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2018年2月21日 (水)

コンサートの記(347) 日本センチュリー交響楽団特別演奏会「山田×樫本×センチュリー、“夢の饗宴”」

2018年2月13日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後7時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、日本センチュリー交響楽団特別演奏会「山田×樫本×センチュリー、“夢の饗宴”」を聴く。共に1979年生まれである指揮者の山田和樹とヴァイオリニストの樫本大進の共演。

日本人若手指揮者を代表する存在である山田和樹。東京藝術大学在学中にトマト・フィルハーモニー管弦楽団(現・横浜シンフォニエッタ)を結成して指揮活動を行い、2009年にブザンソン国際指揮者コンクール優勝という経歴から「リアル千秋真一」と呼ばれたこともある。現在は、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督兼音楽監督、スイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者、日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者、東京混声合唱団音楽監督兼理事長、横浜シンフォニエッタ音楽監督を務める。

ソリストとしてデビュー後、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の第1コンサートマスターに就任した樫本大進。フリッツ・クライスラー国際音楽コンクールとロン=ティボー国際音楽コンクールのヴァイオリン部門で優勝を飾っている。7歳で入学したジュリアード音楽院プレカレッジを経てフライブルク音楽大学に学んでいる。


曲目は、サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番とチャイコフスキーの交響曲第4番。

今日の日本センチュリー交響楽団のコンサートマスターは、首席客演コンサートマスターの荒井英治。


サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲。ソリストの樫本大進は日本人ヴァイオリニストとしては珍しくラテン気質のヴァイオリンを弾く人だが、今日は熱さと艶やかさの中にも、例えば第2楽章のラストに顕著な繊細さを備えた演奏を繰り広げ、日本人的な一面を見せる。スケールは大きく、構造力も確かである。

今日の山田和樹はアグレッシブな指揮。両腕を目一杯振り、ジャンプを繰り出す。日本センチュリー交響楽団は中編成ということもあり、元々輪郭のクッキリした音楽を生む傾向があるが、山田の指揮により立体感が増し、各パートが把握しやすい音作りとなっていた。

樫本はアンコールとして、J・S・バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番より“ガヴォット”を演奏。速めのテンポによる流麗とした演奏であった。


チャイコフスキーの交響曲第4番。出だしのホルンが今ひとつ合わない。センチュリー響のホルン陣は在阪オーケストラの中ではレベルが高いが、今日は第1楽章に関しては不調が続く。
山田はゲネラルパウゼを長めに取ったり、冒頭では遅いテンポを取るなどの特徴があるが、次第にギアを上げ、チャイコフスキーの今にも溢れ出そうな絶望のうねりを音として描いていく。時にはフォルムを崩してまでも内容を重視。表現主義的なチャイコフスキーとなる。指揮姿にも特徴があり、一拍目だけを振ったり、全てを棒で示したり、ジャンプだけで表現を行ったりと仕草が多彩である。
第2楽章の孤独感の表出にも長けているが、寂しさだけではない若々しい叙情味も感じられる。
第3楽章冒頭では山田は顔の動きと表情のみで指揮。その後の動きもバラエティに富んでいる。それにしても山田は本当に立体感の表出が巧みである。
第4楽章では山田は外連を発揮。極端な減速と加速(アゴーギク)により、これまで聴いたことのない表情を生み出す。かなり個性的なチャイコフスキーである。そして意図的に皮相な表情を保ったまま、ラストへと突っ込んでいく。空転したままの勝利という解釈なのだろう。

チャイコフスキーの交響曲というと、「悲愴」や第5が取り上げられる回数が多いが、あるいはこの第4が最高傑作なのかも知れない。


アンコール演奏がある。山田は客席の方を振り返って、「日本初演であります」と言って演奏開始。弦楽によるリリカルな音楽である。ジョージア(旧グルジア)のアザラシヴィリという作曲家の「ノクターン」という曲だそうである。

山田の溌剌とした指揮姿を見てふと「若い頃の小澤征爾って今日の山田のような雰囲気じゃなかったのかなあ」という思いが浮かんだ。二人とも指揮姿に人を惹きつけるチャームがあるのである。

