カテゴリー「文化・芸術」の95件の記事

2019年7月 6日 (土)

2346月日(13) 龍谷ミュージアム 特別展「因幡堂平等寺」

2019年5月25日 西本願寺前の龍谷ミュージアムにて

龍谷ミュージアムで、特別展「因幡堂平等寺」を観る。烏丸高辻にある因幡堂平等寺(因幡薬師)の本堂内部改修工事に伴う仏像移設に合わせて行われる特別展示会である。因幡堂がこうした展示会を行うのは最初で最後になる予定だという。

橘行平が因幡国に国司として赴いたときに海中から拾い上げられた薬師如来が、行平を慕って自ら烏丸高辻にある行平の屋敷に飛んできたというのが因幡堂平等寺の始まりである。橘行平の座像も展示されているが、渋い男前だ。
「因幡堂縁起」には、地引き網に掛かった(でいいのかな?)薬師如来や行平の邸宅までやってきた薬師如来の絵が描かれている。登場人物達の表情や仕草は生き生きとしてユーモラスであり、20世紀に漫画が日本を代表する文化として広まる下地がこの時すでに出来ているような気がする。

因幡堂に平等寺という寺号を賜ったのは高倉天皇ということで、高倉天皇の伝記(「高倉院昇霞記」。北村季吟の写筆)の展示もあるのだが、開かれたページには、「上皇自太相国福原亭還御」という文字が並び、幼い安徳帝に譲位した高倉上皇が福原の平清盛邸から京に帰ったことがわかる記述になっていた。

因幡堂は京の中心における文化の発信基地でもあり、伝統芸能の上演なども行われていた。展示されている狂言番付から、「源平布引滝」などが上演されていたことがわかる。
また、幕末の文久3年に境内で見世物市が開かれ、訪れた芹沢鴨がいくつかの逸話を残している。

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2019年6月28日 (金)

これまでに観た映画より(127) シネマ歌舞伎 坂東玉三郎 「鷺娘」&「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)」

2019年6月25日 MOVIX京都にて

MOVIX京都で、シネマ歌舞伎「鷺娘」&「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)」を観る。坂東玉三郎が異形の者を演じる2作の上映。
約1時間10分、1100円の特別料金での上映である。

先に「日高川入相花王」が上映される。文楽でお馴染みの作品の歌舞伎化(義太夫狂言)ということで人形振りで上演されている。清姫を演じるのが坂東玉三郎、人形遣いに尾上菊之助、船頭に扮するのが板東薪車(その後、無断で現代劇に出演したため破門。市川海老蔵に拾われて、現在は四代目市川九團次を名乗る)。

人形振りということで、通常の舞踊よりは動く範囲が狭まるのだが、枠がある中で目一杯動くという、適度な抑制の美が感じられる。玉三郎も薪車も人形を模した動きを巧みに表す。付け眉毛が動いたりする人形浄瑠璃ならではの仕掛けも再現されており、面をつけての表情の変化なども面白い。
憤怒の表情で舞う復讐の物語であるが、根底にはわかり合えない悲しみが流れているように思われる。

 

「鷺娘」。上演時に「絶品」と称された舞である。雪の中に現れた鷺の精の舞。衣装を次々と替える華やかさもあるが、最後には息絶えるという悲劇であり、やはり根底には悲しみがある。
吹雪の中で海老反りになるシーンなどは絵画的にも美しいが、終始晴れない表情をしている玉三郎の表情や異形であることを表す仕草などが、日本的な美質と哀感の本質を突いているように思える。

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2019年6月18日 (火)

観劇感想精選(305) 第70回京都薪能「新しき御代を寿ぐ」2日目

2019年6月2日 左京区岡崎の平安神宮にて観劇

午後6時から平安神宮で、第70回京都薪能「新しき御代を寿ぐ」2日目を観る。
2日連続で行われる第70回京都薪能。昨日は晴天だったが、今日は曇り。ただ雨は降らず、空は明るめである。

今日の演目は、能「絵馬」(観世流)、能「羽衣」(金剛流)、狂言「仁王」(大蔵流)、能「石橋」(観世流)。


昨年は体調不良の中、出掛けた京都薪能。結局、1曲だけ観ただけで薪に火がつく前に平安神宮を後にしており、薪能と言われる状態を目にしていない。薪能を観るのは今回が実質初めてである。


