カテゴリー「日本映画」の28件の記事

2008年11月24日 (月)

これまでに観た映画より(37) 北野武監督「座頭市」

DVDで北野武監督の「座頭市」を観る。出演は、ビートたけし、浅野忠信、柄本明、岸部一徳、夏川結衣、大楠道代、ガダルカナル・タカほか。
音楽的リズムを随所に取り入れ、最後はタップダンスで終わるという異色の時代劇。これまで地上波でも2回ほど放送されている。

「口縄の親分」の正体が早くにわかってしまうが、それはサスペンスを盛り上げるためにあえてそうしているのだろう。顔は出ないが、声と雰囲気ですぐにわかる。
血が飛び散る残酷時代劇のため、R15指定となっている。

病身の妻(夏川結衣)のためにやむを得ずヤクザの用心棒となる服部源之助(浅野忠信)の悲哀が出ているが、例えば「SF サムライ・フィクション」に出てくる風祭蘭之介(布袋寅泰)などに比べると人物造形が浅いかな、とも思う。夏川結衣にももっと見せ場を与えて欲しかった。
とはいえ、エンターテイメントと割り切るなら十分にハイレベル。物語も面白い。

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2008年11月16日 (日)

これまでに観た映画より(36) 「ロボコン」

DVDで映画「ロボコン」を観る。長澤まさみの映画初主演作。ロードショー当時かなり話題になった映画である。「さよならみどりちゃん」の古厩智之脚本・監督作品。出演は長澤まさみのほか、鈴木一真、小栗旬、伊藤淳史、塚本高史、荒川良々、須藤理彩、うじきつよし等。水野真紀も写真のみで出演している。
残念ながら、その後、他の事件でも有名になってしまう国立徳山工業高等専門学校が舞台。

ロボコンはロボットコンテストのことで、ロボットを使ってボックスを積む陣取りゲームのようなもの。高専生のロボット甲子園とでもいうべきもので、毎年NHKが深夜にその模様を録画中継している。「トリック」でブレークしたばかりの仲間由紀恵が司会を務めていたこともあった。

機械好きの父親(うじきつよし)の影響で高専に入ったはいいものの、入った途端にやる気をなくしてしまい、赤点続きで居残り補習を受けることになった里美(長澤まさみ)。しかし、居残り補習の代わりにロボコンに出場すれば単位を上げるという図師先生(鈴木一真)の提案で、徳山高専第二ロボット部に参加、操縦士(リモートコントロール)役でロボコンに出場する。

第二ロボット部は第一ロボット部に馴染めない人達が作ったいわば落ちこぼれ組。中国地方予選で第二ロボット部は初戦で敗退。しかし多くのボックスを一度に積むロボット構造が評価され、特別推薦で全国大会に出場することになる。第二ロボット部のメンバーは、天才的な理系の頭脳を持ちながら他人の感情に余りにも疎い航一(小栗旬)、部長でありながら使いっ走り根性が抜けない四谷(伊藤淳史)、能力は高いのに根気が続かずサボってばかりの竹内(塚本高史)など、一癖ある人ばかり。ロボットに対する情熱はあるのだが、勝ちたいという気力に欠けており、里美は歯がゆい気持ちでいっぱいになる…。

周防正行監督の「シコふんじゃった。」、矢口史靖監督の一連の作品などに通ずるところのある映画。

落ちこぼれの学生が、学業以外の活動で単位を貰おうとするところなどは「シコふんじゃった。」そっくりである。
ただ、勝ちたいという気持ちが大切なのは当然として、勝つばかりが人生の喜びではないというところも教えてくれる。ブラスバンドが自分のチームをコンバットマーチで応援し、敗れると相手(里美のいる徳山高専)を「蘇州夜曲」で讃えるシーンなどは爽やかな感動を呼ぶ。

ロボコンを通じて高専生達が人間的に成長していく様が爽快である。
長澤まさみの可愛いだけではない飄々としたところのある演技も印象的であり、ストーリー展開がオリジナリティに欠けるところや地味さはあるものの、優れた青春映画として多くの人に薦めたくなる一本であった。

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2008年9月19日 (金)

笹野高史 『待機晩成』

副題は「日本一の脇役が語る人生の美学」。オンシアター自由劇場出身で、その後、商業演劇、映画にテレビ、ついには歌舞伎にまで出演してしまった俳優、笹野高史の著書『待機晩成』(ぴあ)を紹介します。

笹野が高校生の頃に、いとこがやった占いで「高っちゃんはね、大器晩成型」といわれ、しかし笹野曰く「大器じゃなくて待機していただけ」で晩成したというのがタイトルの由来です。

笹野高史 『待機晩成』 兵庫県の淡路島に、造り酒屋の四男坊として生まれた笹野高史。子供の頃は「笹野のぼん」などと呼ばれたそうですが、幼い頃に両親が死去し、以後は親戚の家を頼って、男兄弟四人で支え合って育ちます。そんな笹野少年の夢は映画俳優になること。しかし、決して男前とはいえない笹野少年は人前では「映画俳優になりたい」とは口に出来ませんでした。そんな笹野少年の心の支えだったのが、男前でないのに映画の主役を張っていた渥美清。

