コンサートの記(43) パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン来日公演2006名古屋
2006年5月20日 名古屋市の愛知芸術劇場コンサートホールで
名古屋へ。愛知芸術劇場コンサートホールで、パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団の演奏会を聴くためだ。
パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団の演奏会は午後6時に始まる。
オール・ベートーヴェン・プログラムで、「コリオラン」序曲、ヴァイオリン協奏曲、交響曲第3番が演奏された。ヴァイオリン協奏曲のソリストは、当初、諏訪内晶子が予定されていたが、諏訪内の病気のため、1980年生まれの若き女性ヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンが代役を務める。諏訪内さんも相当な天才であるが、ヒラリー・ハーンは現役ヴァイオリニストとしては最高峰に位置する天才であり、諏訪内よりも格上である。
ドイツ・カンマーフィルは古典配置を採用。トランペットとティンパニは古楽器を使用している。愛知芸術劇場コンサートホールは思ったよりもこぢんまりとしたホールである。空間の広さだけなら大阪の「いずみホール」とさほど変わらない。高い席と安い席はほぼ全て埋まっているが、中間の席には空席も目立つ。音の評判は余り聞かないが、満足できる水準には達している。それよりも、このホールの良さは窓から見える夜景の美しさ。ホールから見える景色もまた演奏会の一部なのだと、改めて気づかされる。
パーヴォ・ヤルヴィはステージ上手から登場。指揮者が上手から登場するのは初めて見る。愛知芸術劇場ではいつもこうなのだろうか?
「コリオラン」序曲。冒頭から叩きつけるような迫力に富み、ピリオド奏法を援用したノンビブラートの弦楽陣が澄んだ音色を作り出す。パーヴォの作り出す音楽は極めて個性的。ベートーヴェンが好きなら一度は聴いておきたい指揮者だ。
ヴァイオリン協奏曲。独奏のヒラリー・ハーンはすでに同曲をレコーディングしており(伴奏はデイヴィッド・ジンマン指揮ボルチモア交響楽団)、その時の印象から、天翔るような音楽を予想していたのだが、実際は密度の濃い、骨太の音楽を奏でた。表情が重いようにも感じるが、音色には血が通っており、テクニックも文句なし。女流とは思えないほどの力強さも感じさせて、流石と思わせる。
アンコールはJ・S・バッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ」より「ラルゴ」を演奏。崇高な名演であった。
演奏を終え、劇場関係者から花束を受け取ったハーンは、向日葵を一本抜き出してパーヴォ・ヤルヴィに、別の花を一本(何の花かは良く見えなかった)コンサートマスターに送る。なかなか粋なことをする。
メインの交響曲第3番「英雄」。楽団員が登場、と思ったら、一度は席の近くまで来た第二ヴァイオリンの首席奏者が慌てて楽屋の方へと戻っていく。「弦が切れていたのかな?」と思って待つ。第二ヴァイオリン首席奏者、再び登場。客席からは(冷やかしも兼ねた)盛大な拍手。何と、「楽譜を持ってくるのを忘れた」ために慌てて取りに戻ったことが判明。会場が笑いに包まれる。
そしてパーヴォが何事もなかったかのように登場。客席に向かって一礼した後、オーケストラの方を向いていきなり振り始める。最初の二つの和音は生命力に満ち、その後も勢いよい音のドラマが繰り広げられる。テンポはかなり速い。私が聴いたことのある「英雄」の中でも最速の部類に入るのではないか。テンポは自在に変化し、音楽は生き物のようにうねる。
木管を強く吹かせるのが特徴。トランペットは古楽器(ナチュラルトランペット)を使用しているので、第1楽章のクライマックスでは高音が出ずに、当然、主題が聞こえなくなる、はずが、代理に旋律を吹く木管が強力なので、何の違和感もなく主題を聴き取ることが出来た。
第1楽章と第2楽章の合間には小休止を入れたパーヴォだが、第2楽章から第4楽章までは、間を開けずにアタッカで入る。
第2楽章「葬送行進曲」もテンポは非常に速い。影には若干乏しいが、音のうねりがその欠点をカバーする。
第3、第4楽章に至っては、その活気から、「ベートーヴェンの第7を待たずに『舞踏の聖化』が成し遂げられた」と思ってしまうほどのリズム感抜群の演奏で、パーヴォ・ヤルヴィという指揮者の才能を十二分に堪能できた。
面白いベートーヴェンであった。生でこれほど面白いベートーヴェンを聴いたのは、サー・サイモン・ラトル指揮バーミンガム市交響楽団の来日公演における第5交響曲(於:東京オペラシティ・コンサートホール・タケミツ・メモリアル)以来である。解釈も斬新であり、聴いて絶対に損はしない。
演奏を終えて、劇場関係者から花束を受け取ったパーヴォは、ヒラリー・ハーンの真似をして一本抜き出そうとしてやめるという冗談を演じてみせる。なかなか役者である。
アンコールはシベリウスの「悲しきワルツ」。パーヴォは途中で、集中していると幽かに聴き取れるというほど弱いピアニッシモを指示し、音がどこか遠くから聞こえてくるような独特の世界を創り出していた。
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