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2015年10月10日 (土)

コンサートの記(209) ミヒャエル・ザンデルリンク指揮ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団来日演奏会大阪2015

2015年7月4日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後2時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールでドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団の来日演奏会を聴く。指揮はドレスデン・フィル首席指揮者のミヒャエル・ザンデルリンク。

オール・ベートーヴェン・プログラムで、歌劇「フィデリオ」序曲、交響曲第5番、交響曲第7番が演奏される。

ドレスデンというと、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団(ドレスデン国立管弦楽団、ザクセン州立ドレスデン歌劇場管弦楽団、シュターツカペレ・ドレスデンなど日本語名は複数ある)が有名で世界的なオーケストラであるが、ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団はドイツでも日本でも一流とは見なされていない楽団である。

ドレスデン・フィルが日本で有名になったのは、ピストル自殺という異常な最期を遂げたヘルベルト・ケーゲルが同フィルを振って残した録音によってである。シャープで正統派の「ベートーヴェン交響曲全集」も安値で再発されて好評だったが、異様とも思える演奏を録音しており、ケーゲルは没後に狂気の天才指揮者としてブレイクする。生前は評価が高くなかったのに死後に大評判になる人というのは何人かいるが、ケーゲルはその一人であった。
ケーゲルは生前は表現者というよりも自他共に認める「優秀なオーケストラトレーナー」であった。ただ徹底してオーケストラを鍛え上げたため、他の演奏では聴かれないような音が生まれており、それが再評価に繋がった。

ドレスデン・フィルはドイツのオーケストラでありながら、フランスの名匠であるミシェル・プラッソンを首席指揮者に招いたことでも話題になったが、もう前世紀の話のことなので、今回のドレスデン・フィルの日本ツアー有料パンフレットにはケーゲルの名もプラッソンという文字も印刷されていない(ということで有料パンフレットは500円と安かったが買わなかった)。

1967年生まれのミヒャエル・ザンデルリンクはファミリーネームからもわかる通り、東独出身の名指揮者であった故クルト・ザンデルリンクの息子である。異母兄のトーマスと同母兄のシュテファンも指揮者であり、音楽一家に生を受けた。
トーマス・ザンデルリンクは1992年から2000年まで大阪シンフォニカー(現・大阪交響楽団)の音楽監督・常任指揮者を務めたことがあり、シュテファン・ザンデルリンクも大阪シンフォニカー交響楽団時代の大阪交響楽団に客演してベートーヴェンの交響曲第7番などを指揮している(そのコンサートを私はザ・シンフォニーホールで聴いている)。

ミヒャエル・ザンデルリンクは始めから指揮者志望だった兄達とは違い、最初はチェリストとしてキャリアをスタートさせた。ベルリン・ハンス・アイスラー音楽学校でチェロを学び、1987年にバルセロナで行われたマリア・カナルス国際コンクール・チェロ部門で優勝。その後、ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団やベルリン放送交響楽団の首席チェロ奏者として活躍。指揮者としてデビューしたのは今世紀に入ってからで、指揮法を誰に学んだのかは明確ではない。ドイツ国内の室内オーケストラの首席指揮者をいくつか務めた後、2011年にドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任している。
チェリストとしても活動中であり、フランクフルト高等音楽学校のチェロ科教授も務めている。

ドレスデン・フィルと指揮者歴の浅いミヒャエル・ザンデルリンクによる公演ということで、席が埋まるのか心配されたが半分以上は入っており、両者の知名度を考えるとまずまずである。今日は安い席、3階上手のステージ横、パイプオルガンに近い方、ミヒャエルの指揮を正面斜め上から見る席で聴く。正規の席の裏に設けられた補助席であり、ミヒャエルの指揮姿はよく見えるが、ステージの上手半分は死角となっている。ザ・シンフォニーホールなので、こういう席であっても音は良い。

ミヒャエルとドレスデン・フィルは、かなり積極的なピリオド・アプローチを行う。古典配置、弦楽は完全ノンビブラート、歌劇「フィデリオ」序曲ではナチュラル・トランペットが採用された(交響曲では普通のモダン・トランペットを使用)。

ミヒャエルは黒一色の衣装で登場。指揮はしっかりと拍を取るタイプで、管楽器への指示は指揮棒を持たない左手で行うことが多い。端正な指揮だが、時折どういう意図でなされたのかわからない腕の振り方をする(リハーサルを重ねているのでドレスデン・フィルのメンバーには何の問題もないと思うが)。

歌劇「フィデリオ」序曲。途中までは今一つ焦点の定まらない演奏であったが、ラストに向けては情熱の奔流のようなエネルギッシュな展開となり、帳尻合わせとなった。

交響曲第5番と第7番は、いずれも造形重視の演奏。

交響曲第5番。「運命動機」は特別視せずに軽く奏で、フェルマータも短めという最近流行りのスタイルを取り入れている。第1楽章は比較的客観的な演奏であったが、それだけに却ってベートーヴェンの苦悩が自然に伝わってくるような趣がある。なお、第1楽章を終えてからほとんど間を置かずに第2楽章に入り、二つの楽章で一つの音楽という解釈を行ったようである。
ドレスデン・フィルの完全ノンビブラートの弦は、鄙びたような味わいがあるが音自体は洗練された現代スタイルとはまた別の美しさがある。各奏者の技術も高い。

ピリオド・アプローチということで、ベーレンライター版の譜面を用いたと思うが、第4楽章でのピッコロの浮かび上がりは採用していなかった。

取り分けて凄いということはないが、何度聴いても飽きが来ないタイプの演奏だと思われる。

交響曲第7番。ミヒャエルの演出の巧さが光るディオニソス的な演奏となった。序奏から第1主題登場に至るまでの音楽設計が緻密であり、音の祝祭となってからの盛り上げ方も上手い。
やはり間を置かずに突入した第2楽章では、完全ノンビブラートの弦の音が曲調に合っている。第3楽章と第4楽章は共にダイナミックな演奏で、音も立体的であり、見通しも良い。第4楽章で長めのゲネラル・パウゼを置いたのが個性的であった。

ベートーヴェンの交響曲第7番は先に書いた通りミヒャエルの兄であるシュテファン・ザンデルリンクの指揮でも聴いたことがあるのだが、シュテファンの方が正統派、ミヒャエルの方が挑戦的という印象を受けた。ただ、ミヒャエルは結構徹底したピリオド・アプローチを行っていたので、挑戦的に聞こえるのは当たり前といえば当たり前である。

アンコールはロッシーニの歌劇「ウィリアム・テル」序曲より“スイス軍の行進”。ミヒャエルがまだ指揮台に上がる前から合図を受けた金管が自主的にファンファーレをスタート。その後、ミヒャエルが指揮をする。ドイツの楽団だからだと思うが、重めのロッシーニである。音も渋く、イタリア音楽的ではない。ロッシーニはベートーヴェンの同時代人ということで、この曲でも弦はノンビブラートを貫いた。

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