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2011年10月25日 (火)

コンサートの記(74) 広上淳一指揮京都市交響楽団 「オーケストラで描くヒロインたち」in神戸

2011年9月27日、神戸・三宮の神戸国際会館こくさいホールにて

午後7時から、三宮にある神戸国際会館こくさいホールで、広上淳一指揮京都市交響楽団のコンサート「オーケストラで描くヒロインたち」を聴く。

「オーケストラで描くヒロインたち」は、「オーケストラで描くヒーローたち」の続編で、前半は大河ドラマのテーマ曲、後半がベートーヴェンの交響曲第7番である。「オーケストラで描くヒーローたち」は京都でスプリングコンサートとして行われたが、今回の「オーケストラで描くヒロインたち」は何故か京都公演なし。西宮と近江八幡での公演はあるが、近江八幡は曲数が少ない。西宮の兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールが近くていいのだが、先約があって神戸公演を取ることにした。

京阪神というが、京都から神戸までは結構時間がかかる。

曲目は第1部が、大河ドラマとNHKの歴史番組の音楽。「その時歴史が動いた」、「秀吉」、「黄金の日日」、「天地人」、「江 ~姫たちの戦国~」、「龍馬伝」、「徳川慶喜」、「篤姫」。第2部がベートーヴェンの交響曲第7番で、ベートーヴェンの交響曲第7番は、「のだめカンタービレ」の、「のだめ」こと野田恵が一応、ヒロインという設定になっている。実際はベートーヴェンの交響曲第7番が演奏されることは最初から決まっていて「のだめ」は後付けのように思われる。

司会を丸尾ともよが務め、「龍馬伝」のヴォカリーズの部分は「オーケストラで描くヒーローたち」に続き、馬場菜穂子が務める。馬場菜穂子は「オーケストラで描くヒーローたち」の時は京都市立芸術大学の声楽科の学生だったが、今は肩書きがない。ソロとして活動しているのだろうか。

今日のコンサートマスターは渡邊穣。泉原隆志の姿はないが、フルートを清水信貴が担当するので、一軍半ではない。

「その時歴史が動いた」(作曲は、詩人の谷川俊太郎の子である谷川賢作)。京響は弦も管も美しく、清々しい演奏であった。

ここで、司会の丸尾ともよが登場する。広上が歴史に詳しいというので、次に演奏する秀吉の話になる。広上は「ここは、神戸。秀吉のこと悪く言ってもいいかな?」と尋ねる。「(秀吉の出身地である)名古屋で言おうとしたけど駄目だった」とも言い、丸尾ともよが「名古屋では絶対駄目です」と答える。広上は、秀吉について「偉大な武将だが、晩年は甥を殺したり(関白職を譲られた豊臣(羽柴)秀次を「素行に問題あり」として高野山に追放、のちに切腹に追い込み、秀次の身内は女子供に至るまで三条河原で斬首され、京の人々を「太閤さんの世も終わりや」と嘆かせた。秀次一門の遺骸は三条河原に埋められ、その上に「畜生塚」という酷い名前の石の塚が建てられることになる)、ちょっと狂気じみていた」と語る。「黄金の日日」は、六代目・市川染五郎=現在の九代目・松本幸四郎の主演。このドラマで秀吉を演じたのは緒形拳で、家臣を切り捨てて帰り血で真っ赤になる秀吉のシーンが印象的だったと司会の丸尾ともよが語る。丸尾は続けて「あんな残忍な秀吉は初めて見ました」とも言った。「黄金の日日」は、1978年の放送で、広上は「松たか子さんはまだ生まれてないか、お小さいときか、余計なこと言いました」と語る(松たか子は1977年生まれである)。

1996年の大河ドラマ「秀吉」。主演の秀吉役は竹中直人。松たか子は淀殿として出ていた。作曲は小六禮次郎。
広上は、テレビ放送時の音楽に比べると、遅めのテンポを取る(「秀吉」のサウンドトラックは千葉時代によく聴いたので覚えている)。冒頭のトランペットは音量がやや小さいものの、まあまあ良かったが、ラストには息切れしてしまった。ちょっと残念。神戸国際会館こくさいホールの1階席は響きがいいのだが、残響が付きすぎて、今主題を演奏している第1ヴァイオリンの音が残響に埋もれてしまうという場面があった。こくさいホールは3階席で聴いたこともあるが、そこでは音が小さく、残響もいまいち、ということで聴衆にとってやっかいなホールである。

「黄金の日日」の演奏はスケールが大きく、好演。

「天地人」。丸尾ともよが出てきて、主演の直江兼続役の妻夫木聡がこの作品にまっさらな気持ちで向かいたいと語ったことや、直江兼続の子供時代を演じた加藤清史郎の「こんなところに来とうはなかった」という台詞を紹介する。

