カテゴリー「映画」の159件の記事

2018年5月11日 (金)

観劇感想精選(241) ミュージカル「リトル・ナイト・ミュージック」2018大阪

2018年5月4日 梅田芸術劇場メインホールにて観劇

午後7時から、梅田芸術劇場メインホールで、ミュージカル「リトル・ナイト・ミュージック」を観る。「ウエストサイド・ストーリー」や「スウィーニー・トッド」などの名作ミュージカルを手掛けたスティーヴン・ソンドハイムの最高傑作とされる作品の日本初上演である。作曲・作詞:スティーヴン・ソンドハイム、脚本:ヒュー・ホィーラー、翻訳・作詞:高橋知伽江、演出:マリア・フリードマン、振付:ティム・ジャクソン。音楽監督・指揮:小林恵子。出演:大竹しのぶ、風間杜夫、安蘭ケイ、栗原英雄、蓮佛美沙子、ウエンツ瑛士、木野花、安崎求、トミタ栞、瀬戸たかの(瀬戸カトリーヌ改め)。リーベリーダー(アンサンブルキャスト):彩橋みゆ、飯野めぐみ、家塚敦子、中山昇、ひのあらた。

19世紀のスウェーデンが舞台。本作はスウェーデン映画の巨匠であるイングマール・ベルイマン監督の映画「夏の夜は三度微笑む」に着想を得た作品で、1973年に初演。トニー賞7部門、グラミー賞2部門を獲得している。これほど評価の高いミュージカルがなぜ日本で上演されなかったかはナンバーを聴けばすぐにわかる。完成度は恐ろしく高いが難度もそれ以上に高い。ミュージカル初挑戦となる風間杜夫の最初のナンバーは、なんとレチタティーヴォ調。ただでさえ難しいのにレチタティーヴォに不向きな日本語で歌うのはほぼ不可能。ということで、風間杜夫は音程もリズムも外しまくっていた。元々歌はそれほど得意ではないのだと思われるが、初挑戦のミュージカルが本作というのは酷である。

朗読や朗読劇への出演はあるものの、本格的なミュージカルに挑戦するのは初となるのが、風間杜夫演じる弁護士のフレデリック・エイガマンの幼妻・アン役の蓮佛美沙子。蓮佛美沙子は現在27歳だが、アンは18歳ということで10歳ほど下の女性を演じることになる。「若さ」と「幼さ」の表現に長け、かなり高めの音が要求される歌もこなしていた。ただ、魅力が十分に出ていたかというとそうでもないように思う。

リーベリーダーという役割を与えられている5人は、いずれも歌唱力が高い。年中ミュージカルで出ているような気がする飯野めぐみを始め、歌第一で取られた人達なのだから当然ともいえるが、歌に関しては有名キャストを上回っていたようにも思える。
ストーリーはリーベリーダーがワルツのリズムに乗って登場するところから始まるのだが、このミュージカルはとにかく3拍子系の楽曲が多い。全体のおそらく9割前後が3拍子系の楽曲で占められている。舞踏のリズムである3拍子系が多用されていることには勿論、意味がある。作品自体がエンドレスワルツ的狂騒を描いたお話なのである。

ストーリーであるが、第一幕を観ている時はとにかく退屈に感じられる。第一の理由は私の年齢にある。この手の話を気楽に観られるほど若くはないが、切実に感じるほどには年を取っていない。
第1幕を見終えて、本気で「もう帰ろうか」と思ったが、今後が面白くなりそうな予感もあり、第2幕の予定上演時間は約55分と短めであったため続けて観ていくことにする。

第2幕では、フレデリックの息子のヘンリック(ヘンリック・イプセンにちなんだ名前であることが暗示される場面がある。演じるのはウエンツ瑛士)、アン、カールマグナス伯爵(栗原英雄)と妻のシャーロット(安蘭けい)、舞台女優のデジレ(大竹しのぶ)などが入り乱れた恋の話になる。盲目状態の愛が繰り広げられ、人間という存在が根本に持つ愚かしさとそれゆえの愛おしさが照射されていく。

