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2015年6月24日 (水)

コンサートの記(197) パーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団来日演奏会2013京都

2013年11月2日 京都コンサートホールにて

午後3時から、京都コンサートホールで、パーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団の来日演奏会を聴く。同コンビによる約2年ぶりの京都コンサートホールでの演奏会。パーヴォとパリ管の来日公演は今日が初日で、今後、西宮、東京、横浜、福井、倉敷を回る。東京は2回公演で、AプログラムとBプログラム両方のプログラムが演奏される。西宮がBプログラム。他は全てAプログラムである。

今日の演目は、シベリウスの「カレリア」組曲、リストのピアノ協奏曲第2番(ピアノ独奏:ジャン=フレデリック・ヌーブルジェ)、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」(オルガン:ティエリー・エスケシュ)。

パーヴォとパリ管弦楽団のアジアツアーはまずベトナムでの公演を行い、日本に乗り込んできた。ベトナムで演奏会を行ってからの来日なので、欧州から直で来るよりも体力的には楽であり、名演が期待出来る。

パリ管弦楽団は、前回の公演同様、マネージャーとおぼしき人物が下手口に腕を組んで仁王立ちし、睨みを利かせている。

ドイツ式の現代配置による演奏。

シベリウスの「カレリア」組曲。管楽器の音はまろやかであり、弦楽のハーモニーも洒落っ気に満ちている。日本のオーケストラからは中々聴くことの出来ない音だ。
パーヴォの音のバランス感覚は抜群であり、弦も管も適度な抑制を持って、浮遊感のある音を出す。盛り上がる場面でも決してうるさくは響かない。「間奏曲」(「間奏曲」というタイトルであるが第1曲である。「カレリア」組曲は、劇附随音楽「カレリア」からシベリウスが演奏会用にまとめたものであり、劇附随音楽「カレリア」では本当に「間奏曲」であったものを、組曲では第1曲にしたので、こうした摩訶不思議な状態になっている)での立体感、「バラード」での哀切さ、「行進曲風に」での推進力とウィットに富んだ音楽作り、いずれも理想的である。

リストのピアノ協奏曲第2番。
ソリストのジャン=フレデリック・ヌーブルジェは、1986年生まれの若手。パリ音楽院を17歳で卒業後、2004年にロン・ティボー国際コンクール・ピアノ部門で4つの賞を得る。2006年には、ヤング・コンサート・アーティスト国際オーディションに優勝。すでに6枚のCDをリリースしている。

ヌーブルジェのピアノは透明感があり、洒落ていて、リストというよりもフランスのピアノ音楽を聴いているような気分になる。パーヴォ指揮するパリ管弦楽団の伴奏もソリストに合わせた、クールで洗練されたものだ。
リストの音楽性からはやや離れているかも知れないが、聴いていて楽しいことは無類である。答えというものの存在しない音楽ならではの味わう喜びがある。

ヌーブルジェはアンコールとして、ショパンの夜想曲作品62の2を弾いた。ショパンの出自がフランスであることを再確認させられる、洒脱な美演であった。

メインであるサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」。
冒頭の繊細で垢抜けた弦楽のハーモニーにまず魅せられる。日本のオーケストラも成長してかなり美しい音を出すようになっているが、そもそも和音に対する感覚の鋭さに違いがあるようで、ハーモニーの構築の上手さに関しては、日本のオーケストラはヨーロッパ勢に一歩譲る感がある。

パーヴォの指揮であるが、「見事」の一言。指揮棒やそれを振る手を始め、体の動きの全てが音楽に結びついている。現役の指揮者で最高のバトンテクニックを持っているのはおそらくパーヴォ・ヤルヴィであろう。

パリ管弦楽団の瀟洒な音色を生かした、傑出した演奏である。バランスはやはり最上に保たれており、ブラスが暴走したりするということは決してない。弦と管を上手く溶け合わせたマスで聴かせる演奏である。一方で、ティンパニなどの打楽器は思いっ切り叩かせており、フランス人の持つエスプリ・ゴーロワを生かしている。

サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」は、全2楽章からなるという特殊な構造を持つが、各楽章が第1部と第2部に分かれており、結果的には全4楽章からなる普通の交響曲と大差ない(ただドイツの交響曲ほどには各楽章の音楽は明確な性格の違いはない)。第2楽章第1部の終わりで、金管群、続いてコントラバスが第2楽章第2部の主題をさりげなく奏でるのだが、パーヴォが指揮すると、その部分がさりげなくではなく、はっきりとよくわかる。パーヴォの楽曲把握能力と、オーケストラコントロールの高さが窺える部分である。

ノーブルでパワフルな快演を聴かせたパーヴォとパリ管とオルガンのエスケシュは喝采を浴びる。

サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」は、広上淳一指揮京都市交響楽団によるエッジのキリリと立った演奏を生で聴いており、個人的には広上指揮の演奏の方が好きであるが、パーヴォとパリ管にもまた別の魅力がある。また、オーケストラの洗練度ではやはりパリ管の方が上だ。

アンコールは2曲。
まず、ベルリオーズの「ファウストの劫罰」より“ハンガリー行進曲”。中身が濃く、弦も管も輝かしい音を聴かせる優れた演奏であった。

最後は、グリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲。速いパッセージが有名な曲であるが、技術的には完璧。歌劇自体はほとんど上演されることはなく、序曲のみが通俗名曲となっている「ルスランとリュドミラ」であるが、パーヴォとパリ管の演奏による「ルスランとリュドミラ」序曲は、通俗名曲から「通俗」の取れた、ゴージャスな名曲として響く。掉尾を飾るに相応しい秀演であった。

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