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2019年5月 3日 (金)

コンサートの記(553) 「ムジークフェストなら」2014 アルバート ロト ピアノリサイタル「再び天才の六月」

2014年6月6日 なら100年会館中ホールにて

奈良へ。
現在、奈良では「ムジークフェストなら」という音楽祭が行われている。

折角、近く(というほど近くはないが)で音楽祭をやっているのだから、いくつか聴きに行こうと思い(奈良のホールの音響を確かめたかったということもある)、今日はその一つである、アルバート・ロト(会場やチケット、曲目を記した用紙には、何故か「アルバート ロト」と中点なしの表記がなされている)のピアノリサイタルを聴くために奈良まで足を運んだのである。
会場は、なら100年会館中ホール。JR奈良駅前という一等地にあるが、洛北からだと、JR奈良駅に行くには面倒な乗り換えが多く、またいずれにせよ近鉄丹波橋で乗り換えるため、丹波橋から近鉄で近鉄奈良駅まで出て、歩いて、なら100年会館まで向かうことにする。

なら100年会館には初めて行くので、場所をチェック。奈良は京都と同じで、東西と南北にほぼ一直線に道が伸びているため、わかりやすい。
なら100年会館は、奈良市の市政100年を記念して1999年にオープンした比較的新しい文化芸術施設である。大、中、小の3つのホールがあり、外観は立派。中ホールはシューボックス形式で、内観はお洒落である。
全席自由であり、整理番号もないため、中ホール入り口には列が出来ていたが、「特に良い席で聴く必要はないや」と思い、そばにある休憩所でのんびりして、列になっている人がいなくなる頃を見計らって中ホールに入る。下手(しもて)、中央、上手(かみて)の3列で、左右に伸びる中央通路を挟んでステージに近い側の席と遠い席があるのだが、上手のステージに近い席が空いていたので、そこに座る。
ピアノコンサートの聴衆は4パターンに分かれる。「取り敢えず真ん中」派と、「ピアニストの手元が見えるので下手」派、「ピアニストの顔が見えて、音も良いので上手」派、「席にはこだわらない若しくは空いてる席に座る」派である。ピアノのコンサートに通い慣れている人は、下手派と上手派に分かれるようだが、私はどちらかというと下手派ではある。だが、今日は上手の席を選んだ。

午後7時から、「ムジークフェストなら アルバート・ロト ピアノリサイタル2014 再び天才の六月」を聴く。「天才の六月、再び」か「六月、再びの天才」の方がタイトルとして良いと思われるのだが、コンサートのタイトルに文句を言っても仕方がない。

アルバート・ロトは、1946年、ニューヨーク生まれのピアニスト。父はポーランド系、母はウクライナ人だという。ジュリアード音楽院で名教師のゴロニツキーに学ぶ。ホロヴィッツが「教えたい」と申し出るもこれを断っている。1965年のモントリオール国際コンクールと、1966年のブゾーニ国際コンクールのピアノ部門で優勝。1970年の初来日後、毎年のように来日しているそうだが、私は寡聞にして知らない。現在はマンハッタン音楽大学の教授も務めている。夫人は日本人で、雪の結晶を世界で初めて発見した中谷宇吉郎の三女だそうである。

名前を知らないピアニストだったので、ムジークフェストならがなければ生涯聴くことはなかった演奏家だと思われるが、ちょっとした巡り合わせで聴くことになった。プログラムに惹かれたということもある。
曲目は、J・S・バッハ作曲(ブゾーニ編曲)「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番」より“シャコンヌ”、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番と第21番「ワルトシュタイン」、ショパンのバラード第3番「水の精」、ショパンの夜想曲第8番、ショパンのポロネーズ第6番「英雄」(「英雄」ポロネーズ)。
ロトは、黒いズボンとシャツ、白のジャケットで登場する。

バッハ作曲、ブゾーニ編曲の「シャコンヌ」。ファジル・サイのピアノによる超名演を生で聴いたことのある曲である。ファジル・サイのようなピアニストを天才と呼ぶならロトは天才では全くないが(そもそも現役のピアニストで「天才」と呼べる人は私は10人ほどしか知らない)、時に骨太、時に柔らかで繊細な音でロトは「シャコンヌ」を紡ぎ出していく。
ファジル・サイは、大バッハとブゾーニ、ブゾーニに影響を与えたリストと、リストに影響を与えたベートーヴェンというあらゆる音楽家の要素が高い次元で統合された演奏を聴かせたが、ロトの弾く「シャコンヌ」は敢えて言うならベートーヴェン的である。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ、それも大曲が2曲も並ぶというプログラムから、ベートーヴェン弾きとしての誇りが窺われる。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番と第22番「ワルトシュタイン」はいずれも正攻法の演奏である。ロトは鍵盤を強打した後で手を跳ね上げるというパフォーマンスも見せる。
天才ではないが、正攻法の優れたベートーヴェン弾きというと、チリ出身のクラウディオ・アラウが思い浮かぶが、アラウはブゾーニの弟子である。

ショパンのバラード第3番では瑞々しい演奏を展開し、夜想曲第8番では叙情味たっぷりの愛らしい演奏を披露する。だが、「英雄」ポロネーズでは指がもつれ気味。歌い崩したり音を切る場所を変えたりするが、サンソン・フランソワや河村尚子のように効果的だからやっているのではなく、「こうした方が楽に弾けるから」という理由で行っているように聞こえた。

全プログラム終了後、ロトはマイクを片手に登場し、日本語で(奥さんが日本人なので日本語も流暢である)「今日は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番と第22番と弾くことが出来てとってもハッピーです。アンコールとして、第31番の第1楽章を演奏したいと思います」と語り、再び充実したベートーヴェンがホールに満ちた。

なら100年会館中ホールの音響であるが、前の方の席で(ここの席順は、1列2列という数字や、A列B列というアルファベット順ではなく、イロハ順である)ピアノの直接音がそのまま届いたため、ホール全体の音響はわからなかった。だが、素直な音のするホールだということはわかった。

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