悲惨な状況であるにも関わらず滑稽という場面が第2幕には登場する。ヘンリックが縊死しようとする場面や、フレデリックの「不思議だ。庭のベンチに腰掛けて休んでいたら、人生が終わってしまった」というセリフは、悲劇性を伴っているはずだが妙に可笑しく、客席が笑いで沸く。フレデリックのこのセリフをこれほどリアルに語れる俳優は風間杜夫をおいて他にいないはずで、歌唱力の不足を補って余りある配役といえるだろう。

この感想は時間の関係で当日には書かず、翌日、翌々日に書いたものなのだが、時間が経てば経つほどこの作品に対する愛着は強くなっている。そういう作品はこれまでに何度か観たことがある。
すぐにわかることなど、その程度のものでしかないということなのかも知れない。

終演後にアフタートークがあり、ウエンツ瑛士と安蘭けいが参加する。司会を置かず、ウエンツがリードする形で二人が自由に喋るというスタイルである。ウエンツは「みんな僕を馬鹿にする」としてふさぎの虫に取り憑かれているヘンリックを、安蘭けいは頭が空っぽの夫にうんざりしているシャーロットをそれぞれ好演していた。ともにミュージカル経験が豊富だけに、この難しい作品と役を手の内に入れていた印象を受ける。
途中、カールマグナス伯爵役の栗原英雄とアン役の蓮佛美沙子が舞台を上手から下手へと横切っていった。

今回は、演出がマリア・フリードマン、振付がティム・ジャクソンということで稽古は全て英語による指示で行われたのだが、ウエンツ瑛士と瀬戸たかの(安蘭けいはまだ「カトリーヌちゃん」と呼んでいるようだ)というハーフが二人おり、いかにも英語が出来そうな雰囲気を持つもの、実は二人とも英語でのコミュニケーションは一切出来ないということで苦労があったようである。ウエンツは、義母でありながら恋心を寄せているアン役の蓮佛美沙子と二人一組になることが多かったのだが、蓮佛美沙子は英語が得意で、マリアの指示を大体理解することが出来るため、横にいるウエンツにも「通訳が言わなくてもわかるよね」と暗に示されることが多く、ウエンツもさも分かったような振りをせざる得ず、稽古が終わった後でマリアに「あれ、なんて言ってたの?」と聞きに行く羽目になったそうだ。
安蘭けいによると、マリア・フリードマンは「リトル・ナイト・ミュージック」に女優として出演した経験があり、マリアが演じたことのあるシャーロットとペトラ(今回は瀬戸たかのが演じた)には思い入れが強いようで、指示も細かかったそうである。

なお、デジレの娘、フレデリカ(演じるのはトミタ栞)の名はフレデリックの女性形なのだが、フレデリカがフレデリックとデジレの間に出来た娘なのかどうかについては答えが書かれていないという。フレデリカの父親がフレデリックなのかどうか、ウエンツが客席に拍手の大きさでアンケートを取る。今日のお客さんは、フレデリックとフレデリカは親子だと考えている人が比較的多いようだった。



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2018年5月 3日 (木)

これまでに観た映画より(104) 「恋するマドリ」

DVDで日本映画「恋するマドリ」を観る。大九明子監督作品。出演、新垣結衣、松田龍平、菊地凛子、内海桂子、ピエール瀧、世良公則ほか。

独特の時間が流れる映画である。偶然の多さは気になるが。

人気急上昇中(2008年当時)の新垣結衣の主演作。ただ、準主役である松田龍平と菊地凛子にかかる比重も大きく、少なくとも存在感においては松田龍平と菊地凛子の方が新垣結衣より上ではある。

評価が高く、愛らしい映画ではあるけれど、そこどまりの限界も感じさせる。

菊地凛子がいい。「バベル」の時はそれほど良いとは思わなかったけれど、独特の時間を自分から生み出すことの出来る女優であることがこの映画を観てわかった。映画自体も独特の時間を持っているが、彼女の周りだけ違う時間が流れているような感じを受けた。

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2018年5月 2日 (水)

