シプリアン・カツァリス 「モーツァルト・トランスクリプションズ」
キプロス人を両親に、フランスのマルセイユに生まれたピアニスト、シプリアン・カツァリス。
高度な技巧と卓越した音楽性を誇る演奏家ですが、何よりもピアノを弾くのが大好きな人です。一度、西宮で行われたリサイタルを聴きに行ったことがあるのですが、充実したプログラムの後に、10曲近くもアンコール演奏をしました。サービス精神旺盛なのでしょうが、心からピアノが好きな人でなければこうしたことは出来ません。
そんなカツァリスが弾くモーツァルト。オリジナルのピアノ曲集ではなく、管弦楽のための作品をピアノ用に編曲(トランスクリプション)したものを並べたアルバムです。編曲はモーツァルト本人のほか、フンメル、ジョルジュ・マティアス、ジョルジュ・ビゼー、マシュー・キャメロン、そしてカツァリス本人が行っています。ピアノ21というレーベルからの発売。
レコード技術が発達する以前、家庭内で音楽を楽しむ場合は、自ら楽器を弾くか、家族が演奏を聴くか、そのいずれかが普通でした。
ピアノ曲や、弦楽器や管楽器の独奏、室内楽などの場合はオリジナルを演奏すれば良かったのですが、オーケストラ曲を聴きたい場合、深田恭子演じる「富豪刑事」のように自宅にオーケストラを招くことの出来る人はそうそういないので、管弦楽曲をピアノ用に編曲したものを聴いて楽しむということが行われていました。
このアルバムには、歌劇「後宮からの誘拐」より序曲(ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト作、編曲)、同じく“ベルモンテのアリア”(シプリアン・カツァリス編曲)、交響曲第40番ト短調(ヨハン・ネーポムク・フンメル編曲)、歌劇「魔笛」より11曲(ジョルジュ・マティアス&ジョルジュ・ビゼー編曲)、セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(マシュー・キャメロン編曲)を収録。
ヴィルトゥオーゾ・ピアニストでもあるカツァリスの技術が冴え渡り、煌めくようなピアノの音がファンタジーを生んでいます。トランスクリプション・アルバムというと、「邪道」のイメージがありますが、カツァリスが生み出す音楽には、そうしたことを感じさせる余地はありません。モーツァルト好きも、ピアノ好きも、カツァリスのファンも満足させる素敵なアルバムです。
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