初めて知ったのは、実はクラシックにおいてではない。坂本龍一が「Beauty」というアルバムで、ピアノと二胡、エレキギターのための編曲で「Adagio」として発表したものを聴いたのが初である(エレキギター演奏は、アート・リンゼイ。二胡は姜建華)。その後、レナード・スラットキン指揮セントルイス交響楽団の来日演奏会の模様がNHKで流れ、第1曲として「弦楽のためのアダージョ」が演奏されたのを視聴している。

川瀬は少し速めのテンポで歌い上げる。クライマックスでのゲネラルパウゼを長めに取ったのも印象的であった。

マイケル・ナイマンのチェンバロ協奏曲(チェンバロと弦楽オーケストラのための)。チェンバロ独奏のマハン・エスファニハはイラン出身のチェンバロ奏者、指揮者。スタンフォード大学に学び、アメリカとイタリアでチェンバロの修行を続けた後で渡英。オックスフォード大学ニュー・カレッジのレジデンス・アーティストに就任している。2015年に30歳でギルドホール音楽演劇学校の教授に就任しているというから、川瀬とは同年代ということになる。

ミニマル・ミュージックの提唱者として知られるマイケル・ナイマン。ピーター・グリーナウェイの映画音楽では自身がチェンバロを弾いて参加しているということもあり、チェンバロを自身の楽器としている(学生時代はバロック音楽の研究も行っていた)。ちなみに、私がザ・シンフォニーホールで初めて聴いたコンサートはマイケル・ナイマン・バンドの来日公演であった。

短調によるミステリアスな響きによってスタート。その後、長調に転じ、変拍子による音楽が繰り広げられる。繰り返しの快感と開放された時の爽快感というナイマンの良さが出ている。面白いのはチェンバロによるカデンツァ。左手のエイトビートのリズムと右手の煌めくような響きは、コンピューターゲームのBGMを連想させる。そうした音楽が多いためだ。リズムもチェンバロ曲としては異例だが、響きがコンピューター音にように聞こえるというのが興味深い。チェンバロの表現の幅が明らかに拡がっている。

アンコール演奏。エスファニハは、”This piece composed by English composer Henry PURCELL.”と英語で紹介。「グラウンド」という曲が演奏される。左手で奏でられる下段の鍵盤の音がギターのように響くのが面白い。ハンマーで弦を叩いて音を出すピアノと違い、ハンマーに付いた爪で弦を弾くというチェンバロならではの音色だ。

メインであるアイヴズの交響曲第2番。初演の指揮を担ったのはレナード・バーンスタインであった。アメリカ民謡やフォスターのメロディーなどが随所に鏤められた曲である。

イギリスの楽曲のようなジェントルな響きで始まるが、アメリカの旋律が加わることによってアメリカ的なローカリズムとユーモラスな味わいが生まれる。更にリヒャルト・シュトラウスにような燦々たる音色の金管が登場して壮大なアマルガム形成、かと思いきや、ラストは「なーんてね」といった感じの不協和音で締めくくられる。一種の冗談への転化である。初演の際に作曲者自身によって改訂されたということだが、大真面目な感じにしたくなかったのだろう。

川瀬指揮のセンチュリー響は中編成ということもあって響きが拡がらない部分もあったが、第5楽章における狂騒感の表出は優れていた。まだ三十代前半の指揮者ということもあって指揮棒も振りすぎで、却ってオーケストラコントロールが行き届かない場面があったりもしたのだが、この年齢でアメリカ音楽をこの出来まで持って行けるのなら大したものである。

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