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2019年5月28日 (火)

観劇感想精選(301) トム・ストッパード&アンドレ・プレヴィン 俳優とオーケストラのための戯曲「良い子はみんなご褒美がもらえる」

2019年5月12日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて観劇

午後1時から、大阪・中之島のフェスティバルホールで、俳優とオーケストラのための戯曲「良い子はみんなご褒美がもらえる」の上演を観る。作:トム・ストッパード、作曲:アンドレ・プレヴィン、テキスト日本語訳:常田景子、演出:ウィル・タケット、音楽監督・指揮:ヤニック・パジェ。出演:堤真一、橋本良亮(A.B.C-Z)、小手伸也(こて・しんや)、シム・ウンギョン、外山誠二、斉藤由貴。ダンサーとしての出演:川合ロン、鈴木奈菜、田中美甫、中西彩加、松尾望(まつお・のぞみ。女性)、中林舞、宮河愛一郎。

初演は1976年にロンドンで行われている。作曲のアンドレ・プレヴィンが今年の2月28日に亡くなっているが、追悼のために企画された上演ではなく、この時期に上演が行われるのはたまたまである。

1970年代のソビエト・レニングラードが舞台である。ソビエト共産党の意向に合わない人間が思想犯として精神病院に送り込まれている。アレクサンドル・イワノフ(以後アレクサンドルとする。堤真一)はそのことをプラウダなどに寄稿したため、精神病院送りとなる。精神病院となっているが、実際は政治犯を収容するための刑務所以外の何ものでもないのだが、体制派の医師(小手伸也)はそのことを否定し、ここはあくまで精神病院だと言い切る。医師はアレクサンドルに向かって「思考すること自体が病気だ」と断言する。ちなみに、医師はアマチュアオーケストラにヴァイオリニストとして参加しているようだ。アレクサンドルと同居することになった同姓同名の精神病者であるアレクサンドル・イワノフ(以後イワノフとする。橋本良亮)は、自身が指揮者としてオーケストラは率いていると思い込み、トライアングルを叩きながら空に向かって指揮を行っている。オーケストラのメンバーをかなり口汚く罵っており、独裁者タイプの指揮者として君臨しているつもりのようである。医師はイワノフに「オーケストラは実在しない」と繰り返し唱えて、想像を止めるよう忠告する。
アレクサンドルにはサーシャという息子がいる(韓国人女優であるシム・ウンギョンが演じている)。教師(斉藤由貴)は「父親が思想犯として逮捕された」というサーシャの言葉を信じず、そうした不自由なスターリン体制は過去のものになっていると教え込もうとしていた。

 

「転向」を描いた上演時間約1時間15分の中編である。アレクサンドルは精神病院内にトルストイの『戦争と平和』を持ち込んでおり、ナポレオン戦争の場面ではオーケストラがチャイコフスキーの序曲「1812年」の一部を奏でたりする。オーケストラは「象徴」のように常にステージ上にいて、軍服姿のヤニック・パジェの指揮で演奏を行う。
アンドレ・プレヴィンの音楽は意図的にショスタコーヴィチ作品を模したものである。偶然だが、ショスタコーヴィチは「良い子はみんなご褒美がもらえる」が初演された1976年に死去している。

「良い子はみんなご褒美がもらえる」は、「Every Good Boy Deserves Favour」の邦訳であるが、「Every Good Boy Deserves Favour」とは、「EGBDF」という五線譜の音階を覚えるための言葉である。サーシャが譜読みを正確に行わなかったために、教師からたしなめられる場面もある。

ストーリー自体は全くの架空のディストピアものではなく、ソビエトでは反体制派の政治犯や思想犯として精神病院送りということで事実上の牢獄に押し込めることがよく行われており、実はロシアに戻った今でもある。弾圧された文化人としては、作家のソルジェニーツィンが有名であり、音楽家の中でも例えばラトヴィア出身のミッシャ・マイスキーは思想犯として精神病院に幽閉された経験を持っている。トム・ストッパードは、1968年のプラハの春反対デモに参加して精神病院に送られた経験のあるヴィクトル・フェーンベルクと1976年の春に出会い、一気に戯曲を書き上げたそうである。

 

トルストイの『戦争と平和』は、私も二十代前半の頃に読み、大方は忘れてしまったが、トルストイが繰り返し説いた歴史観、つまりナポレオン戦争はナポレオン一人が起こしたものではなく、大きな流れの中で起こったものであり、ナポレオンはその中の一人に過ぎないという考えは納得出来るし、今でもよく覚えている。おそらくこの作品におけるオーケストラは「大きな流れ」、「大衆」や「群集心理」の喩えなのだろう。
アレクサンドルはサーシャを守る必要性もあって(ご褒美がもらえる)、ラストではオーケストラに向かい、指揮棒を振り上げることになる。

 

実力派の堤真一が見事な演技を見せる一方で、同姓同名の人物を演じる橋本良亮は台詞回しも弱く、存在感も今ひとつである。今日はジャニーズが出るということで、客席にはいかにもそれらしい若い女性の姿が目立ったが、納得させられる出来だったのかどうかわからない。
余り出番の多くない教師役に斉藤由貴はもったいない気がするが、リアルな人物像に仕上げてきたのは流石である。

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