この本では、笹野高史が、上京して自由劇場の演劇に触れ、1年本ほどの舟乗り生活を経て、串田和美に呼ばれて自由劇場に戻り、10年間、自由劇場の役者として活躍した後(自由劇場にいるのは修行期間に相当する10年間と、本人もなぜかはわからないが決めていたそうです)、商業演劇に移り、それから映画で憧れの渥美清と共演するようになる様が、笹野らしく淡々としたタッチで書かれています。

渥美清との付き合いの他にも、自由劇場時代に出会った柄本明の話、映画「武士の一分」で共演した木村拓哉の話など、演劇ファン、映画ファンならずとも面白い話も収録。

「自分は主役の器ではないけれど……」と思いつつ、映画や演劇の世界に憧れている若い人にも是非読んで貰いたい本です。

笹野高史 『待機晩成』(ぴあ) 紀伊國屋書店BookWeb

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2008年9月12日 (金)

これまでに観た映画より(35) 「セプテンバー11」

DVDで映画「セプテンバー11」を観る。2002年の作品。世界11カ国の映画監督が、2001年9月11日に起こったアメリカ同時多発テロ(9・11)を題材にして作った、それぞれ11分9秒01の長さのショートフィルムが連続して上映されるというオムニバス作品。日本からは今村昌平監督が参加。本作品が今村昌平の遺作となった。
参加した国は上映順に、イラン、フランス、エジプト、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルキナファソ、イギリス、メキシコ、イスラエル、インド、アメリカ、日本。
9・11発生直後にアメリカで起こった、平和ソング放送規制への反抗からか、表現の自由をテーマにしており、作風の統一は一切見られない。

DVD「セプテンバー11」 当然、シリアスな作品が多い。
メキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督(代表作「バベル」)は、真っ暗の画面を使って、呪文のような声と音楽で独特の雰囲気を作り出し、時折衝撃音を入れている。この衝撃音が何を意味するのかは作品の途中でわかり、ラストのメッセージで、何故、暗闇のままの映像を用いていたのかが明かされる仕掛けになっている。

イギリスのケン・ローチ監督は、チリで起こったクーデターを題材にしている。1970年、民主的な選挙により、チリに共産主義政権が誕生する。しかし共産主義を怖れていたアメリカが内政干渉。アメリカは更にチリ国内の反共勢力を支援、クーデターを起こさせる。
1973年9月11日、CIAの支援を受けたピノチェトが蜂起する。共産政権の大統領であったアジェンデは大統領官邸内に籠もって抗戦、戦死した。
赤狩りを逃れ、ロンドンで暮らす男性(ウラジミール・ヴェガが演じる)を主人公として、アメリカの「正義」に疑問を投げかけ、全ての犠牲者を追悼するという深く苦い味わいのある作品に仕上げている。

シリアスな作品が続く中で、ブルキナファソのイドリッサ・ウエドラエゴ監督は、ブルキナファソの田舎町に現れたビンラディンに似たアラブ系男性を巡るコミカルなムービーを作っている。

今村昌平監督の作品は独特。他の監督が、倒壊する世界貿易センターの映像や、9月11日という日付を使っているのに、今村監督はそうしたものを一切使わずに戦争の狂気を描き出す。舞台はアジア・太平洋戦争終結直後の日本の寒村。戦争から帰還した男(田口トモロヲ)は、すでに発狂しており、自分が蛇だと思いこんで地を這い、ネズミを丸呑みにしたりする。
出演者は豪華。田口トモロヲ、麻生久美子、柄本明、倍賞美津子、丹波哲郎、市原悦子のほか、緒方拳がナレーションを担当し、出演もする。
役所広司もワンシーンだけ出ているが、後ろの方にただいるだけでセリフは全くなし。カメオ出演のようなものとはいえ、贅沢な使い方である。

Movie/セプテンバー 11

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2008年8月29日 (金)

これまでに観た映画より(34) 「リンダ リンダ リンダ」

DVDで日本映画「リンダ リンダ リンダ」を観る。タイトルはザ・ブルーハーツの名曲「リンダ リンダ」から取られている。

何故か、「子猫をお願い」の韓国人女優、ペ・ドゥナ主演の学園ドラマ。主演は他に、香椎由宇、前田亜季ほか。元ザ・ブルーハーツのボーカル、甲本ヒロトの実弟で、俳優の甲本雅裕(元・東京サンシャインボーイズ)も教師役として出演している。山下敦弘監督作品。
前橋や高崎といった群馬県でロケが行われた映画である。

田舎にある芝崎高校の学園祭。出演予定だった女の子バンドだが、トラブルがあり、崩壊寸前の状態にある。響子(前田亜季)は恵(けい。香椎由宇)や望(関根史織)らとバンド再結成を目論む。曲目はザ・ブルーハーツに決定。しかしボーカルがいない。そこで、たまたま通りかかった、韓国からの留学生、ソン(ペ・ドゥナ)をボーカルの起用するのだった…。

ジャズを題材にした「スウィング・ガールズ」に少し似たところがあるが、「スウィング・ガールズ」がずぶの素人が成長していく過程を描いたのに対し、「リンダ リンダ リンダ」は基礎は出来ている女の子達の話であり、それだけに音楽的上達よりも女の子同士の友情に重点が置かれている(とはいえ、例によって、テクニカルタームでいう「妨害」はあり、ここだけは「スウィング・ガールズ」にそっくりである)。