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2018年2月19日 (月)

コンサートの記(346) 京都フィルハーモニー室内合奏団室内楽コンサートシリーズ vol.65「ドラマチック・ロシア」

2018年2月15日 京都府立府民ホールALTIにて

午後7時から、京都府立府民ホールALTI(アルティ)で、京都フィルハーモニー室内合奏団室内楽コンサートシリーズ Vol.65「ドラマチック・ロシア」を聴く。

京都フィルハーモニー室内合奏団は、定期演奏会でも比較的珍しい曲を取り上げることが多いが、室内楽シリーズでは更にマニアックな曲をプログラミングしてくる。今日演奏される曲も実演でもCDでも聴いたことがないものばかりである。

曲目は、バラキレフの八重奏曲、グリンカの悲愴三重奏曲、エワルドの金管五重奏曲第4番、プロコフィエフの五重奏曲。曲目はトランペットの西谷良彦が監修したものだという。

出演メンバーは、岩本祐果(ヴァイオリン)、中野祥世(ヴァイオリン。契約団員)、松田美奈子(ヴィオラ)、佐藤響(チェロ)、金澤恭典(かなざわ・やすのり。コントラバス)、市川えり子(フルート)、岸さやか(オーボエ)、松田学(クラリネット)、小川慧巳(おがわ・えみ。ファゴット)、御堂友美(みどう・ゆみ。ホルン)、西谷良彦(トランペット)、白水大介(しろず・だいすけ。トランペット。客演)、村井博之(トロンボーン)、藤田敬介(チューバ。客演)、初瀬川未雪(はつせがわ・みゆき。ピアノ。客演)

バラキレフの八重奏曲。曲前のトークは中野祥世が受け持つ。バラキレフは早熟であり、この曲も13歳の時に書き始めている。ただバラキレフは遅筆であり、完成までに6年を要したそうである。
フルート、オーボエ、ホルン、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ピアノという編成。
バラキレフは西欧の音楽を真似るのではなくロシアならではの音楽を書くことを目指し、ロシア五人組の頭目となった人物だが、初期作品ということもあり、西欧の古典派からの影響が濃厚である。ただ、木管の旋律などにはバラキレフの個性がすでに現れている。

グリンカの悲愴三重奏。クラリネット、ファゴット、ピアノの編成による曲。グリンカがイタリアに留学していた時代に書いた作品だそうで、松田学のトークによるとオペラ的な要素が感じられる曲だそうである。なお、2月15日はグリンカの命日だそうだが、これは偶然であり、曲目が決まってから会場を押さえるそうなのだがALTIが空いていたのがたまたま2月15日だったようである。
旋律が豊かであるが若書きということもあり、特に魅力的な作品とはなっていないような印象を受ける。

エワルドの金管五重奏曲第4番。トロンボーン奏者の村井博之のトーク。「エワルドという作曲家を知っている人は金管奏者に限られると思います」と語る。
トランペット2、ホルン、トロンボーン、チューバという編成。演奏時間30分の大曲である。
結構、高音を強調する傾向がある。金管の合奏だけに輝かしさがあり、旋律にも魅力がある。

プロコフィエフの五重奏曲。プロコフィエフだけは20世紀に活躍した作曲家である。1891年生まれだがこれはモーツァルトが死んでから丁度100年目に当たる。また逝去したのは1953年3月5日だが、全く同じ日にスターリンが他界している。ということで生年はモーツァルトの影に隠れ、没年月日はスターリンの方に注目が行くという不運の作曲家と見なされることもある。
ヴァイオリンの岩本祐果のトーク。ロシア革命を受けてアメリカへの亡命を決意したプロコフィエフはシベリア鉄道に乗って東へと向かう。アメリカへの途中に日本にも寄っているのだが、京都にも来ており、祇園に行ったそうである。五重奏曲は、オーボエ、クラリネット、ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバスという編成で演奏されるが、こうした編成による五重奏曲は他にはほとんど例がないそうである。元々は「空中ブランコ」というサーカスのための音楽として書かれたものだが、今では室内楽曲として定着しているようだ。