能「絵馬」。伊勢神宮を訪れた勅使が、日照りの絵馬と雨の絵馬を掛けようとする老人と老婆の見かける。やがて二人の正体が二柱の神であることがわかり、天照大神と天鈿女命と手力雄命が天岩戸を再現する。出演:杉浦豊彦、梅田嘉宏、大江泰正ほか。
元号が変わったということで、まず皇祖である天照大神が登場する演目が行われる。残念ながら今日は太陽は顔をのぞかせなかったが、日照りの絵馬と雨の絵馬の中間の天気ということで良かったのではないかと思う。


能「羽衣」上演の前に薪に火をつける儀式がある。煙があたかも霞のようにたなびき、今日の演目に相応しい仕掛けが出来上がった。
能「羽衣」はずばりそのまま羽衣伝説を題材にした能である。出演:金剛永謹、小林努、有松遼一ほか。
漁師の白龍は、三保の松原で羽衣を見つける。羽衣を持ち帰ろうとした白龍だが、そこに天女が現れ、羽衣を返してくれるよう頼む。白龍は羽衣を返す代わりに天女の舞を観たいと申し出る。
前半は白龍と天女のやりとりであり、後半は能舞となる。
動きの少ないゆるやか舞であり、これは舞手の動きと観る者の想像力が合わさって初めて完成する舞である。西洋の舞踏のように観る者を圧倒して引きつけるのではなく、観る側が舞に加わる余地を敢えて残しているように思われる。


狂言「仁王」。茂山千五郎家による上演。茂山千五郎家による「仁王」は数年前に金剛能楽堂で観たことがある。出演は、茂山宗彦(もとひこ)、茂山あきら、茂山千五郎、丸石やすし、茂山千作ほか。
財産を失った男が悪党にそそのかされて仁王像に扮し、供物を受け取ろうと企む話である。仁王像(に扮する男)に対して行う願掛けは、各人が即興で行う。今回も広島カープの日本一を願ったり、頭頂部からはげてきたので良いカツラが欲しいと言ったり、目が悪くなって犬と孫を間違えたので視力回復を願ったりと、それぞれの希望を語る。京都薪能が100回まで続くこと、それも「晴天の下」で続くことを願う人もいた。


能「石橋」。目出度い時の定番の演目である。要は獅子舞なのだが、1頭の白獅子(味方團)と3頭の赤獅子(松野浩行、宮本茂樹、大江広祐)が気のようなものを発し、迫力満点の舞が披露された。

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2019年6月 8日 (土)

コンサートの記(559) 「東儀秀樹 雅楽&コンサート ゲストにチェリスト溝口肇を迎えて」@ロームシアター京都

2019年5月9日 ロームシアター京都メインホールにて

午後6時30分からロームシアター京都メインホールで、「東儀秀樹 雅楽&コンサート ゲストにチェリスト溝口肇を迎えて」を聴く。

雅楽師の東儀秀樹による、前半は雅楽の公演、後半はスペシャル・コンサートというプログラムである。

曲目は、第1部の「東儀秀樹による雅楽公演」が、神楽「朝倉音取(あさくらのねとり)」、管弦「越天楽」、管弦「陪臚(ばいろ)」、舞楽「納曾利(なそり)」。第2部の「東儀秀樹と溝口肇によるスペシャル・コンサート」が、「Fly Me To The Moon」、「浜辺の歌」、東儀秀樹のオリジナルである「君の夢を守りたい」、「枯葉」、溝口肇のソロによる「鳥の歌」、溝口肇のオリジナルである「ミスターロンリー」(TOKYOFMテーマ)、溝口肇の「世界の車窓から」、ピアソラの「リベルタンゴ」

客席はお年寄りが多い。

 

まず、東儀秀樹の篳篥ソロによる「朝倉音取」。東儀秀樹は狩衣姿で演奏しながら客席上手のドアから登場し、中央通路を通って舞台に上がる。「朝倉音取」は、本来は人間ではなく、神々にだけ聴かせる曲だそうである。