広上は、「天地人」の作曲者である大島ミチルを高く評価している。立派な演奏であった。

今年の大河ドラマ「江 ~姫たちの戦国~」、お江と羽柴秀勝の間に生まれた、豊臣(羽柴)完子(さだこ)が五摂家の九条家に嫁ぎ、その血筋は今上天皇まで続いているという。お江は徳川秀忠と三度目の結婚をし、7人の子供を設けたという(うち5人が女で、有名な女性に千姫<豊臣秀頼正室、姫路城主・本多忠刻正室>、東福門院和子<とうふくもんいんまさこ。後水尾天皇中宮などがいる>。男の子は家光以外にいないの?と広上が振ったので、丸尾ともよは答えようとするが、一度、「秀忠」と言ってしまい、「忠長(駿河大納言忠長。兄である家光に睨まれ、自害に追い込まれる)」と言い直す。広上が「ここで春日局が出てくるんですね」という。丸尾は「江は忠長(幼名は国松)を可愛がったが、春日局の力で家光(幼名は竹千代)が将軍になった」と伝える。

大河ドラマ「江 ~姫たちの戦国~」テーマ曲の演奏は広上の弟子である下野竜也が指揮している。下野の師である広上の「江」は下野よりも弦楽が滑らかであった。

「龍馬伝」。丸尾ともよが、「龍馬伝」のテーマ曲の指揮をしたのが広上だと伝え、客席から拍手が起こる。「龍馬伝」のテーマ曲にはリサ・ジェラルドのヴォーカルが入るのだが、別録りで、広上はリサ・ジェラルドとは会っていないという。パート毎に録音したため、放送当日まで仕上がりはわからなかったそうだ。「龍馬伝」放送中は、毎回、広上とN響が生で演奏していると思い込んでいる人がいて、「日曜と土曜に毎週演奏して大変ですわね」と言われたという。広上は夢を壊すわけにもいかないし、ということで、「ええ」と曖昧な答えをしたというが、その人は更に「一年やるので、お体の方も大切にしないと」と続けて、反応に困ったという。広上は「丸尾さんの好きな福山龍馬」というが、丸尾は「龍馬にしては格好良すぎました」と言う。龍馬はもっと男っぽい人がいいと続けると、広上は「仁」は内野さん(内野聖陽)で良かったですねと答える。作曲者の佐藤直紀は広上淳一の大学の後輩(東京音楽大学)であるが、広上はいい作曲家だと誉めていた。
「龍馬伝」テーマ曲指揮者だけあって、演奏は堂に入ったもの。ヴォーカルの馬場菜穂子は高音が苦しそうだったが、歌いきった。

「徳川慶喜」。丸尾ともよが、「徳川慶喜を演じたのは本木雅弘さん」というと、広上は愛称の「もっくん」と続ける。広上は「徳川慶喜」のテーマ曲(湯浅譲二作曲)を、「幕末当時の音楽の再現に努めたもの」と語る。丸尾ともよは「オープニングのテロップが絵巻物のように左から右へスクロールするのが印象的だった」と答えた。「徳川慶喜」のテーマ曲は大河ドラマの中でも渋い部類に入るが、演奏は見事である。

最後は「篤姫」。広上の当時10歳の娘が宮﨑あおいが好きで毎週見ていたという。「ストーリーはわかってなかったと思うんですけど」と広上。丸尾ともよは「もう一人のヒロイン、皇女和宮。堀北真希さん、可愛かったですね」という。

「篤姫」の放送の指揮者は井上道義であったが、広上の指揮する「篤姫」は、井上のそれよりスマートである。

第2部、ベートーヴェンの交響曲第7番。広上指揮のベートーヴェン交響曲第7番(ベト7)は、京都市ジュニア・オーケストラを指揮した公演を聴いたことがあるが、この曲はやはり京響の演奏で聴きたい。

広上は、拍子抜けするくらいあっさりと曲をスタート。内声部まで良く聞こえ、楽器の受け渡しがわかる。俗に言う爆演になりやすいベト7であるが、広上は情熱よりも曲を整えることを優先させる。しかし、ベートーヴェンを振らせれば日本トップクラスの定評のある広上でもこうした演奏だとすると、情熱と精緻さを兼ね備えたパーヴォ・ヤルヴィ指揮のベト7がいかに凄い演奏だったかがわかる。ちなみに広上はパーヴォとともにシンシナティ交響楽団の音楽監督候補の最後の二人に残ったという噂があるが本当かどうかわからない。
最初は指揮棒を持っていた広上だが、第1楽章の途中で指揮棒を置き、以後はノンタクトで振った。

第2楽章「不滅のアレグレット」。低弦の哀切な音色が印象的。広上はお尻を振ったりとユーモラスな指揮姿だが、出てくる音楽はそれとは対照的に哀感に満ちている。

第3楽章。最初からエンジン全開。広上が手をパッと開くと同時に、管楽器が鳴る様は、花が一瞬にして咲くイメージが浮かぶかのようである。

第4楽章。広上は最初は抑え気味の演奏をする。第1ヴァイオリンが突っ走りそうになるが、広上は手を出して「抑えろ」と指示(広上の指揮は見慣れているので、どういう指示なのかは大体わかる)。途中からは手を左右に大きく振り、第1ヴァイオリンに今度は「全開で」と指示する。情熱的な演奏が繰り広げられる。パーヴォに比べると落ちるが、それでも見事な演奏であることに変わりはない。神戸の聴衆も大いに盛り上がる。

アンコールでは丸尾が客席に「皆さん、オードリー・ヘップバーンお好きですよね」と聞き、「ティファニーで朝食を」より「ムーンリバー」が演奏される。京響の煌びやかな音色はまさにティファニーの輝きであった。

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