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2015年3月21日 (土)

コンサートの記(179) 東日本大震災支援チャリティーコンサート「バチカンより日本へ 祈りのレクイエム日本公演2015」

2015年3月11日 京都コンサートホールにて

午後6時30分から京都コンサートホールで、東日本大震災復興支援チャリティーコンサート「バチカンより日本へ 祈りのレクイエム日本公演2015」を聴く。2011年3月11日に発生した東日本大震災と、翌2012年5月20日に起こったイタリア北部地震の犠牲者のために祈りを捧げる演奏会である。メインはモーツァルトの「レクイエム」(ジュースマイヤー版)。まず、昨年、一昨年の3月11日にバチカン四大聖堂の一つである聖パオロ大聖堂でロッシーニ歌劇場管弦楽団によるモーツァルトの「レクイエム」が演奏され、今年は日本でロッシーニ歌劇場管弦楽団による同曲をメインとしたコンサートが行われることになった。
ロッシーニ歌劇場管弦楽団であるが、常設オーケストラではなく、毎年8月にロッシーニの生まれ故郷であるイタリア・マルケ州のペーザロで行われるロッシーニ・フェスティバルのための祝祭オーケストラのようである。ロッシーニ財団がバックアップを行っているようだ。

指揮者は、1960年、ミラノ生まれのダニエーレ・アジマン。マリオ・グラッゼ国際指揮者コンクールで優勝後、イタリア国内を中心に活動しているようである。日本でオペラを指揮したことも何度かあるようだ。また教育者、指導者としても高く評価されており、ミラノ・ヴェルディ音楽院指揮科教授を務め、くらしき作陽大学音楽学部の客員教授でもある。

曲目は、ロッシーニの歌劇「セヴィリアの理髪師」より序曲、グルックの歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」より“精霊の踊り”(フルート独奏:ロマーノ・プッチ)、ロッシーニの歌劇「チェネレントラ(シンデレラ)」より序曲、コレッリの「ラ・フォッリア」(ヴァイオリン独奏:高橋沙織)、ロッシーニの「アルジェのイタリア女」より序曲、オルトラーノの「エレジーから愛しい人への哀歌~」(震災犠牲者のために書かれた作品。テノール独唱:榛葉昌寛)、モーツァルトの「レクイエム」(合唱:京都市少年合唱団OB会合唱団。あくまでOB、OGによる合唱団であり、平均年齢は比較的高い)。

WOWOWによる生中継があり、またBS朝日がドキュメンタリーを作成する予定でその収録も行われる。

上演前に「バチカンより日本へ 祈りのレクイエム実行委員会・委員長の大谷哲夫(駒澤大学元学長・総長)、門川大作京都市長、聖パオロ大聖堂名誉大司祭であるフランチェスコ・モンテリーズィ枢機卿の三人による挨拶があり、全編の司会は牧野光子が担当した。
なお、今回の日本公演は、3月9日に東京のオーチャードホールでの公演で幕を開け、昨日は京都の三十三間堂で奉納演奏があり(非公開)、震災から4年目に当たる今日は京都で公演。この後、掛川、下田、仙台、陸前高田、相馬での演奏会が予定されている。

ロッシーニ歌劇場管弦楽団であるが、第1ヴァイオリン6名という室内オーケストラ編成での演奏である。余り響きの良くない京都コンサートホールであるが、指揮者のアジマンとロッシーニ歌劇場管は鳴らす技術はあるようで、音量には不満はない。一方で、アンサンブルは緻密とは言えず、オーケストラとしての性能に関しては京都市交響楽団の方が上のようである。
ロッシーニの序曲では、ロッシーニのスペシャリスト達が揃ったことと弦楽の明るい音色がプラスに作用し、祝祭的な雰囲気溢れる演奏に仕上がっていた。
指揮者のアジマンは、オーケストラを整えることを第一とするタイプのようであるが、表現力にも不足していない。

グルックの歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」より“精霊の踊り”でフルート独奏を務めたロマーノ・プッチは国立ローマ・サンタチェチーリア音楽院を卒業後、国立スイス・イタリア語放送管弦楽団やミラノ・スカラ座管弦楽団の首席フルート奏者として活躍。現在はソリストとしての活動の他にスカラ座アカデミーで後進の育成にも当たっている。
澄んだ音色によるリリックな味わいのフルートであった。

