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2013年12月28日 (土)

コンサートの記(120) 日越国交樹立40周年記念演奏会 本名徹次指揮ベトナム国立交響楽団2013

2013年9月24日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後7時から、ザ・シンフォニーホールで、日越国交樹立40周年記念演奏会、本名徹次指揮ベトナム国立交響楽団2013を聴く。

日本とベトナムの国交が始まったのが1973年。私の生まれる1年前である。アメリカ史上初にして唯一の負け戦として有名なベトナム戦争の真っ最中に国交樹立したことになる。日本と同盟関係にあったアメリカは南ベトナムを支持していたが、日本は北ベトナムと国交を結んだ。結果として北ベトナムが勝ち、ベトナムは南北統一を果たしている。

ベトナムでは、日本はフランスの支配からベトナムを解放してくれた国として捉えられており、親日の国である。

ベトナムは今では違うが、元々は漢字文化圏にあり、ベトナムというのも「越南」のベトナム語読みである。「なん」と「ナム」が似ていることからもそれはお分かり頂けると思う。中国の越の国(「呉越同舟」の「越」である)の南にあるので、越南となった。ちなみに首都のハノイは漢字では河内と書き、何とも大阪っぽい地名である。

ベトナム国立交響楽団は、1959年の創設。第1回演奏会の指揮台に最初に上がったのは、実はホー・チ・ミン(胡志明)であり、ベトナム国歌1曲のみを指揮した。
2004年のアジア・オーケストラウィークで、ザ・シンフォニーホールでも公演を行ったことがあり、その演奏会も私は聴いている。やはり本名徹次の指揮で、アンコールでは阪神タイガースの応援歌である「六甲おろし」を演奏していた。

本名徹次は、1957年、福島県郡山市生まれの指揮者。東京藝術大学音楽学部トロンボーン専攻を中退後(音楽之友社が本名に対して行ったインタビューによると、本名は「大学中退」という学歴に憧れており、敢えて中退したという。ここからは推測になるが、最初から指揮者志望であったのに、トロンボーン専攻に行ったのは、トロンボーンが得意だったというのも勿論あるが、指揮専攻は定員も少なく難しいので難度の比較的低いトロンボーン専攻に進み、そこで人脈を作って、本職の指揮者のプライベートレッスンが受けられる環境に身を置くためだったのではないかと思われる。トロンボーンを極めるつもりはなかったので、人脈作りに成功した後に、望み通り中退したのであろう)、山田一雄と井上道義に指揮を師事。1995年の東京国際音楽コンクール指揮者部門(東京国際指揮者コンクール。アジア唯一の指揮者コンクールであるが、運営は創価学会。自民党が文化を大切にしてこなかったため、創価学会は芸術部門で力を持っている。ただし、審査員は創価とは無関係であるため、学会員だと有利ということはまずない)では最高位を獲得(1位なしの2位。ちなみに飯森範親と二人で最高位を分け合っている)。1995年から2001年まで大阪シンフォニカー(現在の大阪交響楽団)の常任指揮者、2001年からベトナム国立交響楽団の音楽顧問を務めていたが、2009年からはベトナム国立響の音楽監督兼首席指揮者に昇進した。
日本人作曲家の作品を演奏するために結成されたアマチュアオーケストラ、オーケストラ・ニッポニカの初代音楽監督でもあり、日本人作曲家の作品のみによるプログラムの演奏会と、そのライヴ録音CD発売も行っているが、これは日本音盤史上に残る仕事といえるだろう。

曲目は、武満徹の「弦楽のためのレクイエム」、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」(ピアノ独奏:児玉桃)、ベートーヴェンの交響曲第5番。

ベトナム交響楽団を聴くのも、本名徹次の指揮に接するのも9年ぶりとなる。9年前のイメージでいたので、本名徹次が太って、前髪が白髪になっているのに少し驚く。

ヴァイオリン両翼の古典配置での演奏。舞台上手寄りにヴィオラ、その後ろにトランペット奏者二人、更に後ろにティンパニ奏者が座る。現代配置ではティンパニが来る指揮者の真正面、舞台奥の位置には大太鼓が置かれている。ただ、プログラムに大太鼓を使う曲は存在しないので、アンコール用だとわかる。ステージの奥には日本とベトナムの国旗が立てられている。

国交樹立40周年を記念する演奏会ということで、まず両国の国歌が演奏される。聴衆は全員起立、オーケストラメンバーも座らないと演奏できないチェロ以外は立ったままで演奏する。世界で唯一の、西洋の音楽様式から外れた国歌としても知られる「君が代」は、オーケストラで聴いてもやはり良い曲である。ベトナム国歌も雄壮で良い。