個性的な音楽を書いたプロコフィエフ。五重奏曲もキュビズムの絵画の中に迷い込んだような趣を持つ。美しさ、崇高さ、野性的な部分、キッチュな要素などが渾然一体となった音世界である。

アンコールとして金澤恭典編曲による、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲より第2楽章が演奏された。

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2018年2月17日 (土)

コンサートの記(345) 山本祐ノ介指揮 京都市交響楽団 京都新聞トマト倶楽部コンサート「懐かしの映画音楽」2017

2017年4月28日 京都コンサートホールにて

午後2時から、京都コンサートホールで京都新聞トマト倶楽部コンサート「懐かしの映画音楽」2017を聴く。演奏は山本祐ノ介指揮の京都市交響楽団。

山本祐ノ介は山本直純の息子である。1963年東京生まれ、東京芸術大学附属音楽高校を経て東京芸術大学卒、同大学院修了。本業はチェリストで、東京交響楽団の首席チェロ奏者などをしていたが、やはり山本直純の息子というと求められるものがある。ということで、指揮者、作曲家、編曲家としても活躍している。指揮者としてはミャンマー国立ヤンゴン交響楽団の指揮者を務めている。
山本直純はひげがトレードマークだったが、山本祐ノ介はひげは生やしていない。

「懐かしの映画音楽」というタイトルだが、最も新しい映画でも1972年制作の「ゴッドファーザー」。私が生まれる前の作品である。勿論、映像で観たことのある作品も多いが、ロードショーで観ているわけではない。私の場合リアルタイムで観た懐かしい映画というと1980年代の「E.T.」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、邦画でいうと「南極物語」辺りからとなる。

曲目は前半が、20世紀FOXのファンファーレ、「007は殺しの番号」~ジェームズ・ボンドのテーマ~、「避暑地の出来事」~夏の日の恋~、「個人授業」~愛のレッスン~、「ゴッドファーザー」~愛のテーマ~、「南太平洋」~魅惑の宵~、「アラビアのロレンス」~序曲~、「ドクトル・ジバゴ」~ラーラのテーマ~、「ベン・ハー」~序曲~。後半が、「80日間世界一周」~アラウンド・ザ・ワールド~、「悲しみの天使」~哀愁のアダージョ~、「誰(た)が為に鐘は鳴る」~メインテーマ~、「栄光への脱出」~メインテーマ~、「白い恋人たち」~白い恋人たち~、「ひまわり」~愛のテーマ~、「エデンの東」~メインテーマ~、「風と共に去りぬ」~タラのテーマ~。
「ゴッドファーザー」の愛のテーマと「ドクトル・ジバゴ」よりラーラのテーマの編曲は山本祐ノ介、「悲しみの天使」より哀愁のアダージョが佐野秀典の編曲で、残る曲は全て南康雄の編曲である。


今日のコンサートマスターは渡邊穣。

山本祐ノ介は前半が銀地に黒の模様入りのジャケット、後半は父親の山本直純譲りであると思われる真っ赤なジャケットで登場する。マイクを手にトークを入れながらの指揮。
ジェームズ・ボンドを演じていたショーン・コネリーは今は髪が薄くてひげが濃いだの、アラビアのロレンスを演じていたピーター・オトゥールの格好が忍者に見えただのというユーモアを交えながらのトークである。山本はミャンマー国立ヤンゴン交響楽団の演奏会ではベートーヴェンの交響曲なども指揮しているそうだが、ミャンマーではクラシック音楽が普及しておらず、ミャンマー人は「ベートーヴェン」と聞いても名前は浮かんでも曲は全く知らないという状態であるため、クラシックだけのコンサートを開いてもお客が入らない。ということで映画音楽なども取り上げるのだが、映画音楽も知名度にムラがある。「誰でも知っている映画音楽は何か?」とリサーチしたところ、「どうやら『ゴッドファーザー』の音楽はみんな知っているらしい」ということで自ら編曲して取り上げたそうである。日本でも「ゴッドファーザー」のメインテーマは暴走族の兄ちゃんでも知ってるからね。