俳優陣はしっかりした演技を見せる。ペ・ドゥナのポニーテールが似合っていないのと、前田亜季がしばらく見ない間に佐藤仁美のようになっていたのが気になるが、物語には影響していない。

ラストのステージのシーンはノリノリでここだけでも見る価値はある。だが、夢のシーンは本当に必要だったのかどうか。

ちなみに同級生を演じてはいるが、最年長のペ・ドゥナ(撮影当時25歳)と最年少の香椎由宇(撮影当時17歳)の年の差は8歳もある。

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2008年8月16日 (土)

これまでに観た映画より(32) 「赤目四十八瀧心中未遂」

DVDで映画「赤目四十八瀧心中未遂」を観る。車谷長吉(くるまたに・ちょうきつ)の小説の映画化。

現代では数少なくなった私小説の書き手、車谷長吉の作品を映画化するのは難しいと思うが、この作品は原作とは別の力で勝負している。

林海象プロデュース、荒戸源次郎監督作品。出演は、寺島しのぶ、大西滝次郎、大楠道代、内田裕也、大森南朋、新井浩文、麿赤児ほか。

袋小路のような尼崎、主人公の「この世界に受け入れられない疎外感」の映像による表現には限界はあるものの工夫は見られる。

それよりも、この映画では、あや(綾)ちゃん(寺島しのぶ)の「誘う女」、「死神」的色彩が原作よりも遙かに濃く出ている。

主人公の生島が綾の後をつける場面、生島が海岸から戻るときに隧道に入るのだがそこが黄泉への入り口に見える場面、赤目で生島が綾の先を歩いていて、綾が着いてきているのかと、ふと立ち止まる『オルフェウス』を思わせる場面、また、赤目四十八瀧が幻想的でありながら黄泉路をなぞっているところ、また、全てが幻覚であったかのようにも取れるラストなど、「死」的なイメージの連鎖がある。

その「死」的な毒を感じられるかどうかが、この映画に対する好悪を分かつように思う。
主人公・生島を演じる大西滝次郎は、これが映画初出演となる新人だが、モノローグやナレーションが弱い。ダイアローグでは決して上手くない演技も朴訥さとして生きるが、一人語りでは経験の乏しさが如実に出てしまっている。

寺島しのぶは何だかんだといわれるが良い。原作に惚れ込んで自ら綾役を申し出たというだけのことはある。

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2008年7月18日 (金)

これまでに観た映画より(29) 「花よりもなほ」

DVDで日本映画「花よりもなほ」を観る。原案・脚本・監督:是枝裕和。主演:岡田准一、出演は、宮沢りえ、田畑智子、香川照之、古田新太、國村準、加瀬亮、上島竜兵、夏川結衣、木村祐一、原田芳雄、寺島進、浅野忠信ほか。

頃は元禄、松の廊下での刃傷騒ぎのあった直後、松本藩士・青木宗左右衛門(岡田准一)は、父の仇を討つべく、江戸のボロ長屋に三年間潜伏を続けて、仇の行方を追っている。だが、実は仇である金沢十兵衛(浅野忠信)はすでに見つかっていた。しかし、宗左右衛門は剣の腕の弱さと生来の優しさから、今は後家と契りを結びんで実子でない子を養っている金沢を討つことが出来ないでいる。

一方、主君の仇を討つべく、赤穂浪士達は、宗左右衛門の住む長屋に潜む小野寺十内(原田芳雄)らのもとに詰めかけていた……。

仇討ちをテーマにしながら、散ることよりも生かすことの大切さを伝える痛快な作品である。「散る」のは確かに格好いいけれども、格好付けようとした格好良さであり、人間として(見栄えはしないが)本当に格好良いのは、生かすこと、生きることであるとする訴えが爽快である。

これは傑作だ。

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2008年7月 5日 (土)

これまでに観た映画より(27) 「蒲田行進曲」

DVDで日本映画「蒲田行進曲」を観る。階段落ちのシーンで知られる作品である。原作&脚本:つかこうへい、監督:深作欣二。出演は、松坂慶子、風間杜夫、平田満、原田大二郎、蟹江敬三、石丸謙次郎、萩原流行ほか。JACの千葉真一、真田広之、志保美悦子が本人役で友情出演している。

「蒲田行進曲」というタイトルなのに舞台は京都。松竹映画なのに、東映京都撮影所を中心に繰り広げられる物語で、監督も東映の深作欣二というひねくれた作品である。

スターだが、実生活では女ったらしの駄目男、「銀ちゃん」こと倉岡銀四郎(風間杜夫)、大部屋俳優の「ヤス」こと村岡安次(平田満)、かつては映画女優だったが今は全く売れていない小夏(松坂慶子)。普通の人生からは完全にはみ出てしまっている人が織りなす人情劇、というのもひねくれている。

くさい芝居が売り物の銀ちゃんだが、銀ちゃん役の風間杜夫を始め、出演者全員がくさい芝居をする。というより、くさい芝居でないと観ていられないし面白くない映画だろう。そういう映画もある。

笑えるシーンはたくさんあるが、基本的には人間ドラマ。今はもう時代遅れな気もするけど泣かせるねえ。私は泣かなかったけれど。
笑いを武器に、アングラ演劇第二世代を独走した、つかこうへいは、「私はコメディなどというゲスなものを書いたことは一度もありません」と語っているが、本音だろう。この映画を観てもそれはうなずける。

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2008年5月31日 (土)