コレッリの「ラ・フォッリア」のヴァイオリン独奏を務める高橋沙織は、仙台白百合学園高校2年生という非常に若い弾き手である。昨年3月11日にバチカン聖パオロ大聖堂で行われた「バチカンより日本へ 祈りのレクイエム」でも同曲を弾いて会場を沸かせたそうである。なお、「バチカンより日本へ 祈りのレクイエム」の仙台公演の会場は仙台白百合学園レジナパーチスホール(ネーミングライツではなく、実際に仙台白百合学園中等学校・高等学校内にある講堂)で行われる。
高橋は仙台白百合学園高校の制服姿で登場。演奏を聴く前は「『会場を沸かせた』というのが曖昧な表現だし、仙台のミッションスクールである仙台白百合学園の生徒だから選ばれたのかな」と思っていたが、いざ演奏が始まるとスケールが大きく、音色にも張りのある情熱的なヴァイオリンに感心する。曲調の描き分けなどはまだ十分ではないかも知れないが、素質は一級である。

オルトラーノの「エレジー~愛しい人への哀歌~」のテノール独唱である榛葉昌寛(しんば・まさひろ)は、2013年と14年の「バチカンより日本へ 祈りのレクイエム」の総合プロデューサーも務めた人物である。静岡県掛川市出身であり、今回、掛川公演が行われるのもそのためだと思われる。東京芸術大学卒業後、国立ミラノ・ヴェルディ音楽院で学び、今もイタリアを中心にオペラ歌手として活動しているようだ。
今日は、ステージ後方、下手上の来賓&バンダスペースにスクリーンが張られており、モーツァルトのレクイエムでは歌詞対訳と映像が映されたのだが、「エレジー~愛しい人への哀歌~」はイタリア語歌詞であるが、字幕が映ることはなかった
榛葉は情熱的な歌唱を披露した。

メインであるモーツァルトの「レクイエム」。ロッシーニ歌劇場管弦楽団は、この曲では弦楽はアメリカ式の現代配置であるが、金管が上手にずらりと並ぶというロシア型の配置を採用しているのが特徴。合唱担当の京都市少年合唱団OB会合唱団はかなりの大所帯である。なお、今日はP席と呼ばれる席の座席が取り払われていたが、合唱はそこではなくステージ上に並ぶ。P席の椅子が外されたのはテレビ映りを良くするためと、P席に座った場合、字幕スーパーが見えないということになるため、券が発売されていないということを示す意味もあると思われる。
テノール独唱は引き続き榛葉昌寛、バス独唱:フランチェスコ・エッレーロ(イタリア人)、ソプラノ独唱:藤井泰子、メゾソプラノ独唱:エウジェーニァ・ドゥンデコーヴァ(ブルガリア出身)。
なお、ソプラノ独唱は、掛川と仙台公演では藤井泰子ではなく中野亜維里が務める予定である。

イタリア人指揮者とイタリアのオーケストラということもあり、ドラマティックな演奏が展開される。ピリオド・アプローチは当然のことのように行われている。

オーケストラも良かったが、京都市少年合唱団OB会合唱団は更に充実。優れたモーツァルト演奏になる。なお、モーツァルトの「レクイエム」は未完成の遺作であり、「涙の日(ラクリモーサ)」の途中まで書いたところでモーツァルトは力尽き、35年の短い生涯を閉じた。モーツァルトは弟子であるフランツ・クサヴァー・ジュースマイヤーに自分が死んでも「レクイエム」が完成させられるよう、全体の構想を話しており、モーツァルトの死後、モーツァルトの妻であったコンスタンツェはジュースマイヤーに曲の完成を託している。ただ、ジュースマイヤーはモーツァルトの構想通りには作曲しなかった、というより当然ながらモーツァルト並みの作曲技術は持ち合わせていなかったので構想通りには作曲出来ず(例えばモーツァルトは「涙の日」の“アーメン”を壮大なフーガにする予定であったが、ジュースマイヤーはフーガにはせずに、あるいは出来ずに簡単に終わらせている)、ジュースマイヤーの補作部分はモーツァルトの作曲した部分と比べると復古的な感じがする(モーツァルトが当時の前衛作曲家であった証拠でもあるわけだが)。
ということで、「涙の日」が終わると帰ってしまうお客さんもいた。

演奏終了後、アジマンと榛葉が登場し、榛葉が「アンコールはありません。その代わり、マエストロ(アジマン)が、「怒りの日」と「涙の日」をもう一度捧げたいというので再度演奏します」と客席に向かって語り、ロッシーニ歌劇場管弦楽団と京都市少年合唱団OB会合唱団が、2曲を再度演奏した。

その後、出演者全員が登場して、喝采を受けるが、アンコールが実はあった。予想はされていたのだが京都市少年合唱団OB会合唱団が、東日本大震災復興支援ソング「花は咲く」を歌い始める。
客席で聴きながら泣いている人もいたが、ロッシーニ歌劇場管弦楽団第1ヴァイオリンの女性白人奏者が日本語がわからないはずなのに泣き出すという光景も見られた。

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