コンサートの記(69) ダニエル・ハーディング指揮マーラー・チェンバー・オーケストラ来日公演2006京都
2006年10月8日 京都コンサートホールにて
午後2時から京都コンサートホールで、ダニエル・ハーディング指揮マーラー・チェンバー・オーケストラの来日公演を聴く。
ダニエル・ハーディングは1975年生まれ(1976年生まれという表記も見かけ、実際はどちらが正しいのかわからない)若き巨匠。サー・サイモン・ラトルに認められて18歳でバーミンガム市交響楽団を振ってデビュー。デビュー公演は大絶讃された(その時の模様は「レコード芸術」誌などを通して日本でも紹介されている)。その後も順調にキャリアを歩み、ブレーメンのドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団の音楽監督(パーヴォ・ヤルヴィの前任者である)を経て、2003年からマーラー・チェンバー・オーケストラの音楽監督を務めている。今シーズンからはロンドン交響楽団の首席客演指揮者を務め、今後はスウェーデン放送交響楽団の音楽監督への就任が決まっている。これほど大活躍しているのに録音には慎重で、まだ数枚のCDとDVDを制作しているだけである。
マーラー・チェンバー・オーケストラは1997年にクラウディオ・アバドによって創設された、まだ新しいオーケストラ。楽団員の平均年齢は29歳ということである。
曲目は、まずモーツァルトの交響曲第6番(モーツァルトの少年時代の作品であり、普通はモーツァルト交響曲全曲演奏会などでなければ採り上げられない曲である)、それからドイツの若手ピアニスト、ラルス・フォークトをソリストに迎えた、やはりモーツァルトのピアノ協奏曲第20番。メインはブラームスの交響曲第2番。
P席と表記される指揮者と対面する席に座る。今日の席は指揮者であるハーディングの真向かいであり、響きに問題はない。
ハーディングは端正な顔立ちと目の力が印象的な青年である。これほど目に力のある人はそうはいない。全曲ノンタクトで楽譜を置いての指揮であった。暗譜の重要性を認めていないのだろう。
モーツァルトの交響曲第6番という滅多に演奏されない曲を選んだところにハーディングのチャレンジ精神と自信が窺える。
ハーディングは編成をかなり小型にし、古楽器的奏法を全面に採り入れている。特に弦楽器はビブラートを極力抑えており、透明でありながらどこか鄙びた音色を生み出した。
ノンタクトで全身で伸び上がるように指揮するハーディングは、瑞々しい音楽を生み出す。活気にも富み、ほとんど習作扱いしか受けていないこの曲に新しい血を注ぎ込む。ただ、古楽器奏法を徹底させているため、音は小さく、遠くの客席の聴衆にもはっきり聞こえたのかどうかはわからない。
ピアノ協奏曲第20番。ソリストのラルス・フォークトは堅実なテクニックでクリアな音の演奏を繰り広げる。ただ第1楽章や第3楽章では音楽よりも技術の方が目立っているきらいあり。
ハーディングは顔を真っ赤にさせながら情熱的な指揮を繰り広げ、マーラー・チェンバー・オーケストラも真剣な演奏でそれに応える。ただ、第1楽章は音が激しすぎて、情熱が空回りしているようだった。
ラルス・フォークトはカデンツァに聴き慣れないメロディーを採用。ハーディングが団員に向かって、「変わったカデンツァだろう?」という風に目で語っている。
第2楽章はフォークト、ハーディングともに伸びやかでロマンティックな歌を披露。特にハーディングの指揮は表情豊かで感心させられる。
ハーディングの指揮は第3楽章になると力みも消え、ドラマティックな演奏が繰り広げられる。
フォークトはアンコールでモーツァルトの「トルコ行進曲」を演奏。技術は万全、旋律の歌わせ方にも個性がある。良い演奏だ。だが、残念ながら先日聴いたファジル・サイの演奏する「トルコ行進曲」には全く及ばなかった。
ブラームスの交響曲第2番は、マーラー・チェンバー・オーケストラも編成を大きくし(第一ヴァイオリン10人、第二ヴァイオリン8人、ヴィオラ6、チェロ4、コントラバス3。2管編成)、スケール豊かな演奏が繰り広げられる。
温かみのある音色で演奏される巨匠風の演奏とは違い、鋭い音色と噴き出すような情熱を特徴とする演奏。
マーラー・チェンバー・オーケストラのメンバーがハーディングに全幅の信頼を置いて懸命に演奏しているのが印象的だった。
ハーディングはドイツ・カンマーフィルを指揮してブラームスの交響曲第3番、第4番を録音しており、新世代の名盤として高い評価を受けているが、それよりも数段上の演奏だ。
アンコールはドヴォルザークの「スラヴ舞曲集」第2集より第4番。これも30代の指揮者とは思えないほど落ち着いた名演であった。
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