これまでに観た映画より(23) 山中貞雄監督作品「丹下左膳余話 百萬両の壷」

DVDで1935年制作の日本映画「丹下左膳余話 百萬両の壷」を観る。天才と呼ばれながらわずか28歳(数え年で29歳)で夭逝した山中貞雄監督の満25歳時の作品。大河内傳次郎主演。出演は喜代三(きよぞう。またの名を新橋喜代三〈しんばし・きよみ〉。のちの中山晋平夫人である)、四代目沢村国太郎(長門裕之、津川雅彦の父親)、花井蘭子、深水藤子ほか。大映京都制作。右目と右腕のない剣豪・丹下左膳を主人公にしたコメディー時代劇。カットされた大立ち回りのシーン(ただし音声はなし)も含めた完全版。

「丹下左膳 百萬両の壷」は、津田豊滋監督、豊川悦司の主演でリメイクされているが、やはりオリジナルの方がずっと面白い。大河内傳次郎の丹下左膳は腕は立つが普段は駄目男という丹下左膳像が良く出ているが、トヨエツの場合は駄目男をやらせても格好良すぎて笑えないのである。

当時、当代一の芸者として鳴らし、歌手としても活躍していた喜代三の歌と演技も素晴らしく、江戸女の粋を見事に再現している。

山中演出はシーンの飛ばしや、セリフの間の置き方が絶妙で、観ていて大笑いしてしまうシーンも多数。25歳でこれだけの映画を取ることの出来た山中の早世が今更ながら惜しまれる。

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2008年5月27日 (火)

これまでに観た映画より(22) 「バベル」

2007年6月1日 MOVIX京都にて

MOVIX京都で、「バベル」を観る。メキシコ出身のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品。出演は、ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナル、菊池凛子、二階堂智、役所広司ほか。音楽は既成のものが使われ、ラストシーンでは坂本龍一の「美貌の青空」(ピアノ&ストリングス・バージョン)が流れる。

モロッコ、アメリカ南部とメキシコ、東京を舞台とした作品。3つの場所での出来事が微妙に関わっている。

モロッコで、少年が遊び半分でライフルを撃つ。その弾がアメリカからの旅行客・スーザン(ケイト・ブランシェット)の首に命中する。

アメリカ南部、アメリカ人の家で乳母をしているメキシコ出身のアメリアは、主である夫妻が外国旅行に出ている間、留守と主夫妻の2人の子供を預かっている。しかしメキシコでアメリアの息子の結婚式がある日、代わりに来るはずだった育児担当者が来られなくなってしまう。やむなく2人の子供とともに国境を越えるアメリア。

東京、耳と口の不自由な女子高生・チエコ(菊池凜子)は孤独の底にいた。

モロッコと、アメリカ南部およびメキシコ編は、砂漠という大自然の前に無力な人間の姿が描き出され、ベルトルッチ監督の「シェルタリング・スカイ」を思い起こさせる。ブラッド・ピットとケイト・ブランシェットが夫婦を演じるモロッコ編は特にそうだ。

東京では、最先端の都市(少なくとも映画の中では東京は世界最先端の街として登場する)に生き、裕福な家庭に育ち、夜景の素晴らしい高層マンションに住みながら、そうした恩恵から遠い少女の姿が描かれる。

別の人が言えないでいる言葉を別の場面にいる他の人間に語らせるなど、意欲的な演出が光る。

本質的には人間存在の不安定さに重点を置いた重い作品である。
やむにやまれぬ事情が重なったということもあるのだが、やらずもがなのことをしてしまう人間という生物の本質でもある「愚かしさ」に歯がゆさを覚え、同時に人間の弱さに胸を痛める。

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2008年5月 6日 (火)

これまでに観た映画より(20) 「ワンダフルライフ」

DVDで是枝裕和監督の映画「ワンダフルライフ」を観る。この世を去った人々が訪れる天国の入り口にある施設。死者達はこれまでの人生で一番思い出に残る場面を選び、それを撮影してから次の世界に旅立っていく。主演:ARATA、小田エリカ、内藤剛志、寺島進ほか。

旅立ちとは何か、と考えさせられる作品。死者達と面談する施設の人達は実は全員、「一番の思い出」を選ぶことが出来なかったためにここで働いているのだ。

施設で働く青年・望月隆(ARATA)はある老人との面談を担当する。実はその老人は望月のかっての許嫁と結婚した人物であった。望月は容貌こそ22歳だが、太平洋戦争で戦死しており、その老人とは同世代だったのだ。
望月の心の中に起きる旅立ちへの思い。

何を選び、どこへ行くのかという問いは実は人生そのものの問いでもある。岡村孝子の歌にもあるが、「いつかはみな旅立つ、それぞれの道を歩いていく」。何がきっかけで、どの道を選ぶのかは個人個人の最重要問題だ。選択なんて実は出来ないし誰もしてはいないというのもまた真実かも知れないが、信じる道を歩むという決意を常に再認識していくことの大切さを思い出させてくれるドラマである。

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2008年4月21日 (月)

DVD「夕凪の街 桜の国」

日本映画「夕凪の街 桜の国」のDVDを紹介します。こうの史代のマンガを佐々部清の監督により映画化。主演:田中麗奈、麻生久美子。出演は、堺正章、中越典子、金井勇太、吉沢悠、伊崎充則、粟田麗、藤村志保ほか。

