カテゴリー「京都コンサートホール」の23件の記事

2018年11月 7日 (水)

コンサートの記(449) アラン・ギルバート指揮NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団来日演奏会2018京都

2018年11月1日 京都コンサートホールにて

午後7時から京都コンサートホールで、アラン・ギルバート指揮NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団の来日演奏会を聴く。

この演奏会は、開催に至るまで紆余曲折があった。

ハンザ同盟の盟主として知られたハンブルクのオーケストラであるNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団。北ドイツ放送交響楽団時代にギュンター・ヴァントの手兵として知名度を上げたNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団。初代首席指揮者は、ベートーヴェンなどの名演で知られたハンス・シュミット=イッセルシュテットである。近年は、ヴァントの時代を経て、ジョン=エリオット・ガーディナーが音楽監督に就任するが、古楽出身のガーディナーは自身が創設したイングリッシュ・バロック・ソロイスツなどとの演奏を優先させたため、名誉指揮者となったヴァントが引き続き事実上のトップとして君臨、その後にヘルベルト・ブロムシュテットが音楽監督となるが、ブロムシュテットはライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスター就任を決め、3年契約のはずが2年で終了と、トップに恵まれない時期もあった。
クリストフ・エッシェンバッハ、クリストフ・フォン・ドホナーニの時代を経て、トーマス・ヘンゲルブロックが首席指揮者に就任すると現代音楽の演奏などで注目を浴びている。今回の来日演奏会も当初はトーマス・ヘンゲルブロックが指揮する予定であったが、同楽団の首席客演指揮者を務め、時期首席指揮者に就任することが決まったアラン・ギルバートとの組み合わせに変更になっている。

今回の来日ツアーには、エレーヌ・グリモーがピアノ独奏者として同行する予定であったが、グリモーが右肩の故障で来日不可となり、ルドルフ・ブッフビンダーが急遽代役を務めることとなった。


曲目は、ワーグナーの楽劇「ローエングリン」より第1幕への前奏曲。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(ピアノ独奏:ルドルフ・ブッフビンダー)、ブラームスの交響曲第4番。

ハンブルクが生んだ作曲家であるブラームスの作品をメインに置く、ドイツの王道プログラム。

日本でもお馴染みとなったアラン・ギルバート。日米ハーフの指揮者である。ニューヨーク・フィルハーモニックのヴァイオリン奏者を両親に持ち、ハーバード大学、ニューイングランド音楽院、ジュリアード音楽院、カーティス音楽院といった米東海岸最高レベルの音楽教育機関でヴァイオリン、作曲、指揮を学んでいる。2009年から2017年まで、かつて両親が在籍していたニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督を務めている。
日本ではまずNHK交響楽団への客演で名を知られるようになり、今年からは東京都交響楽団の首席客演指揮者に就任している。


弦楽はヴァイオリン両翼の古典配置を採用していたが、特にブラームスに於いてこの配置が功を奏する。

今日の公演はコンサートマスターが交代制で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番だけ白髪が特徴の奏者がコンサートマスターを務める。


ワーグナーの楽劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲。繊細で輝かしい弦楽のテクスチュアが見事であり、「神宿るワーグナー」という言葉が浮かぶ。
日本のオーケストラも技術の向上が著しいが、流石に現時点ではここまでの音は出せない。


ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番。
ソリストのブッフビンダーは、細部まで設計の行き届いたピアノを深々とした音で歌い上げる。深さと奥行きのある音は、ヨーロッパの以外には余り聴かれないものである。
ギルバート指揮のNDRエルプフィルは、躍動感溢れる伴奏を展開。特に第3楽章終結部では、アメリカの指揮者ということもあってロックのようなノリノリのテイストで聴かせる。それでいて安っぽくないのがギルバートとNDRエルプフィルの良さである。

ブッフビンダーのアンコール演奏は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第18番より第2楽章。ベートーヴェン、シューベルト、ブラームスと受け継がれるウィーン情緒を前面に出した演奏であり、格調高くも軽快な響きが印象的である。


メインであるブラームスの交響曲第4番。ギルバートは第1楽章の冒頭を揺らすように歌い、繊細さ、悲哀感、堅固な構造力、旋律の美しさの全てを1本の指揮棒で浮かび上がらせる。

とにかくNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団の巧さが目立つ演奏であり、北ドイツのオーケストラらしく縦の線をきっちりと合わせながら切れ味の鋭い高い合奏力を聴かせる。ギルバートも指揮していてさぞ気持ちが良いだろう。
技巧面においては世界でも最高レベルであると思われ、音楽性においてもトップレベルを伺うだけの実力はある。
ブラームスの交響曲第4番は人気曲であるだけに演奏会で取り上げられる機会も多いが、この曲の凄さを表したという意味においては今日の演奏が第一席に挙げられると思う。快演だった。


アンコール演奏は2曲。
まずは、ブラームスの「ハンガリー舞曲」第6番。ギルバートらしいノリの良い演奏である。

最後の演目。オーケストラがドビュッシーの交響詩「海」を模した序奏を奏で、「浜辺の歌」の旋律が現れる。日本の楽曲ということで、客席からも拍手が起こる。それにしても凝った旋律である。誰が編曲したのか知りたくなる。
日本人の血を半分引くギルバート。日本的な抒情を存分に歌い上げた演奏となった。

とても良い気分で京都コンサートホールを後にする。


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2018年10月29日 (月)

コンサートの記(446) 「時の響」2018楽日 アンサンブルホールムラタ第3部 京都フィルハーモニー室内合奏団×辻仁成 「動物の謝肉祭」

2018年10月21日 京都コンサートホール小ホール・アンサンブルホールムラタにて

「時の響」2018楽日。午後4時から、京都コンサートホール小ホール アンサンブルホールムラタ(通称:ムラタホール)で行われる第3部コンサートを聴く。大ホールでは第3部の演奏会は行われないので、これが「時の響」2018最後の催しとなる。

