カテゴリー「文楽」の9件の記事

2017年4月 1日 (土)

観劇感想精選(207) UMEDA BUNRAKU うめだ文楽2017「義経千本桜」河連法眼館の場

2017年3月24日 グランフロント大阪北館4階のナレッジシアターにて観劇

午後7時から、グランフロント大阪北館ナレッジキャピタル4階にあるナレッジシアターで、うめだ文楽2017 「義経千本桜」より河連法眼館の段を観る。二代目竹田出雲ほかによる合作。
「仮名手本忠臣蔵」、「菅原伝授手習鑑」と共に三大傑作の一つに数えられる「義経千本桜」。歌舞伎でも有名だが、人形浄瑠璃としての方が先で、歌舞伎はいわゆる義太夫狂言として行われたものである。
「河連法眼館の段」は歌舞伎では四段目の切りであることから「四の切」という通称でも知られているが、文楽ではそういう表現はしないようである。歌舞伎の四の切は市川猿之助の先代と当代の十八番であり、私も京都四條南座などで歌舞伎版の「河連法眼館の段」を観ている。猿之助がラストで宙乗りを行うことで有名だ。

うめだ文楽は、大阪にある民放テレビ局5局の共同で制作されており、今回は読売テレビの担当で、司会は読売テレビアナウンサーの諸國沙代子(しょこく・さよこ)が務める。
毎回ゲストが招かれており、開演前のトークショーが行われる。今日のゲストはシンガーソングライターの嘉門達夫。替え歌でお馴染みの嘉門達夫だが、今日も新作替え歌である「森友の籠さん(原曲:「森のクマさん」)」を披露する。嘉門は、ナレッジシアターに来る前は、ラジオの仕事をしてきたそうで、「森友の籠さん」はすでにラジオで発表済みで、YouTubeにもすでにアップしたという。嘉門は「今日やれて良かったわ。明後日ぐらいになったらもうみんな忘れている」

嘉門は、歌舞伎は勘三郎と友人だったためよく観ていたが、文楽は3回ほど観たことがあるものの、いずれも居眠りしてしまったそうである。司会の諸國も1回観たことがあるだけだそうだ。うめだ文楽は文楽に馴染みのない人にも文楽をアピールするという目的もある公演であるが、嘉門が客席に「文楽を観るのは今日が初めてという人」と聞くと、手を挙げる人はまばらで、嘉門は、「今日はベテランばかりですね」と言う。文楽を観に来ない人は立地が良かろうが値段が安かろうが観に来ないので、まあ、当然といえば当然の結果である。うめだ文楽は国立文楽劇場と違って字幕は出ないので、わかりにくいという一面もある。

その後、静御前の人形を操りながら吉田簑紫郎、吉田簑太郎、桐竹勘次郎が登場し、トークを行う。吉田簑紫郎は今年42歳にして芸歴30年だそうだが、13歳の時に文楽を観たのがきっかけで人形に興味を持ち、楽屋に遊びに行くようになって、そのまま弟子入りとなったそうだ。吉田簑太郎は父も祖父も文楽の人形遣いであったため、高校生の頃には「自分もそうなるんだろう」と思っていたそうである。桐竹勘次郎は比較的遅く、大学生の時に授業の単位欲しさに観に行った文楽に惹かれてしまい、そのまま学生生活と平行して文楽の技芸員になるための見習いを始め、大学卒業後に本格的に文楽技芸員の世界に飛び込んだという。
国立文楽劇場には研修所があるため、そこ経由で来る人と弟子入りで来る人の二通りがあるそうだ。嘉門達夫は、「吉本でいってみれば、巨人師匠に弟子入りするか、NSC入るか」と例えていた。研修所に入ると、2年ある課程のうちの1年は、太夫、三味線、人形遣いの全てを学ぶ必要があるが、弟子入りだと一本で行けるそうである。ただどちらが良いかは人によるという。

人形遣いは、まず足遣いから始めて10年、左遣いに10年から15年掛かるそうである。だが簑紫郎は、「入門から21年間ずっと足遣いで、これは騙されたと。ただ自分は中学しか卒業していないので、潰しが利かない。だからこれをやるしかない」と腹をくくったそうである。また全員が主遣いになれるわけではなく、うだつが上がらないままに終わる人もいるそうである。

諸國沙代子が、「笑いたくなるときなんてないんですか?」と聞くと、簑紫郎は、「聞かないで下さい」と言う。実は下で介錯をしている人が、笑わせようとして変なものを出してくる場合があるそうだ。だが、人形遣いは何があっても動じてはいけないため、笑った方が悪いということになるそうである。

トークのラストでは、嘉門の代表曲である「鼻から牛乳」に合わせて、静御前の人形に動いて貰った。
なお、昨年、関西テレビの回のうめだ文楽トークゲストとして登場した兵動大樹は演目は観ずに帰ってしまったそうだが、嘉門達夫はちゃんと観劇していた。


「義経千本桜」より河連法眼館の段。字幕はないがその代わり、河連法眼館の段に至るまでの「義経千本桜」のあらすじがCG映像で説明された。
太夫は豊竹希太夫。三味線は鶴澤寛太郎と鶴澤燕二郎。出演は、吉田幸助(佐藤忠信、狐、狐忠信)、吉田簑紫郎(静御前)、吉田玉勢(源義経)、吉田簑太郎、桐竹勘介、吉田玉誉(よしだ・たまよ)、吉田簑之、吉田玉路(よしだ・たまみち)、桐竹紋吉(きりたけ・もんよし)、吉田玉延(よしだ・たまのぶ)、桐竹勘次郎、吉田玉彦ほか。

歌舞伎の河連法眼館の場は、狐忠信(源九郎狐。大和郡山市の源九郎稲荷神社に祀られている)の早替わりが見物であるが、文楽で狐忠信の主遣いを担当する吉田幸助も歌舞伎俳優と同等か、それ以上の早替わりを行う。人形を変えたり衣装を着脱させたりするだけでなく、自身の衣装の早替えも行う。主遣いの衣装の早替えは、春秋座で観た淡路文楽で観たことがあるが、それ以来である。
吉田幸助は顔を赤くしながらの熱演。障子を破ったり戸板返しを行うなど、想像力豊かな展開を見せる。

