観劇感想精選(140) 「炎立つ」
2014年9月11日 兵庫県西宮市の兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールにて観劇
午後7時から、西宮北口の兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで、「炎立つ(ほむらたつ)」を観る。奥州藤原三代を描いたNHKの大河ドラマとして知られている作品の舞台化である。原作は大河ドラマのために書き下ろされた高橋克彦の同名小説。大河ドラマ「炎立つ」では、渡辺謙が演じた藤原経清(藤原清衡の父親)が印象的な演技をしていたが、今回の舞台では藤原清衡が主人公であり、藤原経清は清衡の夢の中や亡霊としてしか出てこない。脚本:木内宏昌、演出:栗山民也。音楽:金子飛鳥。出演:片岡愛之助、三宅健、益岡徹、新妻聖子、宮菜穂子、花王おさむ、三田和代、平幹二朗ほか。
片岡愛之助も三田和代も、ついこの間、別の舞台を観たばかりであり、すぐまた別人を演じている様を生で観ると新鮮な気持ちになる。
劇団・青空美人の代表を経て、こうした翻案ものや、翻訳ものにまで手を広げている木内宏昌の本。翻訳ものは、今年に入ってからも「Tribes トライブス」や「おそるべき親たち」を観ているが、兵庫県立芸術文化センターで翻案ものを観るのは、内野聖陽主演の「イリアス」以来だと思う。
今回の劇では、登場人物は実在の人物とは違って片仮名表記されている。藤原清衡はキヨヒラとなって片岡愛之助が演じ、異父弟でキヨヒラの宿敵となる清原家衡はイエヒラという表記で三宅健が演じる。源陸奥守義家というより八幡太郎義家として知られるヨシイエに益岡徹という具体である。平幹二朗は、東北地方を統べる古代神・アラキバラ(秋葉原ではない)に扮し、歌い手・伝達・語り手など複数の役目を務める新妻聖子は「予言者の女」というだけで役名はない。花王おさむがもう一人の語り手を務める。
古代ギリシャ悲劇をモチーフにした台本と演出であり、4人の女優がコロスとして歌や語りを担当する。PAを使っての上演。
音楽は舞台下手に3人が陣取り、生演奏が行われる。ヴァイオリンの女性は他にパーカッションを兼任し、バックコーラスも務めるなど万能である。
陸奥守として、陸奥国に赴任したヨシイエは、陸奥国の北半分をイエヒラに、南半分をキヨヒラに与えることにする。南の方が都に近いので、キヨヒラが陸奥国守の位置に着く。しかし、イエヒラは不満であった。キヨヒラとイエヒラは兄弟であり、キヨヒラの方が年長であるが、二人は母親は同じだが父親が違い、キヨヒラの父親は朝廷の血筋(奥州藤原氏)だが、イエヒラの父方は代々、出羽国の豪族(清原氏)であった。そしてキヨヒラは元々はイエヒラの家臣の家柄なのである。
キヨヒラの出た藤原家と、イエヒラの清原家とはライバル関係にあり、二人の母親であるユウ(三田和代)はキヨヒラの父親である経清が処刑された後にイエヒラの父親の妻になったのである。
ヨシイエは、イエヒラにもキヨヒラにも「兵を蓄えておけ」と命じる。実はヨシイエは、タカ派であるイエヒラを滅ぼすつもりでおり、元々仲の悪かった兄弟関係に乗じて、イエヒラを殺害、キヨヒラを臣下に入れ、みちのくを源氏の勢力下に置こうとする計画を持っていた。
予言者の女に、奥州の神であるアラキバラを呼ぶよう命じるイエヒラ。そして現れたアラキバラは、「日の本(東北地方のこと)は、キヨヒラの治めるものである」と告げる。「一方で、キヨヒラが泣きながら汝(イエヒラ)に向かってひざまずいているのが見える」とも語る。おそらく「マクベス」の魔女達を意識したような謎かけである。答えはちょっと考えるとわかるものであるが。
イエヒラは、「自分はもう人間ではなく獣だ」と叫んで、元々凶暴な性格を更に鋭くし、血に飢えた野獣となる。そして、イエヒラはキヨヒラの館に夜襲を掛け、後三年の役が始まる……
古代神や予言者の女など、アニミズム的な部分を除けば、比較的史実に忠実な筋書きになっている。劇中に「復興」という言葉が出てくるが、これは、東日本大震災からの復興を表しており、今回の企画時代が東北地方の復興のために作られたものであると考えて良いだろう。
木内宏昌の本は、一ヶ所だけ、心理劇としては不可解な場面があったが、それ以外は、ギリシャ悲劇を模した格調の高い仕上がりであり、栗山民也の演出も上っ面でない迫力を出すことに成功していたと思う。合戦のシーンもあるが、人海戦術は行わず、観るものの想像力に委ねるものだったが、照明やコロスの女性達の使い方が上手いため、舞台上には数人しかいないのに、大合戦の一コマに見えていた。
主演の片岡愛之助は、元々が歌舞伎の俳優であるが現代劇への出演も多い。ただ、他の現代劇専門の舞台俳優の中に入ると、少し浮いては見える。ただ、それが逆に「高貴さ」として映る場合もあり、一長一短である。
三宅健は、ジャニーズの中では演技が上手い方ではないはずだが、今回の舞台は中々の熱演。声音を低く抑えて迫力やあくどさを出し、歌舞伎の振付を意識したと思われる演出もあったのだが、きちんとこなしていた。
新妻聖子は、ミステリアスな雰囲気漲る佇まいが素晴らしく、歌もやはり上手い。
好演した出演者と演奏者を、観客はスタンディングオベーションで讃えた。
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