出演は、京都フィルハーモニー室内合奏団。語りは辻仁成(つじ・ひとなり)。辻仁成は、昨日今日とムラタホールに出演。ギター弾き語りなども行ったようだ(ミュージシャンの時は「つじ・じんせい」名義である)。

曲目は、フォーレの「パヴァーヌ」、ドビュッシーの「ゴリウォーグのケークウォーク」と「夢」(いずれも室内オーケストラ編曲版)、ラモーの「タンブーラン」、サン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」朗読付き(台本&朗読:辻仁成)。


フォーレの「パヴァーヌ」。人気曲である。京都フィルハーモニー室内合奏団も典雅さを意識した演奏を行う。

ドビュッシーの「ゴリウォーグのケークウォーク」と「夢」は、いずれもピアノ曲を室内オーケストラ用に編曲したものの演奏。編成にピアノは含まれていない。
ピアノ向けの曲なので、室内オーケストラで演奏すると音が滑らかすぎて流れやすくなるようだが、なかなか聴かせる演奏になっていたように思う。


ラモーの「タンブーラン」は、太鼓とタンバリンが活躍。弦楽はピリオド不採用であったが、古楽の雰囲気を良く表したものになっていた。


メインであるサン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」。朗読を担当する辻仁成が、この日のために書き下ろしたオリジナルテキスト版を自ら初演する。

辻仁成で京都というと、「やっと会えたね」という言葉がよく知られているが、それももう過去のこととなった。

その後、中性を意識したスタイルへと変わった辻仁成。今日もそんな感じである。

辻仁成はまずミュージシャンとしてデビューし、その後に詩人として文壇に登場。小説家に進んだのはその後である。

辻が書いたテキストは、小説家・辻仁成よりも詩人・辻仁成の要素を強く出したものである。動物たちの集まったカーニバルの日の夜明けから日没までを舞台に、「人生」をテーマとした語りが行われる。
辻は、京フィルの団員や客席を笑わせることを第一としているようだが、慣れていないということもあって空回りする時もある。他は冗談音楽だから良いのだけれど、「白鳥」の時にテーマを歌うのは流石にやり過ぎである。チェロの旋律美を楽しみにしていた人もいるだろうし。
ともあれ、ラストは「悩みのない動物=人間の本能的部分」の礼賛で締め、メッセージにはなかなか良いものがあったように思う。

京フィルの演奏のレベルもなかなか。
ピアノは佐竹裕介と笹まり恵の二人が担当したのだが、「ピアニスト」では二人とも楽譜も満足に読めないレベルのピアノ初心者演技入りでたどたどしく弾き、かなりの効果を上げていた。サン=サーンスもこうしたものを望んでいただろう。

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2018年10月28日 (日)

コンサートの記(445) 「時の響」2018楽日 大ホール第2部 広上淳一指揮京都市交響楽団 広上淳一リクエスツ「思いをはせた『西洋』の音楽文化」

2018年10月21日 京都コンサートホールにて

京都コンサートホールで行われている「時の響」2018の楽日。大ホールでの第2部は、広上淳一リクエスツ「思いをはせた『西洋』の音楽文化」というタイトルのコンサート。日本の幕末明治維新期に初演された曲2曲を並べる。広上淳一指揮京都市交響楽団の演奏。司会も引き続き慶元まさ美が務める。午後2時開演。

演目は、岸田繁の「ほんの小さな出来事のためのファンファーレ」(管弦楽版)、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲)


まず、くるりの岸田繁の新曲が演奏される。昨日、同曲の吹奏楽版が西村友指揮オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラによって初演され、今日は管弦楽版の初演である。

「大脱走」のテーマを連想させる作品。広上も楽しげな音響を築く。
演奏終了後、広上は客席の方に向かって「作曲者の岸田さん、いらっしゃいますか?」と聞き、岸田繁が立ち上がって拍手を受けた。


ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」。京響首席フルート奏者の上野博昭の妙技が披露される。
広上は見通しの良いクリアな音作りと、おぼろげでアンニュイな雰囲気の両方を上手く出し、理想的なドビュッシー演奏となった。


ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」。演奏前に、慶元が、「『プロムナード』が流れる時に、スクリーンに京都市内各所の今と昔の映像が流れます」と説明。三条大橋、新京極、堀川通、四条通、烏丸通、八坂の塔(法観寺)、大原道(鯖街道)などの現在と1910年代の映像が対比される形で投影された。八坂の塔だけは東山に近く景観保存がなされているため今とほとんど変わらない。

演奏は素晴らしい。ハラルド・ナエスの吹く冒頭のトランペットから抜群の造形美を誇り、美しさとパワーの両方を兼ね備えた演奏が繰り広げられる。

広上指揮京都市交響楽団の演奏による「展覧会の絵」は以前にも聴いたことがあるが、より引き締まりつつも柔軟性のある演奏が行えるようになっている。
ラストの「キエフの大門」の迫力も圧倒的。小柄な広上が京響から豊かなスケールを引き出すのも面白い。小さなものが大きな力を生み出す様は、視覚的にも効果的だ。



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2018年10月27日 (土)

コンサートの記(444) 「時の響」2018楽日 大ホール第1部 広上淳一指揮京都市交響楽団 広上淳一リクエスツ「音楽維新 NHK大河ドラマテーマ音楽で聴く歴史の波形」

2018年10月21日 京都コンサートホールにて

京都コンサートホールで行われている「時の響き」2018。大ホールでの第1部と第2部の出演は、広上淳一指揮京都市交響楽団。
コンサートマスターは今日も渡邊穣で、第1部の木管楽器の首席奏者はオーボエの髙山郁子のみ、第2部では勢揃いという顔触れである。

午前11時開演の第1部は、広上淳一リクエスツ「音楽維新 NHK大河ドラマテーマ音楽で聴く歴史の波形」と題されたコンサートで、幕末を舞台とした大河ドラマのメインテーマ曲を中心にした曲目が編まれており、

