観劇感想精選(181) 「UMEDA BUNRAKU うめだ文楽2016 傾城阿波の鳴門 ~十郎兵衛住家の段~」
国立文楽劇場が大阪にあるように、大阪は文楽発祥の地であり、文楽の首都なのであるが、国立文楽劇場での演目は遅い方でも午前4時開演と、9to5で働いている人は土日か休日しか観に行けないという状況である。歌舞伎も開演時間はほぼ同じだがスター俳優のいる歌舞伎に比べ、文楽は人形が演じるため客が入りにくいということもあった。そこで「UMEDA BUNRAKU」は、午後7時から比較的短めの演目を上演することにしている。演じられるのは「傾城阿波(の)鳴門 ~十郎兵衛住家の段~」。また、毎回、ゲストによるポストトークがあり、今日は矢野・兵動の兵動大樹がゲストとして呼ばれる。明日のゲストは桂南光、その後、コシノヒロコ、わかぎゑふ、三浦しをんと続く。
ナレッジシアターに来るのは久しぶり。2013年の杮落とし公演「ロボット演劇版:銀河鉄道の夜」を観て以来である。ナレッジシアターの稼働率自体がそれほど高いようには思えないのだが。
まずはプレトーク。関西テレビの川島壮雄(かわしま・もりお)アナウンサーの司会。メインゲストの兵動大樹が出てトークを行った後に、人形遣いである吉田幸助、吉田簑之、吉田玉勢が呼ばれ、川島の司会で4人のトークが行われる。兵動大樹は大阪生まれの大阪育ちだが文楽を観たことはこれまで一度もないそうで、川島との二人でのトーク中に、「今日もこれ(プレトーク)終わったら帰っていいですか?」とボケる。兵動は番組の企画で人形遣いではなく太夫に一日弟子入りしたそうで、その模様が背後のスクリーンに映される。「傾城阿波鳴門」の子役・おつるのセリフを読み上げ、その後、笑いのやり方を教わる。笑いであるが、高笑いに至るまでずいぶんと時間が掛かる。「昔の人はこんなにゆっくり笑ってはったんでしょうかね?」と兵動が語っている。
さて、映像が終わってから兵動が種明かししたのだが、基本的に文楽の作者は町人の出身であり、武士階級の人が笑うところを見たことがなかったため、想像で武士の笑いを書き上げたところ、妙にゆっくりしたものになってしまったそうだ(武士は基本的に文楽や歌舞伎などを観てはいけない決まりになっており、文楽や歌舞伎の作者とは交流がなかったのである)。
なお、阿波藩出身者の話であり、阿波徳島藩の藩主は代々蜂須賀小六の家系である蜂須賀氏であるが、そのまま出すのは拙いので玉木氏という架空の大名になっている。
徳島城主玉木氏の家宝である刀剣が盗まれる。阿波の十郎兵衛は家宝の刀剣を探すため、大坂・玉造に出て、盗賊の銀十郎として妻のお弓と暮らしている。
お弓が留守を守っている間に、9歳の少女が訪ねてきた。阿波徳島から来たという少女にお弓は同郷だということで好感を覚える。だが、その子が3歳の時に両親から引き離されておばさんのところで育ったということで、「もしや」との思いがお弓に芽生える。お弓が少女に両親の名前を聞くと、「ととさんの名前は十郎兵衛、かかさんの名前はお弓と申します」と言ったため、少女が我が子・おつるであると知る。名乗り出たいという思いに駆られるお弓であったが、今は盗賊の女房という身。おつるに本当のことを打ち明ければおつるを却って不幸にする。ということで、泣く泣くおつると別れる。おつるが野宿をしているというので、小判を与えるのだが、これが後に災いを招く。
おつるが去った後、どうしてもおつるのことが気に掛かるお弓はおつるの後を追う。だが、おつるは銀十郎となった十郎兵衛と出会い、お弓と入れ違いに家へと帰ってくる。おつるは乞食にたかられそうになっていたおつるを助けて家へと帰って来たのであるが……。
字幕なしの上演であり、有料パンフレットにも床本は入っていない。そのため、地の文は何と言っているのかわかりにくかったが、台詞が多く、台詞は聞き取りやすいため、内容を理解するには十分である。
リアリティということに関すると、現在では今一つかも知れないが、今では失われてしまった日本人の美質というものが文楽にそのまま込められているのもわかる。
お弓の心理のきめ細かさ、日本人女性ならではの愛らしさや艶やかさといったものは現代の多くの女性からは失われてしまったものである。ちょっとした仕草が美しい。
人形であるため表情は変わらないのであるが(目や眉が動く人形もいるが)、その無表情が逆に多彩な表情に見える。能面にも通じる日本古典芸能の美点である。
今日は1時間程度の演目であったが、太夫がこれほど長い時間に渡って唄うことはないそうで、太夫の竹本小住大夫、三味線の鶴澤寛太郎にも盛んな拍手が送られた。
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