歌舞伎では猿之助の狐忠信が宙乗りで去るのだが、今回の文楽上演では、狐忠信が客席に降りてきて、中央通路を下手から上手へと移動し、ドライアイスの煙が漂う上手通路口から退場していった。

今回の公演ではカーテンコールがあり、狐忠信の主遣いを務めた吉田幸助がスピーチを行う。「ああ、しんど」と吉田幸助。歌舞伎の狐忠信も大変だが、文楽の狐忠信も激しく動きっぱなしの上に、移動距離も他の演目の人形より長く、早替えもあるということで、体力がないと務まらない役である。
吉田幸助は、「来月も国立文楽劇場の方で公演がございますが、19日だけお休みとさせて頂いております。19日にお越しになってもご覧いただけませんので、それだけはよろしくお願いいたします」とユーモアを込めて語っていた。

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2017年3月31日 (金)

観劇感想精選(206) 人形浄瑠璃文楽京都公演2017「妹背山婦女庭訓」四段目

2017年3月17日 京都府立文化芸術会館にて観劇

午後6時から、京都府立文化芸術会館で、人形浄瑠璃文楽京都公演「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」を観る。

    
「妹背山婦女庭訓」は上演時間が10時間を超える大作であるため、今日は四段目のみの上演が行われる(全作の一挙上演の方が珍しい。近年では昨年4月に通し上演が行われたという)。「杉酒屋の段」「道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)」「姫戻りの段」「金殿(きんでん)の段」の4つ。

「妹背山婦女庭訓」は、近松半二らによる合作。飛鳥時代を舞台とする、文楽の中でも時代設定が古い作品である。『古事記』に出てくる苧環伝説なども上手くアレンジされている。


まず午後6時から、豊竹靖太夫による作品解説がある。「妹背山婦女庭訓」の登場人物がまず紹介される。酒屋の娘で身分の低いお三輪、烏帽子折(烏帽子職人)を名乗る求馬(もとめ)、そして謎のお姫様である。
豊竹靖太夫は舞台上の作りも紹介。まず上手花道に床が作られていることを説明し、下手花道舞台寄りに立つ字幕を映し出す機械の名前が「G・マーク」という駄洒落由来のものであることを説明し、G・マークとやり取りをする。

床の出演は、豊竹咲太夫、鶴澤燕三(つるさわ・えんざ)、豊竹睦太夫(とよたけ・むつみだゆう)、豊竹靖太夫、豊竹咲寿太夫(さくじゅだゆう)、野澤錦糸、鶴澤清馗(せいき)、鶴澤清丈、野澤錦吾、鶴澤清志郎(せいしろう)、竹本津駒太夫、竹澤宗助。人形遣いは、吉田玉勢(よしだ・たませ)、吉田文昇(ぶんしょう)、吉田和生(かずお)、豊松清十郎、吉田清五郎、吉田蓑二郎、吉田玉也ほか。


飛鳥時代。三種の神器の一つ、十握(とつか)の御剣を盗み出した蘇我入鹿が権勢をほしいままにしている。眼病に伏す天智天皇と、入鹿によって宮中から追われた藤原鎌足、藤原淡海(ふじわらのあわうみ)親子らは蘇我入鹿追討を図る。
蘇我入鹿の父親である蘇我蝦夷(劇中では読みは同じだが「蘇我蝦夷子」表記)は、子が授からないことを案じ、妻に白い牝鹿の生き血を飲ませた。こうして生まれたのが蘇我入鹿。鹿の血が入っているので入鹿である。獣の血が入っているために剛毅比類なき蘇我入鹿であるが、それが弱点でもある。爪黒の牝鹿の生き血と疑着の相のある女の生き血を注ぎかけた笛を吹けば入鹿は正体を失ってしまうのだ。藤原親子は千頭に一頭しかいない爪黒の鹿の血を手に入れることに成功、というところで本日上演される段が始まる。

大和国三輪の里(現在の奈良県桜井市三輪)。最初の段は杉酒屋という酒屋が舞台である。酒屋の娘であるお三輪は寺子屋に行っている。お三輪の母親も留守だ。ということで、杉酒屋には丁稚の子太郎(こたろう)しかいない。子太郎は、向かいに住む烏帽子職員の求馬の家に、輝かしい服装をした娘が入っていくのを目撃する。どこかの姫に違いない。求馬はお三輪と恋仲。寺子屋から帰ったお三輪(「手習草紙」という冊子を手にしている。「婦女庭訓」というのは寺子屋で用いられる女の身だしなみについての教科書のことで、横恋慕してきた姫は婦女庭訓に背くことになる)にその事実を告げる。子太郎に求馬を呼び出すように言うお三輪。やって来た求馬をお三輪は問いただすが、求馬は「ただの女中だ」としらばっくれる。今日は七夕。お三輪は寺子屋で習ったという、苧環(おだまき。手持ち式の糸巻き車)を使った縁結びの手法を求馬に伝える。求馬に赤糸の苧環を持たせ、自身は白糸の苧環を持つ。苧環が鵲(西洋の星座でいうはくちょう座に当たる。牽牛と織姫の間を取り持つ役目を担う)になるよう願いを込める三輪。
そこへ姫が杉酒屋に入ってきてしまう。この姫というのがお嬢さん育ちで、少し無神経なところがあり、お三輪を本人の目の前で「端女(はしため)」などと形容してしまう。激怒するお三輪。というわけで言い争いが始まる。そこに求馬の正体を知ったお三輪の母親が帰って来て……。

続く、「道行恋苧環」。浅葱幕が垂れており、「天岩戸」伝説に掛けた謡が始まる。やがて浅葱幕が落ちると、背後に大神神社への参道が見える。姫の後を追って来た求馬。姫の正体を知りたいのだが、姫が頑として答えない。そこへお三輪もやって来てまたも口喧嘩になるのだが、同じことが続いても退屈ということで、ここでは人形三体による舞が行われる。
そして、姫の振り袖に苧環の赤い糸を刺すことに成功した求馬は姫の後を追う。お三輪も同じアイデアを思いつい、求馬の袖に白い糸をつけるのだが、糸は途切れてしまい、追跡することが出来ない。