これまでに観た映画より(103) 「親切なクムジャさん」

DVDで韓国映画「親切なクムジャさん」を観る。「宮廷女官チャングムの誓い」のイ・ヨンエが悪女役に挑んだ復讐劇。パク・チャヌク監督作品。

強烈な残虐シーンがあるなど、人間の暗部に切り込む劇である。韓国ではR18、日本ではR15の指定を受けたそうだが、うなずける。

演出面ではかなり意欲的であり、実験的要素も多い。

韓国映画はアメリカと同じスターシステム。スターに注目が集まるが、その分、芸能人は叩かれやすくもある。私はイ・ヨンエの著書を読んだことがあるけれども、彼女もこれまで善人役やお嬢さん役が多く、新しい役に挑む度に、「こんな役がイ・ヨンエに出来るのか?」などと書かれるという。それだけにイ・クムジャ役は、女優としての幅を広げるための挑戦以上の意味を持っていたと思われるが、かなり難しいと思われる表情作りにも成功しており、チャレンジは成功とみていいだろう。

好き嫌いのはっきりと分かれる映画だと思われ、嫌いな人は徹底的に嫌うと思うが、表現をしている人間や表現を志している人間は観ておいて損はしない映画だと思う。内容も表現方法も、頭を内側から叩かれるような衝撃力を持っている。

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2018年4月29日 (日)

これまでに観た映画より(102) 「愛の神、エロス」

DVDで映画「愛の神、エロス」を観る。香港の王家衛、アメリカのスティーブン・ソダーバーク、イタリアのミケランジェロ・アントニオーニの3人の映画監督が「エロス」をテーマにして撮った映画のオムニバス。ミケランジェロ・アントニオーニはこれが遺作となった。

トップを飾るのは王家衛監督の「若き仕立屋の恋(英題:THE HAND)」だが、これが怖ろしいほどの完成度を誇る。
1960代の香港を舞台に、仕立屋のチャン(チャン・チェン)と、高級娼婦ホア(コン・リー)の関係を描いた作品。王家衛監督は、「花様年華」で直接描写を避けることでより強烈にエロティシズムを引き立てることに成功していたが、「若き仕立屋の恋」ではそれが更に徹底されている。キスシーン一つにしても顔は映さず、カメラは手や腰を追う。
直接描写はほとんどないのに極めて官能的な空気が画面から匂ってくる。カメラは人が去った部屋の中を写し続けて、登場人物の声だけが隣の部屋から聞こえたり、誰もいなくなった廊下や階段を映すことで、寂寥感や失望感を引き立たせたり、とにかく洗練された映画手法が次々に繰り出される。
官能的なだけでなく、美しくも悲しい作品。40分ちょっとの映画だが、下手な長編映画よりもずっと見応えがある。
コン・リーとチャン・チェンの演技も最高であり、尺は短いが、これ1本だけで十分客を呼ぶことが出来る。「完璧」に限りなく近い傑作だ。

王家衛に比べると、「オーシャンズ」シリーズのスティーブン・ソダーバークや、「太陽はひとりぼっち」で知られるイタリアの巨匠監督ミケランジェロ・アントニオーニの作品は、“試みとしては面白いんだけどねえ”というレベルに留まる。作品の質が2桁ほど違うといっても過言ではないだろう。ソダーバーク(ラストのどんでん返し)やアントニオーニ(さりげない超リアリズムの手法)も撮ったもの自体は悪くないのだが、相手が悪かった。

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2018年4月20日 (金)

これまでに観た映画より(101) 「アカルイミライ」

DVDで日本映画「アカルイミライ」を観る。脚本・監督:黒沢清、オダギリジョー:主演、出演は、浅野忠信、笹野高史、りょう、はなわ、加瀬亮、藤竜也ほか。一様にチェゲバラ顔のマークのTシャツを着た不良高校生グループの一人として松山ケンイチが出ている。

黒沢清の作品には、「CURE」、「回路」、「叫」などのホラー路線と、「ニンゲン合格」のようなヒューマンドラマ路線があるが、「アカルイミライ」は、「ニンゲン合格」の路線に近い。
「アカルイミライ」は基本的にはヒューマンドラマ。基本的にはとしたのは社会派ドラマなど様々な要素が入っているからである。
現代を漂流するように生きる若者の姿を描いた作品。猛毒を持つ赤クラゲが分かり易いメタファーとして登場する。