映画「夕凪の街 桜の国」DVDジャケット

広島の原爆をテーマとした作品でありながら、原爆を直接描くことなく、それでいて原爆の悲惨さをリアルに伝えるという異色作。

映像も音楽も美しく、それゆえに原爆の悲劇がよりクッキリと浮かび上がります。テーマは重いものの、描かれるのは日常であり、いかにも戦争映画といった雰囲気はありません。しかしそうであるがために、半世紀以上前と現在との繋がりが深く感じられるということでもあります。

1958年が舞台の「夕凪の街」編と、2007年が舞台の「桜の国」が緩やかに繋がる構成。原作マンガの芸術性が高いため、脚本と演出にかなり手こずった形跡が見られますが、映画としても高い水準は得られています。

陰と陽、内向きと外向きという正反対のキャラクターと役作りを見せる主演二人の演技の対比も見所の一つです。

Movie/夕凪の街 桜の国

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2008年4月16日 (水)

ネオ・クロサワの名を全世界に轟かせた衝撃のサイコ・サスペンス 「CURE」

ネオ・クロサワこと黒沢清監督の名を全世界に轟かせたサイコ・サスペンス映画「CURE」のDVDを紹介します。
脚本&演出:黒沢清。主演:役所広司、萩原聖人。出演は、洞口依子、うじきつよし、中川安奈、大杉漣ほか。

黒沢清監督作品「CURE」 DVDジャケット

東京23区内を中心とした南関東地方各地で奇妙な連続殺人事件が起こる。死体はいずれも頸部を「X」の形に切り裂かれているのだが、逮捕された容疑者は複数で、互いに面識がなく、なぜ頸部を「X」型に切り裂いたのかを訊いても明確な答えが得られない。

警視庁の高部(役所広司)は、ドラマや映画、小説の影響の線を当たってみるが、それもないという。
捜査を続けるうちに、容疑者達と関連のある一人の男が浮かび上がる。男の名は間宮邦彦(萩原聖人)。数年前まで医科大学で精神医学を学んでいた青年である。記憶に障害を持つ間宮に殺人教唆の疑いがかかる……。

これまでに何度も何度も繰り返し観た映画ですが、最初に観たときの衝撃はさすがに弱まるものの、人間であることの悲しさや人間存在そのものの危うさと不気味さへの認識はむしろ高まっています。
そして何といっても萩原聖人が演じた間宮邦彦という男の存在。脚本や演出も巧みですが、間宮という、おそらく俳優なら誰でも演じてみたくなるような魅力的な悪役の造形に成功したことが、この映画の面白さを倍加させているのは間違いのないところでしょう。

Movie/Cure: キュア

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2008年1月30日 (水)

これまでに観た映画より(17) 『シコふんじゃった。』

DVDで、日本映画『シコふんじゃった。』を観る。周防正行監督作品。出演は本木雅弘、清水美砂、竹中直人、柄本明、田口浩正ほか。
千葉にいた頃はこの映画のセルビデオを持っていて何度も観た。何度観ても勇気づけられる良い映画である。

教立大学(モデルは漢字をひっくり返した立教大学。周防正行監督の母校である)の4年生である山本秋平(本木雅弘)は就職も決まり、所属するシーズンスポーツ同好会の夏合宿である沖縄スキューバツアーを企画して盛り上がっている。しかし遊び学生である秋平は単位が足りず、卒論も書けそうにない。そこで卒論担当教授の穴山(柄本明)は、かって自分が所属していた教立大学相撲部に入って大会に出てくれれば、特別に卒論の単位を出してもいいと提案する。教立大学相撲部には青木(竹中直人)という大学8年目の学生一人しか所属していない。このままでは大会に出られないのだ。
単位と引き替えに相撲の大会に出ることにした秋平は青木とともに部員の勧誘を始めるのだが……。

海外でも評価の高い名画である。1992年の作品。ということで、当然ながら出演者は皆まだ若い。

ライバル校として登場する大学もみな漢字を逆にしただけなのでどこの学校がモデルなのかすぐわかる。北東学院大学、波筑大学、応慶大学、衛防大学校、本日医科大学など。何てイージーな。ちなみに本日医科大学の相撲部員役で無名時代の手塚とおるが出ているのだが、役名は足塚であった。これもまたイージーな。

余談だが、秋平(本木雅弘)の、「沖縄……、スキューバ……」を、青木(竹中直人)が「え? 大きなスケベ?」と聞き違えるという、かなり笑えるシーンがあるのだが、青木のセリフは竹中直人のアドリブだそうである。

周防正行監督はもともとはロシア文学が好きで、ロシア文学科のある早稲田大学に行きたかったのだが、二浪しても(その間、勉強せずに映画ばかり観ていたということもあって)入れなかった。フランス文学も好きだったので、立教大学の仏文科に進んでいる。当時、立教大学には映画評論家として著名な蓮實重彦(のちの東京大学総長)が助教授として籍を置いており、周防監督は蓮實重彦の「映画論」の講義に感銘を受けて映画を撮り始めるようになる。

なぜ、周防監督の経歴について書いたかというと、『シコふんじゃった。』の人間関係における「片思いの連鎖」はチェーホフの『かもめ』の影響なのではないか、と気づいたからだ。周防監督はロシア文学の中でも特にチェーホフが好きであることがわかっている。

