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2015年10月29日 (木)

薩長同盟と浄土真宗

幕末の薩摩と長州が犬猿の仲であり、両藩が同盟を結ぶなどとは坂本龍馬や中岡慎太郎など数名しか思いつかなかった奇策として知られています。

薩摩と長州は西国の雄藩として元々中が良好とは言えませんでした。長州藩の祖である毛利輝元が関ヶ原の合戦の事実上の大将(大坂城内に謀反人がいるというので大坂から出られず、合戦には間に合いませんでしたが)であったため、中国地方一円120万石から防長二州36万石(当初は33万石)に減封されたのに対し、薩摩の島津義弘は当初は東軍に味方する予定が手違いから、成り行きで西軍に加わり、しかも「正面突破」という荒技で東軍からも喝采を浴びて本領安堵とされ、徳川将軍家からの信頼度も違いました(島津家から徳川将軍家に輿入れした姫は天璋院篤姫だけではなく、何人もいます)。

政治的にも長州が尊皇攘夷の急先鋒だったのに対して、薩摩の島津久光は尊皇ながら公武合体派。皇女和宮降嫁も推し進めており、思想が合いません。

ただ、それ以上に両者の間を隔てていたのは実は宗教問題だったのではないかと思われます。

毛利氏は、戦国時代に石山本願寺と同盟を結んで織田信長に対抗。海戦では毛利水軍の活躍で、毛利・本願寺連合軍が織田方を破っています。
そのため、毛利氏と本願寺の関係は良好となり、当時の毛利氏の居城があった広島近辺の安芸国は浄土真宗の一大布教拠点となり、彼らは「安芸門徒」と呼ばれました。今でも広島県は右も左も上も下も浄土真宗本願寺派の門徒ということで、広島県は「真宗王国」と呼ばれています。関ヶ原の戦いに敗れ、広島から萩に移された毛利氏ですが長州もやはり浄土真宗本願寺派(西本願寺)の布教拠点となり、山口県人にも門徒は数多くいます(村田蔵六こと大村益次郎も熱心な門徒です。ただ毛利氏自身は浄土真宗ではなく曹洞宗の家です)。

一方の薩摩はといえば、実は浄土真宗は禁教でした。浄土真宗の一派である一向宗が戦国時代に一向一揆を起こして大名の多くが対策に苦慮したため、島津氏は思いきって「念仏を唱えたものは死罪」と明言し、それでも浄土真宗を始めとする浄土系宗教を信じたい人々は、「隠れキリシタン」ならぬ「隠れ念仏」として秘密裏に信仰を続けていました。

昨今でも、宗教問題は戦争の火種の一つです。日本でも室町時代からその末期である戦国時代にかけては各宗派が戦を仕掛けて相争い、信仰の違いは大きな障壁となっていました。

親浄土真宗の毛利家と反浄土真宗の島津家が同盟を結ぶなど、普通に考えればあり得ないことです。アメリカとISが同盟を結ぶようなものなのですから。

実際、薩摩は当初は一桑会(将軍後見職:一橋慶喜、桑名藩主で京都所司代の松平定敬、会津藩主で京都守護職の松平容保。松平容保と松平定敬は実の兄弟である。ちなみに会津松平氏は仏教ではなく神道を家の宗派とする唯一の大名)に味方し、禁門の変では一桑会と共に長州を打ち破っています。

そんな薩摩が宗教観を曲げてまで長州と手を結んだのは(実際には薩長同盟は倒幕のための同盟ではなく、どちらかが幕府に攻められたらもう片方は徳川方と戦うという程度の受け身の同盟でしたが)、徳川将軍家に見切りを付け、新しい世を開くためには距離的に最も近い雄藩である長州と手を結ぶのが得策と思ったからでしょう。

また一向一揆の時代から多くの歳月が流れ、薩摩・大隅両国内での浄土真宗は風前の灯であり、宗教問題などもう取るに足らなくなったということもあるのかも知れません。
実際、軍事同盟とはいっても受け身のもので、一緒に徳川を倒すというわけでは当初はなく、門徒と反門徒が手を組んで戦うという類のものでもありませんでした。また戊辰の役の際には薩摩と長州のみではなく、土佐や肥前、真っ先に薩長方につくことを表明した安芸、更には寝返った彦根、津、尾張などが西軍として参加しているため、浄土真宗の宗教戦争という色彩はほとんどなく、薩摩の志士達も長州藩士の思想に影響されることなく戦に専念出来たと思われます。

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