2曲目のお馴染み「越天楽」。この曲では東儀秀樹は篳篥ではなく鞨鼓(かっこ)を演奏する。太鼓:多田泰大、鉦鼓:矢田浩子、笙:中村華子、篳篥:須崎時彦、龍笛:〆野護元、琵琶:安達圭花、箏:中村香奈子。
雅楽の中でも最も有名な曲であり、正月には神社でこの音楽が掛かっていることも多い。雅楽は西洋音楽とは違い、音を合わせてはいけないため(同時に打つのは相手に失礼になると考えるため)あうんの呼吸による絶妙のずれと揺らぎを楽しむことになる。ということで、雅楽は西洋音楽より即興性が強くなると思われる。「越天楽」は同じメロディーが繰り返されるミニマルのような音楽であるが、同じ演奏は二度と出来ないのだと思われる。

「越天楽」演奏終了後に、東儀秀樹がマイクを手に解説を行う。「皆様、雅楽というと堅苦しいものを思い浮かべるかも知れませんが、ご覧になった通り、とっても堅苦しいものです」と言って笑いを取る。
「雅楽については余り詳しい方はいらっしゃらなくて、大抵の人は、『神社のあれでしょ?』となる。『あれ』って言い方はないと思いますが」「雅楽は1400年前に仏教の音楽として日本に入ってきたわけで、当時は『お寺のあれ』だったわけです」と言ってまた笑いを誘っていた。
管弦「陪臚」は聖徳太子が好んだ曲という伝承がある。6拍子で描かれており、唐招提寺の4月8日に仏誕会には必ず演奏されるそうで、754年の大仏開眼の時に演奏されたという言い伝えがある。ちなみに736年にインドの僧が日本に伝えた曲とされており、聖徳太子のいた時代とは合わず、聖徳太子云々はあくまで伝説のようだ。

舞楽「納曾利」では、横山玲子と正木友美による舞がある。双龍の舞であり、舞人は龍の面をつけている。演奏は、篳篥:須崎時彦&矢田浩子、高麗笛:〆野護元&中村香奈子、鞨鼓:多田泰大、太鼓:中村華子、鉦鼓:安達圭花。
今日は1階席の20列目で、それほど前の方ではないが、迫力は伝わってくる。

 

第2部「東儀秀樹と溝口肇によるスペシャル・コンサート」。バックバンドは、ピアノ:松本圭司、ベース:田中晋吾、ドラム:天倉正敬。
東儀は黒のジャケットで登場。「Fly Me To The Moon」演奏後、「第1部に出てきた東儀秀樹によく似ていると言われるんですが、同一人物です」「『(篳篥で)そんなこと可能なんですか?』『怒れませんか?』と言われたりしますが、才能があるもんで出来ちゃうんです」とお馴染みのナルシシストキャラを発揮するも「お客さんの反応が悪い」「笑ってくれないととんでもないことを言っていることになる」と語っていた。

東儀は、「日本の抒情曲が好き」だそうで、特に日本語の美しさが伝わってくる歌詞が好きなのだが(東儀「この感覚は皆さんにもおわかりいただけると思います。見たところお若い方がいないので」)、最近の小学校の音楽の教科書には抒情曲が載らなくなってきており、その理由が「歌詞が難しくて子どものはわかりにくい」という理由を知って、「穏やかな口調で話しておりますが、憤っております」と話した。日本の抒情曲の中で特に好きだという「浜辺の歌」を演奏される。

「枯葉」では東儀は途中で松本に替わってピアノソロを受け持ったりする。

その後、ゲストの溝口肇が登場する。東儀秀樹はここでいったん退場。
溝口が愛用しているチェロには「アンジェラ」という名前がついているそうで、溝口は「メンバー紹介」と称してまず、「アンジェラです」と言う。
楽器についている愛称は、貴族が所有していた時代につけられたものが多く、例えば高嶋ちさ子のヴァイオリンについている「ルーシー」という名称は貴族によってかってつけられたものだそうだが、溝口のチェロには名前がついていなかった。そこで、友人が名前をつけてくれたそうだ。
演奏曲であるカタロニア民謡「鳥の歌」。溝口は子供の頃にパブロ・カザルスが国連でこの曲を演奏するのを聴いて感動したと語る。「ピース、ピース」と鳴く鳥の声の録音を流した中でのチェロ独奏である。

「ミスターロンリー」。この曲は約15年に渡って「ジェットストリーム」のオープニングテーマだったのだが、今では別の人に取られてしまったそうで、溝口はエンディングテーマのみを担当しているそうである。