谷川賢作の「その時歴史が動いた」エンディングテーマ、坂本龍一の「八重の桜」、川井憲次の「花燃ゆ」(ヴォーカル:平野雅世&迎肇聡)、湯浅譲二の「徳川慶喜」、吉俣良の「篤姫」、佐藤直紀の「龍馬伝」(ヴォーカル:平野雅世)、林光の「花神」、富貴晴美の「西郷どん」が演奏される。

司会は、FM京都 a-stasionのDJである慶元まさ美(けいもと・まさみ)が務める。

NHK職員の息子であり、子どもの頃から大河ドラマを見ていて、自称「大河フェチ」の広上淳一の解説も聞き物である。


現在は「歴史秘話ヒストリア」となっている枠で流れていた「その時歴史が動いた」。詩人の谷川俊太路の息子で、作曲家の谷川賢作の作品である。
広上によると、「ラストで、取り上げられた人物の金言といいますか、箴言、まあ金言ですね。それが松平さん(松平定知アナウンサー)のアナウンスで流れて、最後にトランペットが鳴るところで涙を流す」と「自分自身の体験なってしまいましたが」語る。広上はよく泣く人のようである。

午前中にスタートするということで、広上は「おはようございます」と挨拶していた。


「八重の桜」。慶元が、同志社大学の創設者である新島襄の妻となった新島八重(山本八重)を紹介し、広上は「私の頭の中では綾瀬はるかになっています」と語る。
八重の兄である山本覚馬が西郷隆盛と仲良くなり、御所の北にあった二本松の薩摩藩邸跡地を安値で譲られて、新島襄の同志社が出来たという話を広上はする。

「八重の桜」のテーマ曲は、放送中であった2013年に、坂本龍一のピアノと栗田博文指揮東京フィルハーモニー交響楽団の演奏で聴いてことがある。新しくなったフェスティバルホールで聴いた初のコンサートであった。
尾高忠明指揮NHK交響楽団による本編用の音源でも、坂本龍一&栗田指揮東京フィルの演奏でも最初から壮大でドラマティックな展開となっていたが、今日の広上はそれらとは違い、一瞬一瞬の光の明滅を描いたかのような儚げなものであった。尾高や坂本&栗田が咲き誇る桜を描いたのとは対照的に、散りゆく花びらを音の変えたかのような演奏である。


「花燃ゆ」。吉田松陰の妹である杉文を主人公にした作品。広上は「私にとっては井上真央」。井上真央もこの作品の低視聴率があだとなったのか、最近はいい噂が聞こえてこない。
本編で指揮を行っていたのは、広上の弟子である下野竜也。下野竜也はNHKに気に入られているようで、その後も何度も大河ドラマのテーマ曲指揮を手掛けており、「真田丸」では謎の商人役(真田信之役の大泉洋に「誰?」と言われる)で出演までしてしまっている。「RAMPO」などの作曲家である川井憲次のメインテーマはドラマティックで良かったのだが、本編自体は脚本家を4人も注ぎ込むも音楽に負ける出来となってしまっていた。


「徳川慶喜」。作曲は20世紀の日本を代表する作曲家の一人であった湯浅譲二。現代音楽の要素を取り入れており、大河ドラマのメインテーマの中では取っつきやすい方ではない。広上は、徳川慶喜については「昔は余り好きじゃなかった」と語り、「軍事力は負けないだけのものを持っていたのに、兵を見殺しにして逃げて謹慎しちゃって情けない人だと思っていた」
ただ、「当時の列強に日本を乗っ取られる」危険性を避けるためと知ってからは見る目が変わったようである。
演奏前に、大政奉還の舞台となった二条城のCGがスクリーンに映る。
本編でもオープニングタイトルは個性的であり、江戸の写真や絵と共に縦書きの字幕が左から右へと流れていくという絵巻物手法が取られていたのを覚えている。


吉俣良の「篤姫」。21世紀に入ってからの大河の中では平均視聴率が最高を記録した作品である。広上は、「まさか岡田准一と結婚するとは思わなかった」と宮﨑あおいについて語る。
ちなみに影の脚本家を巡る噂のある作品でもある。
広上は、「地味だけど」と前置きしつつ、曲に関して褒める。
本編での指揮は井上道義で、耽美的な演奏を行っていたが、広上の指揮する「篤姫」は井上のものに比べるとスタイリッシュである。


佐藤直紀の「龍馬伝」。本編を指揮したのも広上淳一である。
佐藤直紀は、広上の東京音楽大学の後輩であり、教え子でもあるそうだが、「彼は私の授業には出ませんで」と広上は語る。「龍馬伝」のレコーディングの時に、佐藤は「あの時はお世話になりました」と言いに来たそうだが、広上が「そんなにお世話したっけ?」と返すと、「いや、最初の1回しか授業に出ていませんで、それで、『単位あげるよ』と言われたので、もう出ませんで」だそうである。広上は単位はあげたが、大学から授業に出ない学生に単位をあげたのが問題視されたそうで、翌年からは当該授業からは外されてしまったそうである。
佐藤は、インドやネパールなどの南アジアの「エキゾチックな」民族音楽を学ぶのが好きな人だそうである。

本編ではオーストラリアのミュージシャンであるリサ・ジェラルドがヴォーカルを担当していたが、今回は平野雅世がマイクなしのソプラノで歌う。
ただこの曲は、マイクありのヴォーカルで歌った方が効果的なように思えた。


林光の「花神」。大村益次郎こと村田蔵六を主人公にした作品である。「花神(かしん)」は「花咲か爺さん」の中国での呼称。自分は去ってしまうけれど咲かせた花は残るという姿を司馬遼太郎が花神に例えたものである。

広上は林光について「大天才」と最大級の賛辞を送る。林光は尾高尚忠の弟子であり、十代の頃からすでに尾高に認められていて鞄持ちなどをしており、東京芸大に入るも学ぶものが何もないため1年で中退して作曲活動に入ったという早熟ぶりについても話す。
基本的にオプティミスティック人であり、どんな時でも明るかったという。