姫が帰ったのは、三笠山の上に建つ蘇我入鹿の御殿。ということで、求馬は、姫の正体が蘇我入鹿の妹である橘姫であることを知る。実は求馬の正体は藤原鎌足の長男である藤原淡海。蘇我氏とは仇敵なのだった。橘姫は、正体が藤原淡海であることを知った上で求馬に恋したのだが、正体がばれたら淡海と別れなければならない。それが嫌で蘇我入鹿の娘であることを隠していたのだった。
下女の一人が、橘姫の袖に赤い糸が刺してあるのに気づく。そして糸をたぐり寄せると求馬が現れる。求馬は嘘をつくが、下女達は求馬が橘姫の恋人であるということには気づいており、「庭へもろくに下りない姫君に男が出来た」ということで、逆に歓迎されてしまう。求馬こと藤原淡海に正体が知られたことを悟った橘姫は、淡海に刺されて死ぬことを「本望」とするが、淡海は橘姫に、「夫婦になりたくば一つの功を立てられよ」と言って、入鹿が宮中から盗んだ十握の剣を奪い返すよう命じる。橘姫は、「親よりも兄よりも恋人よりも、天子のためを思うのが第一」として、天智天皇と藤原氏のために手柄を立てることを決意する。

遅れてやって来たお三輪。やって来た下女に、求馬と姫が華燭の典を挙げると知り、「人の男を盗むくさって」と激怒。正体を偽って、内祝言の場に近づこうとするが、官女達に正体を見破られ、嬲り者にされてしまう。恥辱に震えるお三輪。そこに男が現れる。その男、鱶七(ふかしち)の正体は藤原鎌足の忠臣・金輪五郎である。金輪五郎は、お三輪が疑着の相をしていることに気づいた……。


人形の愛らしさ、大和言葉の美しさ、苧環を回転させることで糸がないのに糸があるかのように見せるという演出。今日もまた、昔の日本人の頭の良さに感心することになる。
男女の間の心遣いの細やかさという日本人の長所と、弱い者に対する陰湿ないじめが好きという短所の両方が描かれており、作品に奥行きを与えている。

「文楽」「伝統芸能」「世界無形遺産」と聞くと、いかにも高尚なようで身構えてしまう人もいるかも知れないが。元々は町人のための娯楽ということで、ユーモラスな場面もふんだんに用意されており、笑って楽しむことも出来る。

人形遣い達の人形捌きは実に巧み。ちょっとしたサーカスのように見える部分もあり、これほどの技術が必要となると、「一人前になるには二十年から三十年掛かる」のも当然だと思えてくる。

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2017年3月17日 (金)

観劇感想精選(203) 第3回勘緑文楽劇場公演「エディット・ピアフ物語」

2017年3月5日 大阪・日本橋の国立文楽劇場にて観劇

午後4時30分から、大阪・日本橋(にっぽんばし)にある国立文楽劇場で、第3回勘緑文楽劇場公演「エディット・ピアフ物語」を観る。


勘緑文楽劇場は、元文楽協会技芸員で、現在は人形座「木偶舎(もくぐしゃ)」主宰である勘緑が人形浄瑠璃の新しい可能性を求めて、2012年1月に33年在籍した文楽座を辞して始めた新文楽である。勘緑は、現在、人形浄瑠璃とくしま座芸術監督、筑前艶恋座代表でもある。

洋服を着た人形が行う文楽を観るのは、今回が初めてである。シャンソン歌手の代名詞であるエディット・ピアフ(本名:エディット・ジョヴァンナ・ガション)の生涯を文楽で描こうという試み、文楽だけでなく、講談、シャンソン、フレンチジャズ、マジック、アクロバットなどあらゆる要素を取り入れたSHOWになっている。

講談師を務めるのは、4代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)。2000年に大阪市立大学法学部を卒業後、司法浪人をしていたが、「講談師も弁護士も最後に“し”がついてるから一緒や」と旭堂南陵に言われて講談師になったという変わり種。日本語の他に英語、スウェーデン語をこなす。1993年から翌年にかけてスウェーデンへ交換留学に行っており、ストックホルムで行われたノーベル賞の授賞式にも参加しているという。昨年11月に4代目・玉田玉秀斎を襲名したばかりである。

今回の公演では、義太夫の代わりに玉田玉秀斎が全ての語りをこなす。

玉秀斎は舞台下手に陣取り、舞台上手がバンドスペースとなっている。演奏者は、川瀬眞司(ギター、音楽プロデューサー)、山本佳史(ギター)、中村尚美(ウッドベース)、かとうかなこ(クロマチックアコーディオン)、高橋誠(ヴァイオリン)。シャンソン歌手のZaZaがヴォーカリストとして参加し、パフォーマーのKAMIYAMAがマジックとパントマイム、吉田亜希がアクロバティックダンスを行う。

開演5分前に、勘緑が人形を使いながら舞台から客席に降りてくる。KAMIYAMAらパフォーマーもそれに従う。


まず、バンド陣が「シャレード」のテーマを引いてスタート。客席後方から、子供の人形が現れる。声は玉田玉秀斎が担当する。「おかーさん、もうすぐ会えるんだね! 色々歌って欲しいな」と子供は言いつつ舞台上に上がり、退場する。この人形は後にエディット・ピアフの娘、マルセルであることがわかる。

ラジオのチューニングの音が流れ、「歌手のエディット・ピアフさんが亡くなりました。享年47歳でした」と伝える。

そして、舞台上に今度現れたのはモヒカン刈の男。ピアフの父親であるルイスである。ルイスは己の惨めな境遇を全部人のせいにする。
ピアフは生まれてすぐに母親が逃げ出し、父親のルイスに育てられるのだが、ルイスも元々人間が悪く、実の娘を母親が営業する売春宿に売る。ルイスの母親も「娘を売るなんて、ろくでなし!」と言うが、結局、高値で引き取る。売春宿には仕事のしすぎでもう子供が産めない体になってしまった娼婦のティティーヌがいた。ティティーヌはピアフを実の子供のように可愛がる。ピアフが歌を覚えることが得意なのに気づいたティティーヌはピアフに歌を教える。フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」などを歌った。
だが、ピアフは目を病み、視力を失ってしまう。ティティーヌは様々な薬を試すが効果はなく、後は神頼みしかなくなる。聖地に巡礼するティティーヌとピアフ。すると不思議なことにピアフの目が見えるようになった。
だが、目が見えるなら役に立つということで、ルイスが自分が経営している見世物小屋にピアフを入れようと迎えに来る。ルイスの手下役のKAMIYAMAと吉田亜希もそれに従い、人形と人間が争うという珍しい場面が演じられる。