武満徹の「弦楽のためのレクイエム」。本名はノンタクトで指揮する。歴史が比較的浅い上に、経済発展著しいとはいえ、日本に比べるとまだ裕福とはいえない国のオーケストラなので、楽器も安いのか、弦楽器は潤いに乏しい上に音も細い。だが、奏でる和音がフランスのオーケストラのそれに近いのは面白い。仏領インドシナだったころの影響が今もなお残っているのかも知れない。

児玉桃をソリストに迎えての、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」。児玉桃は、先週、大阪フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会で、ピアノのソリストを務めたばかりだが、その後すぐにベトナム国立交響楽団の来日ツアーに参加。横浜、福島県郡山市(本名徹次の故郷である)と回って、再び大阪での演奏となった。

日本のクラシックファンはブランド好きの傾向があるので、ベトナム国立交響楽団の演奏会では集客は期待出来ない。今日も聴衆は多く見ても300人いるかいないか。というわけで、ザ・シンフォニーホールもいつも以上に良く響く。満員時残響約2秒のザ・シンフォニーホールであるが、今日は測ったところ、4秒弱と倍近い。

その音響効果もあってか、児玉桃はダイヤモンドのように硬質で煌びやかなピアノを奏でる。響くホールだとピアノはここまで美しい音色を奏でるのかと感心する。

音色だけでなく、技術も抜群の児玉桃。ちょっと怪しいところも1箇所だけあったが、それ以外は完璧な演奏を繰り広げた。表現も多彩で、ベートーヴェンがこの曲に込めた情熱や憧れを解き明かしていく。

この曲でもノンタクトの本名指揮するベトナム国立響は、編成が小さめということもあってか、音が弱かったが、こちらの耳が補正したのか、次第に気にならなくなる。明るい音による演奏であるが、やはり技術面でも表現面でも今一つなのは否めない。

メインのベートーヴェン交響曲第5番。この曲では本名は譜面台上に置かれた指揮棒を取って指揮したが、譜面台に総譜は置かれておらず、暗譜での指揮であった。

先日、ベートーヴェンの交響曲第5番を指揮した藤岡幸夫同様、小さく二つ振ってから、本格的に指揮し始めた本名。運命主題を強調せず、フェルマータも短い。最近流行りのスタイルである。
ベトナム国立交響楽団はオーケストラとしての総合力は高いとはいえず、溜を作ることが出来ずに流れてしまう場面がたびたびあったのが気になった。演技でもそうだが、どこかで溜を作らないと全体的に弛んだ印象になってしまう。
音色は明るめであり、これは最終楽章では大いにプラスに作用する。弦が薄いのも難点であるが、そのために普段は伴奏に回っている管楽器の音を良く聴き取ることが出来たりする。「ベトナム国立交響楽団の演奏会に行くだなんて物好きな」と思われる方もいらっしゃると思うが、ウィーン・フィルやベルリン・フィルといったブランドオーケストラだけ聴いていたのではわからないこともあったりするのである。

ただ、正直に言うと、チケットはベトナム国立交響楽団の演奏会にしては高いと思う。.最低料金が3000円であり、私はそれを買ったが、実際、コンサートに行ってみると、聴きに来ているのは3000円のチケットを買った人ばかり。3000円の席は可動式の臨時席であったが、その前列にある通常の席に座っているのはホール内トータルで3人だけ。私の前の列には一人も座っていない。そこが4000円の席なのであろう。というわけで3000円の席に限っては、ほぼ満員になったので、料金をもう少し下げれば聴衆も増えるだろう。2004年のアジア・オーケストラウィークでは、ベトナム国立交響楽団の演奏会チケット最低料金は1000円だったと記憶している。そのためかお客も結構入っていた。

アンコール。まずは、原発に苦しむ、本名の故郷・福島のために「会津磐梯山」のオーケストラバージョンが演奏される。余談であるがザ・シンフォニーホールの最寄り駅もまた「福島」である。ベトナム国立響の管楽器奏者が、「はーよいやさ」と声を上げ、クライマックスでは歌詞の書かれた紙を手にして立ち上がり、「小原庄助さん、なんで身上潰した、朝寝、朝酒、朝湯が大好きで、それで身上潰した、あー、もっともだー、もっともだー」と歌う。聴衆も曲は知っているので、手拍子を入れていた。

2曲目はベトナムの民謡が演奏される。美しい曲である。終演後にアンコール曲の書かれたボードを見たが、「ベトナム民謡歌」とあるだけで、正式な曲名はわからなかったが、会場で購入した本名徹次指揮ベトナム国立交響楽団のCDを聴いて、「南懐曲」という作品であるとわかった。

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