それはともかくとして、『シコふんじゃった。』は本当に良い映画だ。私も色々と教わることが多かった。これからも何度も見直したい映画である。

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2007年12月28日 (金)

祝ご結婚 麻生久美子主演「SF Short Films」

本日、ご結婚を発表された麻生久美子さん主演映画のDVDを紹介します。
中野裕之監督のSFシリーズ第3作「SF Short Films」。タイトル通り、ショートフィルムの連作で、麻生久美子は全6作品中3作品に主演しています。

「SF Short Films」

「Return」(中野裕之監督作品、出演:麻生久美子、田中要次、村上淳ほか)、「県道スター」(ピエール瀧監督作品、出演:ゲッツ板谷、安藤政信ほか)、「ハナとオジサン」(芹澤康久監督作品、出演:ピエール瀧、hanaeほか、「アダージェット」(安藤政信監督作品、出演:麻生久美子)、「仲良き事は良きことかな」(中野裕之監督作品、出演:大竹まこと、斎木しげる、きたろう、犬山犬子ほか)、「Slow is Beautiful」(中野裕之監督作品、出演:麻生久美子、桃生亜希子ほか)の6本のショートフィルムを収録。

ショートフィルムだけに傑出して面白いという作品はありませんが、普段とは別の角度から見た日常を上手く切り取って見せています。

40本以上の映画に出演しているという売れっ子映画女優の麻生久美子ですが、「SF Short Films」の立川空子(たちかわ・くうこ)が彼女の地に一番近い役だと思われます。

麻生久美子の実家の付近でもロケが行われており(感心するくらい田舎です)、また「Return」には麻生久美子の実のお母さんが、「Slow is Beautiful」には麻生久美子の実のお祖母さんが出演されています。

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2007年12月17日 (月)

街の想い出(19) 銀座その2 東劇

街の想い出(19) 銀座その2 東劇

東劇。銀座と築地の中間、東銀座にある映画館です。

ここで観た映画と特に印象に残っているのは、竹中直人監督の「119」と黒沢清監督の「ニンゲン合格」。

「119」は消防署員の物語。とはいえ、ここ何年も火事が起こっていないという平和な海辺の街でのお話です。出演は、赤井英和、鈴木京香、温水洋一、塚本晋也、浅野忠信、津田寛治、マルセ太郎、宮城聰、竹中直人ほか。脚本は、筒井ともみ、宮沢章夫、竹中直人の3人が担当。音楽:忌野清志郎。
静岡県沼津市を中心とした日本情緒の残る風景、小津安二郎を意識した竹中の演出、撮影当時25歳だった鈴木京香の日本美人ぶり、忌野清志郎の歌など、見所の多い作品です。

「ニンゲン合格」は、14歳の時に事故で記憶を失った青年(西島秀俊)が10年ぶりに目覚めたところから始まるヒューマンドラマ。出演は、西島秀俊、役所広司、りりぃ、麻生久美子、哀川翔、洞口依子ほか。
展開が淡々としているので、“退屈だ”と評価する人も多かったようですが、「人間」、「夢」、「家族」などについて考えさせられるところも多く、個人的には第一級の人間ドラマであると思っています。

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2007年11月29日 (木)

これまでに観た映画より(14) 「かもめ食堂」

2006年6月5日 京都シネマにて

久しぶりに映画館まで映画を見に行く。京都シネマで公開中の「かもめ食堂」。オール・フィンランドロケによる日本映画である。
10時20分の回(つまり初回)を観る。京都シネマのロビーには早朝サービスとしてお茶が無料で飲めるようになっている。

「かもめ食堂」。フィンランドの首都ヘルシンキで、おにぎりをメインにした食堂「かもめ食堂」をオープンしたサチエ(小林聡美)。しかし1ヶ月経っても一人も客が来ない。ヘルシンキの3人のおばちゃんが食堂の中を覗いて、「あの子(サチエ)、大人かしら? 子供かしら?」、「子供なんじゃないの?小さいから」などと言っているだけである。
ようやく最初のお客が来る。日本オタクのトンミ・ヒルトネンという青年である。ヒルトネンはサチエに、「ガッチャマンの歌」を全て歌って欲しいと要望するが、サチエは「誰だ、誰だ、誰だ」の部分しか思い出せない。その日、書店に立ち寄ったサチエは、ミドリ(片桐はいり)という女性に出会い、「ガッチャマンの歌」をフルコーラス教えて貰う…。

はやらなかった「かもめ食堂」が繁昌するまでのお話。主要スタッフは全て日本人だが、フィンランドで撮影したためか、画面上に日本映画とは異なった時間が流れているのがわかる。出てくる料理も全て美味しそうで、こちらも食べたくなる。

小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ、というとても濃い3人のコメディエンヌの主演だが、互いの個性と個性が調和して、爽やかな味わいが生まれている。

フィンランドの森のシーンがあるのだが、本当にトロルが出そうな雰囲気である(実際に、「トロルの悪戯か?」と思われるシーンがある)。映像も、画面に吸い込まれそうになるほど美しい。

ほのぼのとしたラストシーンも良く、愛すべき一本になっている。

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2007年11月15日 (木)

