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2015年5月 7日 (木)

コンサートの記(191) 「大阪4大オーケストラの響宴」2015

2015年4月22日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて

午後6時30分から、大阪・中之島のフェスティバルホールで、「大阪4大オーケストラの響演」を聴く。在阪常設プロコンサートオーケストラ4つが一堂に会するという試み。これまでも関西フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者の藤岡幸夫と日本センチュリー交響楽団首席指揮者の飯森範親が親友だというので合同でコンサートを行ったりしていたが、大阪フィルハーモニー交響楽団と大阪交響楽団を加えた4つのオーケストラが揃って演奏するのは史上初だという。

出演と曲目は、前半が、藤岡幸夫指揮関西フィルハーモニー管弦楽団による黛敏郎の「BUGAKU(舞楽)」と飯森範親指揮日本センチュリー交響楽団によるサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」(電子オルガン独奏:山本真希)。後半が、外山雄三指揮大阪交響楽団によるストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」(1919年版)と井上道義指揮大阪フィルハーモニー交響楽団によるベートーヴェンの交響曲第7番。演奏されるのがいずれもそれなりの長さのある曲で、舞台転換にも時間が掛かるということで、長時間の演奏会となるため、通常の演奏会よりも30分早くスタートする。

午後6時10分頃から、井上道義(大阪フィルハーモニー交響楽団首席指揮者)、外山雄三(2016年4月より大阪交響楽団ミュージック・アドヴァイザー就任予定)、飯森範親(日本センチュリー交響楽団首席指揮者)、藤岡幸夫(関西フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者)によるプレトークがある。

「大阪4大オーケストラの響演」はフェスティバルホール側から持ちかけられた企画だそうだが、それを快諾したのは井上道義だそうで、「4つオーケストラがあるんだからブラームスの交響曲全4曲を1曲ずつやればいいんじゃないか」と井上は考えたのだが、その案は飯森と藤岡が断ったそうである。ブラームスの演奏にかけては朝比奈隆時代以来からの伝統と定評のある大阪フィルが絶対的に有利である。
外山雄三は、自身が来年から就任する大阪交響楽団のポストをよく把握していないようで、「音楽監督」と言っていた。ミュージック・アドヴァイザーという肩書きが比較的最近出来たものなのでピンと来ないのかも知れない。
フェスティバルホールは音響設計はされているが多目的ホールであるため、パイプオルガンは設置されていない。にも関わらず、飯森がサン=サーンスの「オルガン付き」交響曲を選んだのは、飯森によると、「大阪フィルさんが、オルガン入りの曲を演奏するというので、それに合わせたつもりだった」とのことである。今日はアーレンオルガン社製の電子オルガンが用いられる。
井上は、「このホールは3階席の音が良い(反響板がないため)のですが、遠いので、見えますか?」と3階席に語りかける。今日は私も3階席で演奏を聴く。

まずは、藤岡幸夫指揮関西フィルハーモニー管弦楽団による黛敏郎のバレエ音楽「BUGAKU(舞楽)」。同一コンビによる演奏を、以前にザ・シンフォニーホールで聴いたことがある。藤岡は「やるなら邦人作曲家の作品がいい」ということで、黛の「BUGAKU」を選んだ。

「題名のない音楽会」の司会者としてもお馴染みであった黛敏郎。若い頃は「天才」というあだ名で呼ばれていたという。東京音楽学校(現・東京芸術大学音楽学部)在学中にデビュー。パリ国立高等音楽院に留学するも、「もう学ぶことは何もない」と言って、1年ほどで退学し、日本に戻って作曲活動に入る。ただ、その後、「題名のない音楽会」の司会業や、自民党右派的思想による政治活動にのめり込んで、作曲を余りしなくなってしまう。友人である岩城宏之や武満徹(共に故人)が、「黛さん、作曲して下さい」と何度もいったが、寡作に終わっている。ただ実力的には日本音楽史上屈指の存在であったことは間違いない。岩城によると、子供っぽい性格であったようで、飛行機に乗るときはファーストクラスの一番前の列でないと納得しない。しかもシャンパンを必ず注文するのだが、実は黛は下戸でアルコールは一滴も飲めず、雰囲気を楽しむためだけにやっていたのだという。
改憲して軍隊を持つべきだという思想を黛は持っていたが、海上自衛隊の艦船に乗り、「誰が何といおうとここには軍隊がある、戦艦がある」と感涙していたということで、その思想も戦争ごっこをしたり、軍艦や戦闘機に憧れるという子供時代の感情をそのまま持って成人してしまったと結果と見た方が自然のような気もする。

「BUGAKU」は、ニューヨーク・シティ・バレエ団からの依頼で書かれたバレエ音楽で、オーケストラの楽器が雅楽の音色を模した音を出すなど、和のテイストが前面に押し出された傑作である。岩城宏之指揮NHK交響楽団や湯浅卓雄指揮ニュージーランド交響楽団による名盤も出ている。マンガ「のだめカンタービレ」で、千秋真一が唯一指揮している日本人作曲家の作品としても知られている。