京都市交響楽団は今日も好調。弦は滑らかで管は輝かしい。ピアノとして入った佐竹裕介の達者な演奏を聴かせる。

アンコール演奏は、「マイ・フェア・レディ」より“踊り明かそう”。
「マイ・フェア・レディ」は、オードリー・ヘップバーン主演のミュージカル映画だが、オードリー・ヘップバーンは歌が余り上手でなかったため、オードリーが演じているイライザのナンバーは全てマーニ・ニクソンが吹き替えを行っている。マーニ・ニクソンは吹き替え専門の歌手だったが、長年の功績が讃えられ、「サウンド・オブ・ミュージック」には修道女の一人として出演している。

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2018年2月14日 (水)

コンサートの記(344) 大阪フィルハーモニー交響楽団「Enjoy!オーケストラ ~オーケストラで聴く映画音楽の世界!~」

2018年2月9日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後7時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、大阪フィルハーモニー交響楽団「Enjoy!オーケストラ ~オーケストラで聴く映画音楽の世界!~」を聴く。指揮とお話は大阪フィルハーモニー交響楽団ミュージック・アドヴァイザーの尾高忠明。

大阪フィルハーモニー交響楽団は、フェスティバルホールを本拠地としているが、定期演奏会はフェスティバルホールで行い、その他の企画はザ・シンフォニーホールを使う傾向がある。音響だけとればザ・シンフォニーホールは日本一だと思われるため、使用しないと勿体ない。今回は武満徹とジョン・ウィリアムズという二人の作曲家の作品を取り上げる。

曲目は、第1部が武満徹作曲による、3つの映画音楽(「ホゼ・トレス」、「黒い雨」、「他人の顔」)、「夢千代日記」、「乱」、「波の盆」組曲。「夢千代日記」と「波の盆」はテレビドラマのための音楽である。 第2部がジョン・ウィリアムズ作曲の映画音楽で、「未知との遭遇」メインテーマ、「ハリー・ポッターと賢者の石」メインテーマ、「シンドラーのリスト」メインテーマ、「E.T.」よりフライングシーン、「ジョーズ」メインテーマ、「スター・ウォーズ」メインテーマ。

まず武満の3つの映画音楽。大フィルは元々音量は豊かだが音の洗練については不足気味の傾向がある。初代の音楽監督である朝比奈隆が「愚直」を好み、骨太の演奏を指向したということもある。2代目の音楽監督である大植英次は現代音楽も得意としたが外連を好む傾向にあり、首席指揮者を務めた井上道義に関しても同傾向であったことは言うまでもない。ということで、もっと緻密で繊細な音作りも望みたくなるのだが、洒脱さは出ていたし、まずまずの出来だろう。

演奏終了後、尾高はマイクを手に振り返り、トークを始める。「僕は桐朋学園に学びました。齋藤秀雄という怖い怖い先生に教わりましたが、『尾高! 良い指揮者になりたかったらあんまり喋るな!』」といういつもの枕で笑いを取る。「大阪フィルハーモニー交響楽団は人使いが荒くて、指揮だけでなく話もして欲しい」。ここから武満の思い出となり、「コンピューターゲームが大好きな人でした。うちによく遊びに来てくれて嬉しかったのですが、コンピューターゲームで自分がお勝ちになるまでお帰りにならない」「これは喜ばれると思うのですが阪神タイガースの大ファンでした。阪神が負けた日には話しかけない方が良さそうな」という話をする。雑誌のインタビューで読んだことがあるのだが、尾高はこの話を日本だけではなく海外でも行っており、海外のオーケストラ団員も「タケミツってどんな人?」と興味津々で、この話をすると喜ばれるそうである。

