観劇感想精選(126) 黒柳徹子主演海外コメディ・シリーズ25周年記念&高橋昌也追悼公演「想い出のカルテット」~もう一度唄わせて~(再演)
2014年4月3日 大阪・茶屋町の梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて観劇
午後6時から、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで、黒柳徹子主演海外コメディ・シリーズ25周年記念&高橋昌也追悼公演「想い出のカルテット」~もう一度唄わせて~を観る。作:ロナルド・ハーウッド(代表作「ドレッサー」、「戦場のピアニスト」)、テキスト日本語訳:丹野郁弓、演出:高橋昌也。
「想い出のカルテット」は、黒柳徹子主演海外コメディ・シリーズとして2011年に日本初演され、翌2012年にはダスティン・ホフマン初監督作品として映画化もされている。「想い出のカルテット」再演は、EXシアター六本木オープニング記念作品として今年の3月8日に幕が開いたが、先んずること約2ヶ月の今年1月16日に、演出担当の高橋昌也が83歳で逝去した。そのためパンフレットは高橋昌也への追悼の言葉で溢れている。
ジーン・ホートン(黒柳徹子)、セシリー・ロブリン(愛称はシシー。阿知波悟美)、レジナルド・パジェット(愛称はレジー。団時朗)、ウィルフレッド・ボンド(愛称はウィルフ。鶴田忍)の元オペラ歌手4人が繰り広げる芝居である。ただ初演時の感想に書いたとおり、彼らが本当にオペラ歌手であるという確証はない。
4人は、元音楽家のための老人ホームで過ごしているが、他の音楽家は会話の中にしか登場せず、彼ら4人のいる部屋はシシーが「元オペラ歌手が暮らすのに相応しい」ように勝手に内装を変えたものである。ジーンがこの老人ホームに入ってきたとき、シシー、レジー、ウィルフの三人が三人ともこの部屋を「特別なサロン」と位置づけており、彼らが普通の人とは違うことがわかる。
壁にズラリと並んだ肖像画は前回とは少し異なり、プッチーニの肖像画は存在しない。イングリッド・バーグマンもいないが、代わりにグレース・ケリーの写真があり、前回同様、ケーリー・グラントの写真もある。3人ともヒッチコック映画の常連であるが、ヴェルディ、ロッシーニ、モーツァルト、マリア・カラスなどの音楽家の肖像画が並ぶ中で、ハリウッドスターの彼らだけが浮いている。
ジーンが、30年前にメトロポリタン歌劇場で、プッチーニの「ラ・ボエーム」の役を引き受けたときのこと。コレペティトーラと練習しようとしたところ声が出なかった。役を降り、その後、何度も歌おうと試みたが声は出ず、結局、ジーンは若くして引退する。しかし、そのことを説明する時にジーンは、「でもこれは珍しいことじゃないのよ、舞台恐怖症といって、演劇でもセリフが出なくなるようなことがある」と語るのである。一見して、舞台恐怖症という症状について述べているように聞こえるのだが、映画通の人は「舞台恐怖症」というのが、症状としてよりもヒッチコック映画のタイトルとして有名であることに気付くはずである。アルフレッド・ヒッチコック監督がイギリス時代に監督した映画「舞台恐怖症」は、世評はそれほど芳しくないが、ネタバレ禁止の映画として名高い。そして壁にはヒッチコック映画の常連俳優の写真がやや浮いた形で存在する。
その後、ジーンは、ジャン・ギャバンが主演した映画についても話し始める。ジーンはタイトルを結局思い出せないが、内容から「大いなる幻影」というこれまたネタバレ禁止映画であることがわかる。
ジャン・ギャバンや「大いなる幻影」の話は、ストーリーとは全く関係がなく、ジーンが突然思い出したこととして唐突に出てくる。そしてストーリーの主線に絡むことはないまま終わってしまう。
ジーンは、老人ホームで暮らす他の老人を「気狂い」と呼び、レジーは「我々は狂人ではない」と明言するが、「私は狂人だ」と気付いている狂人はいないのである。
実際、ラスト近くでシシーが明らかに気の触れた言動を行うのだが、ジーン、レジー、ウィルフの3人は、シシーがそうした症状にあることをすでに了解済みである。
仕掛けの多い本ではあるが、この劇は観客を欺き、試すためのものではない。ステージで行われていることがそのまま本当だとしても、少しおかしな人達の妄想の産物であったとしても、老いてなお希望や夢を語る彼らに我々は勇気を与えられるのである。小難しい哲学を超えた人生讃歌がここにある。
黒柳徹子は今年で81歳という高齢もあって、初演時より演技がややぎこちなく感じたが、この年で舞台に立って演技をしているということだけで大したものである。他の三人は黒柳徹子より若いということもあってアンサンブルは抜群、黒柳徹子をもり立てる。
カーテンコールで黒柳徹子は右手を上に伸ばし、人差し指で天を指してからお辞儀をする。天国にいる高橋昌也への謝意であった。
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