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2019年1月 8日 (火)

これまでに観た映画より(120) 「ノルウェイの森」

2011年2月1日 TOHOシネマズ二条にて

TOHOシネマズ二条で上映されている「ノルウェイの森」を観に出掛ける。原作はもちろん村上春樹。ベトナム生まれでフランス育ちのトラン・アン・ユン監督作品。出演は、松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子、霧島れいか、初音映莉子、玉山鉄二ほか。なお、YMOのメンバーの内、主人公ワタナベ(松山ケンイチ)がアルバイトをするレコード店の店長として細野晴臣が、直子(菊地凛子)が入寮(実質的には入院)することになる阿美寮の門番として高橋幸宏が出演している。村上春樹と交流があるはずの坂本龍一は出演していないが、まあ、オファーがあっても教授は出演しないだろうな。

村上春樹の小説は映像化が困難であり、過去に村上春樹の中学の先輩である大森一樹が監督した「風の歌を聴け」があるのみ。それも不評だった(短編では「パン屋再襲撃」も映像化されている)。

「ノルウェイの森」は村上春樹の長編としては、ほぼ唯一といっていいリアリズムに書かれた小説であるが、それでも作品の魅力は繊細な心理描写の筆致にあり、映像化は困難である。今回の映画でも村上春樹作品の映像化として成功かというと否だろう。「ノルウェイの森」は村上春樹の作品の中でもとりわけリリカルなので、抒情派のトラン・アン・ユン監督がそれを映像化すると綺麗すぎるという結果になっていて、それを批判する人があるかも知れない。ただ、興味深いのは映画を観ているうちに、それが村上春樹を原作にしたものではなく、夏目漱石作品を映像化したものに思えてくる点である。「現代の夏目漱石」といわれることもある村上春樹だが、映像化されたものを観てそれを再確認することになった。
というわけで、村上春樹ファンよりも夏目漱石ファンにお薦めしたい映画である。

役者では、当初、ユン監督から「直子のイメージではない」と断られるも粘り勝ちで直子役を勝ち取った菊地凛子が、まるで直子が憑依したかのような演技を見せるのが印象的。ただ、直子に対する思い入れが強すぎるためか、キズキ(高良健吾)との関係をワタナベと草原で語るシーンでは感情表現が激しすぎて逆に観客に訴えかける力が弱まってしまっている。あそこはもっと淡々とやった方が効果的だし、村上春樹らしくもある。ただ、菊池凛子の直子は予想を遥かに超えて良かった。

主役のワタナベ(原作ではワタナベトオル。村上春樹はテレビを見ない人なので俳優の渡辺徹を知らなかったのだろう)を演じる松山ケンイチも細やかな演技を見せてで好演。ワタナベ役として最適だったのではないだろうか。

残念なのはミドリを演じた水原希子。演技未経験で、ユン監督から厳しい演技指導を受けたそうだが、それでも他の役者に比べると演技力の不足は顕著であり(ユン監督が日本語を理解出来たならOKを出さなかっただろうと思われるテイクも用いられている)、外見もキャラクターも直子と被ってしまっているので、ミスキャストだろう。ミドリはもっと元気溌剌としたタイプの女優がやらないと直子との対比が生まれない。


原作にない部分では永沢(玉山鉄二)とワタナベが女遊びをした話をしてハツミ(初音映莉子)を傷つける場面、雪の日のワタナベと直子の激しいやり取りとその直後の屋外でのシーン、直子がキズキの幻影を見る(実際はキズキは現れず、代わりにレイコ<霧島れいか>が直子を探して駆けてくる)情景などは効果的であった。

逆に私が原作の中で気に入っている、ワタナベとミドリがミドリの実家から火事を眺めるシーン(二人の感情の燃え上がりを象徴している)や、直子の葬式の場面(自殺者の葬儀ということで冷たさに満ちている)、レイコとワタナベによるギターを用いた音楽葬の話などはなく、残念である。ラストシーンは原作の通りだが、原作のままあれをやってしまうと、小説を知らずに映画を観に来た人には意味がわからないものになってしまっていたのではないだろうか。もう一工夫欲しかった。

ただ、村上春樹原作ということを意識せず、一つの映像作品として観た場合は出来は悪くはない。もしDVDやブルーレイが発売されたなら私は購入すると思う(その後、実際にブルーレイを購入した)。

原作は36歳になったワタナベがハンブルクの空港に着陸した旅客機内で「ノルウェイの森」を聴いてパニックに襲われるというシーンから始まるのだが、それはカットされている。ただ、私が今36歳で、その時に「ノルウェイの森」が映画化されるというのはタイミングが良かった。

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