見世物小屋の場面。KAMIYAMAがブリーフケースを使ったパントマイムを行い、その後、マジックも披露する。そして舞台上から赤い布が2枚降りてきて、吉田亜希がそれを伝って上にあがり、サーカスのようなアクロバット芸を披露する。

そして、ピアフの初舞台。ピアフは「ラ・マルセイエーズ」を歌い(歌はZaZaが担当)、大反響を呼んで、歌手、エディット・ピアフが誕生するのだった。

パリの劇場で歌ったピアフは、小柄な体から放たれる圧倒的な歌で大成功。フランス語で雀を意味する俗語の「ピアフ」の名で呼ばれるようになる。


有名ナンバーは、「パリの空の下」、「バラ色の人生」、「愛の賛歌」、「パダム・パダム」、「群衆」、「水に流して」などが歌われる。

16歳になったピアフは、プティルイという男性と結婚。女の子が生まれ、マルセルとピアフは名付ける。だが、マルセルは病に倒れ、早世してしまう。嘆くピアフ(この場面ではアコーディオン奏者のかとうかなこが舞台の中央まで進み出てクロマチックアコーディオン(ボタン式アコーディオン)を弾き、ピアフがアコーディオンにすがろうとする。その後、マルセルは天国からピアフを見つめる役をする。

戦争が始まり、ピアフはパリを占領したドイツ将校のために歌うが、それでフランス人捕虜収容所に慰問に行く権利を手に入れる。ピアフは収容所に入っては、捕虜を逃がす作戦を決行した。

戦後、ピアフはボクサーのマルセル・セルダンと出会い、恋に落ちる。「なぜあなたは悲しい歌ばかり歌うのですか?」というセルダンにピアフは「本当に悲しいからよ」と答える。だが、歌うことが自分に出来ることと考えるピアフは歌い続ける覚悟もしていた。
ピアフとセルダンは、フランス民謡「月夜(月の光に)」のメロディーに合わせて踊る。

多忙ゆえに会えなくなったピアフとセルダンであるが、ピアフがニューヨークでコンサートを行う時期に、セルダンもニューヨークでタイトルマッチを戦うことになった。
ピアフはセルダンのために「愛の賛歌」を用意して待っていたが、セルダンを乗せた飛行機が墜落。ピアフは最愛の人を失った。関係者は当日のコンサートを中止にしようとしたが、ピアフは決行を決意し、全身を振り絞るようにして「愛の賛歌」を歌う。

セルダンの死によって抜け殻のようになってしまったピアフは、酒、煙草、ドラッグに溺れ、40代とは思えないほどに老け込んでしまった。そんなある日、ピアフはテオ・サポラという青年と出会う。「みんな自分を利用して金儲けをしているだけだ」と言うピアフに、テオはピアフの歌の素晴らしさを語る。復活したピアフはオランピア劇場でコンサートを行い、大成功。1時間半の本編が終わった後で、ピアフはアンコールとして「水に流して」を歌うのだった。

ピアフが亡くなり、ピアフの霊はマルセルの霊と再会する。ZaZaの「愛の賛歌」日本語版が歌われて劇は終わる。


大竹しのぶが舞台「ピアフ」にライフワークのように取り組んでおり、遂には紅白歌合戦にまで出場してしまったということで、観に来ていたおばあちゃんの多くが、「大竹しのぶ」の名を口にしていた。勘緑が終演後に、「勘緑文楽劇場公演は3回目にしてようやく満員になった」と言っていたが、多分、大竹しのぶ効果はあったと思われる。

人形と人形とがダンスを踊ったり、セリが頻繁に使われたり(「これでもか」というほど高くせり上がる場面もある)、回り舞台まで使うなど、国立文楽劇場で出来ることは全てやったという感じである。
構想から今日の舞台まで5年掛かったというが、まあ、色々な要素を取り入れているので時間は掛かるだろう。
木偶舎の座員は、全員、勘緑から「緑」の字を貰っているが、12人中10人が女性という、浄瑠璃上演集団としてはかなり異色のグループである。この後、木偶舎は、東北地方支援公演に向かうという。

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2016年9月 6日 (火)

観劇感想精選(190) ムムム!!文楽シリーズ第1回「中之島文楽」2016

2016年8月25日 大阪市中央公会堂(中之島公会堂)大集会室にて観劇

午後7時から大阪市中央公会堂大集会室で「中之島文楽」を観る。「中之島文楽」は、文楽の楽しさと魅力を知ってもらうために始まったイベント・ムムム!!文楽シリーズの第1回公演である。入場料金を通常の半額以下に抑え、大阪市民が足を運びやすい場所で文楽の公演を行う。

第1部が「文学ビギナーに贈る 文楽入門トーク 文楽ってナンダ? おもしろ文楽のススメ」(司会:桂吉坊、ゲスト:桜 稲垣早希)、第2部が文楽上演で「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)」より“渡し場の段”と「曽根崎心中」より“天神森(てんじんのもり)の段”が上演される。

ゲストとして早希ちゃんが登場するが、早希ちゃんがゲストで出るから「中之島文楽」を観る気になったのではなく、もともと「中之島文楽」は観る予定で、25日にしようか26日にするかというところだけ保留していたのだが、早希ちゃんがゲストで出るらしいという情報を得て25日の公演を選んだのである。明日も同一演目上演で、トークのゲストは西川忠志に変わる。
司会の桂吉坊(かつら・きちぼう)は落語家であるが、大の文楽好きということで司会に抜擢された。文楽の歴史や作品構造、「日高川入相花王」と「曽根崎心中」の前半部分のストーリー紹介などを早希ちゃん相手に行う。

