観劇感想精選(15) 少年王者舘 『こくう物語』
2004年10月2日 大阪・天王寺の一心寺シアター倶楽にて観劇
天王寺の一心寺シアター倶楽で名古屋の劇団である少年王者舘の『こくう物語』を観る。北村想と並ぶ名古屋の雄、天野天街:作・演出。
愛知県出身の漫画家、絵本作家鈴木翁二の漫画の戯曲化。
冒頭からいきなり独特の世界に引きずり込まれる。一瞬にして起こる世界の変転、意識的に飛ぶ時空間、レトロにして美しい舞台美術、効果的な映像処理、マッチの炎の幻想美、ヒッチコック並みの影の使い方、わざと照明を暗くして観客の想像力を掻き立てる戦略。どれもほぼ完璧の域だ。執拗にある場面が繰り返され、それが解き放たれたときの開放感。まるでミニマル・ミュージックのようだと思っていたら実際にマイケル・ナイマンが流れた。
言葉遊びも次から次へと別のイメージを生んでいく。
終盤、終わりそうになりながら続くという箇所が何度もあったので少し長く感じたのが難点だが、それさえなければ作品としても完璧だった。
子どもの頃の自分に会うシーンなどミヒャエル・エンデを彷彿とさせる。
言葉によって整序される前の未分離なままの子どもの頃の夢に遊ぶような楽しさがあった。
マッチの炎の揺れやマッチ箱を模した小道具を見て「人生はマッチ箱に似ている」という芥川龍之介の言葉を思い出す。
泉鏡花や夢野久作にもつながる耽美主義的作風。早稲田大学文学部(自然主義の牙城)が演劇界をリードしたため、日本の演劇では主流から外れているかも知れないが、面白いことは無類である。そもそもリアリズムの演劇や演技がいいなどと誰が決めたのだろう。
漫画という演劇とは似て非なる表現を取り入れることで、両者を客体化し、メタ演劇にもメタ漫画論にもなっている。
ラスト近くのダンスによる見事な四重フーガを見るのは快感だ。
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