「花神」は、現在は総集編のVTRのみが残っている。私も総集編のみDVDで見た。
林光は、作風が比較的平易なことでも知られ、どの作品でも明快な旋律を一番大事にしている。曲と広上の相性も良いようだ。


現在放送中の大河ドラマ「西郷どん」のオープニングテーマ。一昨日、岩村力指揮京都市交響楽団の演奏で聴いているため、聞き比べが出来る。
広上の指揮する「西郷どん」は、岩村のそれと比べて重層的であり、より多くの音が聞こえる。劇伴としては主題が明確に浮かぶ演奏が好まれる傾向にあるのだが、広上の解釈はクラシック作品に対するのと変わらないスタイルが貫かれているようだ。

全般を通していえることだが、広上の奏でる大河のメインテーマはどこか儚げで移ろいやすく、どんなに明るいメロディーや和音にも憂いが影に潜んでいるという日本人的美質が聴き取れる。まるで「桜」の美意識だ。

広上の大河指揮デビュー作も幕末ものの「新選組!」なのだが、残念ながら演奏はなし。「時の響」は時間の関係でアンコール演奏も一切なしのようである。


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2018年10月26日 (金)

コンサートの記(443) 「時の響」2018初日 大ホール第3部 松尾葉子指揮オーケストラ・アンサンブル金沢 岸田繁リクエスツ「フランス音楽」

2018年10月20日 京都コンサートホールにて

「時の響」2018初日、大ホールでの第3部、岸田繁リクエスツ「フランス音楽」を聴く。演奏は第2部に引き続き松尾葉子指揮のオーケストラ・アンサンブル金沢が行う。クラシック音楽愛好家としても知られる、くるりの岸田繁が選んだフレンチクラシックの演奏。

曲目は、ビゼーの「アルルの女」第1組曲、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」、サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」(ヴァイオリン独奏:坂口昌優)、ラヴェルの「クープランの墓」より“リゴードン”。


ビゼーの「アルルの女」第1組曲での迫力や熱狂、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」の抒情美などいずれも見事である。

「亡き王女のためのパヴァーヌ」を演奏終了後、松尾はマイクを手にスピーチを行う。「フランス音楽って(他の国の音楽と)どこが違うですか?」と聞かれることがあるそうだが、フランス人は最後まで説明するのを嫌うそうで、「亡き王女のためのパヴァーヌ」もタイトルからしてもそうだが、聴き手の想像に委ねられているという。松尾は、フランス映画「太陽がいっぱい」のラストを相手に委ねる例として挙げていた(「太陽がいっぱい」では、主人公のリプレーが今後どうなるのかは具体的に描かれていないが、画面に映ったあるものでその後が予想出来るようになっている)。


サン=サーンスの「序奏とロンド、カプリチオーソ」。ソリストの坂口昌優(さかぐち・まゆ)は、桐朋女子高校音楽科、桐朋学園大学を経て、同大学研究科を修了。2008年より文化庁新進芸術家海外研修員としてブリュッセル王立音楽院に留学し、2011年に帰国。
ナポリで行われた第14回アルベルト・クルチ国際ヴァイオリンコンクールでは第2位に入っている。

短い曲であるが、坂口は高音の切れが印象的な演奏を聴かせた。


松尾のスピーチ。フランス語は単語数が多く、後ろから修飾している言葉であるため、フランス人はみな早口だそうである。松尾もそれに影響されて早口になったそうでだが、早口なフランス人が描かれた曲として、ラヴェルの「クープランの墓」から“リドーゴン”が演奏される。すっきりとした都会的な演奏であった。



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コンサートの記(442) 「時の響」2018初日 大ホール第2部 羽田美智子×松尾葉子×オーケストラ・アンサンブル金沢 プロコフィエフ 「ピーターと狼」朗読付き公演ほか

2018年10月20日 京都コンサートホールにて

京都コンサートホールで行われる「時の響」2018初日。
今日は午後3時開演の大ホール第2部「親子で楽しむ『朗読』付きコンサート」から聴く。出演は、松尾葉子指揮のオーケストラ・アンサンブル金沢。朗読:羽田美智子。

曲目は、ラヴェルの「マ・メール・ロア」より3曲とプロコフィエフの「ピーターと狼」


日本における女性指揮者の草分け的存在である松尾葉子。1982年のブザンソン国際指揮者コンクールで、コンクール史上初の女性覇者となる。日本人としても小澤征爾に次ぐ二人目の優勝者であった。
教育者としても著名で、30年に渡って東京藝術大学指揮科教官を務め、芸大出身の中堅から若手の指揮者のほとんどは松尾の弟子である。現在は愛知県立芸術大学客員教授、セントラル愛知交響楽団特別客演指揮者の座にある。


日本初のプロの常設室内管弦楽団として組織されたオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)。今や日本を代表する音楽団体の一つである。幼少期を金沢で過ごしたこともある岩城宏之を音楽監督として発足し、2代目の井上道義時代を経て現在はマルク・ミンコフスキが芸術監督を務めている。
日本で最も外国籍楽団員の割合の多いプロオーケストラとしても知られ、今日は第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのトップが白人である。

ドイツ式の現代配置での演奏であるが、ホルンが上手に来るなど、独自色が強い。


ラヴェルの「マ・メール・ロア」。雅やかでしなやかなアンサンブルが印象的。彩りも鮮やかであり、日本における理想的なラヴェルが聴ける。


プロコフィエフの「ピーターと狼」朗読付き上演。
羽田美智子は、今日は第1部のオオサカ・シオン・ウインド・オーケストラのオープニングMCと務め、第2部では朗読担当として参加する。

羽田美智子は、子どもの頃はピアニストになるのが夢で、小学校の卒業文集には「ピアニストになって大きなホールで演奏する」と書いたそうだが、大人になるに連れて「あのレベルまで行くのは難しい」と気づき、演技の道に進んだそうだ。
以前、ドラマでヴァイオリニストの役をしたことがあり、ホールで弾く真似だけしたことがあったそうだが、音楽会の本番に出演者として参加するのは初めてであり、「夢が叶った」と嬉しそうに語った。

