第九あれこれ 2011 朝比奈隆 N響との唯一の第九
朝比奈隆指揮NHK交響楽団、東京藝術大学合唱団ほかによるベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」を紹介します。NHK交響楽団第990回定期演奏会のライブ収録。フォンテック・レーベル。
日本におけるベートーヴェン演奏に第一人者といわれた朝比奈隆(1908-2001)。朝比奈は大阪フィルハーモニー交響楽団の音楽総監督でしたが、NHK交響楽団の音を「日本一の音色」と評価し、「NHK交響楽団は日本一のオーケストラなのだから、もっとしっかりして貰わないと困る」と苦言を呈したこともありました。
年末になると日本では全国各地で第九が演奏されますが、この嚆矢となったのもNHK交響楽団で、ローゼンシュトックが「ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団が年末に第九を演奏する」と紹介し、戦後に尾高尚忠の指揮で年末に第九を演奏したところ、これが大好評で、N響(当時の名前は日本交響楽団)は毎年、年末に第九を演奏するようになり、他の日本のオーケストラもこれを真似て、「日本の年末といえば第九」が定番となりました。今や「年末の第九」は日本の風物詩です。
そのため、NHK交響楽団も第九の演奏には誇りがあり、良い指揮者でない限り第九を振らせることはありません。年末の第九は外国人著名指揮者の招聘が続いています。
そんな中で、N響の第九を振った日本人指揮者が朝比奈隆でした。
この第九は実は年末の第九ではありません。演奏が行われたのは1986年4月25日。しかも当初の指揮者は朝比奈ではなく、ギュンター・ヴァントの予定でした。ただ、ヴァントは厳しい練習を課すことで知られた指揮者でしたので、結局この時はN響側の提示した条件にヴァントが納得せず、キャンセルとなりました。そこで代わりに指揮台に立つことになったのが朝比奈隆でした。年末以外の第九となると、年末の第九以上に指揮者は厳選されます。その中で朝比奈が選ばれたのです。
朝比奈がN響と第九の演奏を行ったのはこの時だけですので、それだけでも貴重な記録です。
演奏ですが、朝比奈らしい、巨大なスケールを誇ります。客演でもあり、また相手がNHK交響楽団ですので、手兵の大阪フィルや、東京における拠点オーケストラだった新日本フィルハーモニー交響楽団を指揮した時ほどには朝比奈は自由には振る舞っていませんが、日本で一番ドイツ的な音を出すNHK交響楽団を指揮しただけあって、重厚で渋い演奏を味わうことが出来ます。
日本音楽史上に残るベートーヴェン指揮者の朝比奈隆と、朝比奈が「日本一」と認めたNHK交響楽団による第九。ベートーヴェン好きなら一度は聴いておきたい演奏です。
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