朝比奈隆以来の快演 クラウス・テンシュテット指揮バイエルン放送交響楽団 ブルックナー 交響曲第3番「ワーグナー」
ブルックナーの交響曲というと、後期の交響曲第7番、第8番、第9番の他に第4番「ロマンティック」も人気がありますが、交響曲第3番「ワーグナー」と第5番も隠れた人気曲です。
今回紹介するのは交響曲第3番の方。「ワーグナー」というタイトルが付いていますが、これはブルックナーがワーグナーの大ファンであり、ワーグナーに献呈されたことに由来します。
ブルックナーの交響曲は後期の三大交響曲ともいうべき作品群には名演が多いのですが、初期の交響曲第1番、第2番、第3番(他に交響曲00番、0番などもあります)はコンサートに取り上げられる回数も少なく、名盤と呼べるものも少ないのが現状でした。
これまでにリリースされたCDでは、朝比奈隆が晩年に手兵である大阪フィルハーモニー交響楽団とスタジオ録音したキャニオン・クラシック盤がスケール雄大で迫力もあり、他を圧している格好でしたが、久しぶりに朝比奈に匹敵するCDを見つけたので紹介します。
クラウス・テンシュテット指揮バイエルン放送交響楽団盤です。profilレーベル。1976年の録音です。約20年後に録音された朝比奈隆盤以来の名演というのは変な格好ですが、テンシュテット盤は数年前にリリースされたばかりなのでそう表現するしかありません。
クラウス・テンシュテットは旧東ドイツ出身の指揮者。長く東側のみで指揮活動を行っていたため、西側の諸国にはその存在や録音が知られない状況が続いていましたが、1971年に西側に亡命。1977年にニューヨーク・フィルハーモニックへの客演で大成功を収めると、その桁外れの実力に「五十代の大型新人」と称され、ヘルベルト・フォン・カラヤンがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督の後任としてに直々に推すのではないかと言われたほどでした。特に1980年代のロンドン・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督時代の人気はもの凄く、ロンドンっ子を大いに沸かせ、オットー・クレンペラー以来の大巨匠扱いを受けました。しかし、酒好きで、リハーサル中にも袖にウィスキーの小瓶を忍ばせ、上手くいかない箇所に来ると小瓶を取り出して一口あおるという癖のあったテンシュテットはおそらくそれも遠因となって1985年に咽頭癌が見つかり、以後は闘病のため指揮台に立つ回数が減り、「テンシュテットのいないロンドン・フィルはミック・ジャガーのいないローリング・ストーンズ」のようだとロンドンの聴衆を嘆かせました。1990年代に入ると指揮活動はほとんど行えないほど病状が悪化、1998年に亡くなっています。
死後も評価は下がるどころか、毎年のように未発表録音が発売されているという人気指揮者であり続けているという稀有な存在です。
この演奏は残響が長い場所で録音されており、それが気になる人はいるかも知れませんが、冒頭からスケール、燃焼度は他の演奏とは比べものにならないほどであり、極めてドラマティックな演奏が展開されます。
朝比奈隆のキャニオン・クラシック盤に匹敵する唯一のCDとして高く評価したい一枚です。
クラウス・テンシュテット指揮バイエルン放送交響楽団 ブルックナー 交響曲第3番「ワーグナー」(profil)タワーレコード
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