観劇感想精選(5) 市川海老蔵主演 「信長」
2006年2月24日 大阪・道頓堀の大阪松竹座にて観劇
大阪松竹座に市川海老蔵主演の「信長」を見に行く。海老蔵のために書き下ろされた新作。作:斎藤雅文、演出:西川信廣。
織田信長を演じるのはもちろん海老蔵。濃姫に純名りさ、羽柴秀吉に甲本雅裕、お市の方に小田茜、明智光秀に田辺誠一という配役。
戦の神に憑かれた「狂王」としての信長を描く。
ジャンル分けは難しい。殺陣のシーンなどに歌舞伎の役者も出るし、海老蔵も歌舞伎俳優だが、当然ながら歌舞伎ではない。斎藤雅文は新派の作家だし、西川信廣は新劇の名門・文学座所属の演出家である。基本的には役者を見せるタイプの演劇なので、ジャンルに拘る必要はないのだが、見慣れないタイプの演劇なので内容に入り込むまで少し時間がかかった。
海老蔵はカリスマ性を出すために声音を変えるが、そのため少しセリフが聴き取りづらい。歌舞伎以外の仕事も沢山しているとはいえ、やはり他の俳優とはスタイルが違うので違和感もある。だが、存在感はあるし、「敦盛」の舞や殺陣などは流石であり、柱としての役割を十分に果たしていた。
信長の生涯を2時間半に凝縮した作品であり、要所要所を抜き出して描くというスタイルを取っている。余分と思われるエピソードもあるが、それでも人物の内面を描く伏線にはなっているのでいいのだろう。
セリフは説明的だがわかりやすい。先端を行く演劇ではないわけだから、多少セリフが人工的だろうが嘘くさかろうが構わないと思う。やはり時代劇であること、また客層を考慮するに、今、どういう場面で登場人物はどういう心理なのか、そういったことを丁寧にやらないとサービスに欠けることになるだろうから。
天下統一を果たしていないのに、朝鮮、明国、天竺などを制覇し、果てはローマ占領を本気で夢見る信長像というのも秀吉の考えを先取りする形で、試みとしては良いと思うが、強引さも感じる。秀吉のように天下統一した上で妄想を抱くというのならある程度自然なのだが。
やはり朝鮮や明を攻める野望があることを匂わす程度の方が良かった気がする。誇大妄想が激しすぎる。信長の「激しさ」に光を当てたい気持ちはわかるけれども。
明智光秀を焚きつけたのは誰か、歴史書には信長に嫁いで以降の記録が全くない濃姫という人物をどう描くかなど、面白いところはいくつもある。
普段観ている演劇のスタイルとは違うが、「これはこういうものだ」と思って観ているので違和感はない。
好きなタイプの演劇ではない。けれどもこういった芝居には「ハレ」の雰囲気があって楽しい。
俳優では、羽柴秀吉を演じる甲本雅裕が特に良かった。飄々としていながら虎視眈々と次代を窺う秀吉像を上手く演じていたように思う。
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