完璧主義者カラヤンの振る完璧なロッシーニ ロッシーニ「オペラ序曲集」
20世紀最大の指揮者であるヘルベルト・フォン・カラヤンが1971年に手兵であるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と録音した、ロッシーニの「オペラ序曲集」を紹介します。ドイツ・グラモフォン・レーベル。
カラヤンが20世紀を代表する指揮者であり、史上最も有名な演奏家であることを否定する人はいないでしょうが、カラヤンの作る音楽に異を唱える人は多くいます。カラヤンという指揮者は音楽のフォルムを極限まで追求した演奏家ですが、それゆえに「外面的」、「浅い」という評価を受けることにもなりました。特にオーストリア人でありながら、ドイツ・オーストリア系の音楽を必ずしも得意としなかったことで、独墺音楽贔屓からは厳しい批判も受けています。
しかしながらカラヤンの良さは完璧主義であったが故に、どんな音楽を指揮する時でも決して手を抜かなかったことで、例えばこのロッシーニの序曲のように、深遠な芸術家は見向きもしない音楽に対しても真摯な態度で接しています。
イタリア人のオペラ作曲家で、晩年のベートーヴェンを脅かす存在であったことでも知られるジョアキーノ・ロッシーニは、18歳でオペラ作曲家としてデビューし、「天才」の名声をほしいままにしますが、本人は作曲にさほどの情熱を持っていなかったのか、37歳でオペラ作曲家としての筆を折り、40代前半で音楽界からも引退して、後半生は趣味の美食や料理研究、レストラン経営などをして過ごしました。
「音楽に対して誠実でなかった」というそしりを受けても仕方のないロッシーニさんですが、そんなロッシーニさんの気軽に書いたオペラ序曲をカラヤンは芸術へと昇華してみせます。
「セビリアの理髪師」、「泥棒かささぎ」、「セミラーミデ」、「ウィリアム・テル」、「アルジェのイタリア女」、「絹のはしご」の序曲、全6曲を収録。
ロッシーニはイタリアの作曲家だけに、クラウディオ・アバドやリッカルド・ムーティなどのイタリア人指揮者の演奏が良いように思いがちですが、イタリア人指揮者は得てしてカンタービレが強引であり、彼らの指揮するロッシーニは必ずしも万人向けではありません。
一方、カラヤンはロッシーニに深い思い入れがないということもあってか、聴き映えのする、耳に馴染みやすいロッシーニを生み出します。歌、迫力、バランス、ロッシーニ・クレッシェンドなどどれをとっても完璧であり、ロッシーニ序曲の永遠のスタンダードともいうべき演奏を繰り広げています。旋律の甘美な味わいという点においてカラヤンを上回る指揮者は当分現れないものと思われます。
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