仁村雄二(オダギリジョー)と有田守(浅野忠信)は、工場で働くフリーター。未来に何の展望もない日々を送っている。守は自宅で赤クラゲを飼っている。あることがもとで守は工場を辞め、仁村も工場をクビになる。上司の藤原(笹野高史)にCDを貸したままだったことに気付いた仁村は、藤原の家にCDを取りに行く途中、抑えがたい殺意を覚える。しかし、藤原に家に着いた仁村が見たものは惨殺された藤原一家の死体だった……。


文句なしに面白い映画。「アカルイミライ」というタイトルだが、脳天気な作品では全くない。むしろ来るべき不安と希望を描いたメッセージ性豊かな作品だ。
知的に精神的に、またフィジカル面にも訴えかけてくる。さすがは黒沢清。

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これまでに観た映画より(100) 「まあだだよ」

DVDで日本映画「まあだだよ」を観る。黒澤明監督作品。黒澤明の遺作である。「冥途」、「阿房列車」などで知られる作家、内田百閒とその教え子達の友情を描く。出演:松村達雄、香川京子、井川比佐志、所ジョージ、油井昌由樹、日下武史、小林亜星、平田満、渡辺哲、吉岡秀隆ほか。

法政大学でドイツ語教師として働きながら作家として活躍していた内田百閒だが、本が売れ、専業作家になることに決める。昭和18年のことである。2年後、米軍占領下の日本で内田は還暦を迎える。教え子達は内田の誕生日に「摩阿陀(まあだ)会」を開くことを決める。

黒澤明最後の作品であるが、評判は芳しくない。作家を主人公にしながら特にそれとは関係ない展開が続く。黒澤が何を思ってこの映画を撮ったのかはわからないが、少なくとも「面白いものを撮ろう」とはもう思っていなかったように思われる。弟子達の歌には黒澤が若かった頃の思い出が込められているだろうし、最初は男だけだった摩阿陀会に百閒の妻が参加するようになり、弟子達の娘が入り、孫まで現れというところに時の流れが感じられる。黒澤が自身のために撮ったプライベートフィルムのような映画だったのかも知れない。

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2018年3月20日 (火)

観劇感想精選(235) ミュージカル「舞妓はレディ」

2018年3月18日 福岡・中洲川端の博多座にて観劇

12時から博多座でミュージカル「舞妓はレディ」を観る。周防正行監督の同名ミュージカル映画の舞台化。原作:周防正行&アルタミラピクチャーズ、脚色:堀越真、演出:柴﨑秀臣、作曲・編曲:周防義和、作詞:周防正行&種ともこ。出演:唯月ふうか、榊原郁恵、平方元基(ひらかた・げんき)、蘭乃はな、多田愛佳(おおた・あいか)、片山陽加(かたやま・はるか)、土屋シオン、谷口浩久、湖月わたる、辰巳琢郎ほか。

映画「舞妓はレディ」でのナンバーの他に新曲も含めた上演が行われる。博多座オリジナルのミュージカルであり、京都が舞台ではあるが上演は博多座でしか行われない。

主人公の西郷春子(舞妓としては小春)を演じる唯月(ゆづき)ふうかは北海道札幌市生まれの21歳。本名の川上桃子名義で歌手としてデビューしたが現在はミュージカルを主舞台として活動している。唯月ふうかという芸名はどことなく宝塚っぽいが宝塚歌劇とは一切関係がない。

宝塚出身なのは湖月(こづき)わたると蘭乃はなであり、男役出身の湖月わたるには男装するシーンも用意されている。

映画にもAKBグループのアイドルがバイト舞妓役で出演していた(武藤十夢と松井珠理奈)が、今回も元HKT48の多田愛佳と元AKB48の片山陽加が同じ役で出演。映画ではラップ調の曲が用意されていたが、今回はその代わりに新曲「アイドルになりたい」(作詞:寺﨑秀臣、作曲:佐藤泰将)が歌い上げられた。

