コンサートの記(902) 「~浜松国際ピアノコンクール日本人初優勝記念~ 鈴木愛美ピアノ・リサイタル」2025@箕面
2025年4月29日 箕面市立文化芸能劇場大ホールにて
午後2時から、箕面市立文化芸能劇場大ホールで、「~浜松国際ピアノコンクール日本人初優勝記念~ 鈴木愛美ピアノ・リサイタル」を聴く。
YAMAHA、KAWAI、Rolandなどが本社を置き、楽器の街として知られる静岡県浜松市。とりわけピアノの生産は盛んであり、ACT浜松の「浜松ショパンの丘」には、ワルシャワのものと同等のショパン像が置かれているなど、ピアノに関しては日本一のイメージを誇る(なぜか家庭のピアノ所有率は、静岡県は奈良県に負けるようだが)。そんな街に出来た浜松国際ピアノコンクールであるが、これまで日本人の優勝者は現れなかった。それが昨年、第12回目の大会において、鈴木愛美(まなみ)が優勝に輝いている。合わせて室内楽賞、聴衆賞、札幌市長賞(浜松市と札幌市とは文化交流を行っており、優勝者は札幌で演奏会を行うことが出来るという特典)、ワルシャワ市長賞を受賞している。
鈴木は、2023年の第92回日本音楽コンクールピアノ部門でも第1位および岩谷賞(聴衆賞)など多くの賞を受けている。
関西テレビ主催のこの公演。鈴木は、関西テレビのエンターテインメント紹介番組「ピーチケパーチケ」にも事前に出演しているが、そこでコンクールはもう受けないと断言している。浜松国際ピアノコンクール優勝者は、ショパンコンクールへの優先出場権(予選なしで本選に参加出来る)も貰えるはずだが、鈴木は、「出ません」と即答している。コンクールはいくつも受けるものではないという考えのようだ。
箕面市立文化芸能劇場大ホールの最寄り駅は、Osaka Metro箕面船場阪大(はんだい)前という、終点の一つ手前の駅。その名の通り大阪大学(大阪大学自体は勿論有名だが、略称の「はんだい」は実はそれほど有名ではない。関東出身者で京都大学を受ける人は多いが、大阪大学を受ける人は余りいないため、略称もスルーされていたりする。「阪大」と漢字で書くと分かるはずだが、口頭で「はんだい」と言っても話題が大学のこと以外だったりすると、「はんだいって何?」となる可能性がある。関西出身者は案外気付いていない)箕面新キャンパスの最寄り駅である。箕面新キャンパスは以前は国立大阪外国語大学だった外国語学部の講義棟が聳えているが、敷地の狭いビルキャンパスで、新しいキャンパスであるため学生街なども構築されておらず、旧帝国大学のキャンパス前にしては寂しい。地下鉄のフロアから地上までは、東京芸術劇場のそれを思わせるかなり長いエスカレーターで上がる。
箕面市立文化芸能劇場大ホールは、阪大の校舎よりも手前にあるが、実は、5月1日からネーミングライツで、東京建物 Brillia HALL 箕面 大ホールに一般的な名称が変わる予定で、箕面市立文化芸能劇場大ホールという名で公演を行うのはどうも今日が最後のようだ(正式名称に変更はないと思われるが)。
箕面にはメイプルホールという地方都市としては比較的キャパの大きいホールがあるが、フル編成のオーケストラ公演などはメイプルホールでやって、中規模コンサートや室内楽、器楽、演劇公演や落語などはこちらに回すようである。
また図書館など一部の施設は大阪大学と併用である。
鈴木愛美は、2002年生まれ(やれやれ、俺が京都に越した年だぜ)。箕面市出身で、今回が凱旋公演となる。大阪市内の音楽科を持つ公立高校としては最も有名な大阪府立夕陽丘(ゆうひがおか)高校音楽科を経て、東京音楽大学器楽専攻ピアノ演奏家コースに進学。首席で卒業し、現在は東京音楽大学大学院修士課程に特別奨学生として在籍中。先の土日に、びわ湖ホールで行われた、びわ湖の春 音楽祭2025にも参加している。