羽田美智子の朗読は明るめの声で行われ、親しみやすい。そのためプロ女優の凄みは感じないが、「ピーターを狼」ということもあり、これで良いと思う。今は「ピーターと狼」の朗読にこれといったものはないので、色々な人に挑戦して貰いたいとも思っている。小澤征爾が朗読を務めたCDはあるが、小澤さんは朗読は素人なのでね。

松尾葉子指揮のOEKは温かみのある愛らしい演奏を行った。


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2018年10月24日 (水)

コンサートの記(441) 「時の響」2018 前夜祭コンサート

201810月19日 京都コンサートホールにて

午後7時から京都コンサートホールで、「時の響」2018 前夜祭コンサートを聴く。

昨年から始まった「時の響」。もっとも昨年は、1日2回公演の特別コンサートで、音楽祭形式になったのは今年からである。京都コンサートホールでは現在「京都の秋音楽祭」が行われており、音楽祭内音楽祭という位置づけになる。今日明日明後日の3日間に渡って行われ、京都市交響楽団のみならず、大阪シオン・ウィンド・オーケストラ、オーケストラ・アンサンブル金沢の各オーケストラのコンサートが大ホールで、京都フィルハーモニー室内合奏団と室内楽による演奏会とサイレント映画の上映会がアンサンブルホールムラタで行われる。


前夜祭に当たる今日は、ソワレのコンサート。明日明後日は午前中から演奏会が行われる。


出演は、岩村力指揮の京都市交響楽団。ヴォーカル&ヴァイオリンソロはサラ・オレイン。

曲目は、第1部「明治期の世界の音楽 ジャポニズム・クラシック」が、ワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲、マスカーニの歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より間奏曲、プッチーニの歌劇「蝶々夫人」よりハミングコーラス、ラヴェルの「海原の小舟」、ヨハン・シュトラウスⅡ世のワルツ「美しく青きドナウ」。第2部「明治期の思想が描かれたドラマ、生まれたミュージカル作品」が、ロイド=ウェッバーの「オペラ座の怪人」セレクション、シェーンベルクの「レ・ミゼラブル」より“夢破れて”と“オン・マイ・オウン”(ヴォーカル:サラ・オレイン)、サラ・オレインの「ANIMAS」(ヴァイオリン独奏:サラ・オレイン)、久石譲のオーケストラのための「坂の上の雲」、久石譲のオーケストラのための「スタンド・アローン」~「坂の上の雲」より(ヴォーカル:サラ・オレイン)、富貴晴美の「西郷どん」オープニングテーマ曲。


通常のホワイエでは他に催し物があるため、チケットのもぎりは客席に入る直前で行われる。

今日と明日は、ホワイエで鍵盤男子によるオープニングアクトがあり、今日は、「ツァラトゥストラはかく語りき」&「ラプソディ・イン・ブルー」、ラヴェルの「ボレロ」や鍵盤男子によるオリジナル曲がピアノ連弾で行われた。


フェスティバルホールでの「映像の世紀」コンサートでもタクトを任されていた岩村力。クロスオーバーものは得意なようで、瞬発力の高いアスリート系音楽作りを見せる(いわゆる古典ではこのスタイルが足枷になっている可能性もある)。岩村はトークも達者であり、やはり今の時代は「話せる指揮者」が有利なようだ。

今日は1階席のみの発売。パイプオルガンの前にはスクリーンが下がっており、明治以来150年の歴史を語る国内外の写真、20世紀の画家による絵画作品、小説家や芸術家が残した言葉などが投影される。


明治150年、パリ市と京都市の友情盟約60周年を祝い、日本とフランスをテーマにした音楽とイベントが中心になる。

今日は特別に渡邊穣がコンサートマスターに入る。


1曲目はワーグナーの作品だが、岩村によると、第2回パリ万博が行われた1867年に「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が初演されたというで選ばれたそうだ。岩村は「日本史が苦手」だったそうで、事前に知識を入れてきたそうなのだが、「あれ? 明治の前なんでしたっけ? 慶応?(慶応で合っている) ケイなんとか」と楽団員に聞くも、楽団員も知らなかったりする(今は芸術大学の音楽学部や音大受験に地歴の知識は必要ない)。

マスカーニの「イリス」も同じ頃に初演されたというが、「イリス」を演奏するわけにもいかないので、「マスカーニといえば」の作品である「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲を演奏したそうだ。

日本を舞台にしたオペラということで「蝶々夫人」、葛飾北斎の富嶽三十六景より「神奈川沖浪裏」に影響された作品としてラヴェルの「海原の小舟」、祝祭的な雰囲気をということでヨハン・シュトラウスⅡ世の「美しく青きドナウ」が演奏される。ウィーン人の気質は京都人のそれに似ているとはよく言われることだが、ウィーンは残念ながら京都の姉妹都市ではない。

「蝶々夫人」のハミングコーラスではヴィオラダモーレがソロを取るため、演奏前に首席ヴィオラ奏者の小峰航一がヴィオラダモーレの紹介を行った。


第2部に出演するサラ・オレインは、オーストラリアの出身。シドニー大学を卒業後、東京大学に留学。2012年にメジャーデビューを果たしている。英語、日本語に堪能で、ヴァイオリニストや作曲家としても活躍。現代の日本における才女列伝のトップクラスに数えられる人である。今日は白のドレスで登場。
フランス語は話せはしないが読みは結構出来るそうである。なお、現在使っている楽器はフランス製で、オーストラリア生まれであるが「メイド・イン・パリ」だそうで、「余り深くは掘り下げないで下さい」とのことだった。坂本美雨が青森生まれながらロンドン生まれも名乗っているのと一緒だと思われる。

ちなみにサラ・オレインは、京都には留学生時代から何度も来ているそうで、「街並みが美しい」と感じており、そもそも日本に留学するきっかけとなったのは、「三島由紀夫の『金閣寺』を読んで感動して」だそうである。