メイン楽曲である「舞妓はレディ」に乗せて、芸舞妓役の女優による舞でスタート。上手の花道(今回は客席を横切る形のいわゆるメインの花道は使用しない)から旅装の春子が登場し、舞台の中央へ。回り舞台が反時計回りして奥へと消えていく。

舞台は京都の架空の花街・下八軒。下八軒は小さな花街であり、後継者不足に悩んでいる。現役の舞妓は桃春(蘭乃はな)一人だけ。しかも桃春は現在29歳で、本来ならとっくに芸妓に上がっているところを舞妓が他にいないために留任させられている。イベントでは舞妓が足りないのでバイト舞妓の福葉(多田愛佳)や福名(片山陽加)を駆り出さねばならない有様だ。そんな下八軒の老舗置屋である万寿楽に春子が訪ねてくる。 「舞妓になりたい」と語る春子は鹿児島弁と津軽弁をちゃんぽんで話す。京大学の言語学者・京野法嗣(平方元基)は春子に興味を覚え、春子に京言葉を仕込むことに決める。京野のバックアップを受けて、下八軒で仕込み(見習い)として働くことになった春子だったが……。

映画「舞妓はレディ」よりも春子と京野の恋愛路線が前面に押し出されており、ミュージカル的な味わいが増している。
そのため、春子(小春)という人物の不可解さはこの劇ではほとんど触れられておらず、掘り下げられることも当然ながらない。
映画「舞妓はレディ」を観て春子の出自について疑問を持った方もいらっしゃると思われる。春子は薩摩弁と津軽弁をネイティブ並みに話す。祖父が鹿児島県出身で祖母が青森県出身、現在は津軽地方在住。両親は共に他界しており、祖父母に育てられる。そのため不思議な話し方になる。ただ津軽でずっと暮らしていたら津軽弁が強くなるのが普通である。そして映画では京野が津軽の春子の実家に行くシーンがある(今回のミュージカルでは音声のみによって処理されている)のだが雪深く、他に何もないような場所。そしてそこに住む春子の社会性の乏しさ。本当に友達がいるのだろうか? そもそも不登校なのではないか? そんな印象も受ける。もっとも仮にそうだったとしてもそうした設定が明かされることはないだろう。春子が本当にそういう性格だったとしても、花街側、少なくとも京都の五花街は「舞妓はそういう子がなるもの」という誤解を受けることを怖れるはずである。わかる人にはわかるはずなので、それがシンデレラストーリーに繋がっていると見ることも出来るのだが、今回のミュージカルではそうした要素はなく、「マイ・フェア・レディ」同様のピグマリオンのみが展開の軸となる。

舞妓・小春となる春子を演じた唯月ふうかは芸達者なようで、歌もダンスも見事にこなす。冒頭の素朴さや襟替えしてからの華やかさなど、演じ分けも堂に入っている。ただ、これは彼女の責任ではないのだが、「やはり上白石萌音って凄かったんだなあ」と思ったのも事実である。

万寿楽の女将、小島千春は榊原郁恵が演じているのだが、その配役によって舞台の明るさとコミカルさが増す。存在しているだけで雰囲気が作れるのが榊原郁恵の良いところである。
幕間にご主人である渡辺徹さんとすれ違う。話していたのは息子さんかな? その後、渡辺徹さんとその関係者が私と同じ4列目のセンター付近で鑑賞されているのが確認出来た(私は下手端の方である)。

ミュージカル俳優として売り出し中の平方元基。福岡県出身である。学者の息子である長谷川博己のような見るからにインテリ然とした雰囲気は出せていないが、京野の若さと才気の表現は十分に出来ており、歌も万全である。

湖月わたると蘭乃はなの元宝塚コンビは歌にダンスに大活躍。映画スターを演じるダンスシーンでの湖月わたるの男装は本物の男よりも格好がいいくらいだ。

終幕とカーテンコールでタイトル曲「舞妓はレディ」の歌とダンスが行われるのだが、何度も行われるので、前の方のお客さんは振りを覚えてしまい、一緒に踊っていた。私も見ているだけでは悔しいので少しだけ踊った。



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2018年3月 8日 (木)

