シベリウスの年に(10) 渡邉暁雄指揮日本フィルハーモニー交響楽団 「シベリウス交響曲全集」1981年盤
日本が生んだシベリウス演奏の泰斗、渡邉暁雄(わたなべ・あけお)の2度目の「シベリウス交響曲全集」を紹介します。DENONからの発売。
1919年、日本人の牧師を父に、フィンランド人の声楽家の母に、東京で生まれた渡邉暁雄は、東京音楽学校(現・東京藝術大学音楽学部)でヴァイオリンとヴィオラを専攻、その後、指揮者としての活動も始めています。
母の祖国、フィンランドの音楽的英雄であるシベリウスに対する愛着はとても強く、1961年には世界初となるステレオ録音による「シベリウス交響曲全集」を日本フィルハーモニー交響楽団と完成。この全集は欧米でも発売され、評判になりました。
その渡邉が、最初の全集完成の20年後にデジタル録音で作り上げたのが、今回取り上げる「シベリウス交響曲全集」です。
1981年当時の日本フィルハーモニー交響楽団の力は現在に比べると著しく劣っており、渡邉の解釈についてこられないもどかしさも感じられますが、往年の日本のオーケストラによるシベリウス演奏の記録としての価値は高いと思われます。
演奏の出来が良いのは、交響曲第4番と第5番。交響曲第4番は程よい抑制と鋭さをもって絶望を歌い、交響曲第5番は曲の持つ祝祭的雰囲気を無理なく引き出しています。
日本フィルハーモニー交響楽団は1980年代半ばに入って急速に実力を伸ばし、90年代に入ってからオッコ・カムやネーメ・ヤルヴィといった世界的なシベリウス指揮者との演奏で高い評価を得ています。
渡邉も90年代に入ってから3度目の「シベリウス交響曲全集」を録音するつもりでいましたが、1990年の渡邉の死により、それは実現しませんでした。もし渡邉がもう少し長生きしていたら、日本人指揮者と日本のオーケストラによる金字塔ともいうべき「シベリウス交響曲全集」が作られたはずで、そう思うと残念でなりません。
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