矢口史靖×鈴木卓爾 「ONE PIECE」秋コレクション

矢口史靖監督と鈴木卓爾監督が作ったショートフィルム集「ONE PIECE」の秋コレクションを紹介します。

以前に、春コレクションを紹介しましたが、秋コレクションもやはり全て家庭用ビデオカメラを用いた、ワンカット、編集なし、アフレコなしのショートフィルム集。

矢口史靖×鈴木卓爾 「ONE PIECE」秋コレクション

出演は、自主制作映画の帝王、BOBAさんこと田中要次、自主制作映画の女王こと唯野未歩子(ただの・みあこ。ジャケットの女性が彼女です)ほか。

大地震後の部屋を描いた「二人ぽっちの惑星」(矢口史靖監督)、おそろしくシュールな「傘男」(鈴木卓爾監督)、これまた怖い「暗室」(矢口史靖監督)、女性の嫉妬心を描き、恐ろしい結末を迎える(?)「祝辞」(矢口史靖監督)、これまた別の意味で恐ろしい結末を迎える「社長の首」(鈴木卓爾監督)、河原で集団ダンスの練習をする中学教師の姿をコミカルかつシリアスに描いた「サウンドオブ中学教師」(鈴木卓爾監督)、のちに深津絵里主演のテレビドラマとしてリメイクされることになる「猫田さん」(矢口史靖監督)など、全14作品が収められています。

特典として、唯野未歩子が踊るエンディング映像と鈴木卓爾監督の短編映画「おっけっ毛ビビロボス」(出演:西田尚美、西牟田恵、猫田直、上野純子、阿部サダヲ、田中要次ほか)がついています。

軽い感じで撮られたものが多いので、観て、「あー、面白かった」と思う作品は少ないのですが、恋愛ものである「猫田さん」(主演の相川直はこの作品に出演したのをきっかけに猫田直に改名した)などはなかなかです。

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2007年8月28日 (火)

これまでに観た映画より(8) 黒澤明 「天国と地獄」

DVDで映画「天国と地獄」を観る。黒澤明監督による刑事サスペンス。主演:三船敏郎。刑事役に仲代達矢。犯人役は山崎努。
エド・マクベインの小説を翻案、映画化したもの。横浜を中心に神奈川県内各所が舞台となっている。

会社重役権藤(三船敏郎)の息子が誘拐される、と思いきや実は誘拐されたのは権藤の運転手の息子だった。だが誘拐犯は身代金を渡さなければ子供を殺すと言い張り……。

特急こだま(まだ新幹線ではない)の唯一開く窓を使った酒匂川鉄橋(小田原市内)での身代金のやり取り、モノクロの映像に煙だけが赤く染まって流れる場面(このシーンは映画「踊る大捜査線」でパロディー化されている)、阿片窟として描かれた横浜・黄金町など見所が多く、2時間20分を超える大作ながら一息に見せてしまう。

三船敏郎は世界的な俳優であるが、例えば電話で喋るシーンなど、迫力はあるが巧さは感じられない。俳優の平均的な演技水準は今の方が上だと思う。

横浜の黄金町がとんでもない場所として描かれている。確かに黄金町はいかがわしい街ではあるがこれほど酷くはない。ただ黒澤監督は黄金町を怖れていたそうで、昼間でも決して一人ではこの街を歩かなかったという。後に林海象監督が映画・濱マイク三部作(「我が人生最悪の時」、「遥かな時代の階段を」、「罠」)を黄金町を舞台として撮っているが、これは「天国と地獄」の黄金町の場面にオマージュを捧げたものだろう。

権藤のことを恨む、犯人の医学生・竹内銀次郎を演じる山崎努はこの頃から存在感抜群だ。

全編スリル溢れる構成となっているが、竹内が花屋に入ったという情報を無線で受けた戸倉警部(仲代達矢)が「誰か花を買いに行かせろ」と命令したところ、車で尾行中の刑事から「生憎、花を買いに行きそうな面(をした刑事)がいません」と答えが返ってくるという、客席は大爆笑したであろうシーンも挿入されていて心憎い。

麻薬中毒者の群れの中に菅井きんがいたり、刑事の一人を名古屋章が演じるなど、私のような団塊ジュニア世代にも馴染み深い俳優が紛れているのが面白い。

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2007年8月21日 (火)

これまでに観た映画より(7) 「ゆれる」

DVDで日本映画「ゆれる」を観る。西川美和:脚本&監督作品。出演は、オダギリジョー、香川照之、真木よう子、伊武雅刀、蟹江敬三、新井浩文ほか。

東京で写真家として成功している猛(たける。オダギリジョー)が母の葬儀のために山梨の実家に戻ってくる。猛の兄・稔(香川照之)は実家のガソリンスタンドを継いでいる。そのガソリンスタンドで働く猛と稔の幼なじみ・智恵子(真木よう子)。稔と親しい智恵子の姿を見て、猛は軽いジェラシーを感じる。その夜、猛は智恵子を家まで送り、一夜を共にする。
翌日、猛と稔と智恵子は三人で渓谷まで出かけた。そして、渓谷に架かる吊り橋から智恵子が転落死する…。

心象風景を徹底して用いるきめ細やかな演出がまず印象的である。「ゆれる」というタイトルは、直接的には吊り橋に由来するのだろうが、人間の心の動き、特に猛と稔の心の揺れを暗に示し、セリフもまた両義的なものが数多く用いられ、観ている者に揺さぶりをかけてくる。
内容的には目新しいものではないかも知れないが、構造や細部の作り方の丁寧さに好感を持った。全て映像で語ってしまうのではなく、ヒントを与えて観客の想像力を信じるスタンスも悪くないと思う。