これまでに観た映画より(99) 「紳士協定」

DVDで映画「紳士協定」を観る。グレゴリー・ペック主演。監督は後に赤狩り問題で裏切りを演じたことでハリウッドから総スカンを食らうことになる、エリア・カザン。1948年のアカデミー賞作品賞受賞作。
反ユダヤというタブーを描いた社会派の作品である。

内容が紋切り型に見えるが、社会は想像するよりずっと紋切り型に出来ているので、あるいは我々の認識よりも、この映画に描かれた社会の方がより事実に近いのかも知れない。そもそもアメリカは徹底した宗教国家であり、ダーウィンの進化論を学校で教えることを禁じている州もあるほどだ。もの凄く保守的なのである。

黎明期からそうだが、ハリウッドにはユダヤ系が多い。日本でもそうだが、芸能界は実業界よりも差別が少ないからだ。ただ、往時はユダヤ人俳優はWASP風の芸名をつけることが常であった。
アカデミー作品賞に輝く作品でありながら、この 画が日本で上映されたのは、アメリカで封切られてから実に40年も後のこと。ハリウッド側がアメリカの暗部を晒したくなかったためと思われる。

問題は、何かというとキスシーンに持ち込んでしまうこと。恋愛を絡めるのも重要だけれど、甘口になりすぎてしまうのが惜しい。

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2018年2月22日 (木)

久石譲 「HANA-BI」メインテーマ


R.I.P.

太田省吾という人について何も知らなかったなら大杉漣について色々書けたのだが、それが出来ないのが残念である。

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2018年2月14日 (水)

コンサートの記(344) 大阪フィルハーモニー交響楽団「Enjoy!オーケストラ ~オーケストラで聴く映画音楽の世界!~」

2018年2月9日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後7時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、大阪フィルハーモニー交響楽団「Enjoy!オーケストラ ~オーケストラで聴く映画音楽の世界!~」を聴く。指揮とお話は大阪フィルハーモニー交響楽団ミュージック・アドヴァイザーの尾高忠明。

大阪フィルハーモニー交響楽団は、フェスティバルホールを本拠地としているが、定期演奏会はフェスティバルホールで行い、その他の企画はザ・シンフォニーホールを使う傾向がある。音響だけとればザ・シンフォニーホールは日本一だと思われるため、使用しないと勿体ない。今回は武満徹とジョン・ウィリアムズという二人の作曲家の作品を取り上げる。

曲目は、第1部が武満徹作曲による、3つの映画音楽(「ホゼ・トレス」、「黒い雨」、「他人の顔」)、「夢千代日記」、「乱」、「波の盆」組曲。「夢千代日記」と「波の盆」はテレビドラマのための音楽である。 第2部がジョン・ウィリアムズ作曲の映画音楽で、「未知との遭遇」メインテーマ、「ハリー・ポッターと賢者の石」メインテーマ、「シンドラーのリスト」メインテーマ、「E.T.」よりフライングシーン、「ジョーズ」メインテーマ、「スター・ウォーズ」メインテーマ。

まず武満の3つの映画音楽。大フィルは元々音量は豊かだが音の洗練については不足気味の傾向がある。初代の音楽監督である朝比奈隆が「愚直」を好み、骨太の演奏を指向したということもある。2代目の音楽監督である大植英次は現代音楽も得意としたが外連を好む傾向にあり、首席指揮者を務めた井上道義に関しても同傾向であったことは言うまでもない。ということで、もっと緻密で繊細な音作りも望みたくなるのだが、洒脱さは出ていたし、まずまずの出来だろう。

演奏終了後、尾高はマイクを手に振り返り、トークを始める。「僕は桐朋学園に学びました。齋藤秀雄という怖い怖い先生に教わりましたが、『尾高! 良い指揮者になりたかったらあんまり喋るな!』」といういつもの枕で笑いを取る。「大阪フィルハーモニー交響楽団は人使いが荒くて、指揮だけでなく話もして欲しい」。ここから武満の思い出となり、「コンピューターゲームが大好きな人でした。うちによく遊びに来てくれて嬉しかったのですが、コンピューターゲームで自分がお勝ちになるまでお帰りにならない」「これは喜ばれると思うのですが阪神タイガースの大ファンでした。阪神が負けた日には話しかけない方が良さそうな」という話をする。雑誌のインタビューで読んだことがあるのだが、尾高はこの話を日本だけではなく海外でも行っており、海外のオーケストラ団員も「タケミツってどんな人?」と興味津々で、この話をすると喜ばれるそうである。

