コンサートの記(115) 広上淳一指揮岡山フィルハーモニック管弦楽団ほか ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱付き」 「2000人の第九」2013
2013年12月8日 岡山シンフォニーホールにて
岡山シンフォニーホールで、広上淳一指揮岡山フィルハーモニック管弦楽団ほかによる「2000人の第九」を聴く。オーケストラ合唱団含めて2000名なのではなく、聴衆も含めて2000人である。本編も合唱は大編成であるが、オーケストラは中編成である。本編が終わった後、パンフレットの裏側に記された部分をオーケストラ、合唱、独唱者、聴衆の計2000名で歌おうという企画である。
午後3時開演とあったが、午後3時からはプレトークがあり、本編が始まるのは午後3時15分頃からである。
岡山シンフォニーホールは響きが良いという評判を聞いている。ホール内に入ると、確かに壁は木目で美しい。ただ、座席はクッションの薄い跳ね上げ式のもので、少し安っぽい。
ホワイエもスマートではあるが、やはりハレの気分の演出にはもう一工夫欲しい。音響は優れている。
合唱は「第九を歌う市民の会」。アマチュアではあるが、オーディションに合格した人ばかりであり、レベルは一定の水準に達している。
プレトーク。アルトのパート指導で、合唱にも参加する吉井江里が司会者となり、指揮者の広上淳一、ゲスト・コンサートマスターの長原幸太、テノールで合唱指導もした羽山晃生、バリトンのベンノ・ショルムによるトークが行われる。吉井江里は太めの体型であるが、「こんな豪華な方々を前にして、私、痩せる思いでございます」と自虐ネタをやり、広上から「面白いね」と言われる。
長原幸太は、第九はバブルの頃には一つの楽団が1ヶ月に27回も演奏したという記録があり、その世代を経験しているオーケストラプレーヤーは第九を隅々まで記憶しているという。ただ、長原はバブルが弾けた後に大阪フィルハーモニー交響楽団に入団したため、第九をバブル期のように頻繁に演奏した経験は持っていないという。長原は今でこそ、何度も第九は演奏した経験があるが、大阪フィルに入って初めての第九演奏会では、指揮者が「君達はこの曲をよく知ってるよね」といって、練習を一切しなかったそうで、人生初の第九は一発本番であったとのこと。
長原は更に、第九の演奏会で、演奏中に指揮者のしていた指輪が飛んでいったことがあり、これがまた取りにくいところに飛んでいったのだと語る(私はその演奏会を聴いている。アレクサンダー・リープライヒ指揮大阪フィルハーモニー交響楽団ほかによる年末の第九である。当時、長原は大阪フィルのコンサートマスターであった)。
羽山晃生は、「岡山には何度も来ているが、その時は必ずままかりを食べることにしている」という話から入る。更に、学生時代に羽山は武蔵野音楽大学の学生で、東京音楽大学と合同で第九の合唱として演奏会に参加したことがあるのだが、東京音大の学生に広上淳一がいたという。その時、広上は酒を飲んでいて、もう出来上がっており、第2楽章ではいびきをかいて居眠りを始めたという。その時の指揮者は小林研一郎であったのだが、広上はコバケンさんから終演後に、「君、なんてことをしてくれたんだ。演奏会が台無しじゃないか」と言われたそうである。広上は「今、振り返ると最低の学生ですね」と語る。
ベンノ・ショルムはオーストリア人であるが、英語で話し、それを広上が通訳する(広上は語学の才能には余り恵まれておらず、流暢に操れるのは英語だけである。それも海外に拠点を置いていた時期に集中して覚えたもので、第1回キリル・コンドラシン国際指揮者コンクールに出場した際は、英語もほとんど喋ることが出来ず、小柄という外見も相まって、演奏するオーケストラメンバーからは失笑も漏れたそうだが、いざ、指揮棒を振ると鮮やかにオーケストラを導き、笑いは賞賛へと変わったという)。
簡単な英語であり、私の席は前から4列目だったので、ショルムが話す英語も聞き取れる。ショルムは最後に「これまで、多くの有名な指揮者、ロストロポーヴィチやメニューインなどの指揮で第九を歌ってきたが、You(広上のこと)がベストだ」と告げる。
吉井江里は、更に、広上とショルムに、客席と一緒に歌う第九のレクチャーをして貰おうとしたのだが、広上から「私、何も聞いてないんですけど」と言われる。皆に配られたパンフレットの裏側に「歓喜に寄す」の一番盛り上がるところのドイツ語歌詞と、下に片仮名でルビが振られており、それで客席の人にも歌って貰おうというのである。広上は、「じゃあ、本編が終わってから、もう一度やりまして、歌うところになると私が振り向きますから、そこで歌って下さい」ということになる。
プレトークとレクチャーが終わり、いよいよ第九本番である。
広上指揮の第九は、一昨年に京都市交響楽団を振って演奏したものが、宇宙を思わせるような壮大な出来映えで、印象に残っている。ただ、今回指揮する岡山フィルハーモニック管弦楽団は歴史も浅く、編成も大きくはないということで、徒にスケールを拡げることのない、スッキリとした見通しの良い演奏が行われる。
岡山フィルハーモニックは、出のホルン4人にズレがあったものの、その後は快調。編成は室内オーケストラよりちょっとだけ大きいという程度だが、力強さにも欠けていない。
第2楽章、。ティンパニの強打がある。広上は京響を指揮した時は、真正面にいるティンパニに、ストレートパンチをする仕草をして、力強い音を引き出していたが、今回は、ティンパニはステージ下手奥におり、オーケストラの編成も大きくないということで、左手をティンパニに向けるだけの指示であった。余り勢いよく指示すると、ティンパニの強打がバランスを崩すほど大きな音を生んでしまう可能性があるためであろう。岡山フィルはクリアな音を奏で、譜面に書かれた音が全て聞こえるかのようである。
第3楽章はとにかく美しく、第4楽章も燃焼度の高い演奏で、第九を聴く醍醐味を堪能させてくれる。流石は広上である。合唱も独唱者も良かった。
そして、聴衆も参加しての、「歓喜に寄す」の合唱。私はバリトンで歌おうとしたが、歌い始めて、バリトンでは低すぎるということに気付いたため、急遽、テノールにパートを変更して歌った。ただ、岡山の聴衆は余り乗り気ではないようで、客席からの歌声は余り聞こえなかった。大阪だと「我も我も」という感じになるのであろうが、大阪はノリが良すぎるのかも知れない。
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