観劇公演パンフレット(27) こまつ座「円生と志ん生」(再演)
こまつ座の「円生と志ん生」の公演パンフレットを紹介します。といっても、こまつ座の場合は、「the座」という季刊誌を発行していて、それが公演パンフレットの代わりになっています。
「the座」No.57増補改訂版(「円生と志ん生」)は、2007年10月27日、西宮市の兵庫県立芸術文化センター中ホールにて購入。
こまつ座の座付き作家である井上ひさしの自筆による六代目三遊亭円生と五代目古今亭志ん生の年譜、井上ひさしにより前口上、演出家:鵜山仁へのインタビュー、円生を演じる辻萬長と志ん生を演じる角野卓造の対談、出演者へのインタビュー、舞台監督:増田裕幸による稽古場日誌、円生と志ん生の生涯、二人の孫弟子である三遊亭鳳楽と古今亭志ん五による対談などが収められています。
「円生と志ん生」(再演)概要と感想
午後2時より、西宮市にある兵庫県立芸術文化センター中ホールで、こまつ座の公演「円生と志ん生」を観る。2005年初演の舞台の再演。脚本は当然ながら
井上ひさし。文学座の鵜山仁の演出。出演は、辻萬長(つじ・かずなが)、角野卓造、塩田朋子、森奈みはる、池田有希子、ひらたよーこ(平田オリザの奥さ
ん。ポワーンとした感じの役をやらせるといい味を出す女優さんである)。女優陣はそれぞれ4役を演じ分ける。
池田有希子の演技を見るのは久しぶり。10年ぶりぐらいになるのではないだろうか。
昭和20年夏から同22年春までの旧満州国・大連が舞台。昭和20年の春、噺家の五代目古今亭志ん生こと美濃部孝蔵(角野卓造)と六代目三遊亭円生こと山
崎松尾(辻萬長)は、空襲が激しさを増す本土を離れ、大連にやって来る。ちょっといたら日本に帰るつもりでいたが戦火が激しさを増し、米軍が日本海を渡る
日本船を次々に撃沈しているということで帰るに帰れない。そこで満州国内各地で口演を行っていた。しかし、8月9日にソ連が突然参戦。奉天(現在の瀋陽)
にいた志ん生と円生は、「関東軍が守ってくれるだろう」と安心しきっていたが、関東軍は市民を残してさっさと大連へ退却。志ん生と円生も大連にやって来
て、そこで8月15日を迎える。舞台はここから始まる。
密航でも何でもして日本に帰りたいと思う志ん生と円生だが、当然ながら思い通りにはいかない。大連市はソ連軍によって包囲され、市内では日本人が次々に行き倒れている……。
苦しく辛い時代を笑いでもって渡っていく、人間の強さと希望の力を描いた作品。悲劇にもなりうるストーリーを喜劇に転じている。
敗戦の悲惨さや政治のいい加減さも勿論きちんと描かれているが、それだけに留まらず、今、この時代、21世紀初頭のこの時代にも通じる要素を出しているのが井上ひさしらしい。
笑いと涙の同居した人生と、そうした人生を生き抜く人々への井上のまなざしは優しい。悲しいことばかりの現実だが、それを笑いで乗り切る。事実そのものを
嘆息しないで、喜びを見出す。笑いや喜びが創造であることを示し、暗い世界を明るく生きることが、落語や小説といったものの力で可能になるというメッセー
ジが心地良い。
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