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2019年1月22日 (火)

笠井叡 迷宮ダンス公演「高丘親王航海記」@ロームシアター京都

2019年1月11日 ロームシアター京都サウスホールにて

午後7時から、ロームシアター京都サウスホールで、笠井叡 迷宮ダンス公演「高丘親王航海記」を観る。マルキ・ド・サドの紹介者としても知られる澁澤龍彦の遺作小説の舞台化。出演:笠井叡(高丘親王)、黒田育世(藤原薬子)、近藤良平(コンドルズ。安展/狂王世隆)、笠井瑞丈(笠井叡の三男。円覚/航海天文士カマル)、植村なおか(陳家蘭、蜜人、自然霊)、岡本優(秋丸)、篠原くらら(パタリヤ・パタタ姫)、寺田みさこ(春丸/迦陵頻伽)、伊佐千明、岡江麻美子、大熊聡美、熊谷理沙、政岡由衣子、矢嶋久美子、浅見裕子、野口泉、原仁美、三上周子、山口奈緒子。クリエイティヴディレクター:榎本了壱。


日本の耽美派文学の中でも独特のポジションを占める澁澤龍彦(1928-1987)。東京大学文学部仏文科を卒業後、フランス文学の翻訳家として活動を開始。翻訳、批評、小説など多ジャンルで活動している。死後に出版された『高丘親王航海記』で、1988年の読売文学賞を受賞。

私が、『高丘親王航海記』を知ったのは、1996年頃のこと。その頃は、「ダ・ヴィンチ」という月刊誌を毎月購入していたのだが、ある月のカバーを飾った佐野史郎がお薦めの一冊として推していたのが、『高丘親王航海記』であった。澁澤龍彦唯一の長編小説であるが、7つの章からなっており、個々の関連性は薄いため、連作短編集という捉え方も出来る作品である。

高丘(高岳)親王は実在の人物である。桓武天皇の子である平城天皇の三男として生まれ、一時は皇太子となるが、薬子の変で平城上皇が失脚すると同時に廃太子となり、出家。その後、唐に渡って更に天竺を目指して船出し、そのまま行方不明となっている。

平城天皇の寵妃であり、希代の悪女として知られる藤原薬子がファム・ファタルとして重要な役割を担っている作品である。

笠井叡は、生前の澁澤龍彦と交流があり、澁澤は知り合ってから笠井が渡独するまで13年間、ほとんどの舞台を観に来てくれていたそうだ。


まずは、舞台下手から舞台監督が登場し、リハーサルが行われる。流れるのはモーツァルトの交響曲第25番より第1楽章。その後、藤原薬子が現れ、「真夏の夜の夢」のパックのような格好をした秋丸が現れ、安展、円覚と船の舳先に立つ高丘親王が登場する。

『高丘親王航海記』から採ったナレーションによって、親王一行の道行が語られる。ちなみにナレーションは、千葉県市川市にある「八幡のやぶしらず」を「はちまんのやぶしらず」と読んでしまっており、意味が全く分かっていないことが明らかになってしまっていたりする。


音楽は、モーツァルトの歌劇「魔笛」のものが中心となっている。笠井自身の選曲であり、「魔笛」と「高丘親王航海記」に共通点がある(例えば、主人公が二人とも王子で、冒険に出掛けるところなど)ことから採用されたものだそうだ。他にも中国風の音楽が奏でられたり、カタロニア民謡の「鳥の歌」が二胡とピアノのための編曲版で演奏されたり、ハウスミュージックが響いたり、読経の声が轟いたりと、多彩な音楽が流れる。「蜜人」のラストでは映像も用いられる。

儒艮(ジュゴン)、大蟻喰い、獏などの動物たちは着ぐるみで表現され、陳家蘭(顔と上半身は人間、下半身は鳥という生き物)や蜜人(蜜の芳香が漂うミイラ)などはダンサー達が衣装と仕草で表す。「蜜人」での空海の登場はなしである。その代わり、笠井叡がサングラスに咥えパイプで澁澤龍彦に扮して登場する。


物語をコンテンポラリーダンスで表現するとはどういうことか、という問題がまずある。
笠井がダンス雑誌「danceposition」誌上で答えたインタビューによると、「言葉を入れるのなら小説を読めばいいとなってしまう」ということでダンス作品として編み上げるために台本を自分で書いたのだが、最初は言葉が多すぎて、それだけで120分を超える作品にあってしまっていたそうで、かなり削ってダンス込みで上演時間約120分のものに仕上げたそうだ。

ダンスというのは、人間そのものの美しさを肯定し続ける行為だと思われるが、その点において人間を賛美する耽美派文学に通ずるものがあるように思われる。ナレーションはあるが、印象に強く残るのは物語展開よりも視覚と聴覚からのハレの美しさだ。

南アジアを舞台としてエキゾティシズムと仏教を背景とした神秘感、躍動する身体のパワーとバランスの妙、各ダンサーの個性など、見所は多い。ラストは捨身飼虎であり、ゴータマ・シッダールタの前世と高丘親王の近似性が示されている。物語は時空を超えて展開されるため、「あり得なくもない」仮説となっている。

小説を読んだだけでは単なる物語上の出来事としか思えなかったことが、こうして目の前で立体的に表現されると、背後にある繋がりが把握出来るようになるという面白さもある。

カーテンコールで、笠井は、再びパイプにサングラスで登場。物真似で、「どうも、澁澤龍彦です。京都の皆さん、今日は僕の『高丘親王航海記』を観に来てくれてありがとう」と述べた。


終演後に、ホワイエで笠井叡と近藤良平によるアフタートークがある。笠井によると、ダンスは「身体自体が言葉」であるため、言葉や物語をダンスに取り入れることに苦労したと語る。
また榎本了壱の手掛けたセットに関しては、「単なるセットではなく、ピラミッドの中にあった鳥獣のような言ってみればトーテム」と語り、船の舳先のセットなども崇高に見えてくるそうである。
近藤良平は、そもそも活字が苦手だそうで、笠井が書いた「高丘親王航海記」の台本もちゃんど読んできておらず、内容も活字では上手く把握出来ず、笠井に質問してやっと理解出来るようになるそうで、「聞く人」なのだそうだ。
ちなみに、今回の公演は、笠井叡 迷宮ダンス公演と銘打たれているが、当初は「迷宮ダンス公演」ではなく普通に「新作ダンス公演」となる予定だったそうである。しかし、クリエイティヴディレクターの榎本了壱が、「この作品は、新作ダンス公演では駄目だ、迷宮ダンス公演でないと」と言ったことで、銘が変わったそうである。



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