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2017年12月31日 (日)

観劇感想精選(226) 「この熱き私の激情 ―それは誰にも触れることができないほど激しく燃える あるいは、失われた七つの歌―」

2017年12月5日 左京区岡崎のロームシアター京都サウスホールにて観劇

午後7時から、ロームシアター京都サウスホールで、「この熱き私の激情 -それは誰にも触れることができないほど激しく燃える あるいは、失われた七つの歌-」を観る。原作:ネリー・アルカン、翻案・演出:マリー・ブラッサール。翻訳:岩切正一郎。出演:松雪泰子、小島聖、初音映莉子、宮本裕子、芦那すみれ、奥野美和、霧矢大夢。音楽:アレクサンダー・マクスウィーン。



ネリー・アルカンは、1973年、カナダ・ケベック州生まれ。モントリオールの大学に通いながら生活のために高級娼婦のアルバイトをし、その経験を生かしたセクシャルな内容の小説『ピュタン -偽りのセックスにまみれながら真の愛を求め続けた彼女の告白-』を発表。ケベック州のみならずフランス文壇の寵児となるも、2009年に36歳の若さで首つり自殺している。
セクシャルな作風、若くして自殺という点で、サラ・ケインを彷彿とさせる人物である。


物語は6人の女優の詩的にして内省的なモノローグと歌、ダンサーの奥野美和によるダンスによって進められていく。

アクリルによって隔てられたオランダの飾り窓のような7つの部屋。この7という数字は、松雪泰子演じる影の部屋の女の独白により、7つの大罪と明白にリンクしたものであることがわかる。

暗闇の中で複数の女の声がする。父親と幼い娘の話だ。父親は娘に、「やがてお前にも安らぎがやってくるだろう」と告げる。娘、つまり幼き日の主人公は安らぎについて考えるのだが、成人して死を目前に控えた今では安らぎについての明白な答えなどどうでも良くなっていた。

最初の女(芦那すみれ)のモノローグ。「幻想の部屋」。7つの時から母親(この物語では一貫して母親の存在は希薄であるか、悪意を持ったものとして登場する)に勧められてフィギュアスケートをしていた女。だが、その演技は誰よりも稚拙であり、フィギュアスケートを勧めた母親に憎しみのような感情を抱く。やがて娼婦となった女は、「上空から見下ろした私」はクレーターや南極や北極の氷や高山の頂のようなものだと感じるようになり、周りのみなは皮膚の下の本当の自分を見ようとしないと嘆く。「自分は醜くはないが美しくもない」と感じている女だったが、こうも語る。「女は美によって革命からも守られているが、革命を起こすことは出来ない」
女は「年だけは取ってはいけない」と独りごちる。

「天空の部屋」の女(小島聖)が現れる。天空の部屋は公衆トイレの個室である。女は南極やクレバスの裂け目といった荒涼とした風景に至高の美を感じ、それらが人間が容易に立ち入れない場所にあることを嘆く。美は人々から遠く離れた場所か、望遠レンズの向こうにしか存在しない。
彼女の友人の父親は天体観測が好きだった。そして惑星が死んで爆発する瞬間の輝き(超新星=スーパーノヴァである)こそがこの世で最も美しいものだと考えていた。死と同居した美しさを語る友人の父親を、彼女は「詩人だ」と感じていた。

「血の部屋」。女(霧矢大夢)は、幼くして死んだ彼女の姉の幻影と共に生きていた。そして彼女は夢見る。美しく生きている姉の姿を(ダンサーの奥野美和が姉の幻影をアクロバットな身のこなしで演じる)。そして男が男の娘と結婚し、子供を産み、その娘達(つまり男の子供にして孫)が男を新たな関係を結ぶ「理想郷」を夢想する。

「神秘の部屋」。女(初音映莉子)は、「自分が男だったなら」と思っている。彼女が生まれたとき、母親は男の子が生まれることを希望していた。産婦人科の先生から「男の子だろう」と告げられ、セバスチャンという名前まで授かっていた。だから女は自分が生まれたとき、母親が怒りで自分を床へと叩きつけないようしっかりとその手を握っていた。
女は娼婦になった今でも「男のように愛せたら」と強く感じており、自分の中の男を意識している。女はもう一人の自分かも知れない男(やはり奥野美和が演じている)と部屋にいて、幼い頃、叔母がやってくれたタロット占いの結果を思い出すのだった。

「影の部屋」。女(松雪泰子)は、死後の世界に怯えていた。幼い頃、女は父親に問うた。「死んだらどうなるの? 私も塩の柱になってしまうの? 神様に試されるの?」。父親は、「優しい子でなければいけない。そして許しを乞うんだ」と答えた。
父親は、「ソドムの市と塩の柱」の話をするのが好きだった。燃えさかるソドムの市を振り返ったがために、ある女は神によって塩の柱にされてしまった。だが女はその後の塩の柱が気になっていた。父親は話してくれなかったことだ。ソドムの市と共に塩の柱も燃えてしまったのだろか? あるいは塩の柱はそのまま残り、朽ちるに任されたのか。
女は地獄を厭い、輪廻転生もまた恐れる。自殺した女の魂が転生したとして、また辛い生涯を過ごさねばならないのではないか。女はそうした夢想さえも嫌になり、首を吊る。

