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2008年5月27日 (火)

佐野真 『和田の130キロ台はなぜ打ちにくいか』(講談社現代新書)

昨シーズン、利き腕である左腕の肘の靱帯の手術をし、今季の開幕には間に合わなかったものの、復帰後は5連勝と、さすがの活躍を見せている福岡ソフトバンクホークスの和田毅投手。速球はMAXでも140キロちょっとで、ほとんどが130キロ台。カーブ、スライダー、チェンジアップと、変化球の種類も多くはないのに、東京六大学の通算最多奪三振記録を持ち、プロ入り後も軟投派と見られながらも抜群の奪三振率を誇る和田の投球の秘密に迫ったのが、佐野真の書いた『和田の130キロ台はなぜ打ちにくいか』(講談社現代新書)。帯には、「こうすればあなたも速くなる?!」という文句が書かれていますが、結論からいうと速くはなるかもしれませんが、和田のようなストレートを投げるのは無理です。

佐野真 『和田の130キロ台はなぜ打ちにくいか』(講談社現代新書) 和田毅が注目されたのは、島根県の浜田高校時代。120キロ台のストレートを相手が打てず、地元のテレビの高校野球解説者も困惑。
和田を擁する浜田高校は、甲子園への切符も二度手にしますが、和田が三年の時の夏の甲子園大会で、強豪・帝京高校に勝ち、帝京の選手が「(和田のストレートは)150キロに見えた」とコメントしたことで、バッターボックスでの体感速度がかなり速いストレートを和田が投げていたことがわかります。

しかし、実際の速度は120キロ台。早稲田大学に進学後、最初の試合でのMAXも129キロであり、和田もチームメイトも落ち込んだそうですが、現在も和田のトレーナーを務める土橋恵秀(当時は早稲田大学1年生の学生トレーナー)のアドバイスにより、その年の夏にはストレートのスピードは142キロをマークするなど急速に伸びています。
和田のストレートが遅かったのは下半身が巧く使えていなかったというのが最大の原因でした。

と、いうことで、投球動作の際の体の使い方は参考になります。巻末には和田が書いた、投球モーションに関する卒業論文を全文掲載されており(文学部出身の私から見ると「こんな短い論文でいいんかいな?」という気にもなりますが、クレバーな論文であることは確かです)、和田本人の身体に関する探求心を窺い知ることが出来ます。

ただ、和田が130キロ台のストレートで次々と三振を奪うことの出来る理由は、和田の持って生まれた身体能力によるところが大きいのも事実です。和田の指は後ろに反らすと90°も曲がり、手首も柔らかく、そのためリリースの際に常識を超えた回転数をボールに与えることが出来、初速は遅くてもスピードが余り落ちないまま打者の手元まで来るので打てないのです。

和田のストレートが打ちにくい理由をここで明かしてしまいましたが、それを明かしたくらいでは面白さが全く減らないのがこの本の良さ。野球ファンは必読です。

佐野真 『和田の130キロ台はなぜ打ちにくいか』(講談社現代新書) 紀伊國屋書店BookWeb

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