観劇感想精選(163) ミュージカル「レ・ミゼラブル」2015
2015年8月26日 梅田芸術劇場メインホールにて観劇
午後6時から梅田芸術劇場メインホールで、ミュージカル「レ・ミゼラブル」を観る。ミュージカルの定番である「レ・ミゼラブル」であるが私は観るのは初めて。ミュージカル「レ・ミゼラブル」の日本初演は1987年であり、以後、毎年のように上演されてきた。ただ大阪でミュージカル「レ・ミゼラブル」が上演されるのは9年ぶりになるという。2012年の映画化を経て、2013年に演出などを一新した新演出版の日本初演が行われた。今回の上演は新演出版「レ・ミゼラブル」の大阪初演である。なお、オーケストラピットを使っての生演奏での上演であったが、今日の指揮者は珍しく指揮棒を左手に持つ人であった。
原作:ヴィクトル・ユゴー(ユーゴー)、脚本:アラン・ブーブリル&クロード=ミッシェル・シェーンベルク。音楽:クロード=ミッシェル・シェーンベルク。作詞:ハーバート・クレッツマー。演出:ローレンス・コナー&ジェームズ・パウエル。テキスト日本語訳:酒井洋子、訳詞:岩谷時子。
主要キャストはトリプルキャストであり、それも組み合わせはイレギュラーで、何パターンの上演キャストがあるのかは把握出来ないほどである。
今回の主要キャストは、吉原光夫(ジャン・バルジャン)、川口竜也(ジャベール)、里アンナ(ファンテーヌ)、平野綾(エポニーヌ)、原田優一(マリウス)、清水彩花(コゼット)、KENTARO(テナルディエ)、浦嶋りんこ(マダム・テナルディエ)、野島直人(アンジョルラス)、子役はガブローシュに松永涼真、リトル・コゼット(「レ・ミゼラブル」の絵で最も有名なものはリトル・コゼットを描いたもので、本公演でもポスターに使われている)に黒川胡桃、リトル・エポニーヌに新井夢乃。アンサンブルは他にも大勢おり、更には主要キャストもアンサンブルとして掛け持ちで出演している。
今回のキャストの中では声優としても活躍している平野綾が一番知名度があると思われるが、元劇団四季の吉原光夫も2011年に歴代日本キャストの中では最年少となる32歳でジャン・バルジャン役を勝ち取っているなど、顔ぶれは充実している。「レ・ミゼラブル」は完全オーディション制を取っており、有名な人でもオーディションを通らなければ出演することは出来ないそうである。
原作であるヴィクトル・ユゴーの小説は岩波文庫の分厚い版で全4巻という大河小説であり、全てを劇に置き換えることは出来ない。私も12歳の時にダイジェスト版を読んで、19歳の時に岩波文庫全巻を読破しているが、フランス・ロマン派の代表作家(というより晩年は唯一の仏ロマン派の作家になってしまったわけだが)の小説だけあって、途中に長編詩が挿入されているなど、個性的な作品である。そうした味わいを劇に生かすのは無理であり、ジャン・バルジャンとジャベールの対立、マリウスとコゼットとエポニーヌの三角関係(正確にはマリウスとコゼットは相思相愛で、エポニーヌはマリウスに思いを寄せているだけ。つまり片想いである)、バリケードでの戦いなどが中心に描かれている。楽曲と構成は映画版とほぼ同じだが、映像と舞台ではやはり違った印象を受ける。
心理劇的な部分もあり、内容も感動的というようよりも声楽の威力で観る者を興奮へと誘うものである。勿論、エポニーヌやガブローシュらの死は悲しみを誘う。
舞台装置は大掛かりなものを使う。開演前は紗幕が掛かっており、ヴィクトル・ユゴーの名前がアルファベット(Victor Hugo)が白抜きで右下に記されている。その後は巨大な舞台装置が移動するほか、映像もそう多くはないが使われる。
最も有名なナンバーは、スーザン・ボイルのデビューに一役買った「夢やぶれて」であるが、この曲の変奏や部分的なメロディー、コード進行はその後何度も登場し、メインテーマのような役割を果たしている。今回の公演で「夢やぶれて」を歌ったファンテーヌ役の里アンナの歌唱は私の解釈とは異なるが、声の良く通った美しいものだったと思う。
出演者の中で私が最も良いと思ったのはエポニーヌ役の平野綾。平野綾の舞台に関してはこれまで余り評価してこなかったが、「レ・ミゼラブル」はほぼ全編が歌という構成であるため、彼女の歌唱力の高さが存分に生かされている。エポニーヌが失恋の思いを歌うナンバー(「オン・マイ・オウン」)はおそらくこのミュージカルの中で最も難しい曲だったと思うが、平野は見事に歌い上げていた。声優だけに声のコントロールも抜群だ。
ジャン・バルジャン役の吉原光夫は時に威厳があり時にジェントル、コゼット役の清水綾花は可憐、ジャベール役の川口竜也も堂々としており、マリウス役の原田優一にも華がありと、出演者の演技と存在感と個性、歌唱力はいずれも高いものがある。また人海戦術を生かし、大勢でユニゾンするナンバーの迫力は圧倒的だ。
良く出来たミュージカルであるが、これがヴィクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』なのだと思うのはやはり早とちり。ミュージカル「レ・ミゼラブル」と小説「レ・ミゼラブル」は別物であり、小説の方はミュージカルなどでは描かれなかった部分に味があったりする。
とはいえ、ミュージカル、そしてエンターテインメントとしては一級の作品である。
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