箕面市立文化芸能劇場大ホールの内装であるが、側壁の木枠が箕面の滝を表していることは分かるのだが、正面と上方の白い壁に描かれた模様がなんなのかは不明。バラバラにした都道府県のようにも見え、高知県や愛媛県や栃木県に似たものはあるが、他は似ておらず、都道府県ではないようだ。
今日は前から3列目の真ん中で良い席である。ピアノの響きのとても良いホールであった。
曲目は、ハイドンのピアノ・ソナタ第13番、シューベルトの3つのピアノ曲より第2番、シューベルトの高雅なワルツ集、リストの「ウィーンの夜会」(シューベルトのワルツ・カプリス)第6番、シューマンの幻想小曲集。
リスト以外は、独墺系の曲目が並ぶが、リストの曲もシューベルト作品を基にしたものであるため、実質、オール独墺系プログラムである。
鈴木愛美は、一昨日同様、比較的質素な黒の上下で登場する。
ハイドンのピアノ・ソナタ第13番は、浜松国際ピアノコンクールで演奏して高い評価を受けた曲である。ハイドンというと、「交響曲の父」「パパ・ハイドン」のイメージで、交響曲や弦楽四重奏曲、宗教曲のイメージが強いが、鈴木はハイドンのピアノ・ソナタを、明るくチャーミング、第3楽章では憂愁を込めて演奏し、魅力な曲として再現する。
シューベルトの2曲も、歌心と造形美からたまににじみ出るほの暗さなどを巧みに表現。
ペダリングはオーソドックスで、ソフトペダルの上に置いた左足をたまに跳ね上げる時があるが、特に音楽的効果を狙ったものではないようだ。ただ、超弱音の時にはソフトペダルをぐっと踏み込んでいた。
リストの「ウィーンの夜会」第6番はスケールの大きさと華やかさが際立つ演奏。リストの作品だが、シューベルトの原曲だけに寂寥感が顔を覗かせる。
メインであるシューマンの幻想小曲集。音楽に文学的要素など様々なものを持ち込んだシューマン。その複雑性やいびつさなどをそのままに音楽にした作品であり、演奏である。可愛らしさ、謎めいた部分、奥深さなど様々な表情の曲が続く。
そんな中で、「子供の憧憬」をそのまま持ち込んだような第6曲「寓話」のノスタルジアの表現が特に良かった。他の曲も構築感と造形美が目立つ。きっちりとした構造設計がこの若いピアニストの最大の特徴と言えるかも知れない。
演奏終了後、鈴木はマイクを手にスピーチ。まだコンサートには全然慣れていない感じである。
「聴きに来て下さってありがとうございます。宣伝になってしまうんですが、6月7日に、豊中?(舞台下手を見る。ドアは閉じられていて何も見えない)豊中市立文化芸術センターでベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を弾きます。指揮は飯森先生です」
アンコール演奏は、一昨日のびわ湖の春 音楽祭2025で、びわ湖ホール小ホールでも弾いたシューベルトのピアノ・ソナタ第18番「幻想」より第1楽章。鈴木は、「タイトル通り幻想とか憧れといった様々な」要素を入れた曲だと解説して演奏開始。しっかりとした手応えのあるスケール豊かな演奏である。そしてシューベルトだからかも知れないが、流れよりも構築感を重視しているように聞こえる。ピアノの音はびわ湖ホール小ホールよりも箕面市立文化芸能劇場大ホールの方がクリアで良い。
アンコール演奏は本来は1曲だけだったようだが、やはりびわ湖ホール小ホールでも弾いたシューベルトの「楽興の時」第3番も演奏する。シューベルトの全ピアノ曲の中で最も弾かれているといわれる曲だが、若さ故のキレもあって、愛らしい演奏となった。
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