ブログを確認したところ、早希ちゃんはマネージャーから「セミフォーマルな格好で来て下さい」と言われたものの、「セミフォーマルがフォーマルより上なのか下なのかわからない」という例の調子で、最初は結婚式出席用の衣装などを用意してしまったそうだが、「もっと軽くていい」ということで、今日は白の上着と、白と黒の細かい市松模様のミニスカートという出で立ちで登場した。

文楽について早希ちゃんは、「ずっと昔に国立文楽劇場で『曽根崎心中』を観たことがあります」と話す。

三味線が沖縄の三線から進化したという話を吉坊がした後で、「早希さん、何か楽器は?」と聞かれた早希ちゃんは「子供の頃、ピアノを……、でも先生が嫌でサボってばっかりで……。7年習って弾けるのが『ジングルベル』だけ」と苦笑交じりに語る。

吉坊は、太夫の元祖は琵琶法師、人形遣いが現れたのは平安時代と説明を続け、植村文楽軒という人が人形浄瑠璃で大当たりを取ったため、人形浄瑠璃が「文楽」という異名でも呼ばれるようになり、今では文楽の方が通りが良くなっていると語る。
舞台背後にはスクリーンが張られており、出演者の顔のアップや説明のための映像などが投影される。


次いで人形の紹介。吉田幸助が主遣いの女性の人形が登場。人形は3人で動かし、主遣い、左遣い、足遣いの3つの役割がある。ちゃんと人形を動かせるまでに15年ほど修行が必要であり、一流になるまでには約30年が必要という職人の世界である。
人形遣い体験として、希望者が人形を扱うことが出来るコーナーがある。手を挙げたのは小学生の男の子。主遣いをやりたいというのだが、男の子の身長は人形と同じくらい。ということで、吉田幸助も補助に入ったため、結果として4人遣いになってしまっていた。


作品紹介では、関係図がスクリーンに映り、「日高川入相花王」ではあり得ないような偶然が起こっていることを示す。

最後は、桂吉坊が紹介する「曾根崎の現在」の映像が流れる。実は、大阪市中央公会堂に入る前に私は隣の大阪府立中之島図書館(重要文化財指定)に入ったり、曾根崎の辺りをウロウロしていたため、先程通ったばかりの場所が映像で流れたりする。曾根崎と大阪市中央公会堂は目と鼻の先、歩いて数分しか離れていない。


休憩を挟んで文楽上演。大阪市中央公会堂での上演ということで、照明などは国立文楽劇場とは違った趣が採られている。
太夫:豊竹希太夫(とよたけ・のぞみだゆう)、豊竹英太夫(とよたけ・はなふさだゆう)、豊竹睦太夫(とよたけ・むつだゆう)、豊竹亘太夫(とよたけ・わたるだゆう)
三味線:鶴澤清允(つるざわ・せいいん)、鶴澤清公(つるざわ・せいこう)、鶴澤清介(つるざわ・せいすけ)、野澤喜一朗
人形:桐竹勘十郎、桐竹観昇、桐竹観次郎、桐竹紋秀(きりたけ・もんひで)、吉田勘市、吉田幸助、吉田玉男、吉田玉峻(よしだ・たまとし)、吉田玉路(よしだ・たまみち)、吉田玉征(よしだ・たまゆき)、吉田簑二郎、吉田簑之


「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)」。タイトルはものものしいが、有名な安珍・清姫の物語である。安珍に裏切られたと悟った清姫が日高川を渡ろうとするも、船頭に邪魔され、怒り狂った清姫は、顔は鬼、体は蛇の化け物となって日高川を渡り、道成寺に入った安珍を追うという場面の上演である。竹田小出雲、近松半二らによる合作。

赤と黒の衣装で登場した清姫は最初から狂気じみた雰囲気を醸し出している。憤怒の踊りの場面は見事で、人形に命が吹き込まれている。顔が一瞬にして清姫から鬼に変わる細工も面白く、川の中で衣装が瞬く間に蛇の鱗に変わるシーンにも唸らされた。江戸時代の日本人は本当に頭が良かったんだねえ。
一方で、船頭は結構手持ち無沙汰なところがある。主役はあくまで清姫ということなのだろう。
なお、清姫が「道成寺」と言うのを聞いた船頭が「どじょう汁?」と勘違いするという笑いのシーンがある。


「曽根崎心中」より“天神森(てんじんのもり)の段”。「この世のなごり 夜もなごり」で始まる有名な場面である。
9年ほど前に大阪の国立文楽劇場で私は「曽根崎心中」全編を観ている。そのため、有名ではあるが心中のシーンだけだと少し物足りないようにも感じる。

それにして文楽の表現の細やかさは筆舌に尽くしがたい。人形劇は世界中に数多くあるが、これほど繊細な味わいを持つものはおそらく文楽だけであろう。

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2016年5月 5日 (木)

観劇感想精選(179) 「UMEDA BUNRAKU うめだ文楽2016 傾城阿波の鳴門 ~十郎兵衛住家の段~」

2016年3月25日 大阪・北梅田のグランフロント大阪のナレッジシアターにて観劇

午後7時から、北梅田のグランフロント大阪北館4階にあるナレッジシアターで、「UMEDA BUNRAKU うめだ文楽2016」を観る。在阪民放5局が共同で梅田で文楽を上演しようという試み。
国立文楽劇場が大阪にあるように、大阪は文楽発祥の地であり、文楽の首都なのであるが、国立文楽劇場での演目は遅い方でも午前4時開演と、9to5で働いている人は土日か休日しか観に行けないという状況である。歌舞伎も開演時間はほぼ同じだがスター俳優のいる歌舞伎に比べ、文楽は人形が演じるため客が入りにくいということもあった。そこで「UMEDA      BUNRAKU」は、午後7時から比較的短めの演目を上演することにしている。演じられるのは「傾城阿波(の)鳴門 ~十郎兵衛住家の段~」。また、毎回、ゲストによるポストトークがあり、今日は矢野・兵動の兵動大樹がゲストとして呼ばれる。明日のゲストは桂南光、その後、コシノヒロコ、わかぎゑふ、三浦しをんと続く。

ナレッジシアターに来るのは久しぶり。2013年の杮落とし公演「ロボット演劇版:銀河鉄道の夜」を観て以来である。ナレッジシアターの稼働率自体がそれほど高いようには思えないのだが。