その後、次の「夢千代日記」の話になり、主演した吉永小百合が今でも「バレンタインデーにチョコレートを貰いたい有名人アンケート」で1位を取るという話もする。どちらかというと響きの作曲家である武満徹。世界で彼にしか書けないといわれたタケミツ・トーンは海外、特にフランスで高く評価され、フランス人の音楽評論家から「タケミツは日系フランス人作曲家である」と評されたこともある。ただ武満本人は、「ポール・マッカートニーのような作曲家になりたい」と望んでおり、メロディーメーカーに憧れていた。残念ながらメロディーメーカーとしてはそれほど評価されなかった武満であるが、「夢千代日記」や「波の盆」に登場する美しい旋律の数々は、武満の多彩な才能を物語っている。

「乱」に関しては、監督である黒澤明と武満徹の確執を尾高は話す。黒澤明は武満に作曲を依頼。レコーディングのためにロンドン交響楽団を押さえていた。「ロンドン交響楽団で駄目だったらハリウッドのオーケストラを使ってくれ。ゴージャスにやってくれ」と注文したのだが、武満は岩城宏之指揮の札幌交響楽団を推薦。黒澤は「冗談じゃない!」と突っぱね、ここから不穏な空気が漂うようになる。武満が想定した音楽は黒澤が想像していたものとは真逆だった。
よく知られていることだが、黒澤映画のラッシュフィルムにはクラシック音楽が付いており、黒澤は「これによく似た曲を書いてくれ」というのが常だった。「乱」に関してはマーラーの曲が付いていたことが想像される。黒澤はマーラーのようにど派手に鳴る音楽を求めていたようだ。武満も「強い人だったので」折れず、じゃあ一緒に札幌に行こうじゃないかということになり、札幌市の隣町である北広島市のスタジオで札幌交響楽団に演奏を聴く。黒澤は納得したようで、札幌交響楽団のメンバーに「よろしくお願いします」と頭を下げたそうである。実はこの後、武満と黒澤は更に揉めて、絶交にまで至るのだが、それについては尾高は話さなかった。ただ演奏終了後に、「この音楽はハリウッドのオーケストラには演奏は無理であります」と語った。

武満の映画音楽の最高峰である「乱」。色彩豊かなのだがどこか水墨画のような味わいのある音楽である。巨人が打ち倒されるかのような強烈な悲劇性と群れからはぐれて一人ヒラヒラと舞う紋白蝶のような哀感の対比が鮮やかである。タケミツ・トーンがこれほど有効な楽曲もそうはない。

「波の盆」。尾高は日系ハワイ移民を題材にしたストーリーについて語る。笠智衆、加藤治子、中井貴一が出演。日米戦争に巻き込まれていく姿が描かれている。「あんまり詳しく話すとDVDが売れなくなりますので」と尾高は冗談を言っていた。
叙情的なテーマはよく知られているが、いかにもアメリカのブラスバンドが奏でそうなマーチが加わっていたりと、バラエティ豊かな音楽になっている。武満自身がマニア級の映画愛好者であり、オーケストレーションなどは映画音楽の仕事を通して学んだものである。

ちなみに尾高は子供の頃は指揮者ではなく映画監督に憧れていたそうで、果たせずに指揮者となり「一生を棒に振る」と冗談で笑いを取っていた。


第2部。ジョン・ウィリアムズの世界。最初の「未知との遭遇」メインテーマでは、高校生以下の学生券購入者をステージ上にあげての演奏となった。演奏終了後に子供に話も聞いていたが、今の子供も「未知との遭遇」のテーマは「聴いたことがある」そうである。

尾高は、ジョン・ウイリアムズは武満を尊敬していたということを語る。

ジョン・ウィリアムズは、「ジュリアード音楽院、日本でいうと東京芸大のようなところ」で学び、カステルヌオーヴォ=テデスコに師事した本格派であり、スピルバーグもジョージ・ルーカスも「自分が成功出来たのはジョンの音楽があったから」と語っていることを尾高は紹介する。

