コンサートの記(105) 広上淳一指揮京都市交響楽団 「京都の秋音楽祭」開会記念コンサート2013
2013年9月15日 京都コンサートホールにて
午後2時から、京都コンサートホールで、「京都の秋音楽祭」開会記念コンサートを聴く。広上淳一指揮京都市交響楽団による演奏会。
プログラムは、ジョン・ウィリアムズの「リバティ・ファンファーレ」、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番(ヴァイオリン独奏:松田理奈)、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲)。
全て京都市の姉妹都市とゆかりのある音楽が選ばれており、ジョージ・ルーカスやスティーヴン・スピルバーグの映画音楽の作曲家として有名なジョン・ウィリアムズは京都のアメリカにおける姉妹都市・ボストンのボストン・ポップス・オーケストラ(ボストン交響楽団の首席奏者を除く面々で構成され、映画音楽やポピュラーソングのオーケストラ編曲版、ルロイ・アンダーソンなどのライトクラシックを演奏する)の常任指揮者を13年に渡って務め、現在は同楽団の桂冠指揮者である。
ブルッフはドイツにおける姉妹都市・ケルン生まれの作曲家であり、ムソルグスキーの「展覧会の絵」はウクライナにおける姉妹都市のキエフの名が入った「キエフの大門」という壮麗な曲で終わる。またオーケストラ編曲したラヴェルはフランスにおける姉妹都市・パリで活動した作曲家である。
「京都の秋音楽祭」開会記念コンサートの行われる日は、例年だと大抵は晴れているのだが、今日は台風の影響もあって雨。雨は夜に入ると土砂降りに、そして嵐へと変わることになる。
京都市交響楽団のメンバーがステージ上に揃い、チューニングを終えたところで(今日のコンサートマスターは泉原隆志。渡邊穣は今日は降り番であった)、門川大作京都市長(一応、京都市交響楽団の楽団長でもある)が登場し、開会の辞を述べる。「本日はお足元のよろしくない中、お越し下さりありがというございます」と無難な言葉で始めるが、「東京オリンピックの開催が決定致しました。『お・も・て・な・し』」と、オリンピック誘致のために滝川クリステルが行ったスピーチとポーズを真似し(「お・も・て・な・し」はパロディーも含めて様々な人が使っており、「アベノミクス」、「今でしょ!」、「じぇじぇ」などと並ぶ流行語大賞の有力候補である)「京都は『おもてなし』の本場でございます。これまでも京都おもてなし情報館というサイトや京都観光おもてなし大使などを設置して参りましたが、外国人の方々に『おもてなし』の意味を説明するのは難しかったのです。それが今回、一気に有名になりまして、『先見の明がある』などと言われて嬉しい限りでございます。京都が観光都市、文化芸術都市として更に発展していくことを望みます。東京ではオリンピック、京都では文化と芸術。このようになれば幸いでございます」というような言葉を述べ、「それでは1曲目、ジョン・ウィリアムズの『リバティ・ファンファーレ』。よろしくお願い致します」と言って退場する。
広上が登場し、ジョン・ウィリアムズの「リバティ・ファンファーレ」。広上は後ろに残っていた髪を全て剃って、坊主頭にしている。今日も全編ノンタクトでの指揮であった。
「リバティ・ファンファーレ」は、ジョン・ウィリアムズが自由の女神建立100周年を祝うために作曲し、1986年7月4日の独立記念日に初演されたファンファーレ。今日は前から4列目の席で(「京都の秋音楽祭」開会記念コンサートはどの席も一律2000円であり、チケットぴあで券を買ったので、自分で席は選べないのである)、音が良く聞こえるのか不安であったが、そこは広上淳一。以前、自身が指揮する回でない演奏会でも京都コンサートホールの音響をチェックするためにホールに来ていたことがわかっているが、どの席にも音が届くように、力強い演奏をしてくれた。
「リバティ・ファンファーレ」であるが、いかにもジョン・ウィリアムズらしい格好いい曲である。京響は弦も管もパワフルで、昨日聴いたNHK交響楽団に勝るとも劣らない水準に達した実力を見せつける(もっとも、昨日のN響は残響のほとんどないNHK大阪ホールでの演奏、京響は音響の評判は余り良くないが残響2秒はあるクラシック音楽専用ホールを使っているので、そこは考慮に入れる必要はある。それでも京響の現在の水準は日本のオーケストラの中で最上の部類に入るのは間違いない)。
ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番。ヴァイオリン独奏の松田理奈は美貌の技巧派ヴァイオリニストとして人気上昇中の演奏家である。なお、AKBグループのファンの方がこの文章を読むケースを想定して書いておくが、「松田理奈」である。「松井玲奈」ではないので要注意。似た名前だが別人である。
彼女の実演に接するのは二度目。前回は6月の山形交響楽団大阪演奏会で、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第1番のソリストとして登場した際に聴いている。その時はステージのサイド側にある席だったので、彼女の顔をよく見ることは出来なかったのだが、今日は間近で見られる。よく見ると違うのだが、パッと見は女優の新垣結衣に似ている。今日は黒のドレスで登場した。なお、彼女のCDを買うと演奏会終了後にサイン会に参加出来るというので、私もCDを買った。松田がリリースしたCDは4枚あるが、そのうち3枚は購入済みなので、まだ買っていないセカンドアルバムを選ぶ。サイン会の際に間近で接してわかったのだが、美人系というより可愛い系の人であった。
実力が認められ、名器ジローラモ・アマティを貸与された松田理奈。潤い豊かな音色で、難しいと思われるパッセージも楽々弾いていく。弾いている間はずっと目を閉じるというスタイルであるようだ。彼女がまだ学生であった頃に録音されたファーストアルバムを聴いた感想は「確かに腕は立つけれど一本調子」というものであったが、今では引き出しが沢山ある。広上指揮する京都市交響楽団もソリストが名手だというので、遠慮の一切ない豪快な伴奏を聴かせる。
第3楽章に入ると松田は笑顔を見せ、超絶技巧のパートを楽しそうに弾いていく。メカニックが優れており、余裕があるから楽しそうに弾けるのだろうが、松田やピアニストの河村尚子のように楽しげに演奏されると、聴いているこちらもまた楽しい気分になる。
ソロ、伴奏ともに優れた演奏であり、演奏終了後、多くの人が松田に「ブラボー」を叫ぶ。女性なので、イタリア語では「a」で終わるものに変わり、正確には「ブラーヴァ」なのであるが、こうした変格が日本に根付くにはまだ時間がかかりそうだ。
松田はアンコールとして、クライスラーの「前奏曲とアレグロ」より“アレグロ”を演奏する。快調な滑り出しと思ったが、松田は演奏をすぐに止めて、「すみません、もう一度」といってチューニングしてから再度弾き出す。音を外したというわけではなさそうなので、ヴァイオリンの調が狂っていたか、演奏に納得出来なかったのであろう。
二度目の演奏は超絶技巧を次から次へと繰り出す情熱的なものであった。演奏終了後に松田は再び喝采を浴びる。
後半、ムソルグスキー作曲、ラヴェル編曲の組曲「展覧会の絵」。今日の京響は、自慢の金管パートがいささか不調であったが、弦も管も力感と自信に満ち、堂々とした演奏を展開する。聴き手にイメージを喚起させる力も十分だ。
広上の指揮は今日もユニーク。ボクサーのようにパンチを繰り出したかと思うと、体をクネクネさせながら踊ってみせたりする。ただ、指揮姿通りの音楽を京響から引き出すのは流石である。
各曲の描き分けも広上と京響は優れており、特に「ブィドロ」での迫力や、終曲である「キエフの大門」での圧倒的スケールは「凄まじい」の一言である。
今日も名演を示した広上と京響。「京都の秋音楽祭」のオープニングを飾るのに相応しい出来となった。
広上は客席に礼を述べた後で、「『半沢直樹』は今日が最終回です」と言って聴衆を笑わせる(広上は以前にも、「半沢直樹」の話をしており、かなり好きらしい)。「『倍返し』という言葉が流行っていますが、私どもも、お客様方の熱意を『倍返し』したい、で、いつやるのか『今でしょ!』」と、門川市長に負けじとばかりに流行語大賞候補の言葉を立て続けに並べる。「では20倍返しということで」と、アンコールに選んだのはブラームスの「ハンガリー舞曲」第6番。曲の性格を着実に把握した巧みな演奏であった。
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