まずはプレトーク。関西テレビの川島壮雄(かわしま・もりお)アナウンサーの司会。メインゲストの兵動大樹が出てトークを行った後に、人形遣いである吉田幸助、吉田簑之、吉田玉勢が呼ばれ、川島の司会で4人のトークが行われる。兵動大樹は大阪生まれの大阪育ちだが文楽を観たことはこれまで一度もないそうで、川島との二人でのトーク中に、「今日もこれ(プレトーク)終わったら帰っていいですか?」とボケる。兵動は番組の企画で人形遣いではなく太夫に一日弟子入りしたそうで、その模様が背後のスクリーンに映される。「傾城阿波鳴門」の子役・おつるのセリフを読み上げ、その後、笑いのやり方を教わる。笑いであるが、高笑いに至るまでずいぶんと時間が掛かる。「昔の人はこんなにゆっくり笑ってはったんでしょうかね?」と兵動が語っている。
さて、映像が終わってから兵動が種明かししたのだが、基本的に文楽の作者は町人の出身であり、武士階級の人が笑うところを見たことがなかったため、想像で武士の笑いを書き上げたところ、妙にゆっくりしたものになってしまったそうだ(武士は基本的に文楽や歌舞伎などを観てはいけない決まりになっており、文楽や歌舞伎の作者とは交流がなかったのである)。
なお、阿波藩出身者の話であり、阿波徳島藩の藩主は代々蜂須賀小六の家系である蜂須賀氏であるが、そのまま出すのは拙いので玉木氏という架空の大名になっている。


徳島城主玉木氏の家宝である刀剣が盗まれる。阿波の十郎兵衛は家宝の刀剣を探すため、大坂・玉造に出て、盗賊の銀十郎として妻のお弓と暮らしている。
お弓が留守を守っている間に、9歳の少女が訪ねてきた。阿波徳島から来たという少女にお弓は同郷だということで好感を覚える。だが、その子が3歳の時に両親から引き離されておばさんのところで育ったということで、「もしや」との思いがお弓に芽生える。お弓が少女に両親の名前を聞くと、「ととさんの名前は十郎兵衛、かかさんの名前はお弓と申します」と言ったため、少女が我が子・おつるであると知る。名乗り出たいという思いに駆られるお弓であったが、今は盗賊の女房という身。おつるに本当のことを打ち明ければおつるを却って不幸にする。ということで、泣く泣くおつると別れる。おつるが野宿をしているというので、小判を与えるのだが、これが後に災いを招く。
おつるが去った後、どうしてもおつるのことが気に掛かるお弓はおつるの後を追う。だが、おつるは銀十郎となった十郎兵衛と出会い、お弓と入れ違いに家へと帰ってくる。おつるは乞食にたかられそうになっていたおつるを助けて家へと帰って来たのであるが……。


字幕なしの上演であり、有料パンフレットにも床本は入っていない。そのため、地の文は何と言っているのかわかりにくかったが、台詞が多く、台詞は聞き取りやすいため、内容を理解するには十分である。

リアリティということに関すると、現在では今一つかも知れないが、今では失われてしまった日本人の美質というものが文楽にそのまま込められているのもわかる。
お弓の心理のきめ細かさ、日本人女性ならではの愛らしさや艶やかさといったものは現代の多くの女性からは失われてしまったものである。ちょっとした仕草が美しい。

人形であるため表情は変わらないのであるが(目や眉が動く人形もいるが)、その無表情が逆に多彩な表情に見える。能面にも通じる日本古典芸能の美点である。


今日は1時間程度の演目であったが、太夫がこれほど長い時間に渡って唄うことはないそうで、太夫の竹本小住大夫、三味線の鶴澤寛太郎にも盛んな拍手が送られた。

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2015年4月 4日 (土)

観劇感想精選(148) 三谷文楽「其礼成心中」

2014年8月7日 京都劇場にて観劇

午後3時30分から、京都劇場で、三谷文楽「其礼成心中」を観る。三谷幸喜が初めて挑んだ文楽(人形浄瑠璃)のための作品。一昨年に東京・渋谷のPARCO劇場で初演。昨年に再演され、今回が関西での初上演となる。私は初演時のチケットを手に入れていたのだが、病気が芳しくなくキャンセルしている。

文楽は大阪が本場であるが、橋下徹が、文楽の助成金を問題にし、「曽根崎心中」を観て、「面白くなかった」、「演出に工夫がなかった」などと批判している。橋下が、東京で「其礼成心中」という新作文楽が上演されていることを挙げて、「新しいものにチャレンジしないと」などとも言っていたが、ならば橋下は「其礼成心中」なら面白く観劇できるのか? 答えは間違いなく「NO」である。「其礼成心中」はそもそもが「曽根崎心中」という文楽作品を知っていることを前提に書かれており、更に近松の代表作の一つである「心中天網島」の“橋づくしの場”がそのままで上演されるシーンもある。「曽根崎心中」も理解出来ないようなお馬鹿さんが「其礼成心中」を楽しめるはずがないのだ。

まず三谷幸喜人形が登場し、「其礼成心中」の概要を述べて、「東京都民の80%は観たのではないでしょうか」と誇大宣伝を行う。「自信作であり、京都では大文字焼き(あー、「大文字焼き」って言っちゃったよ)と並ぶ夏の風物詩にしたい」と抱負も述べた。

「其礼成心中」の舞台は、元禄年間の大坂。元禄16年(1703)に大坂竹本座で初演された近松門左衛門の「曽根崎心中」が大当たりしたため、心中が社会現象となっていた(これは史実である)。今夜も、六郎とおせんという恋人が心中しようと、お初、徳兵衛が心中して果てた露天神の森にやって来る。そして、「曽根崎心中」の“此の世の名残、夜も名残”という有名な歌で心中しようとしたところに、天神の森で鶴屋という饅頭屋を営んでいる半兵衛に妨害される。天神の森で心中が流行っているため、饅頭屋にやって来る人が減って、迷惑しているので、半兵衛は夜な夜なパトロールしているという(英語はそのまま使われることが多い)。