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2007年7月28日 (土)

これまでに観た映画より(4) 小林正樹監督 「怪談」

DVDで映画「怪談」を観る。小泉八雲原作、小林正樹監督、出演は三國連太郎、新珠三千代、仲代達也、岸恵子、田中邦衛、志村喬、ほか。音楽音響:武満徹。「黒髪」、「雪女」、「耳なし法一」、「茶碗の中」の4話オムニバス。全編で3時間3分の大作である。
背景に絵を用いたり、見るからにミニチュアとわかるセットを敢えて用いるなど独自の美学が生きている。
「怪談」には不思議な美しさがある。静謐の美といったら良いだろうか。小泉八雲が「怪談」に惹かれたのも日本人独自の感性が怪談の中に生きていると感じたからではないか。
「黒髪」では若い頃の三國連太郎が出世のために妻を捨てる武士を演じているのだが、たまに見せる表情が息子の佐藤浩市そっくりなことがあり、やはり血は強いものなのだと感心してしまう。

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2007年7月 4日 (水)

怖くて切ないサイコサスペンス 映画『ハサミ男』

映像化は不可能と言われた、殊能将之の小説『ハサミ男』に池田敏春監督が挑み、見事、映像化に成功した、映画『ハサミ男』のDVDを紹介します。2004年制作、2005年2月劇場公開。

主演:豊川悦司、麻生久美子。出演は他に、阿部寛、斎藤歩、樋口浩二、阪田瑞穂、石丸謙二郎、小野みゆき、広岡由里子、柄本祐、寺田農ほか。

池田敏春監督 豊川悦司&麻生久美子主演 映画『ハサミ男』

埼玉と東京都江戸川区で女子高生が絞殺され、首にハサミを突き刺された格好で遺体が発見される。マスコミは犯人を「ハサミ男」と名付け、センセーショナルに取り上げた。
そんな中、東京都目黒区鷹番で第3の事件が起こる。しかし、それが「ハサミ男」の犯行ではないと気付いた男(豊川悦司)と女(麻生久美子)は第3の事件の真犯人を探る…

池田敏春監督が原作を読んでから映画を完成させるまで5年を費やしたというだけあって、非常に緻密な仕上がりの映画になっています。映画が始まってしばらくの間は、頭に引っかかるところがいくつも出てきますが、その理由について一つ一つ考えながら映画を観ると、より楽しめると思います。

また出来れば繰り返し観て下さい。同じセリフと仕草が、最初に観たときとは別の意味を持って伝わって来て、構築の見事さに気付くはずです。

殊能将之の原作では希薄だった人間ドラマにも重点が置かれており、人間の怖さと同時に切なさも追求されていて、池田監督の力に舌を巻きます。

豊川悦司のギラギラとした妖しさが魅力的。
また、この映画で女優魂を感じさせる演技を見せる麻生久美子は、同時に非常にエロティック、それも陰性のエロティシズムを発揮しており、女優としての能力の高さに魅せられます。

音楽担当は、映画『マルサの女』や、『ニュースステーション』のテーマ音楽の作曲で知られる、作曲家兼サキソフォン奏者の本田俊之。この映画では、池田監督の要望により、ラッシュフィルムを観ながら即興でサキソフォンを吹いて音楽を付けていくという、ルイ・マル監督が『死刑台のエレベーター』でマイルス・デイヴィスを起用して行ったのと同じ手法が採られており、即興的な味わいのある奥深いサキソフォン演奏を楽しむことが出来ます。

Movie/ハサミ男

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2007年6月22日 (金)

矢口史靖×鈴木卓爾 「ONE PIECE」春コレクション

東京造形大学の同期生である矢口史靖(やぐち・しのぶ)監督と鈴木卓爾監督が手がけたショートフィルム集、「ONE PIECE」春コレクションのDVDを紹介します。

家庭用ビデオカメラを使った、ワンカット、長回しを基本とし、アフレコも編集もなしという超低予算短編映画集。

ショートフィルム集「ONE PIECE」春コレクション

1994年から1998年にかけて撮られた作品集。出演は、自主制作映画の帝王こと田中要次(愛称:BOBAさん)、自主制作映画の女王こと唯野未歩子(ただの・みあこ。DVDジャケットの写真に写っているのが彼女です)、相川直(現在の芸名は猫田直)、女優としては駆け出しだった頃の西田尚美ほか。

親友が自分に対する悪口を言っているのを聞いてしまう「女友達」(矢口史靖監督)、あの世からのメッセージが届く「地獄のおじいさん」(鈴木卓爾監督)、妙な面接を描いた「バニー」(矢口史靖監督)、わずか36秒の「ベアー」(矢口史靖監督)、監督が次々に登場する「演出×出演」(鈴木卓爾監督)、プロポーズを描いた「春のバカ。」(矢口史靖監督)など14作品を収録。

おまけとして矢口史靖監督の13分の短編「バードウォッチング」も収められています。

大笑いではなく、クスリと笑えるショートフィルム集。気楽に撮られたものが多いので、本格的な映画が好きな人には不向き。実験映像やショートフィルムが好きな方にはお薦め。自分でも映像作品を作っている人は必見のDVDです。

「ONE PIECE」DVDには秋コレクショ