コンサートの記(225) 神奈川県民ホール開館40周年記念公演 黛敏郎 オペラ「金閣寺」初日
三島由紀夫の同名小説が原作。舞台は京都であるが、作曲家である黛の生地である横浜で、16年ぶりとなる上演が行われる。
三島由紀夫の「金閣寺」は、私が「日本近代文学の最高峰」と認めている作品であるが、心理劇であるため、舞台作品には不向きという点がある。黛もその点は考えていたようで、当初は「金閣寺」をオペラにすることをためらったといわれているが、クラウス・H・ヘンネベルクの台本による、「三島作品とは別の心理劇『金閣寺』」とすることで折り合いをつけている。
オペラ「金閣寺」は、1976年6月23日、ベルリン・ドイツ・オペラで初演。日本初演は演奏会形式であり、1982年10月18日に東京文化会館で岩城宏之の指揮により、抜粋という形で演奏されている。
録音は、フォンテックがライブ録音した岩城宏之指揮のものが出ていたが、現在は廃盤。期間限定でタワーレコードが復活販売をして会場でも売られていたが、それも終了している。私は、明大生時代に「金閣寺」のCDを購入しており、「これは日本音楽史上の最高傑作だ」という衝撃を受けた。「金閣寺」が日本音楽市場最高傑作という思いは今も変わっていない。
黛はその後、これもやはりドイツ語によるオペラ「古事記」を書いているが、出来としては「金閣寺」の方が上であるように思う。
午後3時から、横浜市中区山下町にある神奈川県民ホールで、黛敏郎のオペラ「金閣寺」を観る。原作:三島由紀夫、台本:クラウス・H・ヘンネベルク、演出:田尾下哲(たおした・てつ)。主演:小森輝彦。下野竜也指揮神奈川フィルハーモニー管弦楽団、東京オペラシンガーズの演奏。出演は小森の他に、黒田博、飯田みち代、高田正人(たかだ・まさと)、三戸大久(さんのへ・ひろひさ)、与那城敬(よなしろ・けい)、吉原圭子、鈴木准、谷口睦美、嘉目真木子ほか。
オペラ「金閣寺」は、主役である溝口役の男性歌手(バリトン)のみが出ずっぱりであり、アリアを歌っている時間も飛び抜けて長いという特色を持つ。そのため、溝口だけはダブルキャストであり、明日の公演では、小森輝彦に代わり、宮本益光が溝口を歌う。
午後2時20分開場であり、午後2時30分から、演出の田尾下哲と舞台装置担当の幹子・S・マックスアダムスによるプレトークがある。今回の「金閣寺」では、舞台上にミニチュアの金閣寺を実際に作り(幹子・S・マックスアダムスが設計を担当した)、冒頭から終幕まで、金閣寺は同じ位置に立ち続ける。途中、幕などで隠れることはあるが、金閣寺のセットが舞台上から消えることはない。溝口の心の中心には常に金閣寺があるということを表すための演出で、表現としてはとても良いと思う(仮に私が演出を担当したとしても同じ手法を取るだろう)。
朝に、京都を出発し、昼過ぎに横浜に到着して、横浜開港記念資料館、山下公園などを回って神奈川県民ホールに入ったのだが、眠気が解消されないという状態があり、ドイツ語歌唱で日本語字幕スーパー付きの上演ということもあって、ちょっと集中力を欠いている間に話が進んでしまっていて、溝口の心理を十全に追えないという結果になった。黛の音楽、下野指揮神奈川フィルの演奏、歌手陣などは充実していただけに、悔しい結果となった。明日の公演では全力を尽くすことを誓い、神奈川県民ホールを後にする。
神奈川県民ホールに来るのは初めて。東京・渋谷のNHKホール(関西の人はNHK大阪ホールのことを「NHKホール」と呼んでしまうためややこしいことになっている)をモデルに設計されたというホールであり、NHKホールに遅れること2年の1975年に竣工している。そのため、今年は開館40周年となる。渋谷のNHKホールは音響の悪さで有名だが、神奈川県民ホールはNHKホールよりは小型ということもあって、音の通りはまずまずである。下野竜也は豪快な音楽作りをするため、音が飽和したミシミシという音もしていたが。
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