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2019年6月 9日 (日)

コンサートの記(560) カーチュン・ウォン指揮 京都市交響楽団第634回定期演奏会

2019年5月18日 京都コンサートホールにて

午後2時30分から、京都コンサートホールで京都市交響楽団の第634回定期演奏会を聴く。今日の指揮はシンガポール出身の若手、カーチュン・ウォン。

曲目は、吉松隆の「鳥は静かに…」、シベリウスのヴァイオリン協奏曲ニ短調(ヴァイオリン独奏:ラグンヒル・ヘムシング)、フランクの交響曲ニ短調。

午後2時から、カーチュン・ウォンによるプレトークがある。カーチュン・ウォンのトークは日本語を交えたり、旋律を口ずさんだりするもので、才気が感じられる。
「シンガポール出身ですが、ニュルンベルク交響楽団の首席指揮者をしています」と自己紹介する。

カーチュン・ウォンは、1986年、シンガポール生まれの指揮者。シンガポール国立大学ヨン・シュトウ音楽院で作曲を、ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で指揮を学ぶ。2016年に第5回グスタフ・マーラー国際指揮者コンクールで優勝して注目を浴びるようになっている。
クルト・マズア、グスターボ・ドゥダメル、ベルナルト・ハイティンク、ハインツ・ホリガー、エサ=ペッカ・サロネンらの薫陶を受け、コンクール優勝後は急病のヘスス・ロペス=コボスの代役として中国フィルハーモニー管弦楽団、上海交響楽団、広州交響楽団の指揮台に立ち、ロサンゼルス・フィルハーモニックのドゥダメルのフェローとして指名され、昨年9月にニュルンベルク交響楽団の首席指揮者に就任している。

ウォンによると指揮者コンクール優勝前から仕事をいただいていたのが日本のオーケストラだったそうで、新日本フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、大阪交響楽団、広島交響楽団、九州交響楽団を指揮した経験があり、最近は東京佼成ウィンドオーケストラを始めとする吹奏楽団とも多くの仕事をしている。

今回の演奏会では、吉松隆の「鳥は静かに…」とシベリウスのヴァイオリン協奏曲ニ短調が連続して演奏される。鳥を愛する吉松隆と白鳥などからインスピレーションを受けたシベリウスの「鳥繋がり」で選ばれた曲なのだが、「鳥は静かに…」の最後の和音からシベリウスのヴァイオリン協奏曲の最初の弦の刻みの音の響きへの移行に意味があるそうである。

シベリウスのヴァイオリン協奏曲と同じ調性であるフランクの交響曲ニ短調であるが、今から40年ほど前にはよく演奏されたものの、ここ20年ほどは演奏される回数が減ってしまっているとウォンは述べる。
京都市交響楽団は比較的良くフランクの交響曲を取り上げているが、録音に限ると、21世紀に入ってからはこれといったものが出ていない。40年ほど前には、当時の両巨頭であるカラヤンとバーンスタインが共にフランスのオーケストラを指揮して名盤を生み出しているのだが、20世紀終盤にはフランス人指揮者の才能払底が叫ばれるようになっており、今、世界的に活躍しているフランス人指揮者は、ベルトラン・ドゥ・ビリーやパスカル・ロフェなど数人だけ、また録音不況でもあり、90年代にシャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団の録音が高く評価されたのを最後にフランクの交響曲の録音が減ってしまっている。サー・サイモン・ラトルなどはフランスものを得意としているが、フランクは録音していないはずである。
フランクの交響曲はフランスを代表する交響曲と見なされることが多いが、ウォンはむしろブルックナーとの共通点に注目して欲しいと語った。

今日のコンサートマスターは泉原隆志、フォアシュピーラーに尾﨑平。今日も客演首席チェロ奏者としてNHK交響楽団の藤森亮一が入る。第2ヴァイオリン首席は客演の山﨑千晶。ヴィオラのトップには店村眞積。テューバには客演の川浪浩一。今日は木管の首席指揮者はフランクのみの出演である。
ヴァイオリン両翼、コントラバスはステージ最後部に横一列に並ぶという、古典配置の中でも最も古い形での演奏となる。

 

吉松隆の「鳥は静かに」。弦楽のための繊細な曲である。シベリウスのヴァイオリン協奏曲と連続して演奏されるため、管楽器奏者もスタンバイしての演奏である。
今日は全曲暗譜で指揮するウォンは、透明で緻密な弦の音を引き出し、静謐の美を生む。

シベリウスのヴァイオリン協奏曲ニ短調。独奏のラグンヒル・ヘムシングはソロが始まる直前に下手袖に現れ、弾きながらステージ中央へと歩み寄る。
ラグンヒル・ヘムシングは、1988年生まれのノルウェーのヴァイオリニスト。ノルウェーの民族音楽に親しみながら育ち、今も民族音楽とクラシック音楽の両方で活躍している。
5歳でヴァイオリンを始め、オスロのバラット・ドゥーエ音楽院に学び、ウィーンに留学してクシュニールに師事している。14歳でグリーグの街のあるベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団にデビューし、翌年にはオスロ・フィルハーモニー管弦楽団とも共演を果たした。
そのヘムシングのヴァイオリンであるが、スケールがかなり大きい。音色が比較的ドライなのも特徴である。第1楽章後半になると磨き抜かれた音も出すが、素朴な音も生み出せるのが特徴といえそうだ。
ウォンの指揮する京響であるが、極めてクリアな伴奏を聴かせる。従来のシベリウスのヴァイオリン協奏曲とは明らかに異なる伴奏である。

 

ヘムシングは、アンコールとしてノルウェーの民謡「Springar」&「Halling」を奏でる。演奏前のヴァイオリンの説明。糸巻きが5つほどもある独特のヴァイオリンであり、調弦もクラシックのヴァイオリンとは異なるようである。
ヘムシングは足踏みを加えながらの演奏。ノルウェーの民謡であるが、日本でも人気のあるアイルランドの民族音楽にも通じるものがあるような気がした。

 

フランクの交響曲ニ短調。特筆事項の多い秀演である。
とにかく全てのパートが明確に浮かび上がる。従来の演奏だったら溶け合う部分もはっきりと分離しており、音が細やかに立体として聞こえてくる。第3楽章での強奏の部分であってもそれが変わることがない。
暗譜ということでオーケストラのメンバーを確認するのではなく上方を見つめて指揮することもあるカーチュン・ウォン。デジタルな感性で音楽を組み立てていく指揮者だ。
これは面白い指揮者を見つけてしまった。
京都市交響楽団も燦々と輝くような音色と力強さでウォンの指揮に応え、演奏終了後、聴衆は沸き、「ブラボー!」が連呼された。

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