「ハリー・ポッターと賢者の石」はスピルバーグ作品でもルーカスフィルムでもなく、クリス・コロンバス監督作品であるが、「ハリー・ポッター」シリーズは、イギリス人の魂そのものだと捉えられているそうである。ミステリアスな曲調を上手く現した演奏であった。そういえば、私が「ハリー・ポッターと賢者の石」を観たのはまだ千葉にいた頃で、富士見町にあるシネマックス千葉での上映を観たのだった。

「シンドラーのリスト」では、今日は客演コンサートマスターに入った須山暢大(すやま・のぶひろ)が独奏を担当。サウンドトラックでソロを受け持ったイツァーク・パールマンのような濃厚さはなかったが技術面ではしっかりした演奏を聴かせる。

「E.T.」よりフライングシーンの音楽。今日取り上げたジョン・ウィリアムズ作品の中で、この曲だけがメインテーマではない。CMでもよく使われる曲で、尾高はピザのCMに使われたものが印象的だったと述べた。大フィルの音楽性には武満よりもジョン・ウィリアムズ作品のようが合っているように思う。

「ジョーズ」メインテーマ。スピルバーグが「28歳ぐらいの時の映画だと思うのですが」「自分より1つか2つ上なだけの人間(尾高は1947年生まれ、スピルバーグは1946年生まれである)がこうした映画を撮るのか」と衝撃受けたそうである。演奏を見ているとかなり高度はオーケストレーションが用いられているのが確認出来る。

今日はチケット完売、補助席まで売り切れという盛況である。尾高によると満員というのが文化の高さの指標になるそうで、以前、新国立でベンジャミン・ブリテンの「ピーター・グライムズ」をやった時、二日とも満員御礼で初日は良かったのだが、二日目に1階席の真ん真ん中2列が空いてしまっていたという。そこはスポンサー関係者用の席で誰も聴きに来なかったようなのだが、2幕の始まりに、ビーター・グライムズ役のイギリス人歌手が尾高の所に飛んできて、「チュウ! チュウというのは僕のことです。『もう歌わない! あそこが空いてるじゃないか!』となりまして」と語った。

さらにチケット完売時の返券(キャンセル)の話になる。尾高がウィーン国立音楽アカデミー(現・ウィーン国立音楽大学)でハンス・スワロフスキーに師事していた時代のこと。ヘルベルト・フォン・カラヤンが毎年夏に自身が主催するザルツブルク音楽祭を開いており、「カラヤン指揮のオペラが聴きたい」と思った尾高はザルツブルク祝祭劇場(カラヤンが大阪の旧フェスティバルホールをモデルに自らも設計に加わって建てさせたもの)まで出掛けた。
帝王カラヤン指揮のオペラなので前売り券は当然ながら完売、尾高は返券を求めて、開場の1時間半ほど前から並ぶことにしたという。午前8時半頃にザルツブルク祝祭劇場の前に着くと、すでに100人ほどが列を作っている。「こりゃ駄目かな」と思いつつ尾高が列に並んでしばらくすると、黒塗りの豪華な車が劇場の前で止まり、いかにも上流階級といった風の男性が降りてきた。男は尾高に、「おい、君は何やってるんだ?」と聞く。尾高が「オペラを聴くために並んでます」と答えると、「そんなことはわかっている。なにをやっていて、どうしてこのオペラを聴こうと思ったのかを聞いている」。尾高がウィーンで指揮を学んでいることを話すと、男性はチケットをくれたという。なんとS席の中でも特等の座席であったそうだ。
男性はカラヤンの知り合いで、毎年、ザルツブルク祝祭劇場でオペラを観ていたのだが、この年はどうしても抜けられない仕事が出来てしまい、「チケットを無駄にしたくないから、音楽を学んでいる奴にやろう」と決めて、目的地に向かう途中で高速道路を下りて、わざわざザルツブルク祝祭劇場に車を横付けしたのだった。

ラストの「スター・ウォーズ」メインテーマ。輝かしい演奏で掉尾を飾った。

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