その後、次の「夢千代日記」の話になり、主演した吉永小百合が今でも「バレンタインデーにチョコレートを貰いたい有名人アンケート」で1位を取るという話もする。どちらかというと響きの作曲家である武満徹。世界で彼にしか書けないといわれたタケミツ・トーンは海外、特にフランスで高く評価され、フランス人の音楽評論家から「タケミツは日系フランス人作曲家である」と評されたこともある。ただ武満本人は、「ポール・マッカートニーのような作曲家になりたい」と望んでおり、メロディーメーカーに憧れていた。残念ながらメロディーメーカーとしてはそれほど評価されなかった武満であるが、「夢千代日記」や「波の盆」に登場する美しい旋律の数々は、武満の多彩な才能を物語っている。

「乱」に関しては、監督である黒澤明と武満徹の確執を尾高は話す。黒澤明は武満に作曲を依頼。レコーディングのためにロンドン交響楽団を押さえていた。「ロンドン交響楽団で駄目だったらハリウッドのオーケストラを使ってくれ。ゴージャスにやってくれ」と注文したのだが、武満は岩城宏之指揮の札幌交響楽団を推薦。黒澤は「冗談じゃない!」と突っぱね、ここから不穏な空気が漂うようになる。武満が想定した音楽は黒澤が想像していたものとは真逆だった。
よく知られていることだが、黒澤映画のラッシュフィルムにはクラシック音楽が付いており、黒澤は「これによく似た曲を書いてくれ」というのが常だった。「乱」に関してはマーラーの曲が付いていたことが想像される。黒澤はマーラーのようにど派手に鳴る音楽を求めていたようだ。武満も「強い人だったので」折れず、じゃあ一緒に札幌に行こうじゃないかということになり、札幌市の隣町である北広島市のスタジオで札幌交響楽団に演奏を聴く。黒澤は納得したようで、札幌交響楽団のメンバーに「よろしくお願いします」と頭を下げたそうである。実はこの後、武満と黒澤は更に揉めて、絶交にまで至るのだが、それについては尾高は話さなかった。ただ演奏終了後に、「この音楽はハリウッドのオーケストラには演奏は無理であります」と語った。

武満の映画音楽の最高峰である「乱」。色彩豊かなのだがどこか水墨画のような味わいのある音楽である。巨人が打ち倒されるかのような強烈な悲劇性と群れからはぐれて一人ヒラヒラと舞う紋白蝶のような哀感の対比が鮮やかである。タケミツ・トーンがこれほど有効な楽曲もそうはない。

「波の盆」。尾高は日系ハワイ移民を題材にしたストーリーについて語る。笠智衆、加藤治子、中井貴一が出演。日米戦争に巻き込まれていく姿が描かれている。「あんまり詳しく話すとDVDが売れなくなりますので」と尾高は冗談を言っていた。
叙情的なテーマはよく知られているが、いかにもアメリカのブラスバンドが奏でそうなマーチが加わっていたりと、バラエティ豊かな音楽になっている。武満自身がマニア級の映画愛好者であり、オーケストレーションなどは映画音楽の仕事を通して学んだものである。

ちなみに尾高は子供の頃は指揮者ではなく映画監督に憧れていたそうで、果たせずに指揮者となり「一生を棒に振る」と冗談で笑いを取っていた。


第2部。ジョン・ウィリアムズの世界。最初の「未知との遭遇」メインテーマでは、高校生以下の学生券購入者をステージ上にあげての演奏となった。演奏終了後に子供に話も聞いていたが、今の子供も「未知との遭遇」のテーマは「聴いたことがある」そうである。

尾高は、ジョン・ウイリアムズは武満を尊敬していたということを語る。

ジョン・ウィリアムズは、「ジュリアード音楽院、日本でいうと東京芸大のようなところ」で学び、カステルヌオーヴォ=テデスコに師事した本格派であり、スピルバーグもジョージ・ルーカスも「自分が成功出来たのはジョンの音楽があったから」と語っていることを尾高は紹介する。

「ハリー・ポッターと賢者の石」はスピルバーグ作品でもルーカスフィルムでもなく、クリス・コロンバス監督作品であるが、「ハリー・ポッター」シリーズは、イギリス人の魂そのものだと捉えられているそうである。ミステリアスな曲調を上手く現した演奏であった。そういえば、私が「ハリー・ポッターと賢者の石」を観たのはまだ千葉にいた頃で、富士見町にあるMOVIX千葉での上映を観たのだった。

