観劇感想精選(28) 串田和美演出 安部公房「幽霊はここにいる」
2006年2月15日 滋賀県大津市の「びわ湖ホール」中ホールにて観劇
大津へ。びわ湖ホール中ホールで、串田和美(くしだ・かずよし)演出の舞台「幽霊はここにいる」を観る。作:安部公房。出演は小澤征悦、毬谷友子、内田紳一郎、通山愛理ほか。当初は串田も出演する予定だったが、体調不良で降板した。
「幽霊はここにいる」は1958年、千田是也の演出により俳優座で初演。串田の演出による上演は1998年以来2度目である。
1958年に書かれたものだけにオールドファッションであることは否めない。しかし現代にも通ずるものはある。時代は変われど人間と人間が生み出す社会という現象はそれほど変わるわけではない。安部公房の本は人間と社会の本質を突いているだけに普遍性があるのだ。
終戦直後、北浜市という街。稀代の詐欺師・大庭三吉(内田紳一郎。当初は串田が演じる予定だった)がたき火に当たっていると、兵服姿の深川啓介(小澤征悦)という男がやって来る。深川は戦友の幽霊を連れて歩いていると言い、幽霊の身元探しのために死人の写真を集めたいと大庭に語る。これを聞いた大庭は幽霊で一儲けしようとたくらみ、「死人の写真買います」というチラシを街中に貼り、写真を持ってきた人に預かり証だけを渡す。そして、大庭を偵察していた新聞記者の箱山を見つけて脅し、「家なき幽霊に愛の手を」という記事を書かせることで、気味悪がって写真を返して貰いたいと言ってきた人から法外な引き取り領をせしめる。しかし幽霊の要求は次第にエスカレートしていき……。
幽霊という「虚」の存在が現実の社会をかき回すという物語。脚本は時代を感じるし洗練度も不足気味だが、「虚」が力を持って金を生み、その金がまた力を持って「虚」を「現実」化していくというシステムは、「ライブドア事件」などを想起させる。
虚業や株といった不明瞭なものに人々が惹かれ、空洞化した経済のシステムだけが「化け物」のように膨張していく。バブル経済の正体もまた同じものだったのだろう。世の仕組みは初演時からあまり変わっていないようだ。
話の展開や背景に古くささがあるのは仕方ない。しかし描かれていることは今もなおアクチュアリティを失っておらずホットである。興味深い舞台であった。
楽器の生演奏を取り入れて舞台を盛り上げるいつもの串田スタイルも健在。エンターテイメントとしてもかなり成功していたように思う。
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