「レ・ミゼラブル」からの2曲は低めの声、英語歌唱で行う。英語圏出身ということもあって、歌詞の内容を十全に把握した歌唱。歌い崩しも様になっている。
「スタンド・アローン」は一転して高めのシルキーヴォイスで歌う。とても心地よい声だ。

サラ・オレインが作曲し、ヴァイオリン独奏も務める「ANIMAS」。ドラマティックな作風で、劇伴作曲家としても成功出来そうである。ヴァイオリンの腕であるが、聴く分には申し分ないといったところ。協奏曲のソリスト達に比べるとダイナミックレンジの幅や細部の表現力で及ばないが、朝から晩まで攫っている人達と他の仕事もこなしながらヴァイオリン独奏もする人とでは違いが出るのは仕方ない。

現在放送中の大河ドラマ「西郷どん」オープニングテーマが演奏された後、アンコールとしてサラ・オレインのスキャット、オーケストラ伴奏による「西郷どん」より“わが故郷”が演奏される。
サラ・オレインの声からは、高い空、白い雲、川のせせらぎ、子どもの頃の声、田園の広がりといった日本の原風景が浮かんでくる。



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2018年10月19日 (金)

コンサートの記(439) ヨエル・レヴィ指揮 京都市交響楽団第628回定期演奏会

2018年10月12日 京都コンサートホールにて

午後7時から、京都コンサートホールで京都市交響楽団の第628回定期演奏会を聴く。今日の指揮者はヨエル・レヴィ。

曲目は、モーツァルトの交響曲第32番、ブラームスのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン独奏;ヴィヴィアン・ハーグナー)、バルトークの管弦楽のための協奏曲。


ヨエル・レヴィはルーマニア生まれ、イスラエル出身の指揮者。テル・アヴィヴ音楽院を経てエルサレム音楽院でも学ぶ。イタリアに留学し、シエナとローマでフランコ・フェッラーラに師事。その後、オランダでキリル・コンドラシンに師事し、ロンドンのギルドホール音楽院でも学んでいる。1978年にブザンソン国際指揮者コンクールで第1位を獲得し、クリーヴランド管弦楽団でロリン・マゼールのアシスタントと常任指揮者を務めている。

レヴィの名が一躍上がったのは、アトランタ交響楽団の音楽監督時代である。1988年に就任後、アメリカ国内外で評判となり、日本でも音楽誌に「アトランタの風」というタイトルの音楽エッセイが連載された。ただそれが良くなかったのか、その後は「風と共に去りぬ」状態となり、ヨエル・レヴィの名を聞くことすら日本ではなくなった。ところで今日のソリストのファーストネームがヴィヴィアンなのはわざとなのか? 冗談だけど。

21世紀に入ってからは、ブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団と、イル・ド・フランス国立管弦楽団の首席指揮者を務め、2014年からは韓国のKBS交響楽団の音楽監督兼首席指揮者となっている。韓国版NHK交響楽団ともいうべきKBS交響楽団は、かつてのN響のように「知名度は今ひとつだが実力派」の指揮者を見つけるのが上手いため、期待出来るのかも知れない。


プレトークでは、レヴィは自分のことを話すのではなく、聴衆から質問を受けてそれに答えるという形を取る。「ルーマニア生まれ」に関してだが、生まれてから1ヶ月でイスラエルに転居してしまい、それ以降は今に至るまでルーマニアを訪れたことはないので何も知らないそうだ。ただ生まれたのはルーマニアとハンガリーの国境付近で、母親はハンガリー系、イスラエル時代に師事したのもハンガリー系の音楽家ばかりだったそうで、音楽的ルーツには繋がっているかも知れないとのこと。
「なぜ指揮者の道に進もうと思ったのか?」という質問には、「これは自分で決めたのではないのです。両親とも音楽好きで私も幼い頃から音楽好き。私を見た両親が『才能あるんじゃないのか?』と気づいて」レールに載せてくれたようだ。才能に関しては、「上の方から降りてきた」ようだという。
「京響に日本的な要素を何か感じますか?」には、「ジャパニーズテイストが何かわからない」
今日のプログラムに関しては、京都市交響楽団の年間プログラムを見てバルトークの管弦楽のための協奏曲をレヴィが選び、ブラームスのヴァイオリン協奏曲はソリストのヴィヴィアン・ハーグナーが選んだそうだ。


今日はいつもと違い、チェロが上手手前に来るアメリカ式の現代配置(ストコフスキーシフト)での演奏である。
コンサートマスターは客演の豊嶋泰嗣。フォアシュピーラーに泉原隆志。チェロの客演首席にはルドヴィート・カンタが入る。


モーツァルトの交響曲第32番は、3つの部分からなる8分程度の作品で、実際に交響曲として書かれたのかはわかっていない。モーツァルトの交響曲全集では録音されることが多いが、後期交響曲集になると省かれることが多い。舞台作品の序曲だったという説もある。
モダンスタイルによる演奏。鋭さこそないが、豊穣なモーツァルトを聴くことが出来る。

レヴィの指揮は拍を刻むことが多いオーソドックスなものだ。


ブラームスのヴァイオリン協奏曲。
スカーレット(ん?)のドレスで登場したヴィヴィアン・ハーグナーは、ミュンヘン生まれのヴァイオリニスト。12歳で国際デビューしている。2013年からはマンハイム音楽・舞台芸術大学の教授職を務めている。

ハーグナーの音であるが、今まで聴いたことのない種類のものである。水も滴るような美音で、表現の幅も広い。どうやってこの音を出しているのかは見ていてもよくわからない。

レヴィ指揮の京都市交響楽団は、金管がばらつく場面があったが、全般的には充実した伴奏を奏でる。


ハーグナーのアンコール演奏は、J・S・バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番よりアダージョ。染みる系の演奏であった。