「シンドラーのリスト」では、今日は客演コンサートマスターに入った須山暢大(すやま・のぶひろ)が独奏を担当。サウンドトラックでソロを受け持ったイツァーク・パールマンのような濃厚さはなかったが技術面ではしっかりした演奏を聴かせる。

「E.T.」よりフライングシーンの音楽。今日取り上げたジョン・ウィリアムズ作品の中で、この曲だけがメインテーマではない。CMでもよく使われる曲で、尾高はピザのCMに使われたものが印象的だったと述べた。大フィルの音楽性には武満よりもジョン・ウィリアムズ作品のようが合っているように思う。

「ジョーズ」メインテーマ。スピルバーグが「28歳ぐらいの時の映画だと思うのですが」「自分より1つか2つ上なだけの人間(尾高は1947年生まれ、スピルバーグは1946年生まれである)がこうした映画を撮るのか」と衝撃受けたそうである。演奏を見ているとかなり高度はオーケストレーションが用いられているのが確認出来る。

今日はチケット完売、補助席まで売り切れという盛況である。尾高によると満員というのが文化の高さの指標になるそうで、以前、新国立でベンジャミン・ブリテンの「ピーター・グライムズ」をやった時、二日とも満員御礼で初日は良かったのだが、二日目に1階席の真ん真ん中2列が空いてしまっていたという。そこはスポンサー関係者用の席で誰も聴きに来なかったようなのだが、2幕の始まりに、ビーター・グライムズ役のイギリス人歌手が尾高の所に飛んできて、「チュウ! チュウというのは僕のことです。『もう歌わない! あそこが空いてるじゃないか!』となりまして」と語った。

さらにチケット完売時の返券(キャンセル)の話になる。尾高がウィーン国立音楽アカデミー(現・ウィーン国立音楽大学)でハンス・スワロフスキーに師事していた時代のこと。ヘルベルト・フォン・カラヤンが毎年夏に自身が主催するザルツブルク音楽祭を開いており、「カラヤン指揮のオペラが聴きたい」と思った尾高はザルツブルク祝祭劇場(カラヤンが大阪の旧フェスティバルホールをモデルに自らも設計に加わって建てさせたもの)まで出掛けた。
帝王カラヤン指揮のオペラなので前売り券は当然ながら完売、尾高は返券を求めて、開場の1時間半ほど前から並ぶことにしたという。午前8時半頃にザルツブルク祝祭劇場の前に着くと、すでに100人ほどが列を作っている。「こりゃ駄目かな」と思いつつ尾高が列に並んでしばらくすると、黒塗りの豪華な車が劇場の前で止まり、いかにも上流階級といった風の男性が降りてきた。男は尾高に、「おい、君は何やってるんだ?」と聞く。尾高が「オペラを聴くために並んでます」と答えると、「そんなことはわかっている。なにをやっていて、どうしてこのオペラを聴こうと思ったのかを聞いている」。尾高がウィーンで指揮を学んでいることを話すと、男性はチケットをくれたという。なんとS席の中でも特等の座席であったそうだ。
男性はカラヤンの知り合いで、毎年、ザルツブルク祝祭劇場でオペラを観ていたのだが、この年はどうしても抜けられない仕事が出来てしまい、「チケットを無駄にしたくないから、音楽を学んでいる奴にやろう」と決めて、目的地に向かう途中で高速道路を下りて、わざわざザルツブルク祝祭劇場に車を横付けしたのだった。

ラストの「スター・ウォーズ」メインテーマ。輝かしい演奏で掉尾を飾った。

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2018年2月11日 (日)

無類力士 雷電為右衛門

文政8年2月11日、「無類力士」と呼ばれ、史上最強の呼び声も高い雷電為右衛門が死去。

信濃国小県郡に生まれた雷電為右衛門。実家の関家は農家である。小諸に出稼ぎに出た際に怪力を見込まれ、相撲の世界へ。一方で学問にも秀でるという文武両道の人物であった。

