コンサートの記(33) ワレリー・ゲルギエフ指揮ロンドン交響楽団来日演奏会2008京都
2008年11月28日 京都コンサートホールにて
午後7時から、京都コンサートホールで、ワレリー・ゲルギエフ指揮ロンドン交響楽団の来日演奏会を聴く。
演奏曲目は、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(ピアノ独奏:アレクセイ・ヴォロディン)と、プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」第1組曲と第2組曲より。
現役の指揮者としては最もカリスマ性があると言われるゲルギエフと、ゲルギエフが首席指揮者を務め、イギリス最高のオーケストラと自他共に認めるロンドン交響楽団の公演。曲目もポピュラー、なのだが、意外にも満席にならず。1階席右側ステージ寄り、1階席後方、3階席正面にはまとまった空席が目立つ。これが京都のクラシック音楽を巡る現状のようだ。
ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番もプロコフィエフの「ロメオとジュリエット」も20世紀の作品だが、ゲルギエフとロンドン交響楽団は完全な古典的配置で演奏に臨む。いずれの曲も古典配置で演奏されるのを見るのは私も今日が初めてである。
ゲルギエフは今日は全曲タクトなしで振る。指をヒラヒラと動かすお馴染みの指揮だ。
ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番。ソリストのヴォロディンは、力強いタッチで旋律を奏でる。甘いメロディーに溺れることのない、剛毅な演奏である。
ゲルギエフの指揮するロンドン響は「美しい」と形容するより、「熟した」と表現した方がより近い音を出す。かなり速めのテンポによる演奏だったが、薄味にはならない。金管が強力で、オーケストラ全体としてのパワーも強烈だが、時に「鳴らし過ぎ」では、と思えるような、音が飽和状態に達してモワモワとしてしまう瞬間があった。古典配置が影響しているのか、ロンドン響がバービカンホールという世界有数の悪音響で知られる会場を本拠地にしていることが原因なのか、あるいは他に理由があるのか。
とはいえ、ゲルギエフは盛り上げ上手。3つある楽章を繋げて演奏し、第3楽章のクライマックスの築き方などは、見事という他ない。
プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」より。ゲルギエフはプロコフィエフを得意としていて、サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場管弦楽団と、バレエ音楽「ロメオとジュリエット」全曲などを、ロンドン交響楽団とは「プロコフィエフ交響曲全集」を録音している。
大編成での演奏だが、音が立体的。これはオーケストラプレーヤー個々のハーモニーに対する感覚の鋭さに由来するものだろう。残念ながら日本のオーケストラは大編成ではここまで立体的な音は出せない。金管は相変わらず強力で、弦も厚みがあり、京都コンサートホール全体が楽器と化して鳴り響く。アバド、ポリーニ、内田光子ら有名演奏家が口を揃えて音響をけなすバービカンホールでもそれなりに鳴らすであろうロンドン交響楽団だけに、京都コンサートホール自体を楽器として響かせるのはたやすいということなのだろうか。
技術的なミスもほとんどなく、文句の付けようのない演奏。アンコールとして演奏された、やはりプロコフィエフの歌劇「3つのオレンジへの恋」より“行進曲”も見事な演奏だった。
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