中川右介 『世界の10大オーケストラ』(幻冬舎新書)
音楽書を多く出しているアルファベータ社の代表取締役でもある中川右介の『世界の10大オーケストラ』(幻冬舎新書)。
選ばれたオーケストラは、シュターツカペレ・ベルリン、ニューヨーク・フィルハーモニック、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、イスラエル・フィルハーモニック管弦楽団、フィルハーモニア管弦楽団、パリ管弦楽団。
世界の10大オーケストラにどの楽団を選ぶかは、それぞれに様々な意見があると思われますが、著者である中川右介は、彼自身が最もよく聴いた指揮者であるヘルベルト・フォン・カラヤンを軸に10のオーケストラを選んでいます。
シュターツカペレ・ベルリンは、カラヤンが初めてレコーディングを行ったオーケストラ、ニューヨーク・フィルハーモニックはライバルであるレナード・バーンスタインの手兵、ベルリン・フィルはカラヤンが芸術監督、ウィーン・フィルは母体であるウィーン国立歌劇場の総監督を務めており、フィルハーモニアは結成時にカラヤンが深く関わっています。その他の5つの楽団はカラヤンと疎遠だったということで特徴的なオーケストラが選ばれています。
オーケストラの歴史を辿るということで、当然、政治史や国家の背景が影響しています。例えばチェコ・フィルは政変の度に常任指揮者が亡命しており、政治の流れにオーケストラが無縁でないことがよくわかります。
またナチ党員だったカラヤンを軸に据えることで、当然ながらナチスドイツの問題も深く関わってきます。
音楽の書物でありながら、政治背景も追うことで、これまで余り知られてこなかったエピソードなども数多く記されることになりました。
音楽書ではないため、これを読めば音楽がよりわかるようになるというものではありませんが、音楽の背景にあるものを知ることで、音楽が歴史という縦軸の中で生まれたものであるということを確認することの出来る好著です。
| 固定リンク | 0
コメント