半兵衛は、もうちょっと行けば淀川があると言って、二人を追い立てるが、二人はまだ森の中にいるうちに再び心中を図る。しかし、半兵衛がやって来て、またも心中を阻む。半兵衛は二人に「頭を冷やせ」と言い、そのまま鶴屋に呼ぶ。六助は油屋の手代であり、おせんは油屋の主人の娘ということで身分違いの恋であり、叶わぬ恋ならあの世で添い遂げようと心中することにしたのである。半兵衛は「そんなの、お初、徳兵衛に比べれば子供みたいな悩みだ」と一蹴する。半兵衛の妻・おかつは、二人にアドバイスする。納得して帰る六郎とおせん。その姿を見て、半兵衛は、おかつを「曽根崎の母」として、お悩み相談&饅頭売りのダブルビジネスモデルを考えつく。

半兵衛の読みは当たり、饅頭を曽根崎饅頭として売り出した鶴屋は大繁盛。しかし、それも長くは続かなかった。大坂竹本座で、近松門左衛門の「心中天網島」が上演される。半兵衛とおかつの夫婦も竹本座に「心中天網島」を観に出かける。“橋づくしの場”が実際に上演され、それを観た半兵衛夫妻は感銘を受けるのだが、二人の娘であるおふくが、網島で「かきあげ天網島」が売られており、大ヒットしていると告げる。心中の客は網島へと流れてしまい、鶴屋は思い切り傾く。「これも全て近松門左衛門のせいや」と考えた半兵衛は近松に直談判に行く。しかし、近松は「何を書こうがわしの勝手」と言い、半兵衛の「『曽根崎心中』の続編を書いて欲しい」という願いも当然ながら断る。
そして、「どうしても書いて欲しければ、わしが書きたいと思うような、心中を起こすんやな。それなりおもしろかったら」芝居を書いても良いと半兵衛を退ける。

「それなりに面白い」と言われても、戯作者ではない半兵衛には「それなりに面白い心中」など思いつかない。だが、その直後に娘のおふくが、「かきあげ天網島」のうどん屋の若旦那・政吉と恋に落ちていることが判明して……

文楽の台本というと、情緒的というか内省的というか、日本人的な細やかさが出て、内へ内へと向かい、時に情に流れる傾向があるのだが、アメリカの映画やテレビドラマを好む三谷の書く台本は逆に開放的であり、登場人物と一体化するのではなく、俯瞰的な角度から人間を描いているようなところがある。これまで書いた台本は全て当て書きという三谷であるが、今回は当て書きする俳優がおらず人形のみだったため、三谷の構築力が前面に出ているところがある。
人形の動きで笑いを取るのはやり過ぎだと思うが、伝統芸能の枠を拡げようという意図は明確に伝わって来た。
幕を使った、文楽でしかなし得ない大見得の場面もあり、良い意味で見事なShowになっていたと思う。

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2015年2月 9日 (月)

観劇感想精選(144) 平成二十七年 初春文楽公演第2部「日吉丸稚桜」&「冥途の飛脚」

2015年1月14日 大阪・日本橋の国立文楽劇場にて観劇

午後4時から、大阪・日本橋の国立文楽劇場で、初春文楽公演第2部 「日吉丸稚桜(ひよしまるわかさのさくら)」“駒木山城中の段”と「冥途の飛脚」“淡路町の段”“封印切の段(新町の段)”“道行相合かご”を観る。

国立文楽劇場に来るのは通算で4回目であるが、文楽を観るのは3回目。前回は文楽ではなく3階にある小ホールで落語の公演を観ている。

「日吉丸稚桜」は、タイトルからわかる通り豊臣秀吉が登場するが、木下藤吉郎久吉(このしたとうきちろうひさよし)という名義になっている。織田信長は小田春長、斎藤道三は斎藤明舜、濃姫が萬代姫、加藤清正が加藤正清という名に置き換わっている。ただ堀尾吉晴と斎藤龍興は何故かそのままの名で登場する。中途半端な置き換えである。

舞台は駒木山城であるが、これは小牧山城の置き換え。斎藤明舜と斎藤龍興の居城は稲田山城であるが、これは稲葉山城=岐阜城の置き換えである。城の名前はある程度歴史好きの人でないとピンと来ないかも知れない。

小田春長に輿入れした萬代姫であるが、駒木山城の木下藤吉郎久吉の下に預けられており、藤吉郎の家臣である堀尾吉晴が萬代姫に渡した短冊には自害するよう示唆されていた。
藤吉郎であるが、斎藤明舜の居城である稲田山城の攻め方を検討中。蝶々が飛ぶのを見て、搦手からの攻撃を思いつく。

駒木山城に老人が忍び込む。堀尾吉晴がそれを見とがめるが、その老人が吉晴の舅である鍛冶屋五郎助であることがわかる。また、鍛冶屋五郎助は藤吉郎がかつて自分が世話をした猿之助という奉公人だったことを知って驚く。

更には堀尾吉晴の養父である源左衛門を殺したのが舅である鍛冶屋五郎助であることも発覚する。

鍛冶屋五郎助の息子、竹松も現れるが、下部を思いっ切り投げつけるなど、竹松は幼いながらも怪力である。この竹松の後の姿が加藤正清ということになっている加藤清正である。
相手を思いっ切り投げ飛ばすシーンでは、人形を使う文楽の良さが出る。生身の俳優では怪我に配慮して思い切り投げることは出来ないが(一応、歌舞伎ではトンボ切りという手段を用いる)、文楽では思う存分投げ飛ばすことが出来る。

ストーリー展開に、シェークスピアの「タイタス・アンドロニカス」によく似たところがあるのだが、勿論、偶然である。

「冥途の飛脚」。近松門左衛門の作であり、有名作であるが(特に「封印切り」は代名詞になっている)、「曽根崎心中」や「心中天網島」などに比べると評価が芳しいとはいえない。「冥途の飛脚」は後に菅専助と若竹笛躬により改作され「けいせい恋飛脚」という文楽にもなっている。

近松作の他の文楽では「やむにやまれず」というところがあるのだが、「冥途の飛脚」では、主人公の忠兵衛がアホなだけということもあり、八百屋お七のようなちょっと頭があれなだけの人でも悲劇のヒロインにしてしまうという寛容さを持つ日本人でも「もう少し何とかならないのか」と不満を持っても仕方ない。後に改作する人が現れたのもそのためであろう。