「世界の車窓から」。ここで東儀秀樹が再び登場する。
溝口は昨年の誕生日には東儀から篳篥をプレゼントされたそうだが、「才能がないので」ものに出来なかった。悔しいというので、ヤフオク!で笙を購入して、今はそちらを練習しているようである。というわけで冒頭は溝口が笙を吹く。東儀も負けじと笙を吹いて二つの笙がハーモニーを造る。その後、溝口のチェロで「世界の車窓から」がスタート。CMで流れているものは15秒だけだそうだが、今日はそれより4分ほど長い全曲版演奏である。東儀も途中から篳篥に持ち替えての演奏を行う。

プログラムの最後は「リベルタンゴ」。篳篥と笙を吹いた東儀秀樹は、篳篥によるラストの音を思いっ切り伸ばすという外連で喝采を受ける。

 

アンコールとして演奏されたのはピアノの松本圭司の編曲によるというビートルズナンバーの「Yesterday」。雅やかさと無常観の入り交じった演奏となる。

雅楽の楽器の音色は陰影が豊かというべきか濃淡が鮮やかというべきか、明と暗が瞬時にして入れ替わったり同居していたりするのが特徴である。笙などは特にそうだが、篳篥も西洋楽器に比べると光と闇が共に豊穣な音色を宿していることがわかった。

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2019年6月 1日 (土)

2346月日(12) 京都国立博物館 「特別展 時宗二祖上人七百年御遠忌記念 国宝 一遍聖絵と時宗の名宝」

2019年5月21日 京都国立博物館にて

東山七条にある京都国立博物館平成知新館で、「特別展 時宗二祖上人七百年御遠忌記念 国宝 一遍聖絵と時宗の名宝」を観る。

盆踊りの元になったとも伝わる踊り念仏で知られる一遍智真。浄土系仏教である時宗の祖である。時宗自体は一遍が著作を残さなかったり寺院での布教を重視しなかったということもあって、鎌倉新仏教の中ではマイナーな方であるが、室町幕府に仕えた同朋衆といわれる芸術集団は時宗の信徒たちであり、その思想は日本文化の中に溶け込んでいる。

一遍の生涯を描いた「一遍聖絵」は、一般的には「一遍上人絵伝」の名で知られるが、一遍の死の10年ほど後に画僧の円伊(とその弟子達)によって描かれており、他の宗祖達の絵伝などに比べると、まだ当人の記憶が人々の記憶に鮮明に残っているうちに描かれたというのが特徴である。そのためかどうか、一遍の姿は神格化されてはいない。

実のところ、円伊の生涯についてはよくわかっていないようだ。

今回の一遍聖絵の展示は、円伊が描いた本物と竹内雅隆が明治の終わりから大正時代にかけて一遍聖絵を模写したものが交互の並ぶという形で行われる。現在は後期の展示となっており、第1巻第1段が竹内雅隆のもの、第1巻第2段、3段が、4段が円伊のものである。その後も、第2巻第1段2段が竹内雅隆、第2巻第3段4段が円伊といった具合だ。ガラスケース上方の壁には円伊による一遍聖絵のパネルが並んでおり、竹内雅隆のものと円伊のものを見比べることも出来る。

一遍聖絵の特徴は、かなりの高所から俯瞰図として描かれていることである。風景画にならよくある手法だが、これは時宗開祖一遍を讃える絵なのである。なのに一遍の姿はかなり小さく、どこにいるのかわからない場面もある。主人公が小さく描かれた絵伝というのも異色である。
円伊がなぜ、こうした視座を取り入れたのかはわからないが、あるいは阿弥陀仏が見た一遍という視点なのだろうか。単純だが、絵伝は単純でわかりやすいことが生命線でもあり、誰でも思いつくようなことが正解に近いとも思われる。

俯瞰図であるため、広範囲を見渡すことが出来るようになっており、一遍が訪れた神社や寺院、往事の人々の姿が生き生きと鮮やかに描かれており、宗教画としてよりも絵画的要素や史料的な面の方が価値が高いのではないかと思われる。
時宗は念仏によってそれを信じない人をも救うと考える宗派である。救われる人々がある意味では主人公であり、市井の人々が一遍と同等に描かれていることは、あるいはそれを表しているのかも知れない。

 

