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2014年11月28日 (金)

コンサートの記(165) サー・アントニオ・パッパーノ指揮ローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団来日演奏会2014京都

2014年11月5日 京都コンサートホールにて

午後7時から、京都コンサートホールで、ローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団の来日演奏会を聴く。指揮は、ローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団の音楽監督であるサー・アントニオ・パッパーノ。

音楽の指示記号がイタリア語であることからもわかる通り、クラシック音楽の祖国であるイタリア。ただ、イタリアのクラシック音楽は主に声楽において発達し、器楽中心に発展した古典派以降は王座をドイツに譲ってしまう。その後もイタリアはロッシーニやヴェルディを始めとしたオペラ作曲家、レスピーギなどの器楽の作曲家、指揮者やピアニスト、弦楽奏者や声楽などの名演奏家を数多く生み出してきたが、オーケストラだけは一流と呼べるものを生み出していない。ローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団、ローマ聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団という名称でも知られるオーケストラも、名門オーケストラとは呼べても、一流オーケストラだと見做している人は少ないと思われる。ということで、今日の演奏会も空席が目立つ。埋まっている席は4割ほどだろうか。ローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団のコンサートとしてはチケット料金がやや高めというのもネックだと思える。

曲目は、ヴェルディの歌劇「ルイザ・ミラー」序曲、ドヴォルザークのチェロ協奏曲(チェロ独奏:マリオ・ブルネロ)、ブラームスの交響曲第2番。

指揮者のサー・アントニオ・パッパーノは、1959年生まれのイギリスの指揮者。イギリス国籍であるため、近年ナイトに叙されてサーを名乗れるようになったが、両親はイタリア人である。13歳の時に渡米し、音楽教育は主にアメリカで受けている。その後、オペラ指揮者として頭角を現し、ロンドンのコヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウスの音楽監督に2002年に就任。以後、世界的なオペラ指揮者として活躍している。コンサート指揮者としても2005年にローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団の音楽監督に就任。主にイタリアもので高い評価を受けている。

ヴェルディの歌劇「ルイザ・ミラー」序曲は、流石、イタリアの血を引くオペラの名指揮者とイタリアのオーケストラによる演奏。技術的には特に高いわけではないのだが、弦はまろやかな響きを生み、金管の音が燦々と輝く。おそらくイタリアのオーケストラしか作り出せない演奏だと思われる。

ドヴォルザークのチェロ協奏曲。
ソリストのマリオ・ブルネロはイタリア生まれの名手。1986年のチャイコフスキー国際コンクール・チェロ部門の覇者である。近年は指揮者としても活躍おり、チェロを弾きながらの弾き振りも得意であるという。

ブルネロのチェロはハスキーな音色でスタート。その後は滑らかな演奏が展開されるが、線がやや細いように感じられる。

パッパーノ指揮のローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団による伴奏だが、第2楽章では盛大に響かせすぎて大風呂敷を広げた格好になってしまうなど、バランスは今一つである。オーケストラの鳴り自体は良いのだが、余りスラヴ的な響きを出すことはしない。多分、器用ではないので、出さないのではなく出せないのであろう。そう考えると、イタリア音楽はイタリア的に、スラヴ音楽はスラブ風に、ドイツ音楽はドイツらしくとスタイルを自在に変えることの出来る日本のオーケストラはなかなかのものだと思える。考え方によってはイタリアのオーケストラは個性的、日本のオーケストラは器用貧乏で没個性ということになるのかも知れないが。

ブルネロはアンコールとして、J・S・バッハの無伴奏チェロ組曲第3番よりブーレと、マックス・レーガーの無伴奏チェロ組曲第2番よりガボットを演奏。奥行きを感じさせる出来であったが、スケールはやや小さめであったかも知れない。

メインのブラームスの交響曲第2番。

イタリアのオーケストラとブラームスの交響曲というと相性が悪そうであり、今日の不入りの一因になっているのかも知れないが、ブラームスの交響曲第2番は「ブラームスの『田園』交響曲」と呼ばれるように明るめの作風であり、イタリア人にとっては一番馴染みやすいブラームス作品かも知れない。

出だしから情熱全開。白熱した激しい演奏が展開される。第1楽章など、リズムも相まって馬に跨がって疾走しているようだし、第2楽章はギラギラと輝く音色が情熱を通り越して狂気すら感じさせる出来となる。牧歌的なはずの第3楽章も結構熱い。音の重心が全体的に高めにあるのも特徴である。
最終楽章も情熱の奔流。ブラームスがどこかに吹き飛んで、情熱のカンツォーネとなってしまったような印象を受ける。こうした印象もありなのかも知れないが、私はやはり渋いブラームスの方が恋しい。演奏終了後は聴衆が喝采を送ったが、興奮しての拍手であり、感動や感心は呼ぶことが出来なかったように思う。

アンコールは2曲。まず、ヴェルディの歌劇「運命の力」序曲。見事な演奏である。一音一音にオペラの情景が宿って伝わってくるようだ。やはりパッパーノ指揮のオペラ序曲というと今現在、生で聴けるベストのものであるような気がする。
なお、歌劇「運命の力」序曲では、チンバッソという、イタリアオペラでのみ使われる特殊なテューバが用いられているのだが、チンバッソという楽器を生で見たのは私は今日が初めてである。

2曲目はポンキエッリの「時の踊り」よりラスト。白熱した演奏であった。

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