ただ、改作された「けいせい恋飛脚」では八右衛門が完全な悪役となっており、勧善懲悪が流行らなくなった時代にあっては、八右衛門が魅力的な人物となっている「冥途の飛脚」の方を高くする人も相当数いるだろうと思われる。

有名な封印切りの場面であるが、本当に面白い。昔の日本人は怖ろしく賢かったんだなあと感心する。

なお、「千日」という言葉に忠兵衛が過剰反応する場面があるが、これは大阪に詳しい人でないとどうしてそうなるのかわからないと思われる。江戸時代の大坂の刑場は千日前にあったため、「千日」という言葉が「千日前」を連想させて忠兵衛が臆したのである。

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2014年8月11日 (月)

観劇感想精選(129) 淡路人形浄瑠璃「玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)」」

2011年1月29日 京都芸術劇場春秋座にて観劇

午後3時より、京都芸術劇場春秋座で、淡路人形浄瑠璃「玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)」を観る。人形浄瑠璃といえば大阪(人形浄瑠璃の別名の由来となった文楽座があった)が有名だが、淡路島でも人形浄瑠璃は行われているようだ。淡路島というと、芝居好きの芝右衛門狸が有名で、淡路島で人形浄瑠璃を行うホールの名前も「淡路島文化ホールしばえもん座」だそうだ。

演目の「玉藻前曦袂」は、日食の日に生まれたため、皇位に就くことの出来ない薄雲の皇子が、弟の鳥羽天皇に反逆を企て、配下の鷲塚金藤次に、故右大臣道春家に伝わる獅子王の剣を盗ませることから始まる。春道の娘・桂姫に横恋慕した薄雲の皇子は清水寺参詣に向かう桂姫を道中で襲うが、姫の恋人に追い散らされる。その恨みから薄雲の皇子は金藤次に桂姫の首を取るように命じる。

ここまでが前段で、今日はその後の「道春館の段」「神泉苑の段」「狐七化け」が演じられる。

「道春館の段」。浄瑠璃唄いも三味線も女性である。浄瑠璃の女性は年が上なので声が低く、地唄は何と歌っているのか聞き取れなかったが、セリフは聞き取れたので要所要所はわかる。人形は簡単な仕掛けのはずなのに表情が豊かだ。この段では金藤次が桂姫の首か獅子王の刀を渡すよう要求するが、道春の後室・萩の方は拒む。それでも引き下がらない金藤次に萩の方は桂姫が道春の娘ではないことを告げ、実子の初花姫と桂姫とでサイコロを競わせ、負けた方の首を差し上げることを約束させる。負けたのは初花姫であったが、金藤次は桂姫の首を強引に討ち取る。萩の方と道春家付きの采女之助は金藤次を刺し殺すが、死の間際に金藤次は桂姫が自身が捨てた娘で、獅子王の刀を盗んだことを告げる。

「神泉苑の段」。初花姫は入内して玉藻前を名乗る。神泉苑(今の二条城付近。一部が神泉苑として残っている)で、亡き姉の桂姫を偲んでいると、九尾の狐が現れ、玉藻前を殺してしまう。九尾の狐は玉藻前に化け、薄雲の皇子と日本を魔界にしようとする野望を語る(山田風太郎の「魔界転生」みたいだ)。そこに陰陽師の安倍泰成が現れ、神鏡で照らして九尾の狐を追い払う。

玉藻前に化けた九尾の狐は、時折早替えで、顔を狐に変える。その手並みは鮮やかだ。

「狐七化け」。那須原に逃げた九尾の狐を武者達が襲うが、一人は追い払われ、一人は恐怖の余り刀を取り落として逃げ去り、一人は顔を切られて討ち死にする。その後、殺生石となった九尾の狐は、玉藻前、座頭、花笠などに次々と化ける、人形浄瑠璃なので、人形を変えるだけなのだが、代わりに人形遣いの吉田新九郎が早替えを披露して、客席を沸かせた。

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2014年4月24日 (木)

観劇感想精選(119) 文楽 「源平布引滝」四段目&「曽根崎心中」

2007年11月13日 大阪の国立文楽劇場にて観劇

大阪・日本橋(にっぽんばし)にある国立文楽劇場へ。今日観る文楽の演目は、「源平布引滝」四段目と、文楽史上、最も有名な作品である「曽根崎心中」。曽根崎心中は「生玉社の場」から始まるが、生玉社こと生國魂神社があるのは国立文楽劇場のすぐそばである。

「源平布引滝」四段目の舞台は京都の音羽山(清水寺のある山)と鳥羽御所。
平清盛の時代。後白河法皇は清盛によって鳥羽御所に幽閉されていた。
多田源氏である多田蔵人行綱は、後白河法皇を鳥羽御所から救い出し、平家追討の院宣を得ようとしてた。清水寺に参拝した帰り道、行綱は松波検校(検校とは目の見えない徳の高い人のこと)が今、まさに盗賊に斬り殺されんとしているところに出くわす。剣を投げつけ、盗賊を殺害した行綱であったが、松波検校の命は救えなかった。だが、松波検校は死ぬ前に自分もまた源氏の出であることを行綱に告げ、行綱が多田源氏の人間であることを知り、自分は鳥羽御所に琴を弾きに行くところだった。盗賊に騙されて音羽山まで連れてこられてしまったが、ここで行綱にあったのも縁であろうと、自分に成り代わって後白河法皇を救い出す案を出す。行綱はそれに応じ、松波検校になりすまして鳥羽御所へ向かう。

鳥羽御所へと着いた多田蔵人行綱であるが、そこで出会ったのは自分の娘で院に仕えていた小桜。行綱は小桜から自分の妻が清盛殺害を企てて逆に殺されていたことを知る。

いつもながら人形の動きと表情は凄い。人間なら無理な動きや表現も出来てしまうところが文楽の面白さである。


名作中の名作「曽根崎心中」。実際にあった心中事件を題材にしたお初と徳兵衛の物語。心中物初の大当たりを取った作品である。ストーリー自体は他の心中物に比べるとシンプルだが、細かな感情の表出が観る者の胸に訴える。最後は「心」だということか。

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