第九あれこれ 2008 その1 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 バイロイトの第九(オルフェオ盤)
1951年7月29日。第二次世界大戦での敗北により中断されていた、バイロイト音楽祭の復活を祝う演奏が行われました。曲目はこうしたセレモニーの定番であるベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」。ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団ほかにより演奏されたこの第九は、圧倒的なスケールとフルトヴェングラーの熱を帯びた音楽作りによる大変優れたものであり、フルトヴェングラーの死後にEMIから発売されたその録音は「永遠の第九」と呼ばれるほどの評判となりました。
「永遠の第九」の難点はただ1カ所。終結部分がフルトヴェングラーの猛烈なアッチェレランドのせいでずれてしまっていること。
しかし、最近になって、EMIではなく、バイエルン放送が録音した同じ日付の演奏がフルトヴェングラー・センターから世に出ます。これが問題になりました。ずれているはずの終結部がずれていなかったのです。フルトヴェングラー・センターから出たものは会員のみに配布されただけであり、店頭では手に入れることが出来なかったのですが、その後バイエルン放送による録音がオルフェオ・レーベルから発売されました。
同一のはずの演奏内容に違いが出るというのは普通は考えられません。そこで、「同じ日に2回公演があったのでは?」という説が出たのですが、それはどうやらないようです。しかし、オルフェオから発売された録音にも聴衆の咳などが混じっており、ライブ録音であることは間違いありません。
そこで、「公開リハーサルという形での演奏があったのではないか」という説も出ましたがこれもはっきりしないようです。
結局、今になっても真相は藪の中。1951年のバイロイト音楽祭のメインは、ヘルベルト・フォン・カラヤンによるワーグナー作品の上演であり、EMIのプロデューサーであるウォルター・レッグはフルトヴェングラーとカラヤンの両方と仕事をしていましたが、この時期はカラヤン寄りの姿勢を見せていて、フルトヴェングラー指揮の第九は、「ついでに録音しておくか」といった扱いであり、しかもレッグは第九の演奏の内容に満足せず、当初は録音を発売しない予定でした。そのため、発売がフルトヴェングラーの死後になってしまい、指揮していた当の本人の許可がないままの発売となったことも、真実を結果としては覆うことになっています。
フルトヴェングラーは基本的に録音嫌いで、細部の録り直しということをしない人でした。だから、ずれたラストだけを取り直して入れ替えるということは考えられません。フルトヴェングラーが生きている間に発売となっていたら、ラストのずれに関してフルトヴェングラーが何らかの証言をしていたかも知れませんが、巡り合わせが悪く、それも叶いませんでした。
とはいえ、EMI盤もオルフェオ盤も見事な出来であり、出来るなら両方持っていたいところです。
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