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2014年1月20日 (月)

アバド死す

現役最高峰の指揮者であったクラウディオ・アバドが逝去。80歳。

イタリア人として初めてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督に就任した人物でもある。

1933年、ミラノの名門一族に生まれる。父親はヴェルディ音楽院の校長を務めたほどの音楽教師。この父親とクラウディオとの間には不仲説もあるが真相は不明。

ミラノ音楽院とウィーン音楽アカデミー(現・ウィーン国立音楽大学)で指揮法と作曲を学び、指揮者としてデビュー後は知的で端正な音楽作りで、パワフルな演奏を売りにしたズービン・メータと並んで次世代を担う逸材と目された。

1979年にロンドン交響楽団の首席指揮者に就任。1983年には同楽団の音楽監督となる。

ロンドン交響楽団時代のアバドの大仕事は、「ラヴェル管弦楽曲全集」のドイツ・グラモフォンへのレコーディング。特に「ボレロ」はアバドの盛り上げ方の上手さに興奮したロンドン響の楽団員が声を挙げたテイクがそのまま採用されるなど話題になった。
だが、アバドはロンドン響の新本拠地となったバービカンセンターの音響が気に入らないという理由でロンドンから去る。

1986年にはウィーン国立歌劇場の総監督となり、ウィーン国立歌劇場のメンバーからなるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して「ベートーヴェン交響曲全集」を録音。この頃がアバドの最盛期であったかも知れない。

1989年に亡くなったヘルベルト・フォン・カラヤンの後任としてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の第5代芸術監督に就任。
しかし、前任者であるカラヤンや、その前のベルリン・フィルの音楽監督であるヴィルヘルム・フルトヴェングラーなどと比較され、「ベルリン・フィルのシェフをしては物足りない」という声もあった。
そんな中でアバドは進取の気質を発揮し、ベーレンライター版によるベートーヴェンの交響曲を録音していく。まずソニー・クラシカルに第九を録音後、ドイツ・グラモフォンに交響曲全集をレコーディング。ピリオド・アプローチを取り入れた演奏は画期的であったが、それまでのアバド支持者の中には演奏スタイルの変更に不満を感じる人もいたようだ。

そして2000年に癌で入院。2002年にはベルリン・フィルの芸術監督を退くことになる。

アバドは、カラヤンのようなカリスマ性のあるタイプでも、第6代ベルリン・フィル芸術監督となったサー・サイモン・ラトルのような才子肌でもなく、音楽を丁寧に彫刻していく名匠タイプの指揮者であった。ある意味、イタリア芸術の正統的な血を受け継ぐアルチザンであったように思う。

癌を克服して再びステージに現れたアバドであったが、やせ衰えた風貌で周囲を心配させた。その後は、見た目も比較的健康そうになり、ルツェルン祝祭管弦楽団を指揮するなどして活動。グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラ(ユースオーケストラ)と、そのOBからなるマーラー・チェンバー・オーケストラをマーラー・形で組織し、また最近では自ら立ち上げたモーツァルト管弦楽団を指揮しての活動が目立った。

祖国であるイタリアものも得意としたが、ロシアものに優れた手腕を発揮しており、チャイコフスキーやムソルグスキーなどでは史上一二を争うほどの名盤を残している。ベートーヴェンやモーツァルトの評価は人によって割れるが、マーラーは得手としており、力強い演奏は多くの人から支持された。

癌で倒れた後も勢力的な活動を行い、中央楽壇からは退いて過去の人的存在になった後でも人気投票で好きな指揮者1位になるなど、これまでに築いたキャリアは多くの人の記憶に刻み込まれていた。

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の次期芸術監督がサー・サイモン・ラトルに決定したとき、「星の王子、遂にベルリンへ!」という記事が新聞に出た。その記事では「アバドにはもっと早くベルリンを去って貰おうではないか」との記述があり、これはアバドの耳にも入ったであろう。ベルリン・フィルを退任する理由として「もっと読書をする時間が欲しい」とアバドが語ったことは「彼は音楽家ではないのか」という批判を招くことになる。
そんな屈辱と癌を乗り越えて再登場したアバドが奏でる音楽には凛と張り詰めたものがあり、特にワーグナーなどは現役最高峰の名に恥じぬ出来を示していた。

私がクラシック音楽を聴き始めた頃にはすでにトップ指揮者の一人であり、チケット料金の関係から「実演に接する機会はないだろう」と諦めてはいたが、こうしてその予感が現実のものとなってしまった今では残念と思う他ない。

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