観劇公演パンフレット(31) 東京セレソンデラックス 「夕(ゆう)」2008
東京セレソンデラックス(東京セレソンDX)の公演「夕(ゆう)」の公演パンフレットを紹介します。2008年7月19日、大阪・心斎橋そごう劇場にて購入。
昨年、「あいあい傘」で初の関西公演を行った東京セレソンデラックスの二年連続二度目の関西公演となった「夕」。2003年に初演された劇で、今回は再々演。長崎の田舎町を舞台とした情感豊かな芝居です。
パンフレットには出演者紹介の他に、舞台となった長崎県と長崎市、長崎弁の紹介、背景となった1980年代のキーワード紹介などのコーナーがあります。
「夕」2008の概要と感想
大阪の心斎橋そごう劇場で、東京セレソンデラックス(東京セレソンDX)の公演「夕(ゆう)」を観る。午後6時開演。作・演出:サタケミキオ(宅間孝行のペンネーム)。出演:宅間孝行、永井大、木下智恵、いとうあいこ、杉田吉平、篠原あさみ、万田ユースケ、西村清孝、越村友一、水谷かおり、永田恵悟、武藤晃子、丸山麗、川又麻衣子、浜丘麻矢。
昨夏、東京・新宿御苑前のシアターサンモールで観た「歌姫」が連続テレビドラマになるなど、好調の東京セレソンデラックス。だが、その裏では内紛があり、主宰の宅間孝行がメンバー拡充のためのオーディションを行う際に、従来のメンバーにもオーディションを受けるようにいったところ、大多数のメンバーが劇団を去ることを選択した。主宰の宅間孝行一人が脚本家として売れてしまったことから生じた悲劇である。
「夕」は、長崎県の田舎町を舞台にした作品。セリフはほぼ全編、長崎弁が用いられている。2003年に初演された劇で、今回は再々演になるとのこと。基本的には悲恋物だが、じめっとした感じにはなっていない。
1980年代、長崎県にある海沿いのとある田舎町。欣弥(万田ユースケ)、元弥(宅間孝行)、雅弥(西村清孝)の相川三兄弟は、“長崎のキングギドラ”と呼ばれる有名な不良三兄弟である。
次男で高校生の元弥に、幼なじみの三上夕(木下智恵)は恋心を抱いているのだが、当の元弥は夕の女子高の同級生である薫(いとうあいこ)という女の子に気がある。だがその薫は元弥の弟分の塩屋憲太郎(永井大)のことが好きで、元弥の目の前で憲太郎に告白する。
数年後。東京の大学に進学した憲太郎の後を追うように薫も東京の大学へ。一方の元弥は牧場主に成りたいと言い、北海道の牧場に研修に出かける。ヤンキー上がりで日常生活のことはまるで駄目という元弥の面倒を見るために、夕は勤めている会社に「病気で入院することになった」と嘘をついて元弥に同行する。根性が無く、すぐに研修先の牧場から逃げ出してしまった元弥は、夕としばらく北海道旅行をする。夕はその旅行の間に、元弥に恋心を打ち明けようと決めていたのだが……。
物語の強靱さと推進力にまず魅せられる。心情吐露の長ゼリフが多用されるのだが、役者はみな適度に感情の乗った熱演を繰り広げた。今回の東京セレソンデラックスの公演も良い出来である。
東京セレソンデラックスには1年に1度などと贅沢はいわないから、これからも定期的に関西に来て欲しい。関西の演劇界にとって良い刺激となると思う。肝心の関西演劇人の顔は、今日は残念ながら客席にはなかったが。
東京セレソンデラックスの「夕」は今日が大阪初日で、全13回の上演が予定されている。チケットが完売ではないようなので、普段とは違った演劇を観たい関西の方は是非どうぞ。というより、東京セレソンデラックスの芝居は東京よりも大阪での方が受けいれられやすいのではないだろうか。
その東京セレソンデラックスの演劇なのだが、テレビや映画といった業界人には人気なのだが、演劇界での評価は必ずしも高くない。以前、とある演劇コンクールに参加したところ、客席からの受けは良かったのに、審査員からは「こういう劇はキャラメルボックスでやればいいんじゃないの」といった反応しかなかったと宅間孝行がある雑誌のインタビューで語ってた。
宅間孝行がサタケミキオの名で書くテキストは、先にも書いたように心情吐露の多い長ゼリフが中心なのだが、日本の主流である作劇法からいうと、これらは良くは思われていない。しかし、個人的には内容さえ良ければ劇作の手法なんてどうでもいいじゃないかと思われるのだが。
形式的に整った劇よりも、「夕」のように破綻はあってもリアリズムでなくても活気に溢れた劇の方が魅力的である。というより、ある程度の破天荒さとリアリズムからのズレがあった方が、演劇という装置には似付かわしいようにも思える。
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