「蛇の部屋」。女(宮本裕子)は、10歳の時に過ちを犯した。同級生の男の子と性的行為に及んだのだ。それを父親に見られた。あれほど好きだった父親の関係がそれから変化してしまう。娼婦になった今、女は小学校時代の夢を見る。レンガ造りの校舎の中で、ピアノの発表を行うのだ。なんで自分が小学校にいるのかと疑問に思うが、とにかくピアノを弾こうとする。だが楽譜にはページがない。そこで女は「自分がピアニストになるのは無理なのだ」と小学生の時にすでに気づいていたことを思い返す。
女が小学生だった頃、絵を描いた。子供らしい可愛い絵だ。青い空が拡がる。だがその絵を見た父親は青い空の中に何匹もの黒蛇がいると語っていた。

「失われた部屋」。女(奥野美加)は、死を目前にしたこの時に、自分がとても美しくなっていることを感じた。観客までもが自らの想像の産物である映画館の中で、自分が主演女優を演じる映画が上演される。だが、やがて全ては崩壊し、孤独だけが残るのだった。


魂を乗せたような独特の歌によって、一人の女の孤独な姿が浮かび上がる。望み、愛し、感じ、燃え上がり、悩み、報われない。絶えず居場所のない女の魂の経歴が披瀝されていく。
強度且つ高度に芸術的な作品であり、見応えは十分であった。こうした芸術性の高い演劇は、日本では行おうと思ってもなかなか行えない。日本という国の土壌がこうしたものを生み出しにくいということもあるし、やろうと思っても観客がついてこない可能性が高い。

翻案と演出を手がけたマリー・ブラッサールは、実は日本では中谷美紀が主演した「猟銃」のカナダプロダクションで主役である三人の女を演じた人であるという。「猟銃」、「アンデルセン・プロジェクト」などと共にカナダ演劇のレベルの高さを思い知らされた上演であった。

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2007年8月28日 (火)

「レッド・バイオリン」オリジナル・サウンドトラック

本日8月28日は「バイオリンの日」なのだそうです。そこで、ジョン・コリリアーノが作曲した、映画「レッド・バイオリン」のオリジナル・サウンドトラックを紹介します。ソニー・クラシカルの録音&発売。

ジョン・コリリアーノ作曲 「レッド・バイオリン」オリジナル・サウンドトラック イタリアで作られた一挺のヴァイオリンが数奇なる運命をたどる様を描いた、カナダ人映画監督フランソワ・ジラールの「レッド・バイオリン」(カナダ・イタリア・オーストリア・イギリス・中国合作)のための音楽。

ジョン・コリリアーノは、現代アメリカを代表する作曲家。彼自身が同性愛者である(エイズをテーマにした交響曲を書いていたりもします)ということも関係しているのかどうかはわかりませんが、妖美な旋律を書かせたら当代一のメロディーメーカーです。「レッド・バイオリン」の音楽で、2000年度のアカデミー賞作曲賞受賞。

コリリアーノ特有の妖しいメロディーが、ミステリアスな雰囲気と奥行きを作り出しています。

演奏は、エサ=ペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団、ヴァイオリン独奏:ジョシュア・ベル。

ボーナストラックとして、コンサート用の作品である「『レッド・バイオリン』より~ヴァイオリンとオーケストラのためのシャコンヌ」を収録。演奏、音楽ともに充実していてクラシック音楽ファンも楽しめます。

レッド バイオリン/Red Violin

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2007年6月16日 (土)

これまでに観た映画より(2) 「レッド・バイオリン」

DVDで映画を観る。カナダ・イタリア・オーストリア・イギリス・中国合作の「レッド・バイオリン」。フランソワ・ジラール監督作品。音楽は現代アメリカを代表する作曲家ジョン・コリリアーノ。バイオリン演奏はジョシュア・ベル。伴奏はエサ=ペッカ・サロネン指揮のフィルハーモニア管弦楽団。
1681年、イタリア・クレモナ。名バイオリン職人のニコロ・ブソッティ(カルロ・セッチ)は芸術品以外の何ものでもないバイオリンを製作する。彼の妻、アンナが生むはずの子供にそのバイオリンを捧げ、音楽家にするつもりであった。しかしアンナは難産のため死去。子供も死産であった。絶望に苛まれたニコロは、子供に捧げるはずだったバイオリンに赤い物質を加えた特別なニスを塗る。
こうして出来上がったレッド・バイオリンは数奇な運命をたどることになる。

芸術指向の強い作品である。完成度も高く、特に音楽好きには面白い映画だろう。設定そのものは特に目新しくなく、というよりありがちなのだが、バイオリンという楽器の持つ魔力の援護を得て、説得力を出すことに成功している。

カナダ、アメリカ、オーストリア、ドイツ、フランス、イギリス、中国の俳優が出演。撮影も、クレモナ、ウィーン、オックスフォード、上海、モントリオールなど世界各地で行われた。

時代と場所が次々に飛ぶが(メインは1990年代、カナダ・モントリオールのオークション会場)、わかりにくいということはない。文革期の上海も舞台になっているのだが、いわゆる西洋音楽が排斥された場所と時代を選んだことで奥行きが出ている。

芸術し過ぎてしまっていること、その割りに俗な展開があること、また赤いニスの正体にすぐに察しがつくこと、などを瑕疵と感じる人もいるだろう。芸術映画至上主義の人にも、芸術映画が苦手な人にも積極的には薦めない。芸術映画としてはかなりわかりやすい部類に入るので、それを中途半端と感じるかどうかがこの映画の評価を分けるだろう。ちなみに私は「好き」と感じる側である。

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