コンサートの記(29) びわ湖ホール「ファジル・サイ ピアノリサイタル」2008
2008年11月30日 大津市の滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール大ホールにて
びわ湖ホール大ホールにて午後3時からの公演を鑑賞する。「ファジル・サイ ピアノリサイタル」。
数少なくなった変人系天才ピアニスト、ファジル・サイ。1970年生まれのトルコ人ピアニストである。最近では何故か山口智子と噂になるなど、音楽以外でも話題になっていたりする。
びわ湖ホールのホワイエのモニターには、ファジル・サイのドキュメンタリー映像が流れていた。今もトルコを活動の拠点としているファジル・サイ。ドキュメンタリー中のインタビューによると、若い頃にはアメリカに拠点を置いたこともあったというが、田舎町での演奏旅行をこなさなければならず、「それならアナトリアで弾いていた方がよっぽどましだと思った」と語っていた。
曲目は、前半が、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」。後半は、作曲家でもあるファジル・サイの作品、「ブラック・アース」、「パガニーニ・ジャズ」、「トルコ行進曲・ジャズ風」、「3つのバラード」。そしてガーシュイン作曲、ファジル・サイ編曲の「サマータイム・ファンタジー」と「ラプソディ・イン・ブルー」。
ファジル・サイのピアノリサイタルには2年前にも接しているが、その時に比べるとファジル・サイは長髪になり、髪の色も白っぽくなっている。
ステージ上では相変わらず変人ぶりを発揮。片手で弾いている時は、もう片方の手を無意味に顔の付近に上げる、あるいはピアノに向かって指揮をする。上を向いて反っくり返ってピアノを弾いていたかと思えば、今度は客席をじっと見つめて弾き始める。弾きながら鼻歌を唄う。
それでいて生まれる音楽は個性的でありつつも上質である。
組曲「展覧会の絵」は一台のピアノによる演奏であるにも関わらず、並の管弦楽版演奏よりも多彩で表現力豊かだ。
ちなみにファジル・サイ、「テュイルリーの庭」の前の置かれた「プロムナード」の最後の3つの音を、鍵盤を弾くのではなく、ピアノの弦をそのまま手で弾いて出していた。「えー! そんなのありなの?」と思ったが、ファジル・サイがやると様になる。そして「ブィドロ」では足踏みを鳴らしながらも堂々とした演奏を繰り広げる。「卵の殻をつけた雛のバレエ」「リェージュの市場」などの速いパッセージをファジル・サイは圧倒的なテクニックと煌めくような音、いや煌めく音で駆け抜ける。「キエフの大門」の演奏も、適当なプロオーケストラの演奏よりもずっと巨大で迫力がある。
後半の自作の演奏。ファジル・サイが作曲家としても天才的であることを存分に知らせる出来である。ファジル・サイのファンにはおなじみの「ブラック・アース」での片手でピアノの弦を押さえることで弦楽器的な音色を出すというアイデア、「パガニーニ・ジャズ」や「トルコ行進曲・ジャズ風」の垢抜けた雰囲気、「3つのバラード」の美しい旋律など、いずれも面白い。「3つのバラード」などはそのまま映画音楽に転用できそうなほどメロディアスである。
ところでファジル・サイ、作風が坂本龍一を思わせるという話を以前ここに書いたことがあるが、今のファジル・サイは髪も白くて長くなり、衣装も黒いので、遠目に見ると風貌も坂本龍一に似て見える。もちろん坂本龍一は、視線をあっちこっちに飛ばして演奏したりはしないけれど。
それに、ファジル・サイの歌声も、実は坂本教授の声に似ているのだった。
「サマータイム・ファンタジー」ではアンニュイながら深い音楽性を示し、「ラプソディ・イン・ブルー」は「展覧会の絵」同様、下手な協奏曲バージョン演奏などよりもずっと彩り豊かである。
アンコールでもファジル・サイは自作を弾く。イスラエルの国歌に似たメロディーを持つ、哀愁に満ちた音楽だった。
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