アメリカ式の現代配置での演奏。藤岡と関西フィルは以前もこの曲を取り上げているということもあり、スケール、色彩感ともに優れた演奏を展開する。空間の広いフェスティバルホールでの演奏であるため、ザ・シンフォニーホールで演奏された時ほどの迫力はなかったが、満足のいく出来である。

飯森範親指揮の日本センチュリー交響楽団によるサン=サーンスの交響楽第3番「オルガン付き」。飯森だけは暗譜での指揮であった。
なお、配置転換の時間の都合上だと思われるが、今日のセンチュリー響は関西フィルと同じアメリカ式の現代配置で演奏を行った。
センチュリー響は中編成のオーケストラであるため、フェスティバルの広い空間で演奏するには不利であり、最も割を食う形となる。
音の大きさには不満もあったが、造形自体はしっかりした演奏であった。ただ、音色などにフランス的なエスプリが感じられず、国籍不明の音楽となっていた。センチュリー響もドイツものの演奏で売ってきた経緯があるので、フランス的な色彩感を出すのは難しいのかも知れない。
電子オルガンは思ったよりも遥かに良い音色で鳴る。オルガン前面にスピーカーがあるほか、フェスティバルホールの天井から下がっている3台のスピーカーからも電子オルガンの音色が響いた。

後半に登場するオーケストラはいずれもドイツ式の現代配置での演奏。
外山雄三指揮大阪交響楽団によるバレエ組曲「火の鳥」(1919年版)。外山はプレトークで、「4つのオーケストラが演奏するとなると時間が掛かるので、なるべく短い曲、ただラストが盛り上がる曲を」ということで、バレエ組曲「火の鳥」を選んだと話していた。4つのオーケストラの演奏の中で、演奏時間は約20分と最も短い。

日本指揮者界の大御所的存在である外山雄三。1931年生まれであり、今年で84歳になる。NHK交響楽団の正指揮者であるが、近年のN響は外国人指揮者重視の傾向があるため、N響を指揮する機会は少ない。大フィル、京響、名古屋フィル、仙台フィル、神奈川フィルなどの常任指揮者を歴任しており、オーケストラトレーナーとして定評がある。来年85歳の指揮者をミュージック・アドヴァイザーとして迎える大阪交響楽団には、「外山に合奏力を鍛えて貰おう」という意図があったと思われる。もっと若い名トレーナーやオーケストラビルダーはいるのだが、大響は経済基盤が安定していないため、売れっ子の人には手が出ないという事情もあると思われる。

外山指揮の演奏を聴くのは多分、9年ぶりである。2006年の京都市交響楽団設立50年記念コンサートを先斗町歌舞練場で聴いて以来のはずだ。外山指揮の関西での演奏会はその後もあったが、食指が動かなかった。
外山は作曲家としての才能の方が指揮者のそれより豊かだと私は感じている。関東にいた頃は、外山が指揮する自作自演や日本人作曲家の作品演奏を聴いていた。ただ、関西で外山が指揮する曲目にはそうしたものがないため、「お金を払ってまで聴きたい」とは思えなかったのだ。

現代音楽の作曲家(作風的には所謂、現代音楽的ではないが)でもあるということもあり、外山指揮の20世紀音楽は聞き物である。普段は音の厚みも密度も今一つの大阪響であるが、今日は外山の指揮棒への反射神経の良い、スマートな演奏が展開される。音の威力がそれなりにあるので、音色が淡彩であっても余り気にならない。技術的にも納得のいく水準には達している。

トリを飾るのは、井上道義指揮大阪フィルハーモニー交響楽団によるベートーヴェンの交響曲第7番。大フィルは昨年の4月、井上道義首席指揮者就任と同時に定期演奏会の会場をザ・シンフォニーホールから、新しくなったフェスティバルホールに戻しているが、本拠地ホールでの演奏ということもあり、飛び抜けて舞台に馴染んでいるという印象を受けた。やはりオーケストラの本当の実力は本拠地ホールで聴かないとわからないのかも知れない(他の3つのオーケストラの本拠地ホールはザ・シンフォニーホールである)。
井上は、今日登場した指揮者の中では一人だけノンタクトで指揮。大フィルの奏者を信頼して、拍は小刻みにせず、出だしだけ振ったり、頭の上で右手を回したりと、タイミングや歌い回しなどを指示することの方が多い。
ピリオド・アプローチによる演奏であり、ヴァイオリンなどは時に徹底したノンビブラート奏法に徹する。楽譜はベーレンライター版によるものであったが、序奏の部分で主題が行方不明になるなど、不思議な箇所があった。
弦、管共に、音の抜けは今日演奏した4つのオーケストラの中で断トツ。フェスティバルホールを本拠地としているアドバンテージは大きいだろう。井上の表現も情熱的でノリが良く、「これぞ人類史上初のロック」と感じられる演奏になった。一方で、造形美も確かであり、熱くなる余りバランスが悪くなるということもなかった。優れたベートーヴェン演奏である。

最後に、4人の指揮者が登場し、4人の女性スタッフから花束を受け取るが、井上がまずそれを客席へと投げ、飯森、外山、藤岡もそれに続いた。井上は来年も「大阪4大オーケストラの響演」開催が決まっていることを語り、「来年こそはブラームスの交響曲を」と言うが、飯森に「それだけは嫌です」と断られていた。

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