エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 「ベートーヴェン交響曲集」
ロシアのヴェネチアというレーベルから出ている、エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー交響楽団の「ベートーヴェン交響曲集」を紹介します。
いずれも記録用のライヴ録音であり、音質は当時の西側諸国の録音に比べて落ちますが、ヴェネチアレーベルの復刻はかなり優秀です。
交響曲第1番、交響曲第3番「英雄」、交響曲第4番、交響曲第5番、交響曲第6番「田園」、交響曲第7番を収録。
交響曲第1番と交響曲第6番「田園」は1982年のデジタル録音、交響曲第3番「英雄」は1968年、交響曲第7番は1958年のモノラル録音、交響曲第4番と交響曲第5番は1972年のステレオ録音です。1968年というと、西側ではステレオ録音が本格的に始まってから10年ほどが経っていますが、ソ連は国家自体が録音技術に力を入れなかったためかモノラルです。
1982年のデジタル録音も、試験的に行われたものとされていて、マイクセッティングが妙です。
ということで、音質だけを取るなら西側のレーベルに大きく大きく水を開けられてしまっていますが、それでもこのセットが特別なのは、エフゲニー・ムラヴィンスキー(1903-1988)という旧ソ連の人間国宝的指揮者の力と、彼が育てたレニングラード・フィルハーモニー交響楽団の演奏技術の高さゆえ。
ムラヴィンスキーは1903年生まれなので、彼が青春時代に隆盛を極めたロシア・フォルマリズムの影響を受けたとしてもおかしくなく(影響を受けたという確証はない)、他の指揮者とは明らかに異なった演奏スタイルを取りました。
ベートーヴェンというと、情熱の迸りを感じさせる演奏が多い中、ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルは情熱を持ちつつも冷徹に楽曲構造へと切り込んでいきます。
「冷たい」「権威主義的」といって嫌う人も多いムラヴィンスキーとレニングラード・フィルの演奏ですが、ムラヴィンスキーの楽譜の読みの深さと、レニングラード・フィルの共産主義的と言って良いのかどうかはわかりませんが正確さとパワーは聴く者を圧倒するのに十分です。
先にも述べたとおり、ヴェネチア・レーベルの復刻は優秀。交響曲第3番「英雄」と交響曲第7番のモノラル録音にもステレオプレゼンスのようなものが施されているようですが、不自然な感じはしません。
ロシア国内向けの商品なので、ジャケットもライナーノーツも、ほぼ全てキリル文字で埋まっており、また、左下に紹介してあるとおり、 ライナーノーツの表紙に描かれた無闇に男前のベートーヴェン像が、「楽聖は男前でなければならない」という、レーニンやスターリン礼賛や美化にも繋がるソヴィエト連邦的もしくは国家主義的ヒロイズムを感じさせるのが難点ですが、異色にして説得力溢れる名演として、ムラヴィンスキーのベートーヴェンは高く評価できます。
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