同じ浄土系宗派の開祖であっても、生涯に二度ほどしか神社に参拝した記録がない親鸞とは違い、一遍は日本各地の神社に参拝して縁を結んでいる。日本各地を歩き回り、踊り念仏を広めた一遍であるが、過労気味となり、51歳という宗教者としては比較的若い年齢で他界している。
一遍亡き後、急速に衰えた時宗は真教(他阿)らによって再興される。真教を描いた遊行上人の縁起絵も展示されているが、一遍聖絵とは違い、少し上から姿が大きく描写されている。こちらの方が一般的で、一遍聖絵の方が特殊である。一遍上人自体が日本宗教史の中でも特殊な存在であるが、その死後わずか10年で円伊がそれを見抜いていたのかどうか。

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2019年5月11日 (土)

美術回廊(28) 大阪市立美術館 「フェルメール展」2019

2019年5月5日 天王寺の大阪市立美術館にて

大阪へ。天王寺の大阪市立美術館で「フェルメール展」を観る。

オランダ黄金時代を代表する画家、ヨハネス・フェルメール。43年の生涯で完成させた絵は50点ほど、現存するのは35点という寡作の画家であるため、今回の大阪での展覧会のための来日した実物は6点であり、それだけでは絵画展にならないため、同時代に活躍したオランダの画家の作品を多く展示している。

フェルメールの作品6点が一番最後に展示されており、それ以前に他の画家の作品を観て比較出来る面白味があるのだが、今日もフェルメール展は大盛況というわけでじっくり観ていたら日が暮れてしまう。今回の音声ガイドナビゲーターは石原さとみだが、これがかなりの人気で、音声ガイド貸し出し口には長蛇の列が出来ていた。

というわけで、多くの絵は一瞬だけ見て印象を頭に留めるだけで次々に絵を観ていく。

展示されているのは、フランス・ハルス、ワルラン・ヴァイヤン、ヤン・デ・ブライ、ヘンドリック・テル・ブリュッヘン、ヤン・ファン・ベイレルト、アブラハム・ブルーマールト、ニコラス・ベルヘム、ヤン・デ・ヘーム、ニコラス・マース、ヘブリエル・メツー、ヤン・ステーンといった画家の作品である。残念ながら一人も名前を知らない。ただ、これらの画家とフェルメールとでは明らかな違いがある。光の加減である。

多くの画家は暗色の中で中心にだけスポットライトが当たっているという構図なのだが、フェルメールだけ光がおぼろ、どこからか光が漏れているような間接照明的明るさなのである。ターナーや印象派へ繋がるという評価はこのことに由来しているのだと思われる。

展示されているフェルメール作品は、「マルタとマリアの家のキリスト」(1654-55年頃)、「取り持ち女」(1656年)、「手紙を書く婦人と召使い」(1670-71年頃)、「リュートを調弦する女」(1662-63年頃)、「恋文」(1669-70年頃)、「手紙を書く女」(1665年頃)。

長い間埋もれていることのある画家としてはエル・グレコが有名だが、フェルメールも実に1世紀以上埋もれていたことがあるため、フェルメール本人についての情報が十分とはいえない状況になってしまっている。そのため、その絵が何のために描かれたのかは多くが不明なのだが、「手紙を書く婦人と召使い」と「リュートを調弦する女」とでは共に人物が窓の外を眺めており、「これから起こり得る何か」を予感させるものとなっていて、想像を巡らせると楽しい。「手紙を書く婦人と召使い」では直後に何かが起こりそうであり、「リュートを調弦する女」は未来を夢見ているようでもある。

「恋文」は手紙を手渡された女の絵。本当に恋文を渡されたのかどうかはわからないようであるが、事態の急展開がありそうな予感に満ちている。

「手紙を書く女」が書いているのは、ラブレターか何かだろうか。はっきりとはわからないが、この女性の抱く希望が絵全体から溢れ出てくるようでもある。

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2019年4月30日 (火)

観劇感想精選(298)「伝統芸能の今」2014

2014年5月11日 京都芸術劇場春秋座にて観劇

午後3時30分から京都芸術劇場春秋座で、「伝統芸能の今」2014を観る。「ゴールドリボン+世界の子どもにワクチンを」チャリティー企画である。今回は三代目市川猿之助(現・二代目市川猿翁)に続き、春秋座の二代目芸術監督に就任した四代目市川猿之助によるプログラムである。出演は、市川猿之助の他に、上妻宏光(三味線プレイヤー)、茂山逸平(能楽師狂言方)、亀井広忠(能楽師囃子方)、田中傳次郎(歌舞伎囃子方)ら。

