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2007年10月20日 (土)

観劇感想精選(19) 松竹7月大歌舞伎2007 夜の部 「鳥辺山心中」、「身替座禅」、「女殺油地獄」

2007年7月25日 大阪・道頓堀の大阪松竹座にて観劇

大阪へ。道頓堀にある大阪松竹座で、松竹7月大歌舞伎夜の部、「鳥辺山心中」、狂言「身替座禅」、「女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)」を観る。
市川海老蔵が、怪我で降板した公演でもある。ただ、私の目当ては海老蔵ではなく、京を舞台とした心中ものとして有名な「鳥辺山心中」と、近松門左衛門の傑作「女殺油地獄」という演目にあったので、不満はなし。

「鳥辺山心中」は祇園の遊郭と四条河原が舞台となっている。作者は「半七捕物帳」で有名な岡本綺堂。
祇園の遊女・お染は、江戸の旗本で、徳川二代将軍秀忠の上洛に伴って京に来ている半九郎という若者と恋仲になる。
ところが、秀忠が突然の江戸への帰還を決め、半九郎も江戸に帰ることに。せめて帰るまでの5日間はずっと一緒にいようという半九郎。
半九郎の友人である市之進という侍も祇園に来て、半九郎や、お染を始めとする遊女と遊び始める。半九郎は市之進に、借財を申し出る。その金でお染を祇園から出してやりたいというのである。
そこへ市之進の弟である源三郎がやって来て、市之進に帰るよう促す。源三郎は堅物で、女遊びにうつつを抜かす男を軽蔑している。源三郎は半九郎に、「兄がたわけのようになったのもお身のような朋輩があるから」、「武士の風上にも置けない」、「面汚し、恥さらし」などとなじる。
さすがに頭に来た半九郎は源三郎に決闘を申し出る。四条河原で決闘は行われ、半九郎は源三郎を斬って捨てる。しかし、人を殺めたとあっては半九郎も死罪は免れない。お染は半九郎とともに心中する決意を固める。

半九郎を片岡愛之助、お染を片岡孝太郎が演じる。四条河原での決闘は、殺陣が迫力満点。
ただ、心中の舞台を京都にしてしまうと綺麗過ぎるような気がする。四条河原、鴨川、東山など、絵になる光景だが、心中物の舞台はやはり大坂の方が似合う。

狂言「身替座禅」。京・洛外に住む山蔭右京(片岡仁左衛門)は、旅先で、京・北白川に住む白拍子の花子(はなご)と恋仲になる。京に戻った右京は花子のもとに出かけたくてうずうずしている。しかし右京には奥さん(中村歌六)がいる。恐妻家である右京は、花子のもと行きたくとも行けない。そこで、「一晩座禅を組みたい」と申し出、太郎冠者(片岡愛之助)に頭巾をかぶせて身替わりとし、花子のところへ出かける。しかし太郎冠者が身替わりになっていることがばれてしまい…。

仁左衛門のユーモラスな表情や仕草、せりふ回しが絶品であった。

「女殺油地獄」。油まみれになる殺害場面が有名な傑作であり、何度も映画化されている。また、石田純一が主演した舞台が以前テレビで録画中継されているのを観たことがあるのだが、なぜ石田純一だったのだろう。

河内屋与兵衛を演じるはずだったのが市川海老蔵だが、降板により片岡仁左衛門が与兵衛役を務める(与兵衛役は仁左衛門の十八番の一つ。仁左衛門の出世作でもあり、仁左衛門は片岡孝夫時代に与兵衛役で大当たりを取って、日本全国にその名を轟かせた)。海老蔵の降板により、仁左衛門は昼の部も夜の部もほとんど出ずっぱりの状態である。

油商人・河内屋の次男である与兵衛は、女遊びが大好きで、あちこちからの借金を抱えている。父親の徳兵衛はすでに亡く、番頭上がりの男が二代目徳兵衛として河内屋の主となっているが、与兵衛は二代目徳兵衛を見下して勝手放題。与兵衛の放蕩が過ぎるので、河内屋では与兵衛の妹・おかちに婿を取ろうという話が出ている。与兵衛はおかちに一芝居打たせて、それを阻止しようとする。ところがそれがばれた。今でいう逆ギレをして徳兵衛やおかちに暴力を振るう与兵衛。与兵衛は実母のおさわから河内屋を出て行くように言われてしまう。
与兵衛が訪ねた先はなじみの油商・豊島屋。主の妻であるお吉に借金を申し出るつもりであった。実は与兵衛は明朝までに返さなければならない借金があった。豊島屋に入る勇気がなく、表でうろうろしている与兵衛。そこへ、徳兵衛がやって来る。与兵衛の今後を案じた徳兵衛は、「もし与兵衛がやって来たらこれを渡して欲しい」と、お吉に300文を渡す。そうしている内に、おさわも豊島屋へやって来る。やはり与兵衛のことを心配して、お吉に500文を渡しに来たのだ。物陰でそれを聴き、涙にむせぶ与兵衛。しかし借金を返すにはそれでもまだ足りない。徳兵衛とおさわが帰った後、豊島屋の中に入った与兵衛はお吉にあと200文貸して欲しいとせがむ。しかしお吉は主の留守でもあり、首を縦に振らない…。

年齢もあって、仁左衛門は不良には見えないが、演技力・表現力はさすがである。油で滑りながらお吉を殺す場面、お吉を殺した後、手の震えが止まらずに脇差しを手放すのに一苦労する演技、全身をガタガタ震えさせながら退場するラストなど、芸の細かさに感心する。
特に殺害後の心の震えの表現は素晴らしく、観ているこちらの心もガタガタ震えてしまうほどであった。

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