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2007年12月 7日 (金)

レナード・バーンスタイン自作自演 「ウェスト・サイド・ストーリー」全曲

ブロードウェイ史上空前絶後の完成度と言われた、レナード・バーンスタイン作曲の「ウェスト・サイド・ストーリー」。アメリカが生んだ初の偉大な指揮者でもあったレナード・バーンスタインの天才ぶりを示す傑作です。

レナード・バーンスタイン(愛称はレニー)は大変複雑な個性の持ち主であり、指揮者であり作曲家でありピアノの腕も一級品、シリアスなクラシックの作曲家でありながらジャズやポピュラー音楽への関心も非常に高く、指揮者として売れる前はバーでジャズピアノを弾いて稼いでいた、同性愛者でありながらチリ人女優と結婚して子供ももうける、ハーバード大学とカーティス音楽院出たインテリであり、世紀の天才でありながら希代の変人、自己中心的な性格で周囲を呆れさせながらも教育熱心で多くの優秀な弟子を生んでいる、という分裂的な性向の持ち主でした。レニー自身もこの分裂的傾向に悩んでおり、生涯を通じて精神科のクリニックに通い続けましたが、良くなることはありませんでした。

レナード・バーンスタイン自作自演 「ウェスト・サイド・ストーリー」全曲

今回紹介する「ウェスト・サイド・ストーリー」と自作自演によるその全曲盤(ドイツ・グラモフォン)もレニーの分裂的傾向が出たものです。

「ウェスト・サイド・ストーリー」はブロードウェイ・ミュージカルとして作曲されましたが、レニー自身はオペラとしても通用するようにとの意図を込めていました。普通、そうした作品はどっちつかずとなって失敗することが多いのですが、レニーの才能はその難題を見事に、しかも高い次元で乗り越えています。

「ウェスト・サイド・ストーリー」にオペラ歌手の起用も考えたというレニーですが、ミュージカルの歌手が歌う初演を観て、〝「声楽家」を配役に使わなかったのは正しかったと思う〟と書いています。

しかし、いざ自作自演で「ウェスト・サイド・ストーリー」の録音をするという段になってレニーが選択したのはオペラ歌手の起用。しかもプエルトリコ移民のマリアにニュージーランド出身のソプラノであるキリ・テ・カナワ、ポーランド系移民のトニーにスペイン人テノールのホセ・カレーラスという妙な配役。
キリ・テ・カナワもホセ・カレーラスも名歌手ですが、役に全く合っていません。それでも「ウェスト・サイド・ストーリー」のオペラ的な性格を出すことと、レコーディングされて後世まで残るということを考えたレニーは音程の正確なオペラ歌手を起用することにしたようです。

オーケストラはブロードウェイの名手を集めた特別編成の楽団。晩年のレニーの個性を反映して、大変重い演奏をしていますが、重いにも関わらず他のどのCDよりもノリがよく、スウィングしているという、これまた妙な味わいがあります。

ちなみにドイツ・グラモフォンは純クラシック音楽レーベルですが、レーベル史上最も売れたCDがこのクラシックともポピュラーともオペラともミュージカルともつかない「ウェスト・サイド・ストーリー」全曲盤です。レニーは自分自身以外のところにも分裂的傾向をもたらしたのでした。

問題点も多いレナード・バーンスタイン自作自演盤「ウェスト・サイド・ストーリー」ですが、総合点はやはり高く、他の全曲盤(ワーナーのバリー・ワーズワース盤やNAXOSのケネス・シャーマーホーン盤)を大きく引き離す出来映えです。

レナード・バーンスタイン指揮 「ウェスト・サイド・ストーリー」オリジナル&現行版ジャケット

バーンスタイン (1918-90)/West Side Story: Bernstein / O & Cho Te Kanawa Carreras Troyanos Ollmann

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