開演前に出演者がホワイエで、パンフレットを売ったり募金を募ったりしている。

まず、上妻宏光による津軽三味線独奏で、「津軽じょんがら節」、上妻の作曲による「紙の舞」(スパニッシュギターからの影響が感じられる曲である)。上妻の津軽三味線であるが、クラシックギター奏者でさえも凌ぐほど左手の動きが大きく、速い。人間の指の動きとは思えないほどに迅速である。
続いて、茂山逸平の舞と上妻宏光、亀井広忠、田中傳次郎によるコラボ奉納舞「三番三(さんばそう)」。茂山逸平の動きは極めてスムースであり、メリハリもくっきりしている。

次は、市川猿之助と上妻宏光、田中傳次郎による舞「空破(くうは)」。猿之助のしなやかな舞を堪能できた。

前半最後は、猿之助が二代目市川亀治郎時代に武田信玄役で出演した大河ドラマ「風林火山」にインスパイアされて、猿之助自身が振付を行った創作舞踊「風林火山」。上妻宏光の津軽三味線生演奏と、オーケストラ演奏の録音による大河ドラマ「風林火山」メインテーマ(作曲は、京都芸術劇場春秋座を持つ京都造形芸術大学の先代の学長だった千住博の実弟・千住明である)に乗せて猿之助が舞う。甲斐武田氏というと騎馬武者軍団が有名であり、荒事を取り入れた勇壮な踊りになるかと予想したが、実際はそれとは正反対のたおやかな舞いであった。

10分の休憩を挟んで、メインの4人によるトーク。福山雅治から贈られた襲名披露記念幕をバックに、会話が行われる。春秋座では、四代目猿之助の芸術監督襲名に当たり、イメージキャラクターを作ろうと企画が立ち上がり、瓜生山学園(京都造形芸術大学+京都芸術デザイン専門学校)の学生が描いたキャラクターの中から事前に11点が選ばれ、観客に投票用紙が配られて、良いと思ったキャラクターに投票して貰い、得票数の多かったキャラクター3つの中から猿之助自身が採用するものを決める。キャラクターというと可愛らしい画が採用されやすいので、造形大のマンガコースの学生が描いたものが多い。

トップ3は、エントリーナンバー1の源九郎狐をキャラクターにしたもの、エントリーナンバー5の鼓に猿の顔を描いたもの、エントリーナンバー10の猿之助が舞う姿をマンガタッチで描いたもの(マンガコースの学生の作品である)であった。
ドラムロール後に猿之助から発表が行われるのであるが、ドラムロールが太鼓によるもので、猿之助は「これじゃお化けだよ」と言う。
選ばれたのは情報デザインコースの女学生二人組の作成によるエントリーナンバー1の源九郎狐をモチーフにしたものであった。人間らしさが一番希薄なキャラクターではあるが、猿之助は「京都には伏見稲荷もあり、これが一番京都らしい」と選定理由を述べた(実際は、京都人の意識としては伏見稲荷はあくまで伏見のもので京都とは別というものも根強いようである)。

邦楽というものは、ミニマルミュージックに近いものがあり、同じ音型が何回も繰り返されるため、演奏する側も舞う側も「どこで終わるんだろう」と勘定を付けるのが難しいという。茂山逸平は笛の音型でどこまで進んだかを把握しているそうだ。上妻宏光は劇伴の経験は少ないが、「三番三」のラスト近くで狂言方が飛び上がる場面があるので、そこから推測しているようである。
ちなみに、チャリティーのために集まった募金額は、初日である昨日が48万円台、今日の第1回目の公演が47万円ちょっとであるが、今日2回目の公演となる今回は26万円程度しか集まっておらず、田中傳次郎は、「あと20万円ぐらい集まらないと、この後、猿之助さん出てきません」と言う(昨日と今日の1回目の公演は、休憩時間と終演後に行われた募金も多いだろうから、この回だけ吝嗇家が集まったというわけではないと思われる)。

後半、歌舞伎と狂言による「石橋(しゃっきょう)」。「石橋」は狂言と歌舞伎の両方であるが、内容は少し違う。今回は前半が茂山逸平による仙人を主人公にした狂言、後半が猿之助による浄土の獅子の舞となる。前半と後半に関連性が余りないが、ストーリーで魅せる作品ではないので特に気にはならない。
天竺から来た仙人(茂山逸平)が、唐の清涼山にある文殊菩薩の浄土の入り口に辿り着く。現世と清涼山の間にあるのが、自然が作り上げた石橋(しゃっきょう)だ。幅は一尺(約30cm)ほどしかなく、橋の上は苔むしていて鳥でさえ滑って留まることは出来ないという。仙人は石橋に挑もうとするが結局諦める。
その後、清涼山に住む獅子(市川猿之助)が現れ、蝶二匹(猿之助の弟子が務める)を従えながら舞う。春秋座は歌舞伎用の劇場なのでセリがあり、今回の「伝統芸能の今」2014ツアーの中で唯一、春秋座でだけ猿之助はセリを使って現れる。「石橋」は「連獅子」のモチーフになった作品だけに、猿之助は首を何度もグルグルと回して観客からの喝采を浴びた(猿之助自身が以前、テレビ番組で話していたことだが、「連獅子」をやると目が回ってしまい、終演後に嘔吐してしまうことも珍しくないという)。

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2019年4月21日 (日)

第70回京おどり 「夢叶京人形」全八景 2019

2019年4月15日 宮川町歌舞練場にて

第70回京おどりを観る。宮川町歌舞練場にて午後4時30分開演の回。
今年のタイトルは「夢叶京人形」全8景。作・演出:北林佐和子、作曲:今藤長十郎、作舞:若柳吉蔵。第1景から第4景までが「不思議の国の京人形」、第5景が「弥栄(いやさか)の春」、第6景が「天下(あめのした)祝い唄」、第7景が「秋の音色」、第8景がお馴染みの「宮川音頭」である。

「不思議の国の京人形」は、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』をベースに歌舞伎「京人形」を組み合わせた舞踊劇であるが、男と女が主人公になることや姿格好などから泉鏡花の『天守物語』(変換したら「店主物語」となった。なんだそりゃ?)を連想させる作品である。関係があるのかどうかは知らないが、第4景では姫路城の天守も現れる。
真夜中。城の中の人形の間で、太夫、藤娘、汐汲、娘道成寺の4人(?)の人形が舞い遊んでいる。そこへお小姓の仙千代がやってくる。仙千代は幼い姫とまりをついて遊んでいたのだが、まりをなくしてしまい、姫は大泣き。まりを見つけられなかった時は切腹と決まったため、この部屋に探しに来たのだ。人形たちは仙千代を哀れに思い、一緒に城内を探し回ることにする。

花札の絵から飛び出してきた小野道風なる人物と加留多遊びをすることになったり、チェシャ猫にあたる猫の君やまぼろし姫たちとまりの奪い合いをするというファンタジックな物語である。
巨大なまりが左右に揺れたり(あさま山荘事件とは無関係だと思われる)、加留多の絵の描かれた戸板返しが行われたりと、趣向も面白い。
物語のある舞は宮川町が本場であり、祇園甲部よりも見せ方が優れているように思われる。

「弥栄の春」では、芸妓たちが鈴を鳴らしながら平成と新元号・令和の御代を祝い、「天下祝い唄」に繋がっていく。日本地図の描かれた襖が現れ、「目出度の若松様よ」と「花笠音頭」の東北、祇園や清水という京名所、義経と静御前ゆかりの吉野の桜などがうたわれる。

舞妓たちが総登場の「秋の音色」。舞では芸妓には及ばないかも知れないが、場内の雰囲気をガラリと変える新鮮な空気が秋に繋がる。

「宮川音頭」。総踊りである。儚さを通り越して悲しさを感じるのは、五花街のおどりの中で京おどりだけかも知れない。
美しいが夢だとわかっている夢を見ているような気分になる。

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2019年4月10日 (水)

南座新開場記念 都をどり 「御代始歌舞伎彩」2019年4月5日

2019年4月5日 京都四條南座にて

午後4時30分から、京都四條南座で都をどりを観る。
祇園甲部歌舞練場が耐震対策工事中ということで閉鎖されており、昨年一昨年は北白川の京都芸術劇場春秋座で公演が行われた都をどり。今年は新開場記念も兼ねた南座での開催となる。南座はロビーが狭いということで、今年はお茶席はなく、お茶菓子の皿プレゼントもないが、その代わりパンフレットは無料で配布されている。