角界入りした雷電は出雲国(雲州)松江松平家のお抱え力士となり、雲州にちなんだ雷電の四股名を名乗るようになる。

通算254勝10敗という驚異的な成績からもその強さはわかるが、「余りに強すぎるので突っ張りや閂といった得意技を封印させられた」という伝説(史実ではないようである)の存在が力士としてのカリスマ性に拍車を掛けている。

にも関わらず横綱にはなっていないという事実が雷電のミステリーとして人々の興味を惹くのだが、これはただ単に当時の横綱は名誉職的なものであり、通常の最強の位が大関だったというだけのことのようである。横綱は大老のようなもの、大関が老中のようなものと考えれば良いだろうか。

晩年がこれまたよく分かっていないということが雷電という人物をより魅力的にさせてもいるのだが、一応、私の出身地に近い千葉県佐倉市には「晩年の雷電はここで過ごした」という伝説が残っている。

そんな雷電為右衛門の墓は実は都心にある。東京都港区赤坂の報土寺の境内にである。

これが報土寺にある雷電夫婦の墓石
報土寺 雷電為右衛門の墓

生前の雷電と付き合いのあった報土寺に特別に墓石が建てられたといわれている。


また、江東区の富岡八幡宮(残念が事件があったが)の横綱力士碑には雷電為右衛門が「無類力士」の称号と共に横綱相当の力士として顕彰されている。
雷電為右衛門の銘


これはおまけになるが、YMO(イエローマジックオーケストラ)の「雷電(RYDEEN)」は、雷電為右衛門をイメージして作られた楽曲とされている(本当かどうかはわからない。元は高橋幸宏の鼻歌から生まれた曲である)。
 

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2018年2月 8日 (木)

高関健指揮東京フィルハーモニー交響楽団 伊福部昭 「日本狂詩曲」


伊福部昭の忌日ということで、代表作の一つにして出世作の「日本狂詩曲」の映像を紹介します。高関健指揮東京フィルハーモニー交響楽団の演奏。
 
「日本狂詩曲」は、チェレプニン賞の第1席を獲得していますが、チェレプニン賞の審査員に敬愛するモーリス・ラヴェルがいることを知った伊福部が時間規定に合わせるため全3楽章のうちの第1楽章をカットした2つの楽章からなる作品として応募したという経緯があります(ただラヴェルは体調不良で審査員を降りてしまいました)。なお、伊福部作曲の「ゴジラ」のテーマはラヴェルのピアノ協奏曲へのオマージュだという説があります。

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Happy Birthday ジョン・ウィリアムズ 「スター・ウォーズ」メインテーマ ジョン・ウィリアムズ指揮ボストン・ポップス・オーケストラ


ジョン・ウィリアムズが手兵としていたボストン・ポップス・オーケストラを指揮した映像。ボストン・ポップス・オーケストラはボストン交響楽団の楽団員のうち、首席奏者を除いたメンバーで構成されたポップス・オーケストラ。アーサー・フィードラーに率いられて一時代を築き、ルロイ・アンダーソンの曲などを初演。ジョン・ウィリアムズはボストン・ポップス・オーケストラの2代目常任指揮者であった。

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コンサートの記(343) 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ・コンサートシリーズ 小谷口直子 室内楽演奏会 vol.2

2018年2月3日 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタにて

午後2時から、京都コンサートホール アンサンブルホールムラタで、「京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ・コンサートシリーズ 小谷口直子 室内楽演奏会 vol.2」を聴く。京都市交響楽団の首席クラリネット奏者である小谷口直子が、京響の仲間達と繰り広げる室内楽シリーズの第2弾。出演は小谷口直子の他に、杉江洋子(ヴァイオリン)、上森祥平(うわもり・しょうへい。チェロ)、塩見亮(しおみ・たすく。ピアノ)。全員、東京藝術大学出身である。