バルトークの管弦楽のための協奏曲。レヴィが摩天楼型のバランスを取ったこともあり、都会的な演奏となる。
構造表出に長けている、聴き手にも内容把握が容易となり聴きやすい。
民族楽器的な響き、民謡的な旋律と音楽理論の対比が鮮やかに表出され、力強くも華麗な音絵巻を描き上げた。



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2018年10月15日 (月)

楽興の時(25) 京都コンサートホール×ニュイ・ブランシュ KYOTO 2018「瞑想のガムラン――光と闇に踊る影絵、覚醒の舞」

2018年10月5日 京都コンサートホール1階エントランスホールにて

京都コンサートホール1階エントランスホールで行われる、京都コンサートホール×ニュイ・ブランシュ KYOTO 2018「瞑想のガムラン――光と闇に踊る影絵、覚醒の舞」という公演が午後9時半からあるので参加する。1階エントランスホールはそう広くはないし、西川貴教の出演するコンサート帰りの客が参加したら入りきらないのではないかと懸念されたが、西川貴教ファンでガムランにも興味があるという人はほとんどいないようで、一杯にはなかったが移動にも苦労するというほどではない。ただカーペット席や椅子席は満員で、多くの人が立ち見ということになった。私も立ち見である。

パリ市が毎年秋に行う現代アートのイベント、ニュイ・ブランジェ(白夜祭)。今年は京都・パリ友情盟約締結60周年ということで、今日10月5日に京都市内各所でもニュイ・ブランジェの催しが行われ、京都コンサートホールではフランスを代表する作曲家であるドビュッシーの没後100年を記念して、ドビュッシーに多大な影響を与えたガムランの演奏が行われることになった。

ガムラン演奏と影絵芝居(ワヤン)の上演を行うのは、インドネシア伝統芸能団ハナジョスのローフィット・イブラヒム(男性)と佐々木宏美の二人。
インドネシア伝統芸能団ハナジョスは、2002年11月にジャワ島ジョグジャカルタで結成されたジャワ芸能ユニット。ガムランの演奏、影絵芝居ワヤンの上演、ワークショップ、作曲、演奏指導などを行っている。2005年に京都に拠点を移し、2009年からは大阪を中心とした活動を行っている。

ローフィット・イブラヒムは、1979年ジョグジャカルタ生まれ。インドネシア芸術高校を経てインドネシア芸術大学伝統音楽科を卒業。同大学の芸術団のメンバーとなる。2005年から日本在住。
佐々木宏美も1979年の生まれで、イブラヒムと同い年である。神戸大学発達科学部人間行動表現学科音楽コース在学中にガムランと出会い、2002年からインドネシア政府国費留学生としてインドネシア芸術大学パフォーミングアーツ学部伝統音楽学科に2年留学。帰国後にインドネシア伝統芸能団ハナジョスに参加している。

鐘を叩き、歌いながら二人が登場。まずは打楽器演奏を行った後で、金属製の楽器や胡弓のような楽器を演奏し、歌う。

その後、影絵芝居ワヤンの上演がある。佐々木宏美が「インドネシアの影絵は表からも裏からも見ることが出来る」と語ったので、まずはスクリーンの背後から見ることにする。影絵に使う人形に彩色が施してあり、裏からは人形劇として見ることが出来ることがわかる。ただ、影絵の効果はこれでは十分にわからないので表の方へと回り、結局エントランスホールを一周する。

「ワヤン・クリ 太陽神の子カルノ」
ストーリー自体はフォークロアに良く出てくる類いのもので、太陽神スルヨの子どもを宿したマンドゥロ国王女のクンティが、王様の怒りを買い、生まれたカルノという男の子を川に流すことから始まる。優しい老夫婦(多少、ボケが始まっているようだが)に拾われたカルノは大事に育てられ、17歳になる頃には特別な若者へと成長していた。太陽神スルヨはカルノを見て自身の子どもと確信し、超能力を持つ弓矢を与える。弓矢の名人として武芸の大会で活躍するカルノ。そのカルノを見て、アスティノ国の王子であるドゥルユドノはカルノをアスティノ国の将軍に迎え入れることに決める。
ラストは影絵の上演を離れ、イブラヒムが紙の馬にまたがっての馬術を見せる。表現が多彩である。


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2018年10月14日 (日)

コンサートの記(435) 「京響プレミアム スピンオフ ラジオタイムス ~ことばが結ぶシンフォニー~ 西川貴教×大島こうすけ オーケストラコンサート」

2018年10月5日 京都コンサートホールにて

午後7時から京都コンサートホールで、「京響プレミアム スピンオフ ラジオタイムス ~ことばが結ぶシンフォニー~ 西川貴教×大島こうすけ オーケストラコンサート」を聴く。
指揮者は京都市交響楽団常任指揮者兼ミュージック・アドヴァイザーの広上淳一。

日本を代表するシンガーの一人である西川貴教と作曲家・編曲家・ピアニストの大島こうすけが、ラジオDJのようにクラシックとポップスをミクスチャーさせるという趣向のコンサート。
一番高いところまで上げた舞台下手奥の段の上にラジオブースに見立てたものを置き、西川と大島がそこでトークを行う。

曲目は前半が、ラジオタイムスのオープニングテーマである「Timeless Journey」(大島こうすけ作曲)、ホルストの組曲「惑星」より“木星”、西川貴教が歌う「awakening」と「Roll The Dice」のオーケストラ伴奏版。後半が、菰口雄矢のギターソロとオーケストラによる「熊蜂の飛行」(リムスキー=コルサコフ)、そして西川貴教がヴォーカルと務める「Prisoner」、「さよならのあとで」(原曲はヘンデルの「私を泣かせてください」)、「インスタント・アンサー」(モーツァルトの交響曲第25番第1楽章による)の3曲である。

今日のコンサートマスターは泉原隆志、フォアシュピーラーに尾﨑平。今日はクラリネット首席の小谷口直子が降り番だったようだが、その他の管楽器首席奏者の多くは前後半ともに出演していた。
なお、ニコニコ動画での生配信があるようで、舞台上に本格的なマイクセッティングが施され、テレビカメラも何台も回っている。ポディウムは発売されておらず、2階ステージサイド席の後ろ半分もスピーカーを設置するために空けられている。スピーカーはステージ両脇にも本格的なものが置かれている。

まず「timeless Journey」。余り京響が演奏しないタイプの楽曲であるが、それだけに新鮮ともいえる。

ホルストの組曲「惑星」より“木星”。大島こうすけのリクエスト曲だそうである。宇宙を描いた曲ということで大島は興味を持ったそうだ。中間の部分は平原綾香が「Jupiter」という曲として歌っていることでも有名だが、「ご存じない方のために」とまず西川貴教が「Jupiter」のカバーを歌い。それから「木星」の演奏が行われる。
井上道義の指揮で「木星」を演奏したばかりの京響だが、曲全体の美しさ見通しの良さ、そしてバランスと典雅な雰囲気全て広上の方が上である。
ホルストの組曲「惑星」について広上は、「『土星』という曲があるのですが、暗くて重くて後で鬱になる」と語る。

「awakening」と「Roll The Dice」。「awakening」は西川が以前に出したシングルのカップリング曲だそうだが、「Roll The Dice」は今年の11月に発売される予定の曲だそうで、

西川 「オリジナル発表の前にオーケストラ版を歌う」
大島 「豪華ですね」
ということだそうだ。

「awakening」(作詞:神前暁、作曲:毛蟹)は、三拍子を基調にした楽曲で、広上は例によって指揮台の上でステップを踏んでいた。この曲では、ギタリストの菰口雄矢が参加したのだが、緊張のため、現れてすぐに着座してしまい、西川貴教から「ソリストなので普通は指揮者の方と握手したりするものなんですが」と突っ込まれる。更に広上の方から指揮台を降りて握手することになったため、「馬鹿ですね」と西川に言われていた。演奏終了後もすぐに下手にはけてしまったため、客席から笑いが起こる。
「Roll The Dice」は、ロックナンバーということで、打楽器群が大活躍する編曲となっている。

後半。リムスキー=コルサコフの「熊蜂の飛行」は、西川がリクエストした曲である。ちなみに、今日の客層は西川貴教が出ると言うことで、いつもの京都コンサートホールとは異なり、30歳前後の女性がメイン。西川が「熊蜂の飛行を知ってる人」と聞いても反応がなく、クラシックファンはほとんど来ていないことがわかる。
「熊蜂の飛行」の早弾きを菰口雄矢のギターソロと京響とで競うことになるのだが、西川は菰口について、「出来ますかね? 前半の段取り、全て忘れた男ですよ?」
ちなみに、菰口には一度間違うことに千円の罰金が科せられるという。
大島による独特の編曲で演奏が行われる。広上が下手から登場し、指揮台に上がる前に自分から菰口と握手をして笑いが起こる。
西川と大島は舞台袖のモニターで確認していたそうだが、菰口は4回間違えたということで四千円の罰金となるそうである。演奏を終えた菰口に西川が感想を聞くと、「緊張で口の中がパサパサになりました」と返ってきた。

「Prisoner」は大島こうすけが今回の演奏会のために書き下ろした新作。歌詞は山崎あおいが担当しているが、大島は、「悪い女を描いている」と紹介する。作曲に当たっては楽曲の再構築という手法を取ったそうだ。

ヘンデルのアリア「私を泣かせてください」を日本語歌詞にした「さよならのあとで」。山崎あおいの歌詞は、ヘンデルのアリアとは全く違ったものになっている。通常はソプラノによって歌われる曲であり、西川は男性としては声が高い方だがソプラノ同様に歌うには無理なため、メロディーも少しいじっているようだ。

プログラム最後の曲である「インスタント・アンサー」。モーツァルトの交響曲第25番第1楽章をモチーフにしたものである。まずはモーツァルトの交響曲第25番第1楽章を広上と京響が演奏する。カットありの演奏だったが、水準としては見事なもの。ただ、演奏終了後に広上が語ったところでは、全曲を演奏したことは1回しかないそうで、この曲を演奏することも生まれて2度目。モーツァルトの交響曲第25番について広上は「暗い」とだけ語ったが、「モーツァルトという人は、人を楽しませることが大好きな人だったと思うんです。西川さんのように(西川は「???」という顔)。ただとても繊細だった。短調の交響曲は2曲しかないんですが、人を楽しませる心遣いの出来る人が書いた本音のような部分。といっても会ったことないんですけどね」というようなことを言う。
「インスタント・アンサー」は、交響曲第25番第1楽章とは調が違うようである。ト短調という調性は歌いにくいだろう。メロディーも特にモーツァルトをなぞっているわけではない大島独自のものである。昔、シルヴィ・ヴァルタンがモーツァルトの交響曲第40番ト短調を伴奏にした曲を歌っており、それを参考にしたのかと思っていたが、この曲はモーツァルト作曲の部分もかなり変えているため、そういうわけではなさそうである。

西川は、「皆様、本日はこの曲をもって終わり、というわけには参りません」と言って、このコンサートのために作った「Hikari」という曲をアンコールとして歌うことを客席に伝える。西川は広上にも「Hikari」のリハーサルを行った時の感想を聞き、広上は「とても良い曲。美しい。曲だけじゃなくて歌詞も良い。ヒットしそう」というが西川に「ヒットもなにも発売するかどうかも決まってないんですが」と突っ込まれていた。
広上によると、このコンサートのリハーサル中に自身の弟子がとんでもない粗相をしたそうで激怒し、「もうクビだ!」宣言をしたのだが、この曲を聴いている内に気分が落ち着いて許すことにしたそうである。ただ、そのお弟子さんは会場に残ることは出来なかったようで、「今、動画を見てると思います」とのことだった。
歌詞がいいのかどうかは一度聴いただけではわからなかったが、メロディーは優しくて良い感じだったと思う。
拍手は鳴り止まず、最後はオールスタンディングとなる。もっともオールとは書いたが私自身は最後まで立たなかったのだけれど。


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