昨年の春秋座での公演では、CGを使ったり「アナと雪の女王」を題材にしたりといった新しい試みを行った都をどり。春秋座が京都造形芸術大学の劇場ということで、京都造形芸大の教授でもある井上八千代が若者の取り込みを図ったのかも知れないが、学生らしき人々の姿は客席には見えず、新演出は常連客から大不評ということもあり、今年は揺り戻しからか保守的な内容になっている。それが全体として平板な印象を生んでいたようにも感じられる。

チケットを取るのが遅かったため、今日は2階の上手サイドの席の2列目。前列はラテン系と思われる外国人の一家である。舞台はそれほど良くは見えないが、花道での踊りは楽しめるため、この席を選んだ。舞台下手端で、ジャケットを着たおじさんが鳴り物に指示を出していたり、鈴を鳴らして演奏しているのが見えるのがシュールで楽しかったりする。

演目は置歌に続き、「初恵美須福笹配」「法住寺殿今様合」「四条河原阿国舞」「藁稭長者出世寿」「桂離宮紅葉狩」「祇園茶屋雪景色」「大覚寺桜比」の計8景。今は会えぬ人を偲ぶ内容の曲がいくつかあり、それが「大覚寺桜比」での華やかさと表裏一体の儚さにも繋がっている。

「大覚寺桜比」は、舞台上に桜の樹が並ぶ、舞台上方からも桜の枝が垂れていて今の季節に相応しい飾りであるが、稽古を重ねることで上半身がぶれずに速足で移動することの出来る芸妓達を見ていると、人間というより桜の精に出会ったかのような不思議な感覚に陥った。

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2019年3月26日 (火)

2346月日(11) 京都文化博物館 「北野天満宮 信仰と名宝」

2019年3月19日 三条高倉の京都文化博物館にて

三条高倉の京都文化博物館で「北野天満宮 信仰と名宝」を観る。
天満宮の総社である北野天満宮。その祭神である菅原道真公と天神の本地である十一面観音などに関する展示である。

学問の神様とされる菅原道真。氏や育ちではなく知力で右大臣にまで上った人物である。知で昇進した先例には吉備真備らがいるが家格を超える昇進を遂げたのは菅原道真が初とされる。その後、藤原時平らの讒言があって太宰府に左遷され、失意の内に亡くなる。だがその後、清涼殿に落雷があったり、藤原氏の有力者が次々に他界するなどの変異があり、雷神と集合して天神として北野の地に祀られることになった。元々、北野の地は都の北西を守る霊地であり、道真は都を守る怨霊として祀られることになる。

 

「北野天神縁起」はパネル展示があるだけだが、文子天満宮や吉祥院天満宮など、北野天満宮より成立が早いとされる天満宮の由来が描かれているのがわかる。

 

道真は、左遷された不遇を漢詩に詠んでいるが、その「去年今夜待清涼 秋思詩編独断腸 恩賜御衣今在此 報持毎日拝余香」は、その後に描かれた天神像にたびたび書き込まれている。
天神像も様々で、一般によく知られているのは憤怒の表情を浮かべた天神像だが、中には道真の失意をそのままに表した憂い顔の天神像も存在する。

道真は漢詩や和歌だけでなく、学者として史書の「類聚国史」編纂の仕事もしており、そのうちの2冊が展示されている。

 

後半は北野天満宮に関する展示である。
北野天満宮は麹造りを支援しており、醸造業者の連盟である麹座に神人の位を与えて保護していたのだが、洛中の酒屋が麹造りを始めたため、独占権を失いそうになる。そこで北野麹座は室町幕府に訴え、独占権の確約を手にする。足利義持の命により、北野麹座以外の麹室は破却されることになった。
足利義持の下知状と一色義範の遵行書状が展示されているが、二人とも「北野」の「北」の字を崩しており「小」に見えるのが特徴である。草書だとそうなるのだと思われる。

その後、北野が生んだ文学とされる連歌(宗祇の肖像などが展示されている)の展示を経て、北野天満宮の祭礼展示となる。上映時間約20分の映像が流されており、北野天満宮で一年の間に行われる祭礼の模様をダイジェストで見ることが出来る。

 

北野天満宮史上最大のハイライトの一つである北野大茶会の展示としては、実際に掲げられた高札の他に大茶会の様子を描いた絵図、またその繋がりで現在の北野天満宮の社殿を築いた豊臣秀頼の筆による御神号などが展示されていた。

 

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