曲目は、湯浅讓二の「クラリネット・ソリテュード」、武満徹の「カトレーンⅡ」、メシアンの「時(世)の終わりのための四重奏曲」。全て20世紀に書かれた作品である。

まずは小谷口直子のクラリネットソロによる湯浅讓二の「クラリネット・ソリテュード(孤独)」。無料パンフレットによると小谷口直子が大学4年生の時に卒業試験の曲として選んだ曲だそうである。演奏後に行われたトークによると、「昔は孤独に酔いしれることが出来た」そうだが、「今は仲間が欲しい」と思うようになったそうだ。
「クラリネット・ソリテュード」は、高い音色が駆使されており、倍音や和音の奏法も用いられている。メロディーラインは尺八で演奏するのに似つかわしいものであり、本当に尺八を念頭に置いて作曲されたのかも知れない。


武満徹の「カトレーンⅡ」。小谷口直子は、武満の著書である『音、沈黙と測りあえるほどに』に書かれた文章を無料パンフレットに載せているが、武満の音楽は本当に沈黙を埋めるように音が敷き詰められており、横への拡がりがある。フランス人から「日系フランス人作曲家」などとも賞された武満であるが、フランスの現代音楽作曲家でメシアンの「時の終わりのための四重奏曲」が音が佇立する傾向にあるのとは対照的である。またメロディーというよりも音の明滅に重点が置かれているようでもある。


オリヴィエ・メシアンの「時の終わりのための四重奏曲」。無料パンフレットに寄せられた小谷口直子の文章には、「“時の(世の)終わり”にあたる言葉が示すものは、戦争で破滅に向かうとか、長い抑留生活から連想されるようなものではなくて《過去や未来という概念の終わり、つまり永遠の始まりを表現したものだ》というメシアン自身の言葉」が紹介されており、おどろおどろしさよりも崇高な側面が強調されている。
小谷口がトークで、「演奏する方よりも聴く方がしんどいプログラムになっております」と発言したが、演奏時間50分、内容は難解ということで、聴きやすい音楽ではない。ただこの音楽の響きの美しさは伝わってくる。特に、クラリネット、チェロ、ヴァイオリンがソロを取る部分でそれは顕著であり、ラストのヴァイオリンとピアノのデュオはキリスト教的な「救い」の美に充ち満ちている。


アンコール演奏はなし。その代わりとして(?)出演者と聴衆による記念撮影がある。写真が後日、小谷口のブログに載せられるとのことだ。

アップされたブログはこちらである。

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2018年2月 7日 (水)

これまでに観た映画より(97) 「坂本龍一 PERFORMANCE IN NEWYORK : async」

2018年2月5日 MOVIX京都にて

MOVIX京都で、音楽映画「坂本龍一 PERFORMANCE IN NEWYORK: async」を観る。坂本龍一のニューアルバム「async」のリリースを記念して、ニューヨークのパーク・アヴェニュー・アーモニーで行われた限定ライヴを収録したもの。1時間ちょっとの映画であるが、2500円とチケット代は高めである。

坂本龍一はポップな作品も数多く作曲しているが、根源的には現代音楽指向の作曲家であり、「async」ライヴも音楽とノイズの境界線を探るような曲調が選ばれている。

アンドレイ・タルコフスキー監督の架空の映画のための音楽という設定である。ピアノの弦を棒で叩いたり、こすったりするというプリペイドな技法を始め、エレキギターの弦を金属製のサックをはめた指でなぞることでノイジーな音を生んだり、アクリル板を叩くことで音を出したりと、現代音楽的な試みが行われている。天井にモニターがあり、聴衆がたびたび上方を確認する姿が見られる。映画では映像だけの部分がスクリーンいっぱいに映し出される。森の映像や、水滴が拡がるデジタル画像などである。

わかりやすい内容ではなく、料金も高いので、現代音楽の素養がない人には全く薦められないが、抵抗がない人や坂本龍一の音楽が好きな人は観ておいて損はないだろう。坂本がピアノで奏でる旋律には、彼らしいメロディアスでセンチメンタルな味わいがある。

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2月7日の誕生花は勿忘草 尾崎豊 「forget me not」

個人的には、伊藤英明&仲間由紀恵主演の「LOVE SONG